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配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
一章 そんなに特別なことをしていたつもりはなかった
14/131

配信力:EX

:っしゃあああああああああああああああ!

:いったあああああああああああああああああああ

:お嬢最強! お嬢最強! お嬢最強! お嬢最強!

:GG

:伝説、生まれちまったか……


 コメント欄は歓喜に沸き立つが、まだ終わったわけではない。

 通常、トドメを刺された魔物はその姿を魔石に変える。しかしリリスは、無惨な姿になりながらもまだ原形を保っていた。


:いやちょっと待て、まだあいつ生きてない?

:え、マジ?

:ほんとだ、魔石になってない


 油断するにはまだ早い。あれはまだ生きている。事実、彼女はよろよろと立ち上がって、憎悪の瞳を私に向けた。


:でも弱ってるね

:虫の息や

:もうちょっとで倒せるぞ!


 半狂乱になった魔女は私に手を向ける。

 リリスの手のひらに魔力が収束し、光線が放たれる。怒りからか精度も甘く、予備動作も見え見えだ。今さらあんなものに当たるはずもない。

 しかし、私の後ろには蒼灯すずがいた。


「……っ」


 避けられないなら、こうしよう。

 タイミングをあわせて剣を振り抜き、光線を弾き飛ばす。手のひらに伝わる鈍い手応え。逸らされた光線は、明後日の方向に飛んでいった。

 それと同時に、鋼色に輝く物体が同じ方向に飛んでいった。


:あ

:やっべ

:剣が


 飛んでいったのは私の剣の刀身だ。

 度重なる酷使に耐えかねて、ついに折れてしまったらしい。私の手には短くなった剣の柄だけが収まっていた。


:折れちゃった……

:元々安物だったからなぁ

:さよならオジョウカリバー

:リリス相手によく頑張ったよ


 ここに来ての武器ロスト。正直、結構困る。

 もう少しでリリスを倒せるのに、剣がなくては仕留めきれない。かと言って風断ちを撃つだけの魔力も残っていないし、ゆっくり考えるような時間もない。ぐずぐずしていたらまた次の攻撃が飛んでくる。

 悩んだのは一瞬だけ。探索者として培ってきた経験は、即座に答えを掴み取った。


:武器ないけどどうすんの?

:さぁ……

:お嬢ならなんとかするでしょ


 任せとけ。一つ、いい案を思いついたんだ。

 リリスとの距離を詰めつつ、残り少ない魔力をつぎ込んで、風研ぎの魔法を発動する。

 しかしこの手に剣はない。代わりに風をまとったのは、右手と左手。

 拳を、強く握りしめた。


:え

:おい待て

:あの、何する気ですか


 決まってるだろ。殴り殺すんだよ。

 風をまとった手でリリスの胸ぐらを掴んで引き倒す。マウントポジションを取り、顔面に思いっきり拳を叩き込む。

 肉と骨を殴る鈍い手応え。非実体化が弱まっているのか、返ってきたのは存外に確かな感触だ。


:うわ

:え、ちょっと

:ゴリ押しやないかい!


 一発じゃ死なないので、もう一発。それでも死なないのでもう一発。

 馬乗りになって、リリスの顔面を殴り続ける。何度も何度も、何度も何度も何度も。


:うっわぁ……

:ちょっと絵面ひどすぎませんかこれ

:魔物とはいえ女の子やぞ

:あの、すみません、これはなんですか?

:殴打ですね

:それはどういう魔法ですか……?

:いいえ、ただの殴打です


 虫の息のはずなのに、リリスは簡単には死んでくれなかった。

 やっぱり素手だと攻撃力が低いな……。まあ、そんなことを言っても死ぬまで殴るしかないんだけど。


:あ、あの、その辺で勘弁してあげませんか……?

:リリスちゃんかわいそうになってきた

:配信映えという言葉があってですね

:お嬢がそんなもの気にするわけがないんだよなぁ

:初見さんドン引きしてるでしょこれ

:初見じゃなくてもドン引きしてるよ

:リスナー冷めちゃった……


 薄暗い坑道の奥地に、鈍い打撃音が響き続ける。

 この頃にはリリスの抵抗もほとんどなく、殴打はほとんど作業になっていた。何の感慨もなく、はやく死なないかなと思いながら、私は淡々とリリスを殴り続けた。


:どうすんだよこの空気

:ほとんど放送事故だけど

:お嬢の打撃音ASMRだよ

:配信で流していい映像じゃないだろこれ

:魔物に同情したのは初めてかも

:こちらは記念すべき世界初の六層魔物ソロ討伐映像となっております

:この映像が記録として残るんか……

:途中まではかっこよかったのに

:早く……! 早く終わってくれ……!


「あのー……。白石さん?」


 リリスを殴っていると、蒼灯さんが恐る恐る近寄ってきた。

 何か用だろうか。見ての通り忙しいのだけど。殴る手を止めずに、私は目だけを彼女に向けた。


「カメラ、お借りしてもいいですか?」

「? いいよ」


 何をするつもりだろう。蒼灯さんは私の後ろで飛んでいるドローンカメラを両手で抱えた。


「こんにちは、白石さんのリスナーさん。蒼灯すずです。配信ジャックしに来ました」


:蒼灯さん!?

:なんだなんだ、何する気だ

:配信ジャック助かる

:こんにちは蒼灯さん、白石さんのリスナーです


 蒼灯さんは、私のドローンカメラを少し離れたところに持っていった。


「ご覧ください。こちらは遠巻きに眺める白石さんです」


:やったー! 遠巻きに眺める白石さんだー!

:ちょうど遠巻きに眺めたいと思ってたんだよね

:いや本当に

:あの絵面を近くで見るのはキツいもんがあった


「そしてこちらは、後ろから見る白石さんです」


:わーい! 後ろから見る白石さんだー!

:ちょうど後ろから見たいと思ってたんだよね

:いつも後ろからしか見てないけど

:見慣れた絵面だ

:実家のような安心感


「ちょっと拡大してみますか。いかがでしょう、白石さんのつむじです。これはお宝ですよー」


:すごーい! 白石さんのつむじだー!

:ちょうどつむじが見たいと思ってたんだよね

:ちょっと!!! つむじなんてえっちすぎますよ!!!!!

:なんだかドキドキしてきちゃった

:異常性癖リスナーもいます

:次は正面からでお願いします!


 蒼灯さんは、私の後ろで何かをやっていた。

 何をやっているかはよくわからないけれど、リスナーたちは歓喜に沸いている。コメント欄は完全にお祭り状態になっていた。


「正面からですか? 今はやめておいたほうがいいと思いますよ?」


:それはそう

:でもお顔見たい……

:お嬢、どんな顔であんなことやってるんだろうな

:たぶん無表情で淡々とやってるよ

:見たいけど見たくないけどちょっと見たい

:リスナー心は複雑

:ぼくは殴られてる視点から見たいです!!!!

:こいつやば

:ドMもいます


「悪い子ですねぇ。だめですよ?」


 蒼灯さんがくすりと笑うと、またコメント欄がきゃーきゃーと騒ぎ出す。

 流れが速すぎて私の目では追い切れない。なんだなんだ。一体何が起きてるんだ。蒼灯さん、一体何をした……?


「代わりと言ってはなんですが、こちらはあおひーです。かわいいっしょ?」


:あざてぇ!!!!

:これは自分がかわいいことを自覚しないとできないドヤ顔

:完璧なカメラ写り +500000000点

:ファンサ手慣れすぎでしょ

:あおひー! あおひー! あおひー!

:えー、正直キュンです


「よし、じゃあそろそろ本命行きますか。続きまして、ローアングルから見る白石さんの――」


 その時、振り下ろした拳が空を切った。

 リリスの体力が完全に尽きたらしい。命が潰えたリリスは魔力に分解されて、大きな魔石を一つ残して消えていった。


「あ、終わったみたいです。続きはまた今度で」


:あおひィ!!!!

:そこをなんとか!!!! そこをなんとかお願いします!!!!!

:お嬢のローアングルを見るために今日まで必死こいて生きてきたんですよ俺らはァ!!!!!!

:タイミング調整完璧すぎない?

:お嬢リスナーの俺らが、カメラワーク一つで手玉に取られただと……!?

:配信うますぎて変な笑いが出てきた

:もしかして配信の神とかやってる?


「白石さん。カメラ、お返ししますね」

「あ、うん」


 立ち上がって、蒼灯さんからカメラを受け取る。

 設定を元に戻すと、ドローンカメラは私の後方――いつもの定位置に収まった。


「何してたの?」


 気になって聞いてみる。

 一体、どんな魔法を使ったのだろう。うちのコメント欄がこんなに盛り上がったことなんて、配信を始めて以来一度もなかった。


「ファンサです☆」


 蒼灯さんは、華麗なウィンクをぱちんと飛ばした。

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― 新着の感想 ―
 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ(生々しく響く打撃音)(笑)  もう、2人組めば良くない?(笑)
蒼カリバー借りる展開予想外しました
EXがマジでEXだったわ。 草w
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