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15. 報告が終わった後

 諸々の活動報告と、情報提供が終わった頃。ギルド長の部屋の窓から見える月は明るく、少々高い位置にあるように思えた。



 情報の取り纏めを通じて分かった事だが、やはりティポタロプスの変異種は聴覚にも嗅覚にも頼らず、変異によって新たに獲得した魔力感知器官で私を捕捉していたらしい。

 魔法を練り上げて向かい合っていたあの時、ジオの投擲物に気が付いていない様子だったのもそれで得心が行った。


 また、変異についてはコーモンさんの杖の魔石を丸ごと取り込んだ事が切っ掛けとなった可能性が高いのではないか、という見立てであった。その火の魔石は長年使い込まれており、コーモンさんの魔力が馴染んで結晶化した物だったそうだ。

 それによって、元々の身体能力と肉体の頑強さが飛躍的に強化された上、変異に伴って熱に対する耐性も得ていたようである。

 私の火の魔石での攻撃が思った程の痛手にならず、すぐに反撃されてしまったのもこれが理由だろう。こればかりは、相性が悪かったと思うしかない。


 ちなみに、ティポタロプスの首は倉庫へ運び出され、より詳細な調査の後、貴重なサンプルとして高度な保存魔法が掛けられて冒険者ギルドの管轄で厳重に保管される予定らしい。

 ギルド長は「剝製にしてギルドの入口に飾っても良いんだがな!」と笑っていたが、こんな物が入口に鎮座しているのは……少々不気味が過ぎると思う。



 それから、情報提供の一環として、最下層で回収した鉱石、魔石類もこの場で提出する事となった。

 情報提供の報酬と合わせて、かなり色を付けた額を支払うと約束してくれた。丁度、オーク騒ぎで冒険者達の装備品が消耗しており、鉱石類の需要が高まっているのも加味してくれるそうだ。


 さらに……嬉しい事がもう一つ。私の冒険者ランクの昇格があっさりと決まった。


ギルド長曰く、「未確認の魔物の討伐と、討伐証明として該当の魔物のサンプルを持ち帰り、それによって『混迷の洞窟』の迷宮の主が変異する可能性が新たに示唆された訳だからな。実力は申し分無し、直近の依頼達成状況も良好、素行にも問題無し。これだけ実績があれば十分Bランクへの昇格に値するだろう」との事だ。

 これには、素直に喜んでしまった。ティポタロプスの変異種と死闘を繰り広げただけの甲斐があったというものである。

 ただ、まあ……共に喜んでくれる仲間がこの場にいない事が、ほんの少しだけ寂しかった。




「『混迷の洞窟』は戦闘力より探索力のある奴らの稼ぎ場だったんだが……最下層まで行くんなら、危険度Bでは不適かもしれんな。……ところでお前、これだけ実力があって、何でまだCランクに留まってたんだ?」


 職員達によって報酬額の査定が行われているのを待つ間、私の昇格の手続きを進めていたギルド長がふいにそんな事を聞いてきた。

 ……脳裏に蘇るのは、あまり愉快ではない思い出であり、パーティー解散の一因となった出来事である。


「……デラブの冒険者ギルドで受けた依頼について、依頼主の領主貴族と、冒険者ギルドと当時のパーティー間とで、ちょっと揉めたんです」


 その”依頼”というのは、王都の近隣都市であるデラブの領主貴族の二男を私達のパーティーに迎え入れ、冒険者養成という名目で、街の近隣に出没する魔物を討伐出来る程度に教育してくれ、という内容だった。

 最初こそ貴族坊相手にギクシャクしていたが、話すうちに向上心が強く気の良い青年であると分かり、パーティーの皆と打ち解けてからというもの、教育は調子よく進んだ。


 しかし、それなりに力が付いて来たと思った矢先の事。とある迷宮内で格上の魔物に遭遇し、リーダーの指示を聞く前に独断で敵前へ飛び出してしまった。

 その結果、利き腕の欠損を含む大怪我を負ったのだ。


 幸い、パーティーで連携して速やかに撤退して治癒院に運び込み、失った腕も無事に再生されて事なきを得た。迂闊だったと本人からの謝罪もあり、皆の総意で依頼は継続する事となった。

 だが、それから数日後、依頼主である領主達の元へ治癒院の請求書が届き、息子の負傷を知って私達の元へ怒鳴り込んできたのだ。


「当初の依頼書には書かれて無かったはずの、教育対象者を死なせかけた違約金と、事故の責任を取って慰謝料も治療代に乗せて支払え、さもなくばギルドに掛け合って処罰すると騒がれて……」


 本人からも自分の責任だと両親を説得しようとしてくれたが、まるで聞く耳を持たなかった。それどころか、息子を脅している、騙している等と、謂れのない疑いまで掛けられ始めた。


「事が大きくなると困るので、一旦パーティーの資金を充てました。結構な額だったので後でギルドに嘆願したんですが補填は無く、結局そのゴタゴタのせいで依頼も取り消されて、ランク昇格の話も消えました」

「デラブっていうと、王都近くの穀倉地帯の辺りだな。何年か前にギルド本部の監査が入ってデラブの冒険者ギルドの頭は変わったはずだが……クソ、癒着が根深いな」


 当時の事の成り行きをかいつまんでギルド長に説明すると、みるみるうちに頭の痛そうな顔になってしまい、眉間を揉みながら本日何度目かの溜息を吐いた。


「それはウチが悪い。すまんかったな」

「いえ、ギルド長が謝る事では。元はと言えば教育を上手くやれなかった私達も悪いですし」

「いいや。貴族から圧力があるのは仕方ねえが、それに甘んじて正規の冒険者から金を毟り取ろうとする卑しい貴族共に加担するのは完全にアウトだ。全く、こういう事があるから善良な冒険者が捻くれるんだ……。気に入らん、本部に陳情書出してやる」


 ギルド長は私の昇級の手続き書類を途中で放り出し、執務スペースから新たな書類を引っ張り出して持ってきた。

 今の件を詳しく話せ、と厳めしい眼光で圧力を掛けてくる。……うん、これは断れない。


 その件の事情聴取で少し拘束時間が伸びてしまったが、私の為、ひいては当時の仲間達を含む、真っ当な冒険者達の為に怒ってくれているのだ。それを思えば、少しも悪い気にはならなかった。




 そうこうしているうちに査定も終了し、今回の報酬、金貨23枚がローテーブルに積み上がり、私に差し出された。これは予想外の高額である。

 有難く受け取って早速財布に仕舞い込むと、じゃらり、と心強い重みが加わった。これで使い切った物資の補充も出来る上、当面は金銭の心配をしなくても良さそうだ。

 そして、それに加えてギルド長は小さな木札を私に差し出した。


「明日の朝までに新しい冒険者証を用意しておくから、この札と今の冒険者証をギルドの受付で出して、忘れずに受け取ってくれ。それじゃ、今日は長々と悪かったな」

「はい。ありがとうございました」


 ギルド長に軽く頭を下げ、ギルド長室から退出する。去り際、職員のうち一人に呼び止められ、遺品の回収を感謝された。

 冒険者として当然のことをしたまでだ、と答えると、彼はぐ、と何かを飲み込み、私に深く頭を下げて、震えた声で礼の言葉を繰り返した。

 ここで彼に哀悼の言葉を掛けるのは、私の仕事では無い。気にしないで、と軽く返し、背を向けた。

 近しい者達に偲ばれて、少しでも故人が浮かばれれば良いと思う。



 持ち込んだ討伐証明や遺品、重い鉱石類を提出し終わり、随分と肩が軽い。ようやく長い処務から解放された私は、足早に冒険者ギルドを後にしたのだった。




***




 すっかり夜が更けて、慌ただしく動いていた冒険者達の影も疎らになった、ギルド前の通り。

 ジオはここで待つ、と言っていたものの、流石に時間が経ちすぎたので何処かに立ち去っていてもおかしくないと思っていたのだが……ジオの屋台は変わらぬままの位置にあり、魔導ランプの灯りがより一層眩しく辺りを照らしていた。

 通りや広場に人だかりを作っていた冒険者達も姿を消しており、辺りを見回してみても食事中の冒険者はもういないようだった。


 当のジオはというと、屋台の横で山積みになった空の器をスライム剤でぐにぐにとやって後始末をしている様子である。



「お、マーシャ!お疲れ様だなー!」


 駆け足で近寄ると、足音で私に気付いたジオが顔を上げて、パッと笑った。随分待たせてしまったというのに、微塵も気にしていない笑顔である。


「ジオも営業お疲れ様。待たせてばっかりで悪いね」

「んーや、全然。実はほんのついさっきまでお客さんがいたんだぜ。この時間で結構稼がせて貰ったからな!もうけだ、もうけ」


 へへ、と満悦に笑いながら、小銭入れを示す。革紐で口をとじられた小銭入れは二袋に増えており、そのどちらもがはち切れんばかりに膨らんでいた。


「そっか。稼げたなら良かったけど……ところでさ、迷彩海老ってそんなに料理に使っちゃって良かったの?納品は大丈夫?」


 屋台の裏に、とりあえず散らばらないように、といった風に、迷彩海老の剥き殻がいくつかの布袋にがさりと突っ込まれ、放置されている。

 獲った分の殆どが殻だけとなり、そこにあるように見えるのだが。


「大きいサイズのがあと一袋しか残ってないんだけど、あれだ、ちゃんと納品分には足りてるから大丈夫だぜ。まあ、こんなに早く無くなるとは思ってなかったけどな。ほいで、マーシャの方はどうだったんだ?」

「そうなの?こっちは色々あったよ。良かったらそれ、手伝いながらでもいいかな」

「お、いいのか?助かるぜ!んじゃこれ、スライム剤な」


 瓶からむにゅ、と取り出したスライム剤を、もに、と手渡され、ジオの横に並んで大量の器と向き合う。

 それからしばらく手を動かしつつ、私からは活動報告の大まかな事柄を、ジオからは営業中に冒険者達から聞いた事柄をお互いに話し合う時間となった。



 ギルド長から聞いた話や、遺品提出時の話、ティポタロプス変異種の情報整理などの話をする中で、Bランクに昇格が決まった事も伝えた。

 ジオはこれを「おおぉ!!やったなー!!」と大げさなほどに喜び、手を叩いて祝ってくれた。

 ギルド長と職員達もランク昇格について祝いの言葉をくれたのだが、こうして一緒になって喜んでくれる人が居るのは、やはり、嬉しい。

 昇格出来たのはジオのおかげだよ、と伝えると、ジオは照れくさそうに笑っていた。


 私がギルド長達とやり取りをしている間、ジオの方はというと、屋台に大勢の冒険者やギルド職員が押し掛ける中、冒険者ギルドの、副ギルド長が食事を求めてやって来たのだという。

 なにやらかなりお喋りな性格をしていたらしく、つい先程まで屋台の前に張り付いて、延々とジオに愚痴を垂れ流して行ったらしい。

 その愚痴によれば、討伐報告のあったオークの死体の運搬も完了し、残りの仕事としては僅かな打ち漏らしの掃討と、大量に運び込まれたオークの解体、諸々の後処理だけであるとの事。

 それも、残っている個体は例の逃げた上位種くらいだそうで、逃げた先のおおまかな位置が冒険者によって報告された為、それを討ち取る為に駆り出された、というのが副ギルド長の談だ。


 聞けば、「実はこの騒ぎ、割と僕のせいでもあるからさあ。流石に遠征帰りのエガースさんに出て貰う訳にもいかないし、あんまり文句も言えないんだよねえ」だとか、「でもさ、街の人達からはオークを何とかしろってせっつかれるし、冒険者達もさっさと指示出せって言うし、板挟みだったんだよ。こんな状況になったのは皆の連帯責任だしさ、僕だけが怒られるのは酷いと思わない?あ、今のは内緒にしといてね」とか何とか言っていたそうだ。


 こんな夜更けから討伐に? と思ったのだが、副ギルド長は夜型の獣人族であり、夜目が効く。むしろ夜になって人が減ってからの方が動きやすいのだそうだ。


 初動の指揮はともかくとして、副ギルド長程の実力者が出ているのなら、夜明けまでには討伐されると見て良いだろう。

 状況を見て、オーク騒ぎに関連する依頼を受けてから今後の予定を考えるつもりだったが、それも必要なさそうである。


 士気の高い冒険者達もいた事だ。私が何かせずとも、このオーク騒ぎはもうじきに収束するだろうと思えた。


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