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14. 活動報告と献杯

 活動報告の為、私は再度冒険者ギルドに戻って来た。

 多くの冒険者達が面倒くさがる活動報告だが、自身の評価と冒険者ランクに直結するとあれば気合を入れざるを得ない。

 通常の活動報告時、討伐証明を提出するだけならば、そのまま専用の窓口に持ち込めば良いのだが、今回の主題は迷宮の主の変異種に関するものである。直接上の立場の者の耳に入れた方が良いだろう。


 やや人の少なくなったギルド内、ミセシルさんの言っていた行方不明者の捜索依頼というのが気になっていたので、各種依頼書が張り出されている掲示板の前で立ち止まる。

 すい、と端から目を滑らせていくと……それは直ぐに目に留まった。



 ──捜索依頼書。

 消息不明となっている対象者(冒険者3名、ギルド所属冒険者1名)の安否確認及び情報を求む。

対象者:

 エルビー・アルデ(Eランク) 

 ウィーネ・ルコール(Eランク)

 ブラン・ルコール(Eランク)

 コーモン・リギング(ギルド所属 Bランク)

報酬:大銀貨40枚 (状況に応じ上乗せ、部分報酬可。要相談。)

補遺1:情報提供有り、行き先は『混迷の洞窟』である可能性が高い。

補遺2:消息を絶ち、推定一ヵ月が経過。生存の望みは薄いと見られるが、引き続き情報求む────



 ……やはりか、という気持ちが強かった。依頼書を剥がして遺品と共に渡そうかとも思ったのだが、他の冒険者3名の安否は不明のまま、あの場に居たという確証も得られていない。

 憶測で物を言うよりも、不自然な状況も含めてギルドに丸投げした方が良いと判断し、私は掲示板から離れた。



 さて、活動報告用カウンターの方へ目をやると、ぼんやりと窓の外を眺めている新人らしき獣人の女性職員が座っている。その方向を鑑みるに、視線の先にはジオの屋台があるのだろう。気持ちは分かるが、こちらも仕事なのである。

 遠慮なくカウンターに近寄って、ごとり、と革袋をカウンターに置くと、職員はそこでようやく私の存在に気付き、驚いた表情のまま固まってしまった。


「……未確認の魔物が出て、討伐してきた。討伐証明の提出と活動報告をしたい。ギルド長は居る?」

「えっ。あっ、えっと、ハイ、すみません!少々お待ちください!」


 ギルド職員はパタパタと奥の部屋に引っ込んで行き、程なくして、目の下にクマをこさえ、口髭を蓄えたギルド長を引き連れて戻って来た。


「おう、マーシャか。こりゃまたでかいが、何だ?例のオークじゃあなさそうだな」

「こんばんは。ティポタロプスです、変異種の。最下層で発見した冒険者の遺品も持ち帰って来ました」


 革袋をぽすぽすと軽く小突いていたギルド長は私の言葉を聞くと、一瞬固まり、無言で革袋の口を少しだけ開いて、表情の失せた顔で中身を覗いた。中身、つまりはティポタロプスの変異種の生首を数秒間凝視し……再び革袋の口を閉じて、そのまま肩に担いだ。


「……良く生きて戻った。報告は奥で聞こう」

「はい」

「おい、ミセシル!倉庫からイドアとサニーサをギルド長室に呼んでくれ!」

「了解でーす。すぐ向かわせますねー」


 さり気なくこちらの様子を見ていたミセシルさんがのんびりと返事を返してきたが、次の瞬間には連絡用の魔道具を手に、すぐさま誰かを呼び付けているようだった。恐らく活動報告には解析部門の職員が同席するのだろう。

 ギルド長の隣で革袋の中身を見てしまったのであろう、絶句している新人職員をカウンターに残し、私は頭の痛そうな顔をしたギルド長に連れられて、冒険者ギルドの奥の部屋へと進んだ。





「で。なんなんだ、こりゃあ。……ま、とりあえずそこに掛けてくれ」


 ギルド長室の応接間。大きな赤剛木製のローテーブルの上に適当な布を引っ掴んで来て広げ、ティポタロプスの生首をでん、と置き放って、ギルド長はがしがしと頭を掻き、少々乱暴にソファーに腰掛けた。

 後から合流したギルド職員達も血の気の失せた顔で過去の討伐記録をパラパラと忙しなく捲りつつ、ティポタロプスの首と交互に見比べている。

 私は促されたままに、ティポタロプスの首を挟んでギルド長の対面に座る。ここへ来る前にも重ねて凍らせておいたので、断面から体液が滲み出てくる事は無い。上等な革張りのソファーは汚さなくて済みそうだ。

 ギルド長はティポタロプスの首の検分をさっと終えて、書類を一通り漁り終えた職員達に呼びかける。


「大分と外傷を負わされてはいるが、特徴を見るにティポタロプスの変異種で間違いないだろう。……で、どうだ、お前ら。記録の方は」

「……前回、ティポタロプス通常種の討伐の報告があったのは三ヵ月ほど前です。その前は五ヵ月、さらに前は十ヵ月前。一番討伐の期間が開いていたのは……ここにある中だと、一年と四ヵ月でしたが、その際にも、変異の情報と迷宮の活性化の兆候等は報告されていません。前例も無いです」

「そうか。なら、時間経過で自然発生的に変異した、って線はほぼ無いと思って良いな。記録が無いなら無いで、話を聞かん事には始まらん。て訳で、まずはマーシャ。コイツについて詳しく聞かせてほしいんだが」

「じゃあ、とりあえずこれを。遭遇から接敵、討伐までの状況と戦闘の所感を簡単に纏めて来たので、見て貰ってから話す方が早いかと。お渡ししときます」


 鞄から紙束を取り出し、ギルド長に差し出す。紙束を受け取り、パラ、とページを捲って軽く目を通したギルド長は満足げに薄く笑んだ。


「……ほう、こりゃ助かるな。おい、サニーサ。概ねこのままでいい、記録書に書き写しておいてくれ。イドアは確認しながら疑問点があれば書き出しを頼む」


 短く返事をして、二人の職員は紙束を持って書物棚の辺りで作業を始めた。それを見届けてから、ギルド長は表情を引き締めて、切り出す。


「一旦ティポタロプス変異種については後回しだな。表のカウンターで聞いたが……冒険者の遺品を回収したんだったな?」

「はい。ここで出しても?」

「ああ。大丈夫だ」


 ちら、と、書物棚の横の作業机で私の紙束と格闘する職員達に目線をやったが、構わないとの事らしいので、革袋から折れてひしゃげた長杖を取り出し、続けて黒ずんだ冒険者証も取り出して、ローテーブルの端にそっと置いた。

 『混迷の洞窟』の最下層で遺品を発見した経緯と状況を説明すると、ギルド長は冒険者証を手に取って裏返し、そこに刻印してあるだろう名前をじっと見つめる。眉間に深く皺を刻み、長く細い息を吐いて、ゆるゆると項垂れた。


「……そうか。先端に付いていた火属性の魔石は無くなっているが、俺の知る限り、コーモンの杖だな、これは。……惜しい奴を亡くした」

「……」


 少しの間、紙束の擦れる音と、ペンが紙の上を不規則に滑る音だけが静かな室内に響いていたが、ギルド長は徐に立ち上がって、奥の戸棚から深い蜜色の瓶と小さなグラスを四つ取り出してきた。


「マーシャ。お前、酒は」

「飲めますよ」

「そうか。なら飲んでやってくれ。献杯だ。ほれ、お前らも」


 書き写しに当たっていた彼らも一度手を止め、こちらへ来てグラスを受け取る。僅かにとろみのある蜜色の液体が少量ずつ注がれたグラスを皆で持ち、軽く胸のあたりで掲げてから祈り、飲み干す。

 蒸留酒特有の強い酒精が喉を焼きながら胃へと熱を運ぶ。深みのある香木のような香りの中に堅果の香ばしい香りが微かに混じり、後味にふわりと柔らかい甘みを感じる良い酒だった。


「コーモンが好きだった酒だ。このまま思い出話と行きたいところだが、自重しておこう。……さて、コーモンが同行してたって言う冒険者達は、見付からなかったんだったか」


 空いたグラスをさっと纏めて脇に寄せつつ、ギルド長は意識的に声を切り替えて、再び私へと向き直る。

 二人の職員達も書き写しに戻るが、イドア、と呼ばれていた男性の方は痛みを堪える様な険しい表情をしており、ペンを握る手も微かに震えている。……やり切れない思いもあるのだろう。


「最下層を、同行者と共にぐるっと捜索したんですが、亡骸どころか装備品の欠片も、何も。地底湖の中までは調べてませんけど、ティポタロプスが冒険者達をわざわざ地底湖に放り込んだとも考えにくいです」

「そうだな……。すまん、イドア。他の三人は目撃情報すら出てないんだったか?」

「そう記憶してますが……一応、捜索依頼書の写しと情報が提供された履歴を見てみます。……やっぱり、『混迷の洞窟』方面に向かった後、該当の冒険者達の目撃情報は無いです」

「では、ティポタロプスとの遭遇後、コーモンさんだけが最下層に囮として残って冒険者達は逃がし、逃げた彼らは地上まで辿り着けずに、道中で魔物に片付けられてしまった……という可能性はあるのではないでしょうか」

「確かに、そいつらに関しては有り得るかもしれんが……コーモンは、退き際をちゃんと弁えている奴だった。通常種にやられるとは思えんし、この変異種が相手だったとしても、撤退はおろか、碌な防御すら出来なかったってのは、ちと引っ掛かる」


 眉間の皺をより一層深くしたギルド長が、酷くひしゃげて折れた長杖を睨みながら、唸る。

 確かに、ティポタロプスの殴打をまともに受ければ杖がこうなるのも納得なのだが、コーモンさんはBランクの冒険者、それもギルド主力級の魔導士。

 私でさえ、咆哮で怯まされた際にも防御魔法の発動は出来たというのに、魔導士の彼が何も出来ず、真正面から無抵抗に攻撃を受けるような事があるだろうか。


「迷宮の構造上、ティポタロプスの不意打ちを受けたとも考えにくい。……コーモンの杖がいつこうなったのかと、Eランク冒険者達の安否、ティポタロプスの変異のタイミング。その辺の詳細は分からんが……どうも、きな臭えな」


 皆、一様に釈然としない様子で頷いた。少し重々しい空気となったが、ギルド長は再び切り替えるように、よし、と声を出し、姿勢を整えてソファーに座りなおした。


「まあ、一旦情報不足だな。この件はギルド側で詳しく調査だ、後ほど俺から指示を出す。サニーサ、書き写しは終わったか?」

「ええ。疑問点もこちらに」

「よし。じゃあマーシャ、色々と答えて貰うぞ。……そうだな、とりあえずこの熱傷を与えた前後の詳細が聞きたい」

「分かりました。まず、上等な火の魔石を二つ、爆発させたんですけど」

「待て。……お前、どんな戦い方してるんだ……?」



 そこから暫く、質疑応答の時間となった。私自身も詳しい事は分からないが、ティポタロプスの首に魔道具を用いて残留魔力を解析し、私からの情報を擦り合わせて、戦闘力や変異種のみが持つ特性等を記録しているらしかった。


 先程飲んだ蒸留酒の匂いが微かに残る部屋の中、変異種の情報はギルド長とのやり取りを介して記録書に粛々と綴られ、緩やかに夜は更けていくのだった。


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