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13. 屋台のスープと冒険者達

「……んし、こんなもんだな。おおい、出来たぞー!順番に取りに来てくれー!」


 私は『混迷の洞窟』での出来事を反芻しつつ、ギルドに報告する内容を紙束に箇条書きにして書き付けながら料理の完成を待っていたのだが、程なくしてジオの明るい声が通りに響いた。


 ジオの呼び掛けを聞き、冒険者達が我先にと屋台へ殺到……するかと思いきや、足早ながらも冒険者達は行儀良く列を作って並び、一人ずつ黒パンのスライスが二枚添えられたスープの器を、礼を言いつつ受け取っていく。

 早くも食事に手を付け始めた冒険者達が、むおっ、だとか、こりゃうめぇぞ、だとかの声を上げるのを聞いてなんだか少し得意気な気分になりつつ、紙束を鞄にしまい込んで列の最後尾にそっと加わった。そう、ジオの作る料理は美味いのである。


 やがて、スープの器を受け取った冒険者達は、近くの広場へ向かうなり思い思いの場所に腰掛けるなりして、食事を摂りつつ和やかに談笑し始める。ちらりと耳に入って来る彼らの話題は、やはりオーク騒ぎについてのようだ。

 わざわざギルドで聞かずとも、状況を把握するだけならばこの場で彼らに聞いた方が手っ取り早かったかもしれない。


 料理の匂いを嗅ぎつけてやって来たのか、いつの間にか私の後ろにも冒険者達が並び列を伸ばしていた。

 これだけの人数、食事が皆に行き渡るか心配になったのだが、列の最前に近付いたあたりで屋台の調理場をうかがうと、湯気を上げている大鍋は調理台横の鍋敷きの上へと移動しており、かまどにはもう一つ新たな大鍋が用意され、蓋をされ煮込まれているところだった。

 屋台の店主として、そのあたりの抜かりは無いようである。


 そうして列は進み、私にも、ほいよ、とジオからスープを手渡された。

 見た目より重みのあるスープの器を傾けないよう注意を払いつつ、ジオの屋台から程近い地面に荷物を降ろし、それらを背もたれにするような恰好で座り込んだ。


「いただきます」


 冷めぬうち、ジオお手製の迷彩海老のトマトスープを頂く。

 とろみのあるトマトスープには、『混迷の洞窟』最下層のつまみ食いで頂いたものよりも二回りほど小さい、ぷりりと丸まった剥き迷彩海老と、賽の目に切られた丸芋とベーコン、人参、茎豆、玉ねぎ等の具材がゴロゴロと山盛りに盛られている。


 程よい厚みにスライスされた黒パンをスープにとぷりと浸し、具材を掬い上げるようにして黒パンの上に乗せ、齧る。

 スープをたっぷり吸い上げた黒パンは歯応えを残しつつも柔く、旨味が溶け込んだトマトの味わいを舌の上にじゅわりと広げてくれる。そこへ合わさる、ほくりとほぐれる丸芋や茎豆の食感、鼻腔へと抜ける迷彩海老の香ばしさ。

 『混迷の洞窟』では塩茹での迷彩海老を頂いたが、トマト味に煮込まれた迷彩海老も良い味だ。

 小ぶりであるからか、その食感は軽く弾けるようでありつつ、トマトの味にかき消されない風味、旨味も有している。……ああ、なんとも美味である。


 温かなスープを大事に味わいながら少しずつ食事を進めていると、列を成していた冒険者達を全て捌き切り、一段落した様子のジオがのしのしと歩いてこちらにやって来た。


「ふい~、ちょっと休憩だ。よっぽど腹減ってたんだろうな、皆良い食いっぷりだぜ」

「ほんとね。ギルドで聞いた話からすると、運搬に駆け回っててお昼も食いっぱぐれた人が多かったんじゃないかな」

「ああ、なんだか冒険者達皆、そんな話してるな。オークがどうのこうのってさ」

「うん、それなんだけど。私がギルドで聞いて来たのは……」


 かいつまんで、ブリクスト近郊の状況を説明する。ジオも談笑する冒険者達の話からある程度の事情は察していたようで、ミセシルさんから聞いた情報の伝達は実にスムーズであった。


「じゃあ、今、東の街道は通れなくなってるんだな。西側の門は通れるんだよな?」

「うん、西は普通に通れるみたい。東はオークの上位種が残ってないだろうって判断が出たら開通するらしいけど、逃げたっていう上位種の討伐報告はまだっぽいね」


 と、ジオと話していると、すぐ近くでスープを口に流し込んでいた年若い冒険者の一団が、情報を補足するように話に割って入って来た。


「なあ、そうなんだよ。それでその上位種ってのは魔法を使う個体なんだが、今日聞いた話、俺らの知り合いが北東の林の中でソイツを見つけたらしいんだ。で、牽制の魔法を打って来たと思ったら、オークとは思えん逃げ足で林の奥に逃げられたって言うんだぜ。魔法使う上に足の速いオークなんて聞いた事ねえよな」

「ホントによお。討伐ん時に包囲網をいの一番に抜けてったのもその個体だろ。そりゃFランクの奴らには荷が重かったろうよ」


 そうだそうだと頷き合う彼らは皆、一日中オーク騒ぎの対応に当たっていたのであろう、少々草臥れた風体をしており、Dランク冒険者の証である淡紅鉄の冒険者証を着けていた。

 しかし、彼らはそんな疲れを感じさせない声色で、知り合いはソロだから仕方ないが自分たちであれば簡単には逃さない、出会ったら直ぐに討伐してやる!と息巻いている。

 聞けば、掃討作戦でも中々の戦果を上げたらしく、その武具の使い込まれ方を見るにランクに見合うだけの実力はあるのだろう。

 中々事態の収拾がつかず、周りが倦怠感を漂わせて来ている中、これだけ士気を高く持っている冒険者がいるのは感心する事である。


「その個体、魔法を使ってくるだけならオークメイジだろうけど、その上素早いとなれば単なる上位種じゃないかもしれないね。遭遇場所とか逃げた方向とか、もうギルドには伝わってるのかな」

「あぁ、そういやそうだ、アイツそういう所マメじゃねえからまだ言ってねえかもしれねえ!なあ坊主、刈り込んだ赤毛の、額のこの辺に二本の傷がある奴なんだが、ここに飯食いに来てねえか?」

「お?その人なら多分、ついさっき来たぞ。スープ持ってあっちの広場の方に歩いて行ったと思うぜ」

「なら、その辺にいそうだが……あっちは暗くて分からんな。ちっと探してみるか」

「おうよ」


 そう言うと彼らは少し残っていたトマトスープを黒パンの欠片でかき込むようにしてぐいと平らげ、立ち上がって綺麗に空いた器をまとめて重ね、ジオに手渡した。


「急に割って入って悪かったな。坊主、ごっそさん!美味かったぜ!」

「おお、まいどあり!またどっかで見かけたら食っていってくれよな~」


 彼らの去り際、彼らにオークの情報の礼を言うと、折角の縁だからと名前を名乗られたので、こちらも名乗り返しておいた。

 全員の名前までは聞けなかったが、薄緑の髪に砂色の目をした、パーティーリーダーらしき彼はコフレックと名乗り、次いで『飛矢の緑羽』という彼らのパーティーの通り名も教えてもらった。うん、意欲的で快活な彼らのことは覚えておこう。

 こちらが名乗る時、合わせてCランクの冒険者証を見せると、「おぉぉ……格上だったんじゃねえですかよ姐さん……」等といきなり恐縮しだしたので、少々吹き出してしまった。



 コフレック達が去った後、他の冒険者達も続々と食事を食べ終わり、ぞろぞろと食器を返却にやって来た為、ジオは食器類の後処理をしに屋台の方へと戻って行った。

 私は、残り少しとなってしまったスープを、特段にゆっくりと、大切に味わいながら食べた。

 スープは少し冷め始めていたが、それしきの事でふんだんに溶け込んだ旨味が減退する事も無く、スープも具材も、最後の一滴、一欠片まで美味であった。


 もう少しジオと話したかったのもあり、再び客足が途切れるのを期待して少しだけ時間を潰してみていたのだが、依頼帰りの冒険者達に続き、休憩時間に入ったらしいギルド職員達も温かい食事を求めて次々に屋台へ集まって来ており、ジオは暫く屋台から離れられなさそうな様子だった。

 それなりに混雑している屋台の営業の邪魔をしてまでジオと話し込むのは、流石に気が引ける。

 時間を潰す間に、途中になっていた報告内容も紙束にまとめ終わってしまった事だし、私としてもギルドへの報告を残したままで、屋台の営業が終わるのを待ち惚ける訳にもいかない。

 仕方なく、地面に下ろしていた荷物を纏めて立ち上がり、座り込んで食事をしている冒険者達の間を抜けて、空になった器をジオに手渡す。

 短く、ありがとう、ご馳走様と礼を言って、列の邪魔にならないようにサッと屋台から離れた。


「マーシャ!報告終わったら、もっかい寄ってくれよ!ここで片付けしながら待ってるからさ!」


 屋台に背を向けた途端、背後から少し焦りを含んだような、そんな声が飛んできて、思わず苦笑する。まあ、一昼夜冒険を共にした後、これだけでハイお別れ、というのは味気ないと思うのはジオも同じなのだろう。

 少なからず別れを惜しんでくれているのかもしれないと思えば、こちらも少々寂しいような心地になるが……間違いなく、ジオとの冒険は良い経験であった。護衛の提案をして良かったというものだ。


「うん、待たせるかもしれないけど、また後で」


 軽く振り返って肩越しに手を振ると、ジオはホッとしたように笑い、「また後で!」と器を持った手をふりふりとやってくれた。


 私は肩からずり落ちてきた重い革袋を背負い直し、長くなるであろう活動報告を少々億劫に感じつつも、なんとか気合を入れて冒険者ギルドへと足を向けるのであった。


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