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閑話1. 『混迷の洞窟』の帰路にて


「なあ、マーシャ。最下層で天井に光る氷が刺さってたけどさ、あれ出したのってマーシャだろ。あれってどうやったんだ?」


 『混迷の洞窟』から脱出する道中での事。出口へと歩を進めながら、そういえば、とジオがそんな疑問を投げかけて来た。


「ああ、あれは氷が光ってたんじゃないよ。火の魔石に光源魔法を込めて灯光の魔石にして、それを氷刃で覆って天井に刺しておいただけ。氷自体を光らせるのは……出来なくは無いけど、手元から離れると直ぐ消えちゃうだろうね」


 こんな風に、と言いつつ、手元の光源魔法と氷魔法を合わせてみる。パキパキと音を立てて生成された透き通る氷に光源魔法が吸い込まれるように混じり合い、淡く輝く氷の刃が完成した。

 近くの壁に向けて放ってみると、浅く刺さりはしたものの、直ぐに光を失って地面に落下し、かしゃりと砕けてしまった。


「ほえー、ホントだ。なんで魔石だと大丈夫だったのに、氷だとダメなんだ?」

「えっと、魔石に含まれてる魔力を燃料みたいにして、灯光の魔法が発動し続けてる感じ。魔法が手元にある分には私が燃料になってるけど、手元からある程度離れると私からの供給が途絶えるから、魔法を維持できなくなって消える。仕組みとしては魔導ランプと同じだね」


 新たに手元に生み出した光源魔法をふわふわと弄びながら、ジオに説明する。ジオはゆるゆると上下する灯光を目で追いつつ、なるほどなあ、と曖昧に頷いていた。



 ──普段、私たちが魔石と呼んでいる物は、二種類存在する。


 一つは、純粋に魔力が多量に含まれた鉱石を表す意味での『魔石』。

 もう一つは、外部から魔力を流す事で魔術を簡易的に発動出来る、『魔力封入・簡易魔術発動石』という長ったらしい名前が付いている物だ。

 後者については、まあ、長ったらしいので、殆ど魔石、ないしは魔術石としか呼ばれていない。


 鉱石としての魔石は主に迷宮内で見つかり、産出地によって異なる様々な属性の魔力が含まれている。

 そのまま魔力源として活用する他、素材として魔術師の杖や装飾品に加工したり、魔道具の触媒として使われたりもする。

 今ある例としては、私が左腕に着けている腕輪に加工した氷の魔石が使われている。

 魔導士の杖程の効力は無いが、魔法を使う際の精度と威力の向上に一役買ってくれているのだ。個人的な思い入れもあり、私のお気に入りの品である。


 言わずもがな、魔石は純度の高い物ほど魔力量が多いので、その価値も純度に比例して高まる。

 ちなみに、ここ『混迷の洞窟』で得られる魔石は土属性と水属性の物が主だが、私の魔法適正との兼ね合いもあり、あまり使わない属性の魔石である為、最下層で得た魔石類は全て売却する予定である。


 そして、もう一方の魔力封入・簡易魔術発動石……もとい、魔術石。こちらは、魔石やカラ石等を原料として、魔術を人工的に組み込んだ加工品、広義での魔道具の一種である。

 魔法が得意でない者でも、引き金となる魔力を魔術石に流せば組み込まれた様々な魔法を簡単に発動出来るという代物だ。

 一般に流通している物の殆どは『真魔術研究創造連合』が製作しており、魔術の種類にもよるが、魔石単体よりも買値はかなり高価なものとなる。(余談だが、こちらも長ったらしい名前である為、通称は『マ連』である。)


 ただ、その値段に見合う価値があるのも事実だ。使用者の魔力量の大小で発動する魔法の威力は変わるとは言え、魔力を流しさえすれば誰でも魔法が使えるというのは、非常に画期的な発明である。

 最も需要が高いのは火の魔術石で、冒険者達は勿論、冒険者以外の一般家庭でも広く火起こし等の用途で利用されている。

 以前、ジオは魔法が得意でないというような事を言っていたので、彼もかまどの火起こしには火の魔術石を使っているのではないだろうか。


 まあいずれにせよ、魔石と魔術石、どちらを選ぶかは使用者のスタイルや得意とする属性、単純な好み等に依るところだろう。

 私としては何かと応用の効く、未加工の魔石の方を主に愛用している。いざという時はティポタロプスの変異種を相手にした時のような使い方もできるので、備えとして幾つか持っておくと便利なのである。



「やろうと思えば、魔法で作った氷そのものに魔力を込めて溜めておく事も出来るけど……氷の性質上、魔力を溜めておける量も時間もたかが知れてるし、その為の魔術を組むのも効率が良くないから、わざわざやらないね。だったら最初から魔石で良いし」

「そうなのかあ。でもさ、あれはあれで、透き通った氷がキラキラしてて綺麗だったな!オイラ、祝祭の時期に王都の街で色硝子のランタンがいっぱい吊り下げられてるのを見た事があるんだけど、さっきの氷もいっぱい並ぶとあんな感じになりそうだぜ。なあ、灯光の魔法の色って変えられたりするのか?」

「……色。やったことないかも」


 無邪気にそんなことを言われ、少しだけ面食らう。考えた事もなかったが、まあ、物は試しだ、やってみよう。

 ほんの僅かに黄色味がかった白色の光を放つ灯光の魔法に、なんとなくで手を加えてみる。イメージしやすいところだと、私が最も得意とする氷属性……氷の魔石の、薄青のような寒冷色だろうか。


 氷を生じさせない程度に少しずつ氷属性の魔力を灯光に込めてみると、じわりじわりと微かな黄色味が抜け、光球がひやりとした白色に、そしてゆっくりと淡い薄青色に、という風に染まっていき……そのあたりで、パキン、という音と共に氷の塊が実体化してしまった。

 実体化した氷は重力に従って地面に落ち、先程と同じように光を失って、がしゃりと砕けた。


「ううん、難しいね。魔法が混ざっちゃうや」

「氷になっちゃったな。でも、色も変えられるんだな!灯光と氷魔法を混ぜたらそうなるのかあ。……んん?さっきのも灯光と氷魔法だったのに、青くなかったな。なんでだ?」

「えーと……上手く説明出来ないけど、私的に、魔法の発動ってかなりイメージ次第なんだよね。さっきのは灯光と氷刃の魔法をそのまま合体させた感じ。それで今のは……氷属性の魔力の、氷の魔石みたいな冷たい色の部分だけを抜き取って、灯光に溶かし込んでその色に染めた感じ……かなあ」


 なんとも纏まりが無く分かりにくい説明をしつつ、もう一度灯光を生み出し、今度は風属性の魔力を込めてみる。

 イメージするところは鮮やかな緑色だが……灯光がゆっくりと薄い緑色に変化してきたかと思えば、先程より早い段階で風魔法が発動し、ひゅう!と突風が前方へと吹き抜けて、灯光も風に乗って分散するように搔き消えてしまった。


「属性の魔力の色……魔石の色とおんなじか。てことは、今のは風魔法で、緑色だな!」

「うん。でも、やっぱり上手くいかないね。その属性の魔力が多くなると魔法が混ざって、攻撃魔法として発動しちゃう。慣れれば上手く出来るようになるかもしれないけど、こういう魔法の使い方はして来なかったからなあ……」


 再び左手に灯光を生み出すが、慣れない事をした為か、僅かに魔力の消耗由来の疲労を感じる。これ以上の実験はまたの機会という事にしよう。


「なるほどなあ。そのかわり、マーシャの魔法はそれだけ戦いに特化してるってことだよな。魔法は誰かに教わって練習したのか?」

「父さんに。魔法もそうだし、剣もそうだよ」

「へえ!オイラの師匠は師匠だけど、マーシャの師匠はお父さんなんだな。じゃあ、きっとすごく強いんだろ?マーシャのお父さんも冒険者なのかい?」

「うん。強いよ。……今は冒険者をやってないけど。それでも、今戦っても勝てないと思う。いつかはちゃんと追い抜いてやるつもりだけどね」


 いつでも脳裏に思い浮かべる事が出来る、父の背中。生み出す魔法はどこまでも鋭く、振るう剣は流麗にうねり、それでいて重い。

 故郷を飛び出してから六年経った今、私は少しでもその背中に近づけているだろうか。


「おお。なんか、良いな。マーシャ、熱いな。……オイラもいつか、師匠みたいになれたらいいなあ……」


 ぽつりとそう言って、ジオも師匠なる人物に思いを馳せているようだ。教わった物が違うだけで、私たちは案外似た者同士なのかもしれない。


「目標が明確にあるなら、きっといつかそうなれるよ。さ、いい加減この景色にも飽きたし、早く洞窟抜けちゃおうか。ちょっとペース早めても良い?」

「おう、良いぞ。海老に何回も冷凍魔法使ってもらうのも悪いからな、急ごうぜ!」


 そうして、ジオと屋台と共に帰路を急ぎ足で進みつつ、ぼんやり思う。時間のある時に、先ほどの灯光に色を付ける魔法を練習してみようと。

 冒険に役立つ魔法ではないかもしれないが、出来ない事を出来ないままで放置しておくのは、あまり好きではないのだ。


 「マーシャは変なトコで負けず嫌いだよなァ……」とは、かつてのパーティーメンバーの談である。


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