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自国民優先型福祉国家とグローバリズム型競争国家

これが私の処女作だ。私はグローバリズムに懐疑的だ。その理由を説明する。

 現代の民主主義国家は、国際社会の構造変化と経済のグローバル化の影響を受け、二つの対照的な生存戦略を選択しつつある。この文章は、それをグローバリズム型競争国家と自国民優先型福祉国家という二つのモデルに整理し、それぞれの政策的特徴と帰結を比較検討する。

 ここで「自国民優先型福祉国家」とは、各国政府が自国民との社会契約に基づき、自国民の権利保護を第一義的責任とする原則に基づく福祉国家を指す。この立場は、国際関係における不干渉の原則と整合し、各国が自国の経済政策を自主的に決定する権利を前提とする。

 重要なのは、この立場が排外主義的なナショナリズムを意味しないという点である。精神の自由(思想・良心・信教・言論・表現の自由)は、国籍によらずすべての人に保障される。また、受け入れた外国人に対しては、基本的人権を完全に保障し、人間の尊厳に値する扱いをする。

 自国民優先型福祉国家は、自国民の生活水準の向上と社会的安定を優先することで、精神の自由とプライバシー権を守る基盤を提供する。これは、グローバリズム型競争国家が陥りがちな格差拡大と監視強化という危険を回避するための戦略である。

 この文章では、自国民優先型福祉国家とグローバリズム型競争国家の利点と限界を踏まえ、過度なグローバリズム推進に対する懐疑的立場を提示する。なお、ここではグローバリズムについては、貿易及び資本の自由化という側面に絞って話を進める。ここで重要な区別を明確にする必要がある。この文章が批判する「グローバリズム型競争国家」は、以下の政策パッケージを指す。第一に、無制約な貿易自由化(関税の完全撤廃)である。第二に、無制約な資本移動の自由化である。第三に、その結果生じる法人税・所得税の底辺への競争(race to the bottom)である。第四に、その結果生じる福祉・教育への支出削減である。第五に、無制約な貿易自由化(関税の完全撤廃)や無制約な資本移動の自由化の結果生じる低賃金労働力の無制限な受入である。

 この政策パッケージは、「無制約の商取引の自由」や「新自由主義的規制緩和」の国際版である。

 重要なのは、この批判が貿易一般や国際協力一般を否定するものではないという点である。「法的枠組み内で適切に規制された市場経済」が国内で必要であるのと同様に、国際貿易も適切なルール(関税、労働基準、環境基準等)の下で行われるべきである。

 また、この批判は統制経済を支持するものでもない。自国民優先型福祉国家は、市場メカニズムを基本的に維持しながら、自国民の生活水準と社会的安定を保護するために、貿易政策(関税等)を適切に管理するものである。

 したがって、以下の区別が重要である。グローバリズム型競争国家は無制約な自由化と福祉削減と監視強化を組み合わせたものであり私が批判するものである。統制経済は市場メカニズムの廃止でありこれにも私は批判的である。自国民優先型福祉国家は適切に規制された市場と福祉国家と貿易管理を組み合わせたものであり私が支持するものである。

 この文章の目的は、日本が持続可能な国家戦略を選択するため、両モデルの比較を通じて政策の方向性を示すことである。

 グローバリズム型競争国家は、自由貿易を推進し、関税を撤廃することで国際競争力を高めようとする。この体制のもとでは、資本の自由移動が前提となるため、多くの法人や人材を国内に引き寄せることが最優先課題となる。これは雇用と法人税の確保、並びに自国の国際競争力の向上のためである。そのため、法人税率や所得税率の引き下げ、低賃金労働力の確保、治安維持の強化が不可欠とされる。実際、OECD諸国において法人税率は1980年代の40%から徐々に低下しており、OECD平均では2000年の28.0%から2020年には20.6%へと低下している。この傾向は、グローバル競争圧力による税率引き下げを象徴する現象である。その結果、教育や福祉にかけられる費用は最小限に留まる傾向がある。

 また、労働市場においては低賃金移民の受け入れが進む。これは労働供給を増やし、賃金の上昇を抑えるためである。しかしその結果、国民全体の生活水準や教育水準は低下しやすく、治安悪化を防ぐために監視システムが導入される傾向も強まる。つまり、グローバリズム型競争国家は、低税率・低福祉・高監視を基盤とし、法人と国際競争力を優先する国家像である。

 自国民優先型福祉国家は、国民経済を基盤とした社会的安定を重視する。労働集約型産業の保護を目的に関税を高く設定し、国内市場を自国企業に優先的に開放する。労働集約型産業とは、生産プロセスにおいて労働者の数や労働時間が資本設備よりも重要な役割を果たす産業のことである。その結果、法人税や所得税を高めに設定しても、一定の企業と人材は国内にとどまる。故に自国民優先型福祉国家では法人税や所得税を高く設定できる。加えて、貧困層は人口的に多数派であるため、選挙過程を通じて法人税や所得税の税率を高く設定して福祉や教育への支出を拡大させる方向へ圧力が働く。実際の選挙による政治の動向は複雑だが、自国民優先型福祉国家の方がグローバリズム型競争国家よりはまだ福祉国家として成立する可能性が高い。

 また、低賃金移民を大量に受け入れる政策は、国内労働者の雇用を脅かすために抑制される傾向が強い。このため、労働者の賃金上昇や社会的安定が自然に促進される。治安も教育水準や福祉の充実を通じて守られるため、強制的な監視体制の導入は政治的に困難となる。自国民優先型福祉国家は、高税率・高福祉・低監視を制度的に支える。

 この二つのモデルは理論上中間的な政策選択も可能だが、両者のいいとこ取りは困難である。なぜなら、政策群が相互に補完的であり、部分的導入では十分な効果を発揮できないからである。例えば、低税率と高福祉を同時に維持することは、特殊な条件がない限り財政的に持続困難である。

 なお、一部の国では特殊な条件により、この傾向から一時的に逸脱している場合もある。例えばドイツでは、職業訓練制度により高スキル労働者を育成し、単純な低賃金競争から脱却している。ただし、ドイツ政府がせっかく育成した高スキル労働者が海外へ逃げるようになれば、このドイツの戦略は破綻する。また、北欧諸国は、天然資源からの収入で税収減を補完しているが、北欧諸国の戦略は天然資源からの収入がなくなれば破綻する。

 両者のメリットとデメリットは次のように整理できる。グローバリズム型競争国家は、短期間で国際競争力を獲得できるうえ積極的な貿易により得意な産業を伸ばすだけで国を支えられる一方、格差拡大と社会不安を招きやすい。自国民優先型福祉国家は、社会的安定と教育・福祉の向上を実現しやすいが、グローバル市場での即応性に欠ける。加えて、自国民優先型福祉国家ではグローバルな環境で戦える企業を短期間では育成できないうえ、貿易を制限することで輸出が難しくなり、結果として得意な産業だけでは国を支えられなくなる。

 現代日本の法人税率の引き下げや移民受け入れが進展している政策動向は、グローバル競争圧力の典型例といえる。具体的には、日本の法人税率は過去40%を超えていた時もあったが2020年代では約20%にまで低下した。この間、法人税収の対GDP比は約3.5%から3.0%へと減少し、減税が税収減につながったことを示唆している(財務省、2023)。しかし同時に、教育・福祉の充実や社会的安定といった自国民優先型福祉国家の利点も看過できない。

 この文章が提案する関税政策は、以下のメカニズムで税率の底辺への競争を抑制する。国内市場保護により、企業にとって日本市場へのアクセスが戦略的価値を持つようになる。この価値が、法人税率が多少高くても日本に留まる誘因となる。ただし、この効果は以下の条件に依存する。一つ目の条件は、国内市場の規模と魅力(人口、購買力)である。二つ目の条件は、関税対象産業の経済的重要性である。三つ目の条件は、報復関税のリスクである。

 これらの条件を考慮すると、関税政策は補完的手段として位置づけるべきであり、主要な戦略は産業高度化と人的資本投資である。

 したがって今後の政策選択においては、グローバリズムの利益とともに、その社会的コストを冷静に比較衡量する必要がある。理念やスローガンではなく、制度がもたらす具体的帰結を見極めることこそ、持続可能な国家戦略を選び取るための第一歩であろう。

 自国民優先型福祉国家の持続性に関する最大の反論は、関税による保護が国内産業の『長期的な競争力の麻痺』と『技術革新の停滞』を招くという点である。これに対抗するため、自国民優先型福祉国家は教育投資を通じた人材育成と産業高度化を並行して進めることが不可欠である。

 この提案に対しては、歴史的反証への応答が不可欠である。特に、ラテンアメリカ諸国が1950年代から1980年代にかけて実施した輸入代替工業化(Import Substitution Industrialization)政策は、高関税による産業保護が非効率化と経済停滞をもたらした事例として知られている。ブラジル、アルゼンチン、メキシコ等では、関税障壁により保護された国内産業は国際競争力を失い、イノベーションが停滞し、消費者は高価格を強いられた。1980年代の債務危機は、この政策モデルの限界を露呈した。

 しかし、この文章が提案する関税政策は、ラテンアメリカの経験とは重要な点で異なる。第一に、対象を労働集約型産業に限定し、全産業を保護するものではない。第二に、関税は補完的手段であり、主要戦略は教育投資と産業高度化である。第三に、関税は透明で客観的な基準に基づき、恣意的な保護主義を避ける。第四に、期限付きの調整措置として位置づけ、永続的な保護を意図しない。

 対照的に、戦後日本の経済発展は、戦略的な産業政策の成功例として位置づけられる。日本は1950年代から1970年代にかけて、幼稚産業保護の論理に基づき、自動車・電子産業等に選択的な関税と補助金を提供した。しかし重要なのは、日本が保護と同時に、厳しい輸出目標を課し、国際競争への段階的参加を促したことである。また、保護は時限的であり、産業の成熟とともに段階的に撤廃された。この「保護と競争の組み合わせ」が、韓国・台湾を含む東アジアの成功の鍵であった。

 この文章の提案は、ラテンアメリカ型の無制限保護主義ではなく、東アジア型の戦略的産業政策に近い。ただし現代日本は既に先進国であり、幼稚産業保護の論理は適用できない。むしろ、グローバル化による急激な調整圧力を緩和し、労働者と地域社会に構造転換のための時間を確保することが、関税政策の主要な目的である。

 過度なグローバリズムへの依存はリスクを伴う。日本は、国際統合の利益を享受しつつ、適切な政策的余地(関税を含む)を保持することで、福祉国家を維持すべきである。なぜなら、少子高齢化が進む日本にとってこそ、教育と福祉への投資が社会の安定を支えるからだ。具体的には、労働集約型産業の輸出で恒常的な貿易黒字を有する国家に対して関税をかけることを提案する。貿易摩擦については、すべての国に対して関税をかけると広範な貿易戦争につながるリスクがあるが、特定の国や特定の産業に限定することで、そのリスクを抑えられる。

 労働集約型産業で恒常的な貿易黒字を持つ国への関税政策には、自国民優先型福祉国家再編のための複数の制度的利点がある。第一に、低賃金で働く国内労働者の雇用と賃金を保護できる。これにより、社会的安定が強化される。第二に、企業が低賃金労働力に依存することを防ぎ、技術投資や自動化への誘因を高める。第三に、消費者への負担も限定的である。関税の対象を、衣料品や一部の家電といった既に国内産業が一定程度存在する労働集約型製品に限定することで、価格上昇の影響を最小化できる。第四に、国際的な労働基準から乖離した労働条件を利用して競争力を得ている国に対して、競争ルールの是正を促す契機となる。

 この提案は、貿易自由化の負の影響に関する近年の実証研究によって支持される。Autor, Dorn and Hanson (2013) は、中国からの輸入急増(「中国ショック」)が米国の製造業地域に与えた影響を分析し、雇用喪失、賃金低下、社会的不安定の増大を実証した。重要なのは、これらの影響が特定地域に集中し、労働者の再配置が想定より遥かに困難だったことである。市場メカニズムは、理論が予測するほど迅速に調整を実現しなかった。

 同様に、Pierce and Schott (2016) は、中国のWTO加盟(2001年)による恒久的最恵国待遇の付与が、米国製造業の雇用に長期的な負の影響を与えたことを示している。彼らの推計では、2000年から2007年の間に、中国との競争により約100万人の製造業雇用が失われた。

 これらの研究は、貿易自由化が全体として利益をもたらすとしても、その利益と損失の分配が極めて不均等であり、敗者への補償メカニズムが不十分であることを示している。Autor et al. (2016) は、貿易による調整コストが従来の経済学モデルが想定していたよりも遥かに大きく、かつ長期にわたることを明らかにした。

 日本においても、グローバル化の影響は地域間で不均等である。経済産業省の調査によれば、製造業の海外移転は特定地域の雇用と税収に深刻な影響を与えている。こうした地域的影響への対処として、適度な関税による調整期間の確保は、市場原理主義的な「創造的破壊」の社会的コストを軽減する合理的な政策手段となりうる。

 ただし、関税政策の効果には限界もある。Fajgelbaum et al. (2020) は、トランプ関税(2018-2019)の効果を分析し、関税による保護の恩恵は限定的である一方、消費者負担と報復関税による損失が大きかったことを示している。この教訓は、関税が補完的手段に留まるべきであり、産業高度化や労働者支援といった積極的政策と組み合わせる必要性を示唆している。

 なお、この関税政策と不干渉の原則の関係を明確にする必要がある。

 不干渉の原則は、他国の内政(政治体制、労働政策等)に軍事的・政治的に介入すべきでないという原則である。これに対し、関税政策は、自国の経済政策の一環として、自国の労働市場と産業を保護するための手段である。

 重要な区別は以下の通りである。自国の関税政策の決定(自国の主権的権利)は許容される。他国に特定の労働政策を強制すること(内政干渉)は許容されない。

 関税は、あくまで自国市場へのアクセス条件を設定するものであり、他国の政策選択を強制するものではない。他国は、自国の労働政策を維持したまま、日本市場への輸出が制限されることを受け入れるか、あるいは自発的に労働基準を改善して日本市場へのアクセスを得るかを、自主的に選択できる。

 したがって、適切に設計された関税政策は、不干渉の原則と矛盾しない。各国は、不干渉の原則を相互に尊重しつつ、自国の経済政策(関税を含む)を自主的に決定する。相手国も、自国の政策に応じた対抗措置(報復関税等)を取る権利を持つ。これは、各国の主権的権利の行使であり、国際関係の正常な調整プロセスである。

 ただし、関税政策が恣意的な貿易戦争に発展することは避けるべきである。したがって、関税政策は、透明で客観的な基準(労働集約型産業、恒常的な貿易黒字等)に基づき、手続き的中立性の原則に従って決定されるべきである。

 一方、本提案には課題も存在する。第一に、どの産業を労働集約型と定義するか、また恒常的な貿易黒字をどのように判断するかは、政治的解釈の余地が大きい。現代の複雑な国際分業体制においては、製品製造の各段階を単純に区別することは容易ではない。第二に、選択的な関税であっても、相手国からの報復的な関税措置を完全に回避することは難しい。この場合、当初想定していなかった他の産業に被害が及ぶ可能性がある。

 関税以外の政策手段との比較も重要である。税率の底辺への競争に対処する代替的アプローチとして、以下が考えられる。

 第一に、二元的所得税(Dual Income Tax)である。北欧諸国が採用するこの制度は、資本所得に低率の比例課税を適用する一方、労働所得には高率の累進課税を適用する。これにより、国際的に移動しやすい資本への課税を抑えつつ、国内に留まる労働者から十分な税収を確保できる。ただし、日本では資本所得と労働所得の区別が曖昧な所得形態(経営者報酬等)が多く、制度設計には困難が伴う。

 第二に、課税ベースの拡大である。名目税率を引き下げる代わりに、各種控除・優遇措置を削減し、実効税率を維持する。エストニアの法人税制(配当時のみ課税、投資への課税なし)は、企業誘致と税収確保の両立例である。しかし、既得権益との政治的対立が予想される。

 第三に、地域的税制協調である。EU内での法人税最低税率の導入や、OECD/G20のグローバル最低税率合意(15%)は、不完全ながら税率競争を抑制する試みである。東アジア諸国間でも、部分的な税制協調の可能性を探るべきである。ただし、国家主権への配慮から、全面的合意は困難である。

 第四に、出国税(Exit Tax)の強化である。企業や富裕層が税率の低い国へ移転する際、含み益や資産に課税する。アメリカ合衆国のExpatriation Taxは、国籍放棄者に対する包括的な課税制度である。日本でも国外転出時課税制度が導入されているが、適用範囲は限定的である。

 これらの代替策と比較して、関税政策の利点は、国内市場へのアクセスという具体的な価値を通じて、企業の国内留保を促す点にある。税制改革が政治的抵抗に直面しやすいのに対し、関税は貿易政策の一環として、既存の制度的枠組み(WTO、自由貿易協定等)の中で実施可能である。

 しかし、関税単独では不十分である。上記の代替策、特に二元的所得税と課税ベース拡大は、関税と補完的に機能する。さらに、デンマークのフレキシキュリティ(柔軟な労働市場と手厚い社会保障の組み合わせ)に見られるように、貿易調整支援と積極的労働市場政策が不可欠である。この文章の提案は、関税を「唯一の解」ではなく、多層的政策パッケージの一要素として位置づけるものである。

 以上の利点と課題を踏まえてもなお、日本は自国民優先型福祉国家への道を進むべきである。完全自由貿易体制への依存は、社会的安定を損なうリスクが大きい。自国経済だけでの完結は不可能だが、恒常的な貿易黒字を持つ労働集約型産業国への関税政策は、福祉国家維持の重要な補完策である。この文章は、政策的方向性を提示し、今後の制度設計における具体的検討課題を示すことを目的とする。今後、日本が自国民優先型福祉国家としての道を進むならば、短期的な産業保護だけでなく、教育投資を通じた人材育成と産業高度化を並行して進めることが不可欠である。この方針により、社会的安定と国際競争力の両立が可能となる。

 最後に、自国民優先型福祉国家への移行戦略を提示する。急進的な政策転換は経済的混乱と国際的摩擦を招くため、段階的なアプローチが望ましい。

 第一段階(短期、1-3年)では、既存の制度的枠組みの活用に焦点を当てる。具体的には、WTOセーフガード条項に基づく一時的関税の検討、移転価格税制の強化による多国籍企業の租税回避への対処、出国税の適用範囲拡大による資本・人材流出の抑制である。同時に、教育・職業訓練への投資を開始し、将来の産業高度化の基盤を構築する。

 第二段階(中期、3-7年)では、制度的改革を本格化する。二元的所得税の導入検討、課税ベース拡大による実効税率の維持、東アジア諸国との税制協調の模索を進める。産業政策としては、戦略的分野(AI、ロボティクス、再生可能エネルギー等)への集中投資と、衰退産業からの労働者移転支援を実施する。関税政策については、透明で客観的な基準に基づき、労働集約型産業の一部に限定的に適用し、その効果を慎重に評価する。

 第三段階(長期、7-15年)では、持続可能な制度への定着を図る。高付加価値経済への完全移行、人的資本に基づく安定的な税基盤の確立、社会的安定と国際競争力の両立を目指す。関税については、産業の高度化に応じて段階的に見直し、永続的な保護主義への固定化を避ける。

 この移行プロセスにおいて、継続的な政策評価が不可欠である。関税政策の効果を定量的に測定し、意図せざる結果(消費者負担の増加、報復関税の影響等)を監視する。ランダム化比較試験や自然実験の手法を活用し、政策の因果効果を厳密に評価する。この政策の成功は、第一に製造業雇用の安定化、第二に地域間格差の縮小、第三に実質賃金の上昇、第四に財政収支の改善、第五に社会的安定度(犯罪率、幸福度等)の向上という指標で評価されるべきである。

 自国民優先型福祉国家は、孤立主義や排外主義ではなく、グローバル化の利益を享受しつつ、その社会的コストを適切に管理する戦略である。完全な自由貿易でも完全な保護主義でもない、現実的な第三の道として、日本の持続可能な発展に貢献しうる。


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