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九話 ぺっぺっちーんの夜明け。

 夜明けと朝焼け……似てるけど違うんですってよ。ニュアンスがね。朝焼けだと『景色』になるっぽい。夜明けだと『時間帯』かなぁ。『変化』とも捉えられますね。




 この日、後の時代に『悪夢の始まり』とも『大乙女時代を告げる号砲』とも称される大事件が起きた。

 

 その黒幕、いや、諸悪の根源は間違いなく『安倍家』の者だった。


 そして事件の始まり……事の起こりは意外にもメルヘンなものであったという。


「うふふふふ。みんな用意は良いかしら?」


「「あいあいさー!」」


「それじゃ……全軍進軍せよ!」


「「あいあーい!」」


 ぬいぐるみ達の大行進である。


 それは猫……のように見えなくもないぬいぐるみであったり犬っぽいペンギンだったり市販の熊だったりした。


 どれも小型ではあるが、無数のぬいぐるみ達である。その数、凡そ……六百体以上。


 安倍家の家から真理亜の学校との間で、この大量のぬいぐるみ達による行進が見られる事になったのだ。


 この日は普通に土曜日。


 世間一般では普通に土曜日であり、普通に一般人に見られながらの普通……ではないぬいぐるみ達の大行進であった。メルヘンすぎて現実感が薄い。足音なんて『ぽてぽて』だし。通行人には手を振るし。


 道路を埋め尽くして進む、なんともメルヘンな行進が土曜の朝に現れたのだ。


 それは勿論ご近所で話題にならない訳がなく、ネットニュースに上がらない訳もなく、公的機関に情報が入ってくるのも当たり前な『ラブリーファンシーなぬいぐるみ達の大行進』であったのだ。


 当然政府は大慌てである。これには『妖怪大連合』と『ボイン課』、『ヤタガラス』まで駆り出される事態となった。上から下まで大混乱……というか大困惑である。


 政府も頭を抱える妖怪事案。それが土曜日の朝、住宅街からボインの学校に渡る広範囲で確認されてしまったのだ。


『なにしてんの? ねぇ、マジでなにしてんの?』


 偉い人も普通にびっくりである。


 この重大事態を引き起こしたのが『先代安倍家当主』である『安倍悠里』とその夫『権蔵』


 そして……『目玉のパッパ』


 後世ではこの三人が引き起こした大事件とされている。戦犯として厳重に処分されたとも。


 パッパは完全に巻き込まれた形になってるけど自業自得だと思う。だってねぇ? 脇の下つるつるなんだもん。




 ◇



 座敷わらしと大正ボインに挟まれて現在進行形で修羅場を体験している夏色ガールに場面は戻る。


 甘味処『スイートハート』に美少女が三人。仲良く手を繋いでいる。そんな場面である。


 一人は笑顔で、一人は般若。真ん中は……なんだろう。嬉しく無さそうなのでやっぱりホモなのだろうか。


 休憩室で突如始まった女の戦い……『尻戦争』。


 ボインの尻か、それとも座敷わらしの尻なのか。


 どっちを叩くんだいっ!


 ボインなのかいっ!


 ボインじゃないのかいっ!


 どっちなんだいっ!


 という運命の決断に迫られて現実から逃げ出した夏色ガール純情派。


 彼女は人の目のあるところに急いで逃げ出したのだ。


 二人の女の子にお尻を突き出されながらも『お尻ぺんぺーん!』せずに甘味処『スイートハート』に逃げてきた形になる夏色ガール純情派。彼女……彼? まぁどっちでもいっか。


 渦中の変態は女中さん達のいる不思議な空間でも気にせずに甘えてくる座敷わらしと……ボインで挟んでくる大正ロマンボインに挟まれ、天国を味わっていた。


 羨ましいっ! 実に羨ましいっ!


 ボインに埋まるその腕!


 切り落として寄越せ! むしろ僕がその腕になる!


 右手の座敷わらしはどうでもいいけど、その左手のボイン!


 なぜ貴様がそんな功徳を得るのだ! 人の世に混沌をもたらす変態の分際で!


 許せぬ! 絶対に許せぬぞ!


 というわけで変態の処刑が確定したところで話に戻る。


 急に甘えるようになった座敷わらしと、急に挟んでくるようになったボインに困惑する夏色ガール。


 まさかこうなるとは思わなかった夏色ガールである。人目のあるところに逃げたのは失敗だったのか。君ら、人の目も少しは気にしたまえよ。そんな思いで渋面を見せる夏色ガールである。


 ここは甘味処『スイートハート』。客も沢山いる超人気店……休憩室から帰ってきても依然として満員御礼状態なのだ。


 その衆人環視の前で二人の女の子に愛される夏色ガール。


 それは控えめに言って……『尊い』光景であったという。男も女も『ほぅ……』とため息をついてしまう……そんな美少女三人組によるエロくないラブラブ劇場が甘味処『スイートハート』で展開されていた。


 美少女を挟んで美少女が美少女の取り合いをしている。それは見てる人全てがすぐに気付いた。なんせボインが般若ですからな。


 でも美少女三人だから平和だね。目の保養だね。


 男達は、そう思う。真理亜のクラスの男子も大体そんな感じ。拝むやつも出る始末。考えるのを止めた男達の姿がそこにあった。


 女中さん達はある程度内情を知っているので『なんて三角関係なの!? ぶふー!』と大興奮である。


 男を巡って男と女が争っている。彼女達にはそういう風に見えるのだろう。


 しかし美少女達の本当の関係……『真実』は大きく異なるのだ。


 二人の女の子に愛されている夏色ガールの正体は『男』である。ここまでは知ってるものもいる。しかし彼が七人の妻を持つ外道である事を知っているものは学生達にもいない。


 この妻七人のうちの六人の手によって彼は夏色金髪ガールに女装させられた。


 見事なまでの美少女に変貌したハゲの変態である。まさに『男の娘』で『夏色金髪ガール』である。もう女の子として生きちゃいなよ。そんな事も妻から言われた悲しきハゲ。しかしながら、それでも彼の本質は『男』なのだ。


 女の子とラブラブしてイチャイチャしてムフフしたい。出来ればみんなと仲良くね。ぐふふ。


 思春期の男の子ならば当然持って然るべき感情である。むしろ無いと異常だ。


 そんな『男』の本性を持つ夏色ガール純情派である。可愛い座敷わらしと美少女ボインに挟まれて嬉しくないはずがない。


 しかし例外は何処にでもあるものなのだ。


 夏色ガール純情派……こいつの本性を確かに『男』であるが、なんと『ハーレム否定派』だったのだ。男としてそれはどうかと思うがそれも変態故なのか。


 ボインに腕を挟まれているのに冷や汗を垂らす夏色ガール。やはりお前はホモなのか。ホモなんだな? ホモー!


 そう叫びたくなるのを堪えて話を進めるとしよう。


 ボインと乳無し座敷わらしに腕を取られる夏色ガール。両手に花。両手に美少女。しかしギャラリーから嫉妬の視線はあまりない。真ん中の夏色ガールも美少女なのだから。


 でも『実は男』ということがバレたらどうなるんだろう。


 甘味処『スイートハート』はお客さんで一杯だ。その客層の十割が男性だ。


 つまり……ヤバくね?


 夏色ガールは冷や汗が止まらない。出る側から座敷わらしに吸われていく夏色ガールの冷や汗。地味な妖怪パゥワーであるが、その変態性はピカイチだ。止めろ、こっそり舐め取るな。マジで止めろ。ボインも物欲しそうな顔しとるからマジで止めろ。


 これは不味い。本格的な危機的状況だ。そして彼……彼女を助けてくれる存在はこの場にいない。


 女中さん達は鼻息荒く、ぶふー! である。


 夏色ガールの決断は早かった。


「まーちゃんを借ります! 他のクラスの出し物を見てきますねー! れっつごー!」


 両手に花。この状況で前に進むことを選んだ夏色ガール。


 ボインと座敷わらしを引き連れた彼女の本当の試練は、こうして始まることになったのだ。


 その背後にストーキングする『ボイン親衛隊』を引き連れてね。



 ◇



 そして美少女三人組が消えた甘味処『スイートハート』であるが……客がごっそり居なくなる、なんて事は無かった。


 女中さんが給仕してくれる。


 それだけでも男達は嬉しいのだ。


 で、この眼鏡達はと言うと。


「叔父さん……なんで血の涙を流してるんですか」


「くぅ……いずれ貴史にも分かるようになる……くそぅ……なんであんなに可愛いんだよ! 目玉のパッパの癖によぉ! つーかどっちがパッパなんだよ! 分からねぇよ!」


 ボインが好きでボインの為に魔界にも行った男は泣いていた。血涙である。


 それだけ夏色金髪ガールと黒髪ロング座敷わらしは可愛かったのだ。


 夏色ガールが『パッパ』ならば脇の下に魅了された彼の負け。


 座敷わらしが『パッパ』ならばその笑顔で癒されてしまった彼の負け。


 どのみち負け戦なのである。


 でも彼には『男』としてのプライド、矜持がある。


 いや、あったというべきか。


「……ふっ。パッパ様は……おいたが過ぎますなぁ」


 魔王城サバイバーである男は早々に吹っ切れた。早い降参である。


「叔父さん!? 戻ってきて叔父さーん! 多分そこは行ってはいけない所だよー!」


 こうして『パッパ様を見守る会』は生まれた。一人の男の血涙から生まれたのだ。悪名高い『パッパ会』は。


 この先、多くの男の子から血涙を搾り取る事になる『血の組織』、その始まりは……やはり血によって始まったのである。


 世界に多くの『性癖捻れちゃった系男子』を生み出すことになる『パッパ会』である。


 生まれたての、この時点で壊滅させておけば……。


 政府のお偉方はまだ『鈴木中作』という存在を甘く見ていた。政府から独立している『不思議機関』がこの男を『世界的な危険因子』としたのは『フルティンダンス』が原因では無いのだ。


 始まりは確かに『妖刀』だったが、実はこいつが一番ヤバイと見抜けたのは『不思議組織』である『監視者』だけなのだ。


 こいつが持っている妖刀が問題なのではない。


 その妖刀と一緒に暮らす。暮らせる世界を守るために彼は世界に立ち向かった。そして世界を変えたのだ。世界そのものを。


 その力の原動力は……『真の愛』


 ハゲのくせに生意気だが、それは確かに本気で一途な想いであり、確かに世界を変えたのだ。


 しかし……しかしである。


 奴の本気はあまりにも危険すぎたのだ。世界を呑み込む嵐となるほどに。


 ま、この時点でもう手遅れなんだけどさ。なんだ『パッパ会』って。真面目にやろうとしても無理があるよ。


 

 こうして『パッパ様』に堕ちた一人の眼鏡男により、事態はより混迷を極めていく。


 果たして一信者である自分が『パッパ様』の邪魔をして良いのだろうか? というか課長が側にいるやん。密着監視してるやーん。ということで。


「あんみつ下さい」


 仕事放棄、いや、遠距離からの監視に切り替えたのだ。現実逃避とも言うが、そうしないと心が壊れる気がしたので緊急避難である。


「あ、叔父さんが戻った。なら俺は……最中を追加で」


「畏まりました……あの、会長? いつまでもここにいると副会長に怒られますよ?」


「……最中を食べたら出頭するよ」


 世界に平和が戻ってきた。それは偽りの平和かもしれない。でもそれが平和というものなのだ。


 眼鏡の男……後に『パッパ会』の『大司教』になる『ボイン課』の男は『女の子の女中さん』に癒されていた。心の傷は簡単には治らない。しばらく女中さんを楽しむことにした眼鏡である。


 なお、生徒会長である『メガネ』も後に『パッパ会』の『司祭』にまで実力で登り詰めるので……大丈夫なのかな、この一族。


 

 ◇



 一方その頃。


「遅い! 遅いわよ!」


「えっほ! えっほ!」


「んっしょ! んっしょ!」


 ここ住宅街の道路である。土曜の朝の住宅街。辺りには多くの足音が鳴り響く。『ぽてぽて』というファンシーな音が。


「……まぁぬいぐるみであるからな。歩みは遅かろう」


「まーこの学校に着くまで……結構掛かるなぁ、これ」


 ぬいぐるみ大行進はまったりと進んでいた。


 パッパ会はノリで生まれました。これのせいで後々大変な事になります。プロット台無しとかね。

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