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八話 メガネんズ。

 メガネーズと迷った。





 真理亜の学校、その学園祭初日。この日は招待客と学生の家族だけが入れる特別な学園祭。


 この男もまた知り合いを招待した一人である。


「大きくなったなぁ貴史。実際に会うのは一年振りかぁ」


「叔父さんは……なんか白髪が増えましたね。なにかあったんですか?」


 眼鏡の男が二人。甘味処『スイートハート』で汁粉を啜る。無論、共に横目で女中さんを見ながらだ。


 一人はこの学校の生徒会長である『メガネ』であり、もう一人は『ボイン課』に勤める彼の叔父である。汁粉を啜っているのに、どちらの眼鏡も曇っていない。流石『ボイン課』の職員と言うべきか。


 『メガネ』の一族は代々国家公務員を輩出してきたインテリの家系である。陰陽師のような特別な家ではないが、一族揃ってインテリ派という優秀な血族であった。


「……ちょっと京都でな。駅前にある『紅く嗤う』って名前のホテルには絶対に近付くな。詳しくは言えんが本当に近付くなよ」


「……ネットのニュースはガチですか」


 叔父の真剣な表情に『メガネ』は少し怯んだ。彼も『ボイン課』の職員を目指すおっぱい星人である。彼の一族は代々がおっぱい星人。勿論叔父もおっぱい星人だ。しかし配偶者に中々恵まれず一族の血にボイン遺伝子は含まれていない。


 だからこそ一族総出でおっぱい星人なのか。無いからこそ彼らは求めてしまうのか。


 まぁどうでもいいけど。


「いやぁ、今回学園祭に招待してくれて助かったよ。急に監視任務が入ってさ。不法侵入とか遠方からの監視って大変なんだよ」


「それ、話しても大丈夫なんですか? 守秘義務とか」


「あ、大丈夫大丈夫。今日のはそこまでヤバイ仕事じゃないから。どちらかと言うと日常業務に近いし。急遽入った任務だから協力者を募ることも許可されてる……というわけでだ」


「いや、俺には生徒会の仕事が……」


「貴史。大人にはそんな言い訳通用しないんだよ」


 叔父がやたらと軽かったのはそういうことだった。そして眼鏡の奥の瞳は全く笑ってない。『メガネ』は叔父に騙されたのだ。


 これが大人の汚さか。しかし大人には大人の苦しみがあるのだ。『メガネ』よ。



 この日、『ボイン課』に急な任務が申し付けられた。


 安倍真理亜の学校で不穏な動きがある。具体的には京都に発生した『魔王城』の父親……コードネーム『目玉のパッパ』が安倍真理亜と接触するらしい。


 京都で起きた事例を鑑みるに監視は必須。今回妖異は関わらない見込みであるが、それでも何が起きるか分からない。


 秘密メイド組織『キキーモラちゃんズ』からの情報では『騒ぎにならないように変装させて送り出した』とのことである。


 そこは止めるとかさ、いや、一応普通の高校生として日々を過ごしてるようなので止められないのも分かるんだけどさ?


 目玉のパッパだよ?


 今度は何を仕出かすのか震えが止まらないんだよ?


 本来ならこの仕事は『キキーモラちゃんズ』の仕事である。というか『目玉のパッパ』は『キキーモラちゃんズ』の担当である。専任にして専用。彼女らにしか『目玉のパッパ』に対応できない。そんな常識が既に政府全体で認識されている。


 しかし何かイレギュラーが起きたようで『キキーモラちゃんズ』は全員が動けないと連絡があったのだ。


 そして『ボイン課』に仕事が回ってきた。


 一応課長がこの学校の生徒でもあるので……まぁ何とかして監視してくれ。


 そんな無茶ぶりを『ボイン課』職員は受けたのである。


 まーじで?


 魔王城の探索で心を病んだ者達がようやく職場に復帰した直後の無茶ぶりである。


 妖怪職員も人間職員も抱き合って泣き出す事態となった。


 なので『メガネ』の叔父である『ボイン課』職員の男は……つまりはこういうことだったのだ。


 お前に任せた! 骨は拾う。労災も出す。休日手当もな! サポートは任せろ! でも前に出るのはお前ね。確か親戚がそこの生徒だったよね。学園祭に行くとか自慢してたよね? 課長の写真も撮ってこーい! あ、カメラは経費で買ってあるからよろしくね。


 そんなわけである。


 なので本来ならこの男、この日は『オフ』だった。本当にお休みの日だったのだ。甥っ子に会うという口実もちゃんとあった。


 ついでに課長の学生姿もウォッチング!


 口実は口実として、うはうはのノリノリだったのだ。昨日までは。


 それが今日になり急遽任務が入った。


 天国から地獄。まさにこれ。


 彼も『魔王城探索』に駆り出された一人である。妖異の恐ろしさをこれでもかと経験した『サバイバー』でもあるのだ。


 その彼をして、この学園祭……嫌な気配を感じていた。


「なぁ、貴史。この学校にも七不思議ってあるよな? 実際にヤバかったりするのか?」


 叔父は甥っ子に問い掛けた。急に出てきた変な質問に訝しげな『メガネ』であるが一応答えていた。


「七不思議は……あるにはあるけど特に実害は起きてないなぁ。なんで?」


「……いや、ちょっと応援の要請しとくわ」


「だからなんで!?」


 甥っ子の必死な突っ込みに彼は思う。


『あぁ、自分もかつては、こうだった』


 魔王城で目玉と仲良しになった彼に普通の人生はもう送れない。


 まぁどうでもいいけど。


 問題はこっち。


『あの目玉達とは違う妖異の気配がある。この学校の至るところに』


 そんなことまで分かるようになってしまった『ボイン課』の男である。もう普通の人生は無理だろう。


 わたわたと動き回る女中さんの姿を見やる姿は死地に向かう兵士のそれ。


 最期に良いものが見れた。現役女子高校生の生女中姿である。これから監視するのは『ホモでハゲで婆専で足裏フェチの変態』だ。


 恐らく課長と共にいるのだろうが……プラスとマイナス……マイナスが大きすぎる。きっと今日もハゲなのだろう。

 

 出来ることならハゲフラッシュを避けて課長だけを写真に撮りたいが……とそこまで考えていた男に雷が落ちた。まさに青天の霹靂である。


「ただいまー」


「あ、お帰りー! 両手に花だねー」


「あははは……うん」


 甘味処『スイートハート』に天使達が舞い降りた。


 金髪の美少女天使が現世に降りてきたのである。それも露出がすこぶる高い夏色の女の子という天使が。ノースリーブの白いシャツにデニムの短パンというアクティブな姿。生足が丸出しだ。


 エロい。でもエロくない。健康的な美しさ。彼女からはそんなものがあふれ出ていた。


 胸は小さい。だが、それが良い。


 おっぱい星人である彼をして、彼女におっぱい(大パイ)は似合わないと思わせた。彼女には『ちっパイ』こそが正義なのだと。そう思わせるほどの夏色美少女である。健康的で夏の避暑地に麦ワラ帽子が似合いそう……彼は思わずその幻視を見た。


『あんたバカ?』


 いや、そう言われたい。マジで。


 そんな美少女が両手に更なる美少女を連れて教室に入ってきたのだ。


 夏色美少女の右手をしかと握るのは黒髪ロングの和服美少女である。見るものが一目で分かるほどに美少女は幸せな顔をしていた。


 にっこにこである。


 それはもう幸せ百パーセントの笑顔である。


 どんな悪人もこの笑顔の前では悪事を働くことが出来ない。


 それほどまでに無邪気で純粋な『幸福』を滲ませていた。


 和服という珍しい格好であるが、髪形とよく似合っていた。いや、そんなことなどどうでもよいと思ってしまうほどに少女は幸せそうなのだ。


 だがしかし。


 だがしかしである。


 そんな幸せオーラが溢れる夏色美少女の右手側とは、うってかわって左側。


 そこには邪悪なオーラが立ち上る。


 魔王城の『サバイバー』である彼だからこそ、それが見えていた。


 夏色美少女の左手を握るのは笑顔でありながら決して笑ってない般若のような顔をしたボインで…………あ、課長だ。


「へい、貴史。あれ、どゆこと?」


 インテリも思わず片言になる。そんな般若がそこにいた。『くかかかかかか!』そんな幻聴も聞こえてきた。いや、なにその笑いかた。


「いや、俺にも分からないけど……彼女達は安倍さんの友達らしい。他校の生徒なんだけどさ」


「………………あ、本部ですか? ちょっと応援たのんます。多分ヤバイ事が起きてます。京都の二の舞って言えばヤバさが伝わりますかね。何が起きてるのか分かりませんが……ヤバイ事になってるのは分かります。そんな状況ナウ」


 こうして朝の十時半。


 政府直属対妖怪組織『ヤタガラス』は動き出す。



 

 ◇


 

 政府直属対妖怪組織『ヤタガラス』


 対妖怪と謳いながら妖怪も構成員となっている超法規組織である。しかし新設された事もあってか、事務員の配置すらもままならない看板組織というのが『ヤタガラス』の実情である。


 この日は土曜日であり休日である。シフトを組んで常時人員配置できるほどの人員も無く、この日も休日出勤を強制された悲しき天狗の女が小さな事務所で一人、電話番をしていた。


 この女、メタな話になるが外伝に出てきた天狗の女である。江別まきびの相棒として行動していた真面目な妖怪の天狗となる。


 天狗とはいえ鼻が長いわけでもないし、顔が紅いわけでもない。人間と同じ外見だ。だが妖怪であることは間違いない。


 休日出勤で嫌々事務所に詰めている彼女は現在スマホで動画を楽しんでいる真っ最中である。彼女の名誉の為にも何を見ているのかは断言せずにおこう。わりとアウトな動画なので。


 朝から見るのはどうかと思われる動画を鼻血を垂らして見る女。


 小さな事務所に一人動画鑑賞する変態がいるが、間違いなくここが『政府直属対妖怪組織ヤタガラス』の事務所なのである。


「うへへへへ」


 そんな呟きも聞こえてくるが、事務所にいるのは一人だけ。これが人間ならば問題になるだろうが、彼女は妖怪である。


 たとえ妖怪でも不真面目な勤務態度に見えるだろうがヤタガラスはまだ人員が圧倒的に足りていない状況である。


 政府直属ということで政府から独立している『不思議機関』からのリクルートは不可。むしろ癒着に繋がるとして禁止。そんな状態なので日本各地に散らばるUMA、一匹狼の妖怪、謎生物、なんかすごい人を片っ端からスカウトしているヤタガラスである。


 基本的に事務所は空。日本各地に職員が人材確保の旅に出ているのだ。


 それは幼児の……いや、動画を楽しんでいる天狗の女も同様で、二十日連続勤務の翌日が丁度この日だったのだ。少しの羽目外しは大目に見てあげてほしい。


 超法規組織は伊達ではない。労働基準法をぶっちぎりである。


 まだ仕事らしい仕事もないのだが、とにかく人員が足りないのだ。そして物も。


 やっと事務所に電話が置けるようになったが……なんとそれも黒電話である。ダイヤル式の骨董品。

 

 政府直属とはいえ予算もまだ下りてないので事務所自体も中古のプレハブを間借りという始末。


 休日出勤でそんなところに詰めなくてはならない天狗女が犯罪すれすれ一発アウトな動画を見ていてもそれは仕方ない事なのだ。


 ヂリリリリン


 ヂリリリリン


 しかしその安息の時間は黒電話のけたたましい音によって破られる事になる。


 休日出勤で一人、如何わしい動画を見ていた時に掛かって来たエマージェンシーコール。


 女はマジで焦ったという。色々と。そう、色々と。


 そして鼻血を垂らしながらも全職員にスクランブルを掛けた天狗女。妖怪パゥワーによるテレパシーで職員に一括送信というアナログな力業である。なにせまだ『ヤタガラス』としてメルアドも所得できていないので。


 事務所にあるのは黒電話。メールなんて五十年は先の技術だ。


 もう個人の情報端末に頼ろうよ。


 数少ない職員達が一丸となり声を上げたが『国家の組織なので駄目! 情報管理大切!』と一蹴された。

 

 情報管理よりも早く事務所にクーラー付けてよ!


 そんな思いも天狗のテレパシーに乗ったがこうして『政府直属対妖怪組織ヤタガラス』は動き出すのであった。


 すぐに動ける職員は2名だけ。


 まぁ、日本各地に職員を派遣してたらそうなるよね。どっかのメイドは飛行機並の速度で移動できるけど、それはメイドが普通じゃないから出来ること。


 普通の妖怪は精々車と同じ速度で移動するのが限界である。


 かくして真理亜の学校に役者が揃うことになる。



 安倍晴明の子孫にして安倍の後継者。安倍真理亜。


 魔王城のパッパにしてハゲでホモで婆専で足裏フェチのド変態。鈴木中作。


 そのお供、座敷わらし。


 日本最強の陰陽師。江別まきび。


 江別まきびの式。曇天。


 そして安倍晴明の子孫にして先代の安倍の後継者。安倍悠里。

 

 その夫、権蔵。



 後に『ぺっぺっちーんの夜明け』と呼ばれる大事件の始まりであった。



 まきびちゃんは『まだ』日本最強の陰陽師ということになってます。実際、曇天さんが一緒にいるので間違ってはいません。ええ。言わば『表側』の最強ですね。


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