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四話 学園祭始まる。

 大正ロマン……良いよね。昔の人はモダンなガールをモガと言ったそうな。現代人とセンス自体は変わらんね。



『ここに学園祭の始まりを宣言する。…………野郎ども! 祭りの始まりだぁぁぁぁぁ!』



 祭りが始まった。真理亜の学校の学園祭がここに開幕したのである。


 全校放送で開会の言葉を述べたのはこの学校の生徒会長である『メガネ』である。


 彼の無駄に熱い開幕宣言は学校全体を震わせた。追従する男子の雄叫びで学校の窓が震えるほどの熱気である。


 それを女子達は冷めた目で見つめる。ボインの女神であるこの人もそんな感じであった。


 ボインの女神、安倍真理亜。今日の衣装は、なんと『女中さん』である。割烹着に近いがそれよりも日常使いの和服カスタムである。


 さて、『女中さん』とは言ったものの、ここでひとつ問題がある。


 和服に巨乳は似合わない。いや、似合わない訳ではない。ものすごくエロくなるだけで。


 構造上、巨乳に和服は無理なのだ。さらしで胸を潰すのが和服を着る際のセオリーである。


 そう、セオリーで潰すのだ。おっぱいを。


 なんたる拷問か。思わず震えてしまうほどの冒涜ではないか。


 ボインをわざわざ潰すなど万死に値する行いであるが、着物を綺麗に着るにはそうするしかない。それが文化なのだ。


 なので当然のように改造和服を着ることになったボインの女神。彼女の衣装は『女中さん』というよりは『大正の女学生』といった感じになっていた。上下一体の着物ではなく袴と上衣に分かれた衣装で……言うなればハイカラ大正ロマンである。


 彼女のクラスの出し物は和菓子を提供する喫茶店。


 甘味処『スイートハート』である。


 他の女子はみんな『女中さん』風の衣装で統一される、まさに和の雰囲気の店となる。


 それは良い。良いのだ。


 真理亜のクラスの男子は女子の衣装を全て手縫いで用意するという暴挙に出て見事に燃え尽きた。なので男子全員がジャージという手抜き衣装になっているが、それも良いのだ。


 問題はボインである。


 ただ一人、大正ロマンのハイカラ真理亜。ちゃんとブーツまで用意されてて『これ、最初からこの予定だったのでは?』と女子達は思っている。だが口に出すのは別の事。


『やべぇ。超似合ってる』


 清楚系黒髪ロングのボインちゃん。大正ロマンとの相性が良すぎたのである。


 袴でブーツで大正ロマンである。頭のリボンも似合ってる。ボインは元からボインでボイン。


 学園祭が開幕する前から女子も男子も『大正ロマンでボインボイン』の写真撮影会で大忙しになったのだ。


 撮影会が落ち着いた所で、ようやく『メガネ』による開幕宣言が全校に流れたのである。


 既に一仕事終えた感のある甘味処『スイートハート』


 しかし祭りはここからが始まりだ。


 

 さて、いつもの真理亜であれば学園祭とはいえ『大正ロマンでボインボイン』な格好をする事は決してない。彼女はコスプレ好きではないのだ。むしろ地味な服を好む日陰系女子である。


 では何故か。


 何故彼女はハイカラボインと化したのか。


「……負けません。この格好ならばあの人にも……」


 一人闘志を燃やすハイカラボイン。


 彼女にも女としての意地がある。そして気になる男に自分の晴れ姿を見て欲しいと思う一人の女の子なのだ。


 まぁ、男というか……ペッペッチーンなんだけども。


 ということで今回の『地の文パーソナリティー』担当は僕になりましたー。みんなー。おっぱいは大切にしないとダメだよー。


 さらし、ダメ。絶対!


 イエス、丸出し! レッツポロリ!


 でも『地の文パーソナリティー』は真面目にやらないと怒られるので、おっぱいは封印するねー。


 ……見えないのも……またよし!



 そんなわけでボインである。


 ボインの女神である安倍真理亜は密かに闘志を燃やしていた。女としての闘志である。


 彼女の闘志の向かう先……それは女将である。京都の老舗旅館『葛の葉』の女将が彼女の対抗相手であった。


 何故に?


 そう思われるだろう。


 これには深い理由があった。


 いや、実は大して深くもないけど、そういうことにしておいた方が良いかなぁと思ってる。


 真理亜も老舗旅館『葛の葉』の常連客なのだ。彼女は月に一度は必ず女将と顔を合わせている。なんやかんやで京都に出張しないといけない『ボイン課』の課長、真理亜である。


 魔王城対策や妖怪運用に対する会議などで大忙しなのだ。


 流石に学生で日帰りはキツい。土日の連休で泊まるのが常となる。わりと顔馴染みというか、安倍家が京都に泊まる際、代々お世話になってる旅館が『葛の葉』でもあるのだ。


 今の女将が『葛の葉』の女将になってからまだ十年も経っていない。それ以前から安倍家は『葛の葉』の常連である。


 なので真理亜も子供の頃から今の女将と顔見知りの関係となる。


 あくまで客と女将の関係ではあるが、良好な関係と言えるだろう。


 そんなわけで真理亜は先日も京都に行き、そこで彼女は知ったのである。


『女将さん……産む気だ!』


 何を?


 そんな初歩的な疑問もすっ飛ばして真理亜は『ぴきーん!』と来た。女将の余裕ある態度と仄かに香る『女』の色気。そして滲み出る『捕食者』の気配で。


 相手はきっとあの人だ!


 だって手紙にも書いてあったもん! 今度食べられに行ってきますって書いてあったもん! 女将さんのことも幸せにするって書いてあったもーん! ぶふー!


 真理亜は思った。


 それなんて破廉恥?


 ダメです! まだ学生なんですよ! 学生なのですから清く正しい交際をするのが学生というものなのです!


 ……学生同士とかで。


 きゃー!


 きゃー!


 恥ずかしいですー!


 きゃー!


 んごふぅ!?


 最近の真理亜は夜に悶える事が多くなった。そしてベッドの脚に頭をぶつけるのだ。


 明らかに恋する乙女……喪女予備軍である。


 ボインの女神とはいえ彼女は十六才の女の子。恋に恋する乙女であり、また重度の妄想女子であることを忘れてはならない。


 彼女は『ボイン課』の課長という重責を背負いながらも健気に頑張る女の子なのだ。


 少しの妄想や暴走は許されても良いだろう。


 その類い稀なるボインによって『男嫌い』になってしまった悲しきボインが一人の女の子として恋愛をしているのだ。


 相手はペッペッチーンなんだけども。


 ハゲでホモで婆専で足裏フェチというド変態だけど、好きになってしまったら関係無いのだ。


 最終的に洗脳して性癖を矯正すればいいし。


 そんな事まで考えているボインの女神である。


 やはり血は争えないのか。発想が怖すぎる。


 大正ロマンでボインの真理亜は今回の学園祭で勇気を出した……男嫌いのボインが未来に向けて一歩踏み出したのだ。


 この日の学園祭は招待客と学生の家族のみが校内に入れる学園祭初日となる。


 彼女の予定ではこの日、家族とスリッパ、ヤカンと共にペッペッチーンに謝罪するつもりでいる。


 過日、父と母が起こしたペッペッチーン襲撃事件の詫びである。事件に協力したヤカンとスリッパも同罪として真理亜は謝らせるつもりであったのだ。


 そのついでというか、なんというか。


 真理亜はペッペッチーンと一緒に『学園祭デート』をすることも画策していた。デートである。デート。


 本来なら『男嫌い』である真理亜がそんなことを考えるのは異例中の異例である。


 そこには勿論理由がある。やっぱり深くもない理由が。


 恋に恋する喪女予備軍でもある真理亜がそこまで踏み込む訳。踏み込める訳。


『惚れてるから』


 そんな脳ミソお花畑な理由では勿論ない。


 それに気付いている者は極少数。真理亜の関係者でも一人か二人。


 ペッペッチーンハーレムの中では『鬼婆』くらいだろう。


 真理亜とペッペッチーン……この二人は似ている。とてもよく似ている二人なのだ。


 いや、実際問題として全く似ていないが、その『本質的な有り様』はとても似ているのである。


 だからこそ二人は互いに惹かれあう。



 片やボインの女神として多くの人に崇められる人気者。


 片や『オールラウンダー』として多くの者に忌み嫌われるもの。



 彼らは陰と陽なのだ。


 彼らは互いに分かっている。恐らく会ってすぐに理解したはずだ。直感で悟っただろう。



 この人は私の『陰』だ。


 この人は僕の『あり得なかった未来』だ。


 

 狐の面を被った狩衣の乙女とターバンを頭に巻いた少年。


 運命の邂逅を果たした二人の若者は変なところで通じあったのだ。多分ね。うん。メイビー。そうだったら良いよねー。


 まーちゃんは多分、分かってないなー。この分だと普通に惚れてそう。恋に恋する乙女って面倒なんだよねー。だから喪女予備軍なのさ。


 ハゲの方は分かってるはず。確認したから間違いない。


 これ以上のハーレムは本当に無理。死ぬ。過労死で逝く。


 そんな泣き言を掲示板に漏らしていたので大丈夫だろう。


 ハーレムというか……『サーバント』では? そんな風にも思ったが現実とは得てしてそういうものだ。羨ましくはないかなぁ。ボイン率も低いし。


 ま、どうでもいいや。どうせハゲだし。


 そんなことより真理亜である。彼女が珍しく『異性』相手に積極的になってる理由、それはこうである。


 

 ボインの女神は『恋に恋している』



 ペッペッチーンに恋する自分。そんな自分に興奮している妄想女子なのである。ぶっちゃけるとねー。



 それでも良いのだ。初恋は実らない。初恋は実を付けるのではなく、心を耕すものなのだ。だから良いのだ。ボインの女神は初恋を糧にして『少女』から『女』に変わるのだ。


 それが正しい恋愛なのだ。ハゲは肥やしになる運命だったのだよ。


 最初はそう思っていた。本当にね。


 あのハゲ。マジで何してくれてんの?



「あ、まーちゃんだ! 遊びに来たよー!」


「……え、誰?」


 それは朝イチで真理亜のクラスの甘味処にやって来た。


 それは元気いっぱいの夏色ガールだった。


 頭はストレートの金髪ロングヘアーで眼はブルー。ノースリーブのホワイトシャツとデニムの短パン、そして生足サンダルという元気一杯の夏色少女が真理亜の教室に入ってきたのだ。


 学園祭が開始して一番乗りの客がこの『夏色金髪ガール』だった。笑顔が眩しく丸出しの両腕と生足もこれまた白く輝いているように眩しい。にこにこと笑顔を絶やさない細身の美少女が開店直後の甘味処『スイートハート』にやって来たのである。


「……え、誰?」


 元々陰キャ属性を持っている真理亜はちょっと引いた。女の子が明るすぎて引いたのだ。


 真理亜のクラスの男子も女子もこの展開に戸惑うばかり。


 夏色美少女がフロアではなくテーブルで区切られた厨房エリアに居るボインの女神にわざわざ声を掛けてきた事から真理亜の知人であることは間違いない。


 あまりにも女神と親しげな夏色美少女である。それも見た目からして同年代。でも外人さんっぽい。眼が青いし金髪だし、眉毛も金色だ。つーかすげぇ可愛い。ボインの女神に手を振るその脇の下、エロッ!


 男子の多くが胸を『トゥクン』とさせた。


 しかし女神は困惑するばかりである。こんな知り合い居たかなぁと。


 なので聞いてみた。


「……あの。どちら様でしょうか?」


 直球だ。あまりにもストレートであった。


 そのど真ん中アタックを受けてなお、夏色美少女は笑顔を絶やさなかった。


「……鈴木ですよ?」


「あーっ!」


 まさかのピッチャー返し。


 ボインの女神。まるでホモのような叫びをクラスに響かせる事になったという。クラスのみんなは『ビクッ!』とした。


 うん。


 あーっ!


 だよねー。


 無駄毛の処理も完璧で裏声も女の子っぽいとかさ。しかもカラコン? 眉まで染めてさ?


 てめぇ、この野郎! 完全にペッペッチーンじゃねぇかよ! このハゲが!



 ぺっぺっちーん♪


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