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二話 真理亜ちゃんの日常。

 にわにわにわにわとりが……こけー!


 いや、二話ですので。お約束ですな。そういえば卵の値段が高いままっすねー。そしてまた『鳥インフル』の季節が……。ニワトリさんが……ニワトリさんがぁぁぁぁ!





 美少女であり、ボインでもあり、現役女子高生でもある安倍真理亜は悩んでいた。


 悩んでいたというか……病んでいた。


 なんと『恋患い』である。


 そんな噂が彼女の通う学校に、まことしやかに流れた。


 安倍真理亜が通う学校は所謂『進学校』というものである。文武両道を掲げ、学校自体のレベルも学区内でトップである。中作君の学校が『そこそこー』であるのに対し、真理亜の学校は『本気でやってんだよ! こっちはな!』という感じだろうか。


 なのでそこに通う生徒も中作君の学校の生徒達とは土台からして違っていた。


『安倍真理亜は男嫌い』


 これは真理亜の通う学校で周知の事実である。


『安倍真理亜はボインの女神』


 これも真理亜の通う学校で周知の事実である。


 安倍真理亜は男嫌いではあるが、男を見れば『ひゃっはー! きんた○潰して男の娘にしてやんよぉぉぉぉ!』と襲い掛かるアマゾネスではない。


 むしろ、おしとやかで奥ゆかしい和風美少女である。しかもボイン。



 性格、良し!


 顔、良し!


 スタイル、良し!


 頭脳、良し!


 家柄、良し!


 ボイン、サイコー!



 わりと非の打ち所の無い存在。それが『安倍真理亜』である。


 男嫌い?


 汚れなき乙女じゃないっすか! 最高ですぅ! 女神様ですぅ! 


 これが真理亜の学校に通う『男子』の意見となる。真理亜の通う学校は共学。ならば当然の事として女子もまた存在するのが共学である。


 乳はでかいけど悪い娘ではない。


 それが女子の意見となる。わりとシビアで辛辣だ。しかしそこに『いじめ』は存在しない。ボインの真理亜は中作君のような『ボッチ』にはなっていないのだ。


 男子生徒の中にも『げへへのへ。ボインちゃんの男嫌いを俺様が治してやんよぉ。ペッペッチーンとな!』なんて不埒な考えを持つ者は居ない。そんな低レベルの者達が来れる学校ではないのだ。


 いや、ペッペッチーンで『男嫌い』を治そうとする豪気な男子が居ないと言えるのか。


 まぁそんなことはどうでもいい。つまりは『安倍真理亜の通う学校の生徒達は、人としても出来た学生達』ということになる。


 頭脳明晰にして思慮深く、人の心を持った者達。


 中作君の学校の奴等とは雲泥の差である。いやいや、マジで。


 そんな素敵な生徒達の代表とも言えるのが生徒会だろうか。真理亜の学校にも生徒会はある。中作君の学校にも生徒会は……あった。過去形だ。


 ある日の放課後。とある生徒を襲い、そして返り討ちに遭った。そしたらみんな自宅通学になったそうな。メンタルの弱い奴等め。


 真理亜の学校の生徒会はそんなことなどしない立派な生徒会である。近々開かれる学園祭。これの準備や手配に追われて、てんてこ舞いの日々を送っているが、彼ら彼女らは非常に優秀であった。


 その優秀な生徒会を引っ張る首領。『生徒会長』と大体の学校で言うらしい。中作君の学校では『遠くからアーチェリーで撃ってきた卑怯者』と言う。普通に犯罪だよね。


 まぁそれはいいや。


 真理亜の学校の生徒会長……これは眼鏡を掛けた男子生徒であった。


 それはもう……『メガネ』と渾名が付けられて然るべき眼鏡男子である。インテリ特化に見えて、その肉体も人並み以上に鍛えているというハイブリット眼鏡である。脱ぐとすごい。


 そんな彼にはどうしても今回の学園祭を成功させたい理由があった。生徒会の男子メンバーも同様である。生徒会の半数は女子。なので男子一同に向けられる冷たい視線に尻が落ち着かないが、それでも彼らは止まらない。


 いやさ、止まれないのだ。


 無駄に高い知性と若さ溢れるバイタリティが彼らを加速させる。


『ミスコン』


 全てはこれの為に。


 いや、だって新入生ですっごいボインで美少女で清楚な女の子が入って来たんだよ? 男の子なら絶対にやるよね。


 自薦他薦は問わない。生徒会がごり押ししてこの企画はスタートした。在校生の女子からはものすごく冷たい視線を向けられたが、男子達の熱意はすごかった。


 生徒会長の『メガネ』は考えた。このイベントには女子の力もまた必要不可欠であると。今のままでは企画段階で失敗することが目に見えている。何せ『ボイン一強』である。


 他の女子達も参加できなければ学園祭のイベントとしても『不適合』である。それが分かるぐらいには『メガネ』も冷静だった。


 おっぱい星人でもある生徒会長『メガネ』はその知性をフルに活用して打開策を打ち出した。


『安倍真理亜は特別枠で』


 元よりボインを除外したのである。そして更に驚きの方針も打ち出した。


『ミスコンだけど男も出れるよ』


 これにより白けていた女子達が手のひら返しでヒートアップした。それはもうすごい熱意が生徒会女子メンバーにも生まれたのである。


 生徒会長『メガネ』


 彼も『ミスコン』に出ることが確定している生け贄の一人である。


 ビキニは駄目。レオタードも駄目。理由? 駄目な理由を示せだと? はみ出るだろうが!


 そんな戦いが安倍真理亜の学校、その生徒会室で行われている。熱い、ひたすらに熱い戦いである。


 季節も暑いのでとにかく暑い。いや、熱いのか。


 なまじ『ミスコン』と銘を打ってしまったから『ミス』であることが大前提になる。つまりは男子が参加する(させられる)場合には『女装』が確定なのだ。


 青春の暴走とはいえ、すさまじい迷走をしている今年の学園祭。一応このアホなイベントが開かれるのは学園祭三日間のうちの一日。在校生と招待客のみ参加出来る日である事が彼らに残っている最後の良心なのだろう。


 ここで『メガネ』の男気に敬意を表して補足説明しておく。

 

 なにも『メガネ』が女装癖のメガネ男子という訳ではない。彼は立派なおっぱい星人であり、いずれは国家公務員として『ボイン課』に勤めることを夢見る一人のボーイである。


 此度の『男も出れるよミスコンひゃっはー!』は彼の知性と思いやりの賜物なのだ。


 昨今では『男嫌い』というものに対して多少なりとも理解は広がってきたと言えるだろ。十分とは言えないが、昭和の感性からすると『だいぶマシ』となる。


 それは別に『男嫌い』に限った話でもない。性的なマイノリティに対して昔よりは寛容になってきた。それでもまだまだ不十分。


 色々なメディアで取り上げるようにはなったが、本当の意味で『真面目に捉えたもの』は無い。


 それが現在だ。


 しかし『そういう人達』は、いつの時代も一定数、必ず存在するものだ。


 生徒会長『メガネ』はそこに焦点を当てた。


 否定するのではない。かといって無理矢理に共感を押し付けるのも違う。


 なれば『同じ場所に立ってこそ』分かるものもあるだろう。


 必要なのは『理解』である。『知ること』である。その場として『ミスコン』を使うのはどうだろうか。同じ場所に立つことで初めて分かることがきっとあるはずだと。


 我らは学生である前に、一人の人間である。どんなものでも『学び』として経験しておくことは、これからの人生において決して無駄にはなるまい。


 おっぱい星人『メガネ』は、そう熱弁を奮い教師達を説得した。


 やりたいことは『女装ありのアホなミスコン』である。しかし『正当な理由』というものに、なにかと弱いのが日本人。


 理路整然と『女装コンテスト』の目的を熱く語る『メガネ』に進学校の教師達も折れたのだ。


 アホである。


 生徒もアホなら教師もアホである。


 教師の半分も『男』である。つまりはそういう事なのだ。


 アホである。やっぱりアホである。


 この『ミスコン』は企画の段階から、優勝者に特別な衣装を着てもらう事になっている。


 つまりはそういう事なのだ。アホすぎるっての。


 さて、それと冒頭の『真理亜ちゃん、恋患い!?』がどう繋がるのか。


 真理亜の学校の男子はこう思ったという。



 女神を射止めた『男』がいるらしい。


 どうやら和歌で恋文を送るような雅な野郎っぽい。


 三日ごとに短冊の文が送られて来るそうな。


 真理亜様も三日ごとに返事を書いているそうな。それも楽しげに。


 ………………。


 殺ろう。


 うん、殺っちまおう。


 学園祭に呼びつけて殺ってしまおうか。


 

 中々に素敵な発想であるが、真理亜はみんなの『女神様』なのでそれも当然の流れと言えた。


 翻って女子達の反応はどうなのか。



 和歌で恋文を送るとか素敵ねー。


 三日に一度は送られて来るとか……ちょっと引くわー。


 でも返事を書くのは楽しそうね。え? 和歌の相手とは別の人と文通してるの? え? 和歌は毎日来るの? 手紙は三日ごと? マジで?


 どゆこと?


 ……え、そゆこと?


 …………マジかっ!?


 女の子達はヒートアップした。ボインの女神が二股かけてますわん! と。



 学校の休み時間を利用して『鈴木中作』宛のお手紙を書いている真理亜である。それは当然の事としてクラスメイトにも知られる事になった。


 手紙自体を覗き見るような者はいないが、書いている所をみんなが見ているし、なんなら質問すれば、ある程度は真理亜も答えていた。文通相手の事や和歌の恋文を貰っていることなども。


 彼女としても『特別な』手紙という認識は無い。色気は全く無いのだ。日々の愚痴を綴った何気ない日常を書いただけの『お手紙』である。


 手紙とはいえ『日常報告レポート』が一番しっくり来るニュアンスだろうか。


 だからこそ学校で書いているのだ。家で書くと妖怪達に邪魔されるのでそうなった。小さい頃の写真とか勝手に同封したりするので油断ならない。いや、そこは油断してほしいです。是非に。


 和歌による恋文が『鬼の書いた和歌』ということは流石にクラスメイトには話していないし、学校に現物を持ってきてはいない。だが恋文を貰っている事自体は真理亜も『特別な事ではない』と思っていた。


 ここに人生の勝ち組……『ボイン美少女』としての非常識が垣間見える。


 普通の人はそんなに貰わないのが『恋文』である。真理亜は幼き頃から貰いまくっていた。だからこそ、この騒動が起きてしまったとも言える……のかな?


 文通相手と恋文を送ってくる人が違う。しかし繋がってはいる。そんな不思議な関係性に女子達の興奮は収まらない。男子は文通相手と恋文を送っている存在が同一だと思い込んでいる。女子とは違い、踏み込んで聞き出せていないチキン野郎共ゆえに。


 進学校の男子とはいえ『和歌で恋文』は流石にハードルが高い。男としての格の違いを見せつけられた感じである。萎縮するのも仕方なし……なのかなぁ。


 なんにせよ和歌の恋文という珍しい『ラブレター』である。年頃の女の子達も興味津々でどんな和歌なのか真理亜に聞いたりもした。


 ラブレターの中身を他人に話すのってどうなんだろう。でも毎日送られて来るようなラブレターだから良いのかな?


 真理亜も『どうなのかなー?』と思いながらもクラスメイトに話していた。一応手紙で鬼本人から承諾を得た上である。鬼は……なんか自慢気だったので、耳の裏側にレモンの皮を擦り付けてやった。特に意味はない。

 

 鬼の感覚だと『へっへっへ。俺はこんなにも素晴らしい恋文が書けるんだぜベイベー。みんなも参考にしてくれて構わないんだぜ、ベイベー』みたいなノリらしい。


 うざいので無視したけど、すごく自慢気だった。


 そんなわけで鬼の書いた『恋文』は真理亜のクラスメイトも知ることになったのだが……普通に完成度の高い和歌なので『お相手は公家?』と思われたらしい。『おじゃ!』と言わない奴を僕は公家とは認めない。


 男子は殺意に満ちていたが、女子は女子で興味津々である。こんな恋文を送りつけてくる男とは、一体どんな男なのか。


 是非とも見てみたい。そうだ、学園祭に呼ぼうよ。ついでに文通相手も呼んじゃえ。あ、既に案内状は送ったの? わぉ!


 そんなわけもあって今年の学園祭。


 すごい事になるのは始まる前から確定であった。



 美少女ボインである真理亜も、この流れに少々危機感を抱いていた。彼女の勘が囁くのだ。


『むー……危険です』


 そんな可愛い警告を彼女の『女の勘』と『陰陽師の勘』が出していた。


 何が危険なのか、今はまだ分からない。しかしだからといって学園祭を中止になど出来はしない。


 学友達の熱意を見る限り……普通に無理である。


 なので彼女は手紙を書いた。文通相手は気心が知れた一人の……あやかし。



 いや、人間ですがな。



 それは『鈴木中作』と名乗る人間……の姿をした別の何か。



 いや、だからさ。



 真理亜は男嫌いではあるが、その不思議生命体には拒絶反応が出なかった。つまりは男ではないのだろう。多分ぺっぺっちーんだ。真理亜はそう信じている。



 ……うん。もういいっすよ、それで。



 彼ならば……そう、彼ならば……もっと問題を大きくしそうな気配がする。むー。


 ちょっと眉をひそめるも、彼女が美少女であることに何ら変わりはない。


 それでも真理亜は筆を取る。彼女自身も気付いているのか、いないのか、手紙を書いている時の顔は『恋する乙女』そのものだ。


 手紙を書いている時、彼女は『恋する乙女』になる。


 筆を走らせながら時折漏れる幸せそうなため息。そして揺れるボイン。


 文言を思案しながら自然と浮かぶ柔らかな笑顔。そして揺れるボイン。


 読み手の反応を想像しているのか、たまにくねる豊満なボディ。そしてやっぱり揺れるボイン。


 

 どこをどう見ても安倍真理亜は恋していた。というか、わりと痴女である。頭の湧いた痴女である。


 クラスの女の子達はすぐに分かった。


 クラスの男の子達もすぐに分かったが、受け入れられなかった。

 

 あの『男嫌い』で有名な女神がここまで入れ込む存在。まさにベタ惚れ。メロンメロンである。


 迂闊に声を掛けようものなら謎の腹痛に襲われて人の尊厳を失ってしまう『呪い』を振り撒く『ボインの女神』がメロンメロンであるのだ。


 ボインボインがメロンメロン。


 ボインボインがメロンメロン。


 大切なので二度書いた。



 クラスメイト達は普通に気になっていた。安倍真理亜の想い人がどんな人間なのか。


 そして恋文を送るお相手との関係も。


 三角関係まっしぐら!


 人の恋ばなって燃えるよねー!


 しかもなんかマッチョでハゲなんですってよ!


 黒光りしてそー!


 そんな女子達の勢いは衰えることなく、学園祭へとそのまま雪崩れ込んでいった。




 あ、どうでもいいかも知れんけど補足ね。


 真理亜ちゃんのクラスの女子は男子を軽蔑しています。犬猿の仲とまでは言わんけど、それに近いらしいです。男子は全員が『謎の腹痛で尊厳死』を迎えてますのでな。それゆえに女子は軽蔑の視線を止めんのです。


 男子は『和歌を送る者と文通相手が全く違う人物である』ということすら女子に教えてもらえない関係性なのです。それに加えて三日に一度のお手紙と毎日届く和歌も混同してます。ややこしいわな、確かに。


 真理亜ちゃんに直接聞こうとすると『謎の腹痛』が再発して大変なことになるから仕方無いとはいえさぁ……せめて誤解は解いておいて欲しかったなぁ。


 

 そんなわけで次話から本編に入ってくよー。


 ……今回は導入部? 説明回だねぇ。


 今更ですが、前作と前々作を読んでないと話が分からないと思われます。とりあえず……あれです。安倍真理亜は美少女でボインです。それさえ分かっていれば大体何とかなるかと。美少女というか……美女かなぁ。小さくはないです。


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