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一話 産声響く。

 今回の主役は彼女だ!


 ……多分。




 とある住宅街の一軒家。


 今回の物語は、ここから始まる。


 ここに住む一人の女が此度の物語の『始まり』を担ったのである。


 その家は『人ならざる』ものの住処として近隣の住人から恐れられていた。


『悪いことすると、あの家に連れていくわよ!』なんて子供の脅しに使われる程度には。


 その家は『ザ、妖怪屋敷』と呼ばれていた。


 そう。みんなお馴染み、あの『安倍』家である。


 その安倍家の女が此度の物語の真なる主人公だ。


 それを念頭に今回の物語……


『美少女ボイン陰陽師。安倍真理亜の奇妙なる恋愛事件簿~夢の桜に君の涙を思い出す。こんなにも辛い想いをするのなら、君を抱き締め連れていけば良かったのに~』


 を紐解くとしよう。


 ……タイトルなっがっ!





 その家は普通の家だった。家自体に何かがあるという訳ではない。ごく普通の住宅街にある、ごく普通の一軒家。家族三人が暮らすのに丁度良い大きさの家でローンはまだまだ残っている素敵なマイホームである。


 そのごく普通の一軒家の『普通じゃない部屋』にて、その女は高笑いを上げていた。


 笑う女の名は……ゆりたん。


 安倍晴明の子孫にして『安倍』の名を継ぎし者。美魔女である。


 高笑いをし続ける彼女の足元には夥しい数のぬいぐるみが転がっていた。そう、彼女は娘の部屋に侵入し、高笑いを上げているのだ。娘の居ない日中に。

 

 それは何の為か。


 それは彼女が『安倍の名を継ぎし者』が故。


 決して娘の部屋で頭がおかしくなった訳ではない。


 外にまで高笑いが漏れているので近所の人から『あぁ、遂に奥さんも……』と思われているが、狂ってはいない。


 ゆりたんも『安倍晴明』の名を継ぎ、その誇りと責任を負って生きてきた自負がある。子を産み、母親となっても、その矜持は揺るがない。


 足元のぬいぐるみ達もその姿にひれ伏し、動き出す。


 現代の百鬼夜行が蠢動を始めていた。


『安倍』を継ぐ者が動き始めたのである。


 蠢動し始めたのだが、まだその時ではないのでゆりたんは娘の部屋から出た。ぬいぐるみ達もいつものようにぬいぐるみとして、ぐでりとするのみである。


 その時が来るまで。





 ある日のことである。ハーレム生活に勤しむド助平鈴木中作は悩んでいた。修学旅行から一月が経過し、ハーレム生活もようやく慣れてきた今日この頃。


 季節は夏手前。夏前だというのに、うだるような暑さが列島を覆う、そんな時期である。


 この日も妻達と爛れた生活を営むハーレムハゲは悩んでいた。


「……学園祭。出禁になったでよ」


 鈴木中作高校二年生。遂に自分の通う学校からもハブにされた男であった。


 あの修学旅行から一月。ハゲの学校では学園祭の準備に追われていた。そしてハゲもクラスから追われていた。駆逐である。


 然もあらん。


 このハゲ、もとい『鈴木中作』はクラスメイトからは言うに及ばず、上級生下級生果ては教師に至るまで……『オールラウンダー中作』と呼ばれ忌み嫌われていた。


 奴に近寄ったら最後。人の尊厳を破壊され生涯に渡り、奴の夢を見ることになる。


 誰もが彼を恐れた。


 何故なら奴は『オールラウンダー』


 奴に禁忌など存在しない。男も女も関係ない。年上年下区別ない。幼女も爺もどんとこい。


 担任の女教師は既に堕ちた。もうハゲ無しでは生きていけない体にされた。それはその女教師のクラスの生徒から確かな情報として全校に流れたのだ。


 確かに間違ってはいない。正しい情報だった。それに関してだけ言えば。


 しかし噂には尾ひれが付くように、彼の逸話にも巨大な影が生まれていたのだ。


『奴に関わったら人でなくなる』


 学校全体に対してまことしやかに流れる噂。


 これが故に中作君は学校でボッチを加速させていった。それは当然の事ながら彼の実態にそぐわぬ根も葉もない噂……とも言い切れない所が鈴木中作少年の駄目な所なのだろう。


 中作君のボッチ化は既に限界を越えていた。具体的には学校行事からも閉め出しを食らうほどに。


 だからこそ中作君は悩んでいた。


「校長を説得すればモーマンタイ?」


 中作君は、その普通フェイスでニヤリと笑う。レッツアサシンである。しかも鍋の前でカレーを煮込みながらの余裕の態度である。


「旦那様、これ以上の問題行動は流石に控えてください」


 学校のトップの暗殺という中作君の計画はメイド妻達の説得により実行に移されることは無かった。そしてカレーはその日の夕飯で全て消えた。次の日にも残るかなーとか思ってた中作君は台所の床に崩れ落ちたという。


 時期的に食中毒とかあるからええんやけどね。


 齢17にして妻も子供も出来てしまった中作君である。既に『普通』であることを放棄し、彼は『パーフェクトリーボーダーレス中作君』となりつつあった。常識も良識も全てかなぐり捨て、『立派なパパ』になるため、彼は邁進していたのである。


「旦那様。次の金曜日もカレーで。今度は挽き肉のカレーが食べたいです」


「わたくしはチキンカレーですわ!」


「この前流行ったマンなんちゃらカレーって食べた事無いんですよねぇ」


「一時期話題になりましたがすぐに消えましたね、あれ」


「暑い国のカレーでしたっけ」


「旦那様なら……作れますよね?」


「……いぇあー、まいわいふず」


 夕飯の後は勿論デザート。それを用意するのも中作パパのお仕事である。パパの目が死んでるが大体そんなもんだ。流石に夕飯に加えてデザートまで作るとなると面倒なので近所のスーパーを梯子して買った見切り品のスイーツ達である。


 中作君の妻達も一応女性である。スイーツに喜ばない訳がない。見切り品のシールは正直気になるが、それも『賢い主夫』として加点対象であった。小憎らしい事に彼は毎度スイーツの種類を変えてくるのだ。あるときは見切り品の缶詰でフルーツポンチを作り上げた。原価六百円で豪華なフルーツポンチである。彼女達は普通に感動した。


 店で頼んだら一人当たり千円は飛びそうな豪華なフルーツポンチが目の前にドンッ! である。


『なによ! この無駄に高い主夫力は!』と妻達は戦慄したという。お前は一体何なのだ。ホモなのか、と。


 いや、中作君は多分ノーマルです。


 彼の家には現在『人間の』妻達が四人いる。その誰もが美人であり、メイド服を着ていた。


 だがしかし、彼女達はメイドではない。


 ならばなんなのか。いや、妻なんだろうが、妻ではない。


 彼女達は『キキーモラちゃんズ』なのである。


 鈴木中作の妻として彼を監督する。それが彼女達の仕事であり使命なのだ。中作君は使命の事を知らんけど。


 そんなキキーモラちゃんズはメイドの格好こそしているが、家事をしないメイドである。というか出来ない。そもそも家事そのものが。いわんや料理をや。


 そんな不思議なメイド、キキーモラちゃんズは今、鈴木家に『通い妻』という形で足繁く通っている。夕飯を集りに来ている様にしか見えないがそれは確かに『通い妻』なのだ。一応常に一人は鈴木家にお泊まりしているので……なんだろうか。普通に『監視』である。普通に。


 夫である中作君も何となく察しているのか、節度を弁えてエッチな事はしていない。むしろ中作君が尻とか揉まれてるのをちょくちょく見る。逆セクハラだ。ちょっと羨ましい。


 そんな爛れたハゲである。


 今宵も奴は妻の一人とひとつのベットで『うっふんあっはーん!』するのだろう。なんて羨ましいのだ、このやろう。


 実際にはキングサイズのベットの端に中作君がごろんと横になり即寝落ちなのだが、そんなことはどうでも良い。


 奴が寝落ちしたあとでキキーモラちゃんズは、ハゲが起きないのを良いことにあんなことやこんなことを……かーっ! 羨ましいぞ! このハゲめっ!


 毎晩毎晩襲われやがって。普通に犯罪だ。普通に。


 そんな爛れたハゲがスイーツに貪りついている妻達に言った。


「自分の所はしょうがないとして……真理亜ちゃんの学園祭には行こうと思うんだけど……」


「……旦那様、もしかしてターバンで行くおつもりで?」


「うん。なんか不味い?」


 ハゲ、普通に首を傾げた。


 キキーモラちゃんズは顔を見合せて相談に入った。スイーツを食らいながらのひそひそ話である。


 このハゲ、見た目は普通であるが……そのハゲを隠すためにターバンを装備しているという紛れもない変人であった。


 側頭部にある『へこみ』とツルッパゲな頭を隠すためとはいえ中作君は専らターバン少年として過ごしているのである。


 夏休みまでもう少し。ターバン少年もおかしくはない気候……いや、現代の日本でターバン少年は稀である。自分の学校では許可を取っているので問題無いが、他校となると……どうだろう。


 キキーモラちゃんズはひそひそ話を始めたが、すぐに結論を出した。その瞳は例外なくキラキラと光り、その口にはクリームやらスポンジの欠片が付いていた。なんかもう……女子力が低すぎてハーレムなのに羨ましくないぞ、このやろう。



「旦那様。変装しましょう」


「そうしましょう」


「やるなら徹底的に」


「どこまでも、ですわ!」


「というわけで予行練習と行きましょうか、旦那様」


「……なぬ?」


 こうして爛れたハゲに不幸が舞い降りた。ざまぁ。


「……や、やめるんだ……や、やめ……やめろー!」


 ハゲの悲痛な叫びが夜の帳に消えていったという。ははっ、ざまぁ。


 まだ学園祭は遠いので普通にいじめである。普通にな。


 これが女子高のノリらしい。キキーモラちゃんズで女子高出身なのは一人だけなのだが……まぁ些事である。そしてハゲの中作君、その本妻の反応はというと……こうなった。


「…………それもありね」


「助けてよ! まいわいふ!」


「ひっひっひっ。長い人生にゃ、そんなこともあるさね」


「止めてよ、ばーちゃん!」


「……ふっ。たとえお前がその姿でも俺の心は反応せんぞ」


「むしろ反応すんな! ペッペッチーンになるだろうが!」


 ハゲ、いきり立つ。


 ふっ。見苦しい。見苦しいぞ。ハゲ。日頃の行いが悪いからだ。


 キキーモラちゃんズから玩具にされている中作君には『人間以外』にも妻がいる。今のところは三人だ。共に住んでいるのは二人だけ。一人は京都に暮らしている。遠距離婚という奴か。


 この『共に住んでいる二人』のうちの一人が本妻『マンゴス姉さん』で、今の中作君の姿に満更でもない反応をしている面倒臭い女となる。


 本妻ではあるが、未だに中作君とキスのひとつもしていないらしい。キキーモラちゃんズに比べると大分出遅れているが大丈夫なのだろうか。


 そしてもう一人、一緒に暮らしている『人ならざる妻』が……『鬼婆』である。


 それはもう鬼婆である。見るからに鬼婆で鬼婆なのだが、中作君の妻である。


 これは普通にすごいと思う。普通に。美女に変化した姿ではなく、鬼婆モードで普通に『家族』として接している。ハゲではあるが、その器のでかさは本物だろう。


 鬼婆の膝枕で寝るとか普通にすごいと思う。


 息子である自分でも怖くて鬼婆の膝枕は無理だというのに。


「鬼ぃ! お前、僕と一緒に学園祭見に行くんだろ! こんな僕と一緒に歩けるのか!」


「ひっひっひっ。ならこいつも同じようにするかねぇ」


 ……なぬ?



 あ。


 な、なんでみんなが俺を見ているのだろうか。


 そんな……そんな狩人の目線で。



「……それもありよね」


 正妻マンゴス姉さんが頷き、それに同調するようにキキーモラちゃんズも頭を縦に振った。


 ………………。


 ……え?


「……や、やめ……やめろぉぉぉぉ! お、俺は女装なんて絶対にしないからなぁぁぁぁぁぁ!」


「いや、ずるいぞ、鬼。お前も『こっち』に堕ちるんだよぉぉぉぉぉ! きひひひひひ!」


 ……。


 ……俺は矜持を守るために誇りを捨てた。背に腹は変えられない。しかし……いや、背に腹は変えられないのだ。命を守るために手足を切り落とす。これはそういう事なのだ。




 そんなわけで……次話に続く。


 

 ああ、どうでも良いことかも知れんが……中作とボインちゃんの高校の学園祭は夏休み前に行われる珍しいタイプになる。


 学園祭のあとはすぐに夏休み。そう……今の季節は既に薄着限界の季節である。


 ……そう。弾ける季節の到来だ。


 タイトルなっが! というわけで新作どーん! ですよ。

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