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第28話(小細工の結末)

後部のくだらないライバル心がキッカケで、周囲を巻き込み、大きな事象となった仲間外れ策。

その結末が遂に付いたが、それは因果応報というべきものであった。


 2090年9月11日。

 土日明けのこの日の朝、戦々Bクラスのリーダー都佐波和寛とCクラスのリーダー難分陸の姿は、条月大附属高において見ることが出来なくなっていた。

 土日のうちに荷物を纏め、それぞれの実家に帰ったのだ。

 附属高を中退して......



 それを確認してから約束した通り、斯波田上弦は、上条彩雪音に2人の要望を伝えたのだった。

 もちろん、直接的ではなく、彼らしい少し遠回しな言葉を駆使してではあったが。

 「彩雪音。 こんな結果になったけど、これで良かったのかい?」

 それに対し、

 「彼等2人は一般生徒ではなく、上月会の構成メンバー。 上月会は流月の主導する組織だったけど、一応私がトップでしょ? 学校内を代表する幹部であるメンバーが嘘をついて、会の方向性を間違えさせるなんて、許されるものでは無いわ。 本来ならば、後部の提案を諌めなければならない立場なのに」

と答えたのであった。

 『なるほど。 そういう考えで彩雪音は、19人の方を助けるような行動をしたのか』

 その言に一理あると思う上弦。 


 「それで今回、尚武君の要望を一部受け入れたんだ〜」

 「そういう訳でも無いわ。 3人のリーダーのうち、あのクズ後部だけは高校を卒業したら、私達と人生で二度と道が交わることはない。 だから勝手にしたらって言ったのよ」 

 「そういうことだと、今後も僕達と道が交わるだろう残された軍事戦々BクラスとCクラスの生徒をどうしようか? 彼等は一般生徒だし、ね」

 柔らかい言い方で、暗に、

 『クラスのリーダー達が不始末の責任をとったのだから、学校生活での不利益な状況を解除してあげては?』

と提言したのだ。

 「その辺は上弦に任せるわ。 夏休みの終わり、わざわざ呼び出して、そこで謝罪することで挽回するチャンスをあげたのに、それを拒否して退学へと追い込まれた、あの2人と何か約束したのでしょ?」

 「まあね」

 「後腐れの無いようにしてくれれば十分。 クラスリーダーが自主退学して残された生徒達とは、確かに大学に進学したら同じ学部になるかもしれないわ。 なるべく遺恨にはしたくないから」

 その言葉で、村八分状態の解除を事実上承諾したのであった。




 その前日の日曜日の午前中。

 尚武真紗人は、後部慧悟の部屋を訪れていた。

 「尚武。 惨めな俺の姿を見に来たのか?」

 相変わらず、心の狭い人物だと自ら言ってしまうような後部の言葉に、少し呆れる尚武。

 「寮内が大騒ぎになっているからな」

 そんな言い方で訪問した理由を答え、後部の人物の小ささには触れなかった。

 「引っ越し作業中の都佐波と難分のことだろ? 俺が巻き込んでしまった2人には、悪いことをしたと思っているよ」

 くだらない嫉妬心やライバル心から、幼稚なことをしてしまい、最悪の事態を招いた責任を少しは反省しているような言葉を吐く後部。


 「もう、軍人は諦めるのか?」

 尚武は一応、後部の今後の予定を確認してみる。

 すると後部は、自身の片腕に力こぶを作りながら、

 「いや。 俺はこんな体だから、軍人以外の道に進むつもりは無い。 高卒の資格を取って、国防軍に入るつもりさ」

 後部は強化人間。

 約2メートルの身長と筋肉隆々の肉体を持つ。

 筋力と俊敏性が常人より大幅に強化されており、軍部から将来は、特別な部隊での活躍が見込まれる逸材だと、期待されていたのだ。

 「そうか。 じゃあ、また何処かで会うこともあるか...... その日まで元気でな。 餞別を置いておくぞ」

 尚武はそれだけを告げると、玄関に一通の封筒を置いて去って行ったのであった。


 『餞別?』

 後部は尚武が去って行く姿を視線だけで見送り、その後引っ越し作業を続けていたが、暫く経ってふと、尚武が置いていったその封筒が目に入ったので、気になり中身を確認してみることに。

 それは、一通の文書だった。

 広げて読む後部。



『 後部。 18歳という成人の年齢に達したのに、いつまでも子供じみた、仲間外れとかのくだらない策を弄するから、このような結末に至るのだ。

 それについて同情するつもりはない。

 ただ、お前のその凄い肉体的能力が、こんなことで低評価となるのは惜しいことだと思う。


 お前がこの学校に入った時、どういう未来を夢見ていた?

 その気持ちをまだ失っていないのなら、これから書き述べる俺の提案を受け入れるべきだ。


 まずまず優秀な成績で附属高を卒業し、軍事戦略戦術学部に進学すれば、超難関の国防軍士官学校に入学したのと同等の扱いになり、学費は免除。

 給与も支払われる。

 卒業まであと7か月。

 中退しない場合、その間、附属高内では四面楚歌の状況に陥るだろうが、それは愚かな己のしたことに対するペナルティだと思って耐えれば、やがて道は開ける。

 学内決済カードの件で背負う負債も、条月大に進学して、政府から給料が貰える立場になれば、分轄払いで返済出来るじゃないか?

 このまま中退して、その後国防軍に入った場合、耐え抜いて附属高を卒業し条月大卒の経歴を得て国防軍に入るのと比べて、大きく劣る結果になるのは火を見るより明らか。


 上月会のことは心配するな。

 既に、上条彩雪音と話はつけてある。

 脱税騒ぎで家計が苦しいということによる残りの高校生活の学費に関しては、同封のパンフレットを見てくれ。

 それに俺は、お前より先に出世して、顎で使うことを楽しみにしているんだ。

 だから俺の為にも、国防軍にはエリートとして任官して貰わないと困る。

 高卒で入った者にそんなことをしたら、パワハラだと言われちまうからな。

 前向きな選択をすることに期待している。 』

という内容であった。



 パンフレットは、奨学金に関するもの。

 『アイツ......』

 普段はぶっきらぼうで、仲間では無い他人に対してこんな配慮をするとは思えない尚武真紗人。

 後部は真紗人を学校内での最大のライバルと思い、高1の時から色々な嫌がらせをし続けていたが、今回の件はそのことを水に流すような態度であり、それどころか敵に塩を送ることをしてきたのだ。


 その気遣いに、後部は思わず涙ぐむ。

 確かに、同じリーダーの2人が中退するのに、首謀者である自身が残れば、以後学内で今迄以上の非常に冷たい態度を取られることであろう。

 村八分どころか、村十分という状況にも。

 ただ、都佐波と難分が国際戦戦学部への進学予定だったのに対して、後部は軍事戦戦学部への進学一択。

 条月大進学後は、国防軍所属となり、上条彩雪音と接触する機会も全く無くなる。

 上条家や璃月家と雖も、軍事戦戦学部に影響力を及ぼすのは難しいという事情もある。

 だから真紗人は、後部に7か月我慢すれば道は開けると提言したのだった。




 結局、後部は自身の最終決断を同じ傭兵クラスの仲間と話し合うことに。

 「慧悟。 入学時のお前の夢って何だった?」

 「国際情勢の厳しいこの国の軍人となって、敵の侵略を防ぎたい。 それも出来ればそれなりの立場で、じゃなかったのか?」

 「確かに中退したって、国防軍には入れる。 しかし国防軍は士官学校を出た者とそれ以外の者の差が非常に大きい世界。 ここで中退したら一兵卒にしかなれず、戦いがあれば最前線で犬死にするだけのことだぞ」

 「慧悟の肉体は特別な体だろ? 一兵卒では勿体ない」

 「慧悟。 尚武の提案に従うべきだ。 ライバルに借りを作ったなんて思わずにさ」

 同じクラスの仲間達は、次々とそのようなことを話して、中退を思い留まるように求めてきた。


 「俺が残れば、お前達にも国際戦戦の連中から、今以上に嫌がらせが強く掛かる。 だから俺は辞めるべきなんだよ」

 後部は、4人の仲間の今後のことを考え、都佐波や難分と同じ道を歩もうとしたのだ。

 リーダーという立場の者が、幼稚な策を弄して失敗し、しっぺ返しを喰らう事態になった以上、責任を取るしかない。

 しかも、今回は学内の特別権力者の不興を買ってしまった以上、その責任の取り方は退学しかないのだ。

 同じクラスの仲間達に、迷惑をかけ続け、その人生が狂ってしまうことを避ける為に......


 暫くすると、同じ強化人間の間枝田が重い口を開くのだった。

 「今回の件、俺達にも責任がある」

 その一言に頷く他の3人。

 「俺達は慧悟の策に異論を唱えず、それどころか、一緒になって笑っていたのだから......」

 間枝田の言葉に、後部は俯き続けていた顔を4人のクラスメイトに向ける。

 「だから、これからは一緒に苦難を味わうべきなんだ。 慧悟にだけ責任を負わせるのは、俺達が責任から逃げることになる」

 仲間の言葉に、声を失う後部。


 そして、結局仲間達の進言に従い、中退を思い留まる決断を下したのであった。

 



 「真紗人。 お前が後部の為に骨を折るなんて、思いもよらなかったよ」

 夢叶が、9月11日の午後、一緒にトレーニングルームで筋トレ中に話し掛ける。

 彼等のクラスの活動方針は、幼楓や石音達の特別クラスと統合されても変化は無い。

 今回の後部に中退を思い留まらせる策に関して、仲間達の了承を得てから実行に移していた。

 その話し合いで出された提案のお蔭で、後部の退学届は立花理事長のところで、保留扱いとなっていた。

 「ライバルが居なくなったら、卒業までの張り合いが無くなるだろ? ただそれだけだ」

 その返事に、

 「後部と間枝田の存在は、確かに俺達にとって重要。 一対一の対戦訓練だけは、あの2人に勝つのは至難の技だから」

 「アイツ等が居なくなると、筋トレサボっちゃいそうだよ」

 そんな言い方で、今回の件の意義を話す江里朽と木野下。

 「旧Bクラスの奴等は、今のところ子供じみた幼さが目立つな。 でも今回の件で、当面は苦労するだろうけど、人間的に成長するチャンスになる筈さ」

 尚武はそういう答えをすると、以後この話題に触れることは無かったのであった。

 



 尚武の予言は、早速当たっていたようだ。

 都佐波と難分が学校を去った日の朝。

 幼楓は自室を出る時、玄関ドアの向こう側。

 寮の廊下で人が居る気配を感じたのだ。

 『久しぶりにトラップ?』

 そんなことを思いながら、少し身構える。

 そして、玄関ドアを開けた瞬間。

 風の能力を使って、一瞬で隣の部屋より先にまで移動したのだ。

 逆に驚いていたのは、幼楓を待っていた後部と間枝田。

 玄関ドアが開いた時、ドアの内側に人影は無く、気付くと自分達の背後に幼楓が立ったいて、声を掛けてきたからだ。


 「僕に何か用?」

 少し警戒している様子の幼楓。

 「どうして、俺達の後ろに居るんだ?」

 思わず後部は質問してしまう。

 「またトラップを仕掛けられて、制服を汚す訳にはいかないからね」

 苦笑いしながら答える幼楓。

 「今のは、神坂の能力なのか?」

 間枝田の問いに、

 「僕も成長しているからね」

と答えた幼楓。

 「勘違いしないでくれ。 俺達は神坂が中途入学した時に、その実力を試そうとトラップを仕掛けたことを謝罪しに来た。 本当に済まないことをしてしまった。 この通りだ」

 後部は当初の目的を思い出して話すと、深々と頭を下げる。

 間枝田も同じように頭を下げる。

 「いいよ。 それにもう今更だし」

 幼楓は苦笑いのまま謝罪を受け入れると、オートロックのドアの施錠状況を確認する。

 そして、

 「じゃあ、僕は行くよ。 実実試験の時に手加減してくれたら、それがあの時汚れた制服のクリーニング代ということで」

 半分冗談を交えてそう答えた瞬間、幼楓は警戒したままだったので、風の能力で廊下の端まで一瞬で移動してから、階段を降りて行ったのだ。

 後部と間枝田の2人は、幼楓の動きに驚きを隠せない。

 「神坂、めちゃくちゃ凄くなっていないか?」

 「噂では、夏休み中に国防軍の極秘作戦に従事したらしいので、相当な実力にまで特別な能力が上がっているのだろう。 俺達も学校に残った以上、これからは覚悟を決めた方がイイ」

 裏事情に少し詳しい後部が間枝田に話すと、

 『尚武の説得に従って正解だった。 あんな凄い能力を持った同級生達と、授業や試験で戦えるのだから......』

 そう思い、感涙の涙を浮かべていたのであった。




 「おはよう〜」

 幼楓は挨拶をしながら教場に入ると、先に来ていた同級生達から返事が返ってくる。

 それを聞きつつ自席に座ると、

 「楓、何か良いことでもあったの?」

と石音に質問される。

 そこで、先程の出来事を話したところ、

 「ほらな。 やっぱりアイツ等だっただろ? 制服を汚すような陰湿トラップ仕掛けたのは」

 2人の会話を何気なく聞いていた夢叶が、夏休み前のトラップ犯についての感想を述べる。

 「でも、急にどうしたんだろうね? 2ヶ月以上前のことを謝るなんて......あまりにも不気味だったから、思わず能力を使って逃げて来ちゃったよ〜」


 「後部は中退するつもりだった。 でも、真紗人の説得で撤回したから、今後は少しでも善行積もうと考えているのかもよ」

 そんな万武の説明を聞き、

 『そうだ。 後部説得の承諾を求められていたんだった』

と思い出した幼楓。

 「朝、部屋の玄関開けた時、あの巨体の2人が立っていたら、それだけで悲鳴上げちゃうよ。 私だったら、壁に2人を埋めちゃうね」

 石音が幼楓に同情すると、笑いが起きる教場内。

 静かにそんな会話に耳を立てつつ、

 『アイツも改心しつつあるみたいだな。 今後の対戦が楽しみだ』

 内心ほくそ笑むも、表情は変えない真紗人であった。




 これが、後部が仕掛けた幼楓達への仲間外れ策の結末である。

 幼稚な策であったが、これにそれぞれの思惑が絡んで、かなりの大事になってしまう。

 しかし、くだらないことを仕掛けた者達は、それぞれが痛い目に遭い、何も得るものが無く、失うものばかりで終幕したのだった。  


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