第27話(牙を剥く才媛)
焔村事件が発生した時のお見合いに関して九堂鏡水は、親友である京頼石音の推察等を聞いたことで、事の真相を知りたくなっていた。
その為、その日の夜、毎晩莉音から掛かって来る通話の際、そうした雰囲気を醸し出してしまったのだ。
「鏡水、何だか今日は様子がおかしいね。 どうしたの?」
隠し事の出来ない性格の鏡水。
どちらかといえば、ズバッと確認してしまう、白黒ハッキリした性格なので、莉音に勘付かれてしまうのだった。
「あの〜、少し聞きたいことが有って......」
「僕に答えられることだったら、どんな質問でも構わないよ」
高解像度の画面越しに見る莉音の顔は、相変わらず超イケメンで爽やかな感じだ。
特に、濃紺色の独特の瞳は、見る者を吸い込んでしまうような美しさである。
そんなことを感じてしまった鏡水。
ちょっと顔を赤らめながら、石音の見解が正しいのか莉音に確認してみるのだった。
すると、莉音は笑い出す。
「ゴメンゴメン。 なかなか良い筋のシナリオだなあ〜と思ってね」
第一声で、そんな答え方をしてきた莉音。
ただ、概ね正解だったのか否かは、なかなか答えてくれない。
「潮音ちゃんって、教え子達からそんな感じに思われていたんだ〜。 本人が聞いたら『私、そんな単純な人間じゃないわよ』って、怒るかもしれないね」
先ずは、上条彩雪音との見合い話が出た理由について、石音の見立てがかなり間違っていると指摘する。
「元々、上条財閥のご当主から持ち掛けられていた話なんだ。 先方は、僕がアラサーを過ぎても独り身だから格好のチャンスだと考えているのかもしれないけどね。 もちろん直ぐに結婚とかそういうことでは無くて、上条家の将来有望な才媛と、璃月財閥当主とが親しくなる機会を作って欲しいという意味合いでの要望だよ」
莉音はそう答えたものの、学内カード事件に対する彩雪音の対応を潮音が評価しているという点は、間違っていないと認めるのだった。
「私と彩雪音さんを同席させたことは、どうなのですか?」
「その点に鏡水は拘るんだ〜」
「当然です。 その部分に何か裏が有っただなんて、その後の焔村事件も有りますし、あまり考えたくないから......」
「う〜ん、そう言われてもな〜」
「じゃあ、やっぱり石音が指摘する通りなのですね?」
「上条家ご当主期待の才女の度量を試してみたというのは大筋で正解だろうね。 そもそも僕としては、そんな失礼な状況でのお見合いを断ってくると考えていたから」
「ということは......」
「彩雪音に承諾されちゃったから仕方なく、そのまま設定せざるを得なくなったってこと」
「え〜〜」
莉音は、『失敗しちゃった〜』という悪戯小僧のような表情を見せている。
「小細工せず、当初から別々にすべきだった。 その点は鏡水にも謝罪しないといけないね。 今更だけど、ゴメン」
「......」
呆れた顔をする鏡水。
この部分は、石音の考えの通りであった。
「もう一つ聞きたいのですが」
「何かな?」
「もし、焔村の事件が無かったら、彩雪音さんとお付き合いする気は......」
「鏡水、まだ彩雪音のことが気になるの?」
「......はい。 私は自分自身の身分を弁えているつもりですから、莉音さんの正妻になろうだなんて、考えていません。 でも、彩雪音さんならば、全く問題ないどころか、上条財閥にも影響力を及ぼせるようになって、莉音さんにとってメリットが沢山ありますよね?」
「もう、結婚まで考えてくれているんだ〜」
「いや、いえ、まあ......あれです。 莉音さんの年齢のことを考えると......」
「ふふふ。 カワイイ反応」
揶揄われてしまい、真っ赤になった鏡水。
画面越しに見ても、こんなにカッコイイ男の人と結婚にまで至れたらと、妄想してしまうのは致し方ないであろう。
しかも、大火傷の治癒に助力するため、貞操を捧げたのであるから......
記憶には残っていなかったが、仮死状態になる前まで、九堂鏡水は肉体関係を誰とも結んでいなかったことが、莉音とシた時に明らかとなっていた。
「話は戻すけど、上条彩雪音を娶ることで僕にメリットが有るって本当にそう思うの?」
「違いますか?」
「鏡水って漫画読むのかな?」
「ええ、人並みには」
「じゃあ、読み過ぎだ、きっと。 財閥とか王家とか出て来る作品が多いよね」
「そうですが......」
「僕が彩雪音と結婚したと仮定しよう。 本当にメリットだらけだと思う?」
「......」
「確かに彩雪音にとってはメリットだらけだよ。 本来、ご当主の妾の孫という立場なら、せいぜい財閥傘下の中堅レベルの一企業を任せて貰えれば御の字と言ったところ」
「はい」
「でも、璃月財閥当主の正妻という肩書きがあれば、上条財閥当主の座も目指せるって訳さ。 一族イチの才女ならば余計にそう考えるだろうさ。 彼女は表面上おっとりしているけど、内心は煮え滾る溶岩のように熱い、野心家だし」
「確かにそうですね......ああっと、誤解のないように言っておきますが、野心家かどうか私は知りませんよ。 メリットの部分のことです」
「翻って、僕は上条一族の争いに巻き込まれることになる。 幸いにも璃月一族は、僕以外有力な後継者が居なくて波風立っていないのに、不毛な戦いへと引き摺り込まれることとなるかも。 そうなれば、璃月財閥内で僕が足元を掬われるかもしれない。 反彩雪音で結束した本妻系の上条一族が、反莉音の璃月財閥内の勢力に手を突っ込んできたりしてね」
「わかりました。 莉音にとってメリットが無いのですね。 私の考えは間違っていました」
「僕は彩雪音のことを、彼女が子どもの頃から、ある程度知っているけど、付き合う気も無いし、結婚する気持ちも全く無い。 今回の見合いは、上条財閥ご当主の顔を立てて実施しただけ。 彼女の人間として度量の限界は、僕が大火傷した時の態度で見ることが出来たから、余計にその考えが強くなったよ」
莉音のその言葉を聞けて、ようやく一安心した鏡水。
同時お見合いの時に、莉音が彩雪音にかけた甘い言葉は、その大半がリップサービスに過ぎないと、莉音がその本心を明かしてくれたのだ。
「ただ、学校内で彩雪音と対立するようなことは、なるべく避けて欲しいな。 流月の引き起こした件は璃月一族内の問題だから、非のある流月の方を強く戒めることが出来たけど、彩雪音は上条一族の人間。 もし、鏡水と彩雪音との間にイザコザが起きても、それに僕は介入出来ない。 そもそも高校生同士のちょっとしたトラブルの度に、大人が割って入るのもおかしな話だし、流月の父にもそう言って叱責しちゃったから」
「え〜〜」
「僕を巡って、同時にお見合いをした間柄だろ? その結果、僕が鏡水を選んだことに対して、彩雪音の心中は穏やかで無いという石音ちゃんの指摘は、よくわかる」
「はい。 私も、かなり心配です」
「条月大やその附属学校は、共同運営している璃月財閥よりも上条財閥の影響力が強い。 しかも彼女は上条一族で将来を期待されている有名な人物だから、その彼女に忖度する者も沢山居る、ちょっと特殊な学校っていう点からもね......」
莉音も、鏡水の今後の学校生活をかなり心配していたのだ。
だからこそ、自身の目が行き届く別の学校への転校を勧めたのだったが、石音や幼楓という仲間との関係を大切にしたいからと、鏡水自身が断ってしまっていた。
「でも、僕とお付き合いするのならば、色々と覚悟を決めて貰わないと駄目かなあ〜。 それに鏡水の才幹に期待しているんだ、僕は。 特別な能力もあるし、石音ちゃんと幼楓君というスペシャルな仲間も居るでしょ?」
そんな説明をした時の莉音は、なんだか嬉しそうであった。
「彩雪音さんの嫉妬心が向いて来ないように、莉音さんがもう少し、火傷の治療中のままっていうのは、ダメですか......? せめて二学期の間ぐらい」
「あの事件、公式には無かったことになっているんだ。 だから公の場に僕が出る時、偽の火傷姿でという訳にはちょっとね......。 逆にもし下手なことをして、あの事件が世間で注目を浴びてしまえば、鏡水だけではなく、幼楓君や石音ちゃんの今後にも大きな悪影響を及ぼすから」
「......わかりました」
結局、その点での色良い返事は貰えなかった鏡水。
ただし石音が鏡水に、突然このような話をした真意は、別件もあって、彩雪音が敵に回った時の恐ろしさを感じたからであった。
もし彩雪音に鏡水への敵愾心が生じる場合に備えて、莉音に守って貰えるよう事前の手を打つべきだというアドバイスをしたのには、きちんとした理由が存在していたのだった。
鏡水が莉音と話をする前のこの日の夕方、和食専用食堂における、鏡水と石音の会話には続きがある。
「心配し過ぎだと思うよ、石音。 彩雪音さんは璃月流月と異なり、そこまで他人に悪意を向けるような人柄では無いと思うけど......」
「水。 じゃあ、この話を聞いたらどう思うかな?」
「何の話?」
「軍事戦戦Bクラスのリーダー都佐波和寛とCクラスのリーダー難分陸が授業に出ていないっていう事実」
「えっ......急にどうして?」
「しかも授業に出ていないだけではなくて、この学校を中退するつもりらしいの」
それを聞き、押し黙る鏡水。
高3の二学期になって、成績も良い2人の生徒がそのような選択を迫られているのには、厳しい裏事情が有るに違いない。
そこに彩雪音が絡んでいるのだと、話の筋から直ぐ理解したのだ。
この時ちょうど幼楓が、夕ご飯を食べに食堂にやって来たので、手を振る石音。
それに気付き、料理を購入した幼楓が2人のところにやって来て、石音の隣に座る。
「2人共、随分早い夕食だね」
「ちょっと話があったから。 水に忠告しておきたくて」
「それって例の話?」
「そうよ」
石音は全く表情を変えずに、幼楓とも話をする。
その様子を見ながら鏡水は、
『あの極秘作戦に従事が決まって以後、約一ヶ月間ずっと一緒に過ごしていた2人だけど、付き合っているという訳では無いのかな?』
と考えていた。
「ちょっと、水。 人の話聞いてる?」
「あ、あっと、ゴメンゴメン」
「先ず、水の決済カード、貸して」
「別に、イイけど......」
鏡水はそう言いながら、財布から取り出して、石音に手渡す。
それは、上条彩雪音名義のカードであった。
「はい。 これ、新しいカード」
石音は鏡水に別のカードを手渡す。
それは、神坂幼楓名義のカードだった。
「これは?」
「水。 恋敵になる上条さん名義のカードを使うのは直ぐに止めた方が良いと思うの。 幸い私達2人には、例の極秘作戦の成功報酬が振り込まれて、当面、学校生活の費用で困ることは無いから、楓名義のカードを渡しておくね。 いくら使っても、どうせ楓が支払ってくれるから、遠慮せずに、ねっ」
少し冗談を交える石音。
そこには、焔村事件で軍の支配下から離脱させられたことで、軍人扱いで国から支払われていた定収が無くなった鏡水に対する配慮も隠れていたのだった。
「流月のお父さんによって止められた僕達19人のカードは、契約者自身による不正利用という理由だったから、二度と同一名義で同じカードを作れなくなった筈だけど、あの時僕だけは目覚めたばかりで学校側の仮カードだったから、新しく本カードを作ることが出来たんだ。 だから、石音のカードも僕名義ってこと」
幼楓が説明すると、石音も自身が持っている幼楓名義カードを見せたのであった。
「でも、どうして急に?」
「それは、今から説明することを聞けば、わかるわ」
「それって、B・Cクラスのリーダーが中退するだろうって、今、石音が切り出した話ってことよね?」
「そうよ」
すると、幼楓が説明を始める。
鏡水から回収したばかりの上条彩雪音名義のカードを見詰めながら。
「夏休みに入った頃、璃月流月が独断で僕達19人の学内カードの決済を止めてしまった理由は、後部と都佐波、難分のクラスリーダー3人が、目障りな傭兵Aクラスや奥武浦さん、それと僕達に嫌がらせをしたいと、上月会に適当な理由をでっち上げて、仲間外れにする申請をしたからなんだよ」
「そうなんだ。 やっぱり」
「しかも、特別クラスと傭兵Aクラス等が、秋月先生に依怙贔屓されて、訓練場を独占使用しているとかの、めちゃくちゃな理由でだった」
「......」
そんな説明を聞き、呆れた表情の鏡水。
『少し大人びて、益々綺麗になったなあ〜』
幼楓はそんな感想を抱き、その瞳を見詰めていると、今度は石音が続きの話をする。
「上月会が、どうしてそんな幼稚な理由を見抜けず、3人の申し立てを一方的に受け入れたのかは謎だけど、そこから、国際戦戦科全体が私達に嫌がらせをするようになったわけ」
「しかし流月が暴走してしまい、学内カード停止というやり過ぎの事態が璃月財閥当主の耳に入って不興を買ったことで、子供達のくだらない争いに積極的な関与をしてしまった流月の父は謹慎処分となった」
交互に説明する幼楓と石音は、随分事情に詳しいなあと思いながら聞いている鏡水。
「彩雪音さんが流月の暴走に対して、私達19人に自身の学内決済カードの予備を渡してくれたでしょ? その代金の請求が先日、後部、都佐波、難分の3人に回ったのよ。 上月会への申し立ての虚偽がバレたことにより、責任を取らされる形で。 上月会解散という結果への責任も含めてね」
「ただ、その請求に対して、後部が支払いを完全拒否したんだ。 それが上月会のトップだった、上条彩雪音の怒りを買ったということなのかもしれないけど、遂に彩雪音お嬢様が動いた」
「上条家の顧問弁護士の一人から、正式に請求書が回ってきているわ。 後部、都佐波、難分の3人に対して」
「それと同時に、旧傭兵Bクラスと戦々Bクラス、Cクラスの全員に対して、教場と寮以外の場所への立ち入り禁止命令が出ている。 学校法人条月大学からのね」
幼楓と石音の説明に驚く鏡水。
鏡水自身、附属高における在籍状態が中途半端なことから、学校内の異変に気付いていなかったのだ。
自身のことに手一杯で。
そして、先日見た出来事について、幼楓が音声データを使って、リアルな説明を始めたのであった。
『「都佐波君と難分君だね?」
「はい」
「私達は上条彩雪音様の依頼で、今回の金銭トラブルの担当になった、上条家付きの弁護士です。 どうぞお見知りおきを」
名刺を差し出す中年の怜悧そうな男。
二学期が始まって4日後の放課後。
戦々Bクラスのリーダー都佐波和寛とCクラスのリーダー難分陸は、上条彩雪音から再度の呼び出しを受け、上条家の弁護士と面談していたのだ。
「この学校の19人の生徒の学内決済カードが、今回呼び出しに応じなかった後部慧悟と君達2人の申し立てに基づき、不適切な利用停止となったことに対して当時、彩雪音様は心を痛め、お嬢様独自の判断で、支払いの立て替えを決断なさったのです」
「......」
「その後、その経緯について調査をした結果、君達の申し立ては大半が虚偽だった。 しかし、その嘘が上月会という学内組織の判断を誤らせ、相手方の生徒達に大きな経済的損失を与えるという結果に。 本来なら19人の生徒側が君達を訴えるべきだが、今回その債権を所有しているのはお嬢様。 だから私が代理人として、君達と話し合うことになったのだ。 わかるね」
「はい」
「先ず、2人に改めて問う。 あの申し立ては誇大であり、殆どがでっち上げだと認めるよね?」
「はい。 ご指摘の通りで間違いありません」
「その首謀者は、後部慧悟君?」
「その通りです」
「では今回の債権について、君達に支払う義務が有ることを認めるのかな?」
「はい、認めます。 その代わり、僕達以外の戦々BクラスとCクラスの生徒達に出されている制限を解除して下さい。 お願いです」
「支払いについては?」
「両親同席で、別の機会に話し合い、そこで支払いの約束をさせて頂くというのでは、ダメでしょうか? 僕達は18歳の誕生日が過ぎているので未成年ではありませんが、まだ高校生ですし、支払い能力がありませんから」
「わかった。 では、この書面を読んで、納得出来るのならば、サインを」
「はい」』
幼楓は、このやり取りの全てを、風の力を使って少し離れた場所で聞いていたのだった。
一方、後部慧悟は上条彩雪音の呼び出しを無視していた。
そして学校法人による、使用禁止命令も無視していたが、そのことで即処分を受け、寮からの外出禁止となっていた。
すると、都佐波や難分が弁護士との話し合いに応じた翌日、後部の実家や関係箇所に税務調査が入り、有名コメンテーターの父親の脱税疑惑が巷を賑わす状況となっていたのだ。
「ちっ。 これが上条彩雪音に逆らったことへの報復か......」
後部は禁足命令が出されたことで、引き篭もざるを得なくなった自室で、ワイドショーやネット記事を見ながら、悔しそうに呟く。
しかも、自身のくだらない嫉妬心やライバル心から、父親に大きな迷惑を掛けてしまい、いつもの元気は無く、それどころか、経済的困窮に備えて、色々と考えなければならなくなっていたのだ。
後部の父は、実際に相当額の脱税をしており、それを上条彩雪音側に把握され、税務調査が入っていた。
父親から、追徴課税額は相当なものになりそうだが、引き続き勉学に励むようにと連絡があり、コメンテーターの仕事も飛んでしまったことで、大学への進学も難しい家計状況に陥いる見込みから、附属高を自主退学して仕事に就くことも、考えねばならない厳しい境遇に陥り、相当参っていたのだ。
一方、弁護士との話し合いで書類にサインした2人であったが、戦々BクラスとCクラスの村八分状態は直ぐに解除されなかった。
書類だけでビタ一文も返済していない以上、当然のことであったが、自分達の大きな判断の過ちと嘘を重ねたことへのしっぺ返しが、これほど大きなものになろうとは想像だにしていなかった未熟さを、今更ながら後悔していたのだ。
特に、同じ状況に置かれているクラスメイトのことを気に病む都佐波と難分。
後部が、実家の脱税で学校を辞めるつもりだと言ってきたこともあり、2人の動揺は非常に大きくなっていた。
そこで、ある決断を下した2人。
これ以上、それぞれのクラスの4人の仲間に迷惑を掛け続ければ、3つのクラスの全員が条月大学への進学どころか、就職にも大きな影響が出て、『人生詰む』ことがわかってきたからだ。
「彩雪音様にお話が......」
放課後待ち伏せをして、なんとか自分達の決意を告げることで、クラスの仲間達の処分を解除して貰おうと嘆願を狙う都佐波と難分。
集団で通り掛かった彩雪音に声をかけるも、
「私は、貴方達とお話する必要性を感じていません。 それでは」
と答え、そのまま立ち去ってしまう。
必死に追い縋ろうとするも、斯波田上弦が立ちはだかった。
「彩雪音は、君達みたいな嘘つきの恥知らずと会話もしたく無いってさ。 このまま無理に追い縋ったり、待ち伏せしたら、君達は犯罪者になってしまうかもよ。 ストーカーとしてね」
上弦の言葉に、ハッとなった2人。
権力者である上条彩雪音の実力があれば、自分達のような小者はどうとでもなることに、改めて気付かされたからだ。
「2人の決意は僕が聞いておくよ。 何か覚悟をしているのだろ? こんなところで待ち伏せしたのだから」
そこで2人は、直ぐに中退することで、仲間の8人に対する村八分状態を解除して欲しいと懇願する。
8人は、軍事戦戦学科では無く、条月大の国際戦戦学科を目指しているのに、このままでは、自分達2人の浅慮が原因で、8人の人生を狂わせてしまうと。
必死の訴えを聞き、困った表情の上弦。
いくら彼が彩雪音に一目置かれる最優秀な生徒であっても、2人の願いを叶えられるような権力を持ち合わせていないからだ。
「璃月財閥ご当主に見初められた九堂さんならともかく、僕には何の力も無いから、約束は出来ない」
その言葉にガックリとなる、都佐波と難分。
「でも、2人の覚悟を聞いた以上、君達の中退後、口添えはしてあげるさ。 だから、その覚悟を実際に彩雪音に見せないとね。 現状の口約束だけでは何も出来ないよ」
その返事を聞き、救われた思いの2人。
上弦は、頭を下げ続ける2人に手を振ると、彩雪音の集団を追いかけたのであった......
「現状はこんな感じね」
石音は、幼楓の持って来たポテトフライを勝手に摘みながら、鏡水への具体的な状況説明を終える。
すると、幼楓が端末を弄り、鏡水の網膜に直接集めた資料の写真を見せたのであった。
それは、上月会に保管されていた、今までの誓約書や記事録、書面等の写しだった。
「2人は、どうしてこんな資料を......」
鏡水は質問しながら、
「石音の能力を使って、事務室に潜入したのね?」
と納得の表情で呟く。
そこで更に、鏡水が耳に着けているイヤリング型のイヤホンから、弁護士と都佐波、難分の会話や、彩雪音に嘆願する2人の会話の全てが改めて聞こえてきたのだ。
「さっきも聞いたけど、この音声は?」
「それは、風の能力を使って、会話の音声を僕の手元まで運び、端末に録音したんだよ」
幼楓の種明かしに、
「いつの間にか、そこまで潜在能力を解放していたの? ちょっとビックリ」
と答えた鏡水。
あまりの仲間2人の進化に、自身だけが置いてけぼりになっている実情を思い知ったからだ。
「そういうことで、水は今後、恋敵の上条彩雪音との間で色々と厄介ごとを抱えそうだから忠告しておきたかったの。 この後、莉音さんとラブラブ会話するのでしょ? その時、『私を護って下さい』って懇願してみたら?」
石音は常に殆ど表情を変えないので、最後の言葉が冗談なのか、本気なのか、それはよくわからない。
しかし、心配してくれているのは本気であった。
「ありがとう、石音。 後でお願いしてみるわ」
その返事を聞き、少し安堵の表情を見せた幼楓。
2人で集めた情報が、仲間である鏡水の役に立てばという思いが通じたと感じたからだ。
そんなことを鏡水は思い出しながら、莉音との会話は続く。
予想外に素っ気無い態度しか見せてくれなかった莉音。
しかし、仮定の話では、何も出来ないのも当然だ。
現状、鏡水に対して、彩雪音が何かしてきたということは、一切無いのだから。
一抹の不安を抱えたままではあったものの、この日の夜を甘い会話で過ごしたのだった......




