第24話(8月30日)
夏休みも間もなく終了。
色々な出来事だらけだった、条月大附属高3年の2090年夏期休暇期間。
二学期に向けて、それぞれの思惑が交錯する8月30日であった。
傭兵Bクラスの後部慧悟。
附属高内の様子が一変したことに気付いたのは、夏休みも残り数日となった頃であった。
『どうも国際戦戦科の連中が、俺達のことを避けているような気がする......いったい何が有ったんだ?』
しかし、その事実確認に手間取ってしまう。
それは戦々BクラスとCクラスの全員が、順番に割り当てられた夏期休暇期間中における一時帰省許可期間に入っており、8月21日から1週間、帰省していて寮内に居なかったからであった。
戦々Bクラスのリーダー都佐波和寛、Cクラスのリーダー難分陸が帰校してきた8月27日の夜、後部は早速招集をかけて、3人で状況確認を始めるのだった。
「2人が帰省中の8月24日に特別クラスの央部が、一般人を火炎攻撃してしまい、ひと騒動有ったんだよ」
当時後部は、トレーニング室にこもって筋トレをしており、直接現認した訳では無かったが、附属高内で大きな噂となっていたことから、あの事件のことを知っていたのだ。
すると都佐波が、意外な事実を話し始める。
「その日、上月会が急遽解散するって連絡が来たんだよ」
難分も同じ連絡が来たと言う。
「どうして急に解散したのだ。 何か大きな問題が発生したのか?」
後部が首を捻りながら、2人に説明を求めるも、末端会員なので、事情は全く知らないという。
「その頃から、どうも国際戦戦科の生徒達の動きがおかしいんだよな〜。 俺も含めた傭兵Bクラスの5人が挨拶をしても返事は来ないし、食堂でも俺達の周囲に誰も近寄って来ないんだ」
それを聞き、気になった都佐波と難分は、附属中時代からの知り合いに連絡を入れてみたが、誰も返事を寄越そうとすらしない。
既読スルー、メール・連絡無視、電話も居留守で応答無し。
「これはおかしい。 上月会が解散したということは、学校内の権力バランスが崩れるような出来事が、絶対に有ったのは間違いない」
「とりあえず、情報収集に努めよう。 そうでなければ、対応策を考えようがない」
焦りを感じ始めた3人のリーダー。
後部からすれば、憎きライバルの傭兵Aクラスが、特別クラスと訓練を一緒に始めたことを奇貨として、学校内で孤立させ、自分達が有利な立場になろうと、陰謀を画策し始めたことがキッカケでの戦々Bクラス、Cクラスとの連帯であり、国際戦戦科を巻き込む形での村八分作戦は成功したように思われていたが、その前提が大きく崩される何かが発生してしまったことは、完全に想定外であった。
夏休みももう終わりという段階になっての事態の急変に、動揺を隠せない3人であった。
そして、大きな動きが有ったのは、8月30日。
この日莉音が、鏡水にこっそりと会う為、条月大に来ていたのだ。
ひとまず、大学キャンパスの敷地内にある職員宿舎を訪問して、潮音と合流していた。
「莉音。 何、その格好?」
深く帽子を被り、ネックガードとフェイスガードで首から顔面全体を覆っている。
母としては、火傷なんて完全に治っているのだから、全く理解出来ない我が子の姿であった。
「僕は酷い火傷を負った筈ですからね。 1週間も経っていないのに、治っていたらおかしいでしょ?」
まだ夏なので、暑さは厳しく、潮音の部屋に入るとネックガードとフェイスガードを外して汗を拭く。
そんな息子の説明を聞き、半ば呆れながら、
「鏡水に逢いたくて、ここに来たのは構わないけど、大学のキャンパス内では逢えないわよ。 附属高と条月大の学生・生徒は、お互いの敷地内の自由な行き来を禁止されているから」
「えっ、マジ?」
莉音には珍しい言葉遣いが思わず出てしまう。
「学校は勉学の場ってことで、自由時間の多い大学生と、そうでは無い高校生が、お互いの生活に悪影響を与えない為、行き来は許可制なのよ。 そして鏡水には、大学を訪問する理由が無いわね〜」
それを聞き、
「仕方ないか〜」
と言いながら、櫂少佐と連絡をとる。
「詩太。 僕だけど、ちょっと付き合ってくれない?」
「急でよくわからないけど、俺、仕事中だぞ」
「VIPが訪問して来たら、その警備も仕事だって言ってたよね」
「まさか、今日条月大に来るの?」
「ゴメン。 もう着いちゃって、今は潮音の部屋にいるんだ〜」
その言葉に、少し慌てる櫂少佐。
「わかった。 この間の件もあるし、少将の部屋に行くから待ってろよ。 絶対、勝手に歩き回るな」
やがて、潮音の部屋に少佐がやって来たのであった。
「悪いわね〜。 突然の訪問に対応して貰って」
「別に構わないですけど......ところで莉音。 なんでそんな暑そうな格好を......」
「僕は火傷が治っていないから......」
その言葉を無視して、再び装着していた莉音のフェイスガードやネックガードをずらして、皮膚の状態をチェックする少佐。
「綺麗に治っているじゃん。 少し心配して損した」
確認を終えると、元に戻してから、
「結局附属高に行きたいんだろ。 向こうには連絡してある?」
「今、連絡した。 本当は大学のキャンパス内で逢おうと思ったんだけど、規則でダメなんだってね。 部屋で待っているって」
「じゃあ、俺が連れて行けば良いんだね。 少将、何か御意見は?」
「全くありません。 よろしく〜」
その回答を聞いてから、部屋を出る。
一応、潮音も敷地の境目まで付き合うことに。
「潮音。 明日、軍病院に行くのですよね?」
「あら、よく知っているじゃない。 それで今日来たの?」
「表向きは、そういうことで」
「まあ、それはオマケでしょ」
潮音の含みを持った言い方に悪びれる様子もなく、莉音は頷きながら、
「ええ、もちろんです。 ところで、軍の方針は契約書通りで良いのですよね?」
「莉音に完全引き渡しで、未練ないって」
省略されたその言葉を聞いて、少佐が驚いた表情を見せる。
「焔村じゃなくて、鏡水の方よ。 今回の事件を理由に、軍は彼女の訓練を打ち切るから、特別部隊による管理も明日が最後。 今後は何が有っても、莉音が責任を持って面倒をみるってことなの」
「その話もしなければならないですからね。 夏休みが終わったら、この学校では簡単に逢えないので」
莉音が突然の訪問理由を、それらしく説明したことで、詩太も納得したのであった。
大学キャンパス内では、なるべく人の少ない場所を通っても、莉音の異様な姿は人々の視線を集めてしまう。
ただ、詩音と櫂少佐が一緒なので、不審者に間違われることはなく、無事附属高への出入口に到着した。
「莉音。 あまり詩太に迷惑掛けないでね」
別れ際に、母らしい言い方をすると、潮音は手を振りながら、大学の管理棟へと向かって歩いて行く。
少佐が鍵を開けると、2人は附属高の敷地内へ。
「本当は、こう度々部外者が入れる場所じゃないんだからな、莉音」
「詩太には迷惑掛けているって自覚しているから。 ありがとう」
その言葉に照れてしまう少佐。
「まあ、莉音はこの学校の運営者の一人だから、一応関係者にはなるわけだし」
正当性の理由付けは出来ると説明しながらも、
「一つ言っておくけど、寮内であまりイチャイチャするなよ。 形式上は禁止行為になっているから」
「形式上なのか?」
「完全にダメで、即退学ってことにまで厳しく制限はしていないんだってさ。 全寮制の学校だし、若い男女が沢山住んでいるのだから」
「でも、流石に中学までは禁止だろ? 営みは」
「そりゃそうだ。 高校以上はケースバイケース。 大学は制限無し。 ところで、九堂は18歳になっていたよな?」
「確か、ギリギリ」
「まあ、それなら法律的にも問題無いか」
そんな会話をしていると、何処から聞き付けたのか、璃月流月が駆け足で莉音の元にやって来たのだ。
「莉音様。 そんな、お痛わしい姿で、流月も心を痛めております」
いきなりのそんな挨拶にも莉音は反応せず。
無視を決め込み、
「詩太、先を急ごう」
とだけ言って、歩みを早める。
「では、私めもご同行させて頂きます。 ささ、どうぞ」
散々嫌がられても、全くめげない流月の姿勢に、
『この子、凄いメンタルだな』
と感心する少佐。
「それで、莉音様。 本日はどのような御用向きで」
そんな質問をも無視し続けていたが、結局あまりのしつこさに根負けした莉音。
「こんな姿なのに、君はどうして僕を璃月莉音だと言えるんだい?」
その問い掛けに、
「私には、全て見えるのです。 凛々しき莉音様のお姿は、たとえどんな変装をしていようが、見間違えることはありません」
我が意を得たりと、自慢げに答える流月。
これには気疲れの表情の莉音。
「まあ、勝手にそう思い込むのは構わないけどさ」
その後も、一方的に話し掛ける流月。
莉音は無反応のまま、ようやく鏡水が住む寮の建物前に到着。
建物内に入ろうとすると、まだ付いてこようとする流月の姿勢に苦言を呈す。
「ここから先、流月は立ち入り禁止」
プチ切れ気味の莉音。
その言葉を聞いて、詩太も、
「流月さん。 ご当主がそういう意向を示されましたので、従って下さい」
と制止する。
すると、
「今回の附属高訪問の目的を教えて下さい」
と大胆な質問に出る。
「鏡水を僕が引き取るから、その話をしに来たの」
結局、莉音が根負けして、目的の一部を話すことに。
それに対して、大きな衝撃を受ける流月。
「あんなどこの馬の骨ともわからない女を、一族として迎え入れるのですか?」
その言い方にカチンときた莉音。
「流月は、選民意識の塊のような考えの持主だね。 その考えを改めないと一族から外すことになるよ。 そもそも三条璃月家は、創業者の曽祖父様と血の繋がりが無いのだから」
この反論は流月に激しい衝撃を与える。
それは、言い出した莉音の想像を遥かに超えていた。
『一族から外す......外される......この私が......名門たる三条家の血も引いているのに......』
ブツブツ呟きながら目が泳ぎ、挙動不審となる流月。
建物の前でグルグル回り続ける。
「詩太、今のうちに行こう」
莉音は小声で言うと、建物内に入る。
すると、鏡水が玄関で待っていたのだ。
「じゃあ、帰る時に連絡くれる?莉音」
少佐はそう言いながら、お邪魔虫は消えようと直ぐに退散。
莉音は少佐に手を振りながら、寮のエレベーター内へ鏡水と共に姿が消えたのであった。
部屋に入るなり、鏡水は我慢し切れず莉音に抱き着いてしまう。
「久しぶり、莉音。 逢いたかった」
と言いながら。
そして、莉音のフェイスガードとネックガードを外してみる。
猛暑の中、歩いて来たので、少し湿り気のある2つのガード。
その汗の匂いすら、芳しい香りがする莉音。
思わず、その匂いを嗅いでしまう鏡水であった。
「ちょっとヤバいね、私。 莉音の匂いクンクンしちゃった。 まるで犬みたい......」
そんな表現に、無言のまま笑顔で答える莉音。
「この2つのガード、ちょっと干しておくね」
汗が滲みて、少し重くなったモノを、ベランダに干そうとしていると、今度は後ろから莉音に抱き着かれてしまったのだ。
「さっきのお返しだよ」
と言いながら、嬉しそうな莉音の表情に、笑顔で返事をする鏡水であった。
干し終わると、窓を閉めてから、
「暫く、フェイスガードとかを被ったこんな姿で過ごすの? 猛暑なのに......」
ちょっと笑いながら、改めて確認。
「この学校に来る時だけ。 仕事の時は面倒だし、暑いから、こんなモノ着けてないよ」
そんな会話をしながら、徐々に2人だけの甘美な世界へと入ってしまうのだった。
用件の方は、その後。
1時間以上経ってからであった。
「今日は色々と確認が有るから、よく考えて答えを決めてね」
そして莉音は、焔村が引き起こした事件によって決定された、これからのことについての説明を始めるのだった。
「鏡水は明後日以降、国防軍の所属から完全に離れることになったんだ」
最初のこの説明に戸惑いを見せてしまう。
「私、時代を超えたから、身寄りが誰も居ないんだよ。 そんな状況でいきなり放り出されても、生きていけないと思う......」
鏡水は不安そうに呟く。
表情もかなり曇ってしまうのだった。
その不安を和らげる為、説明を続ける。
「焔村が軍に処分されれば、一蓮托生となる恐れがあったから、母が引き取ると軍に申し出てくれたんだ」
「ということは、潮音ちゃんの養女になるってこと?」
「いや、僕の庇護下に入るってことだね。 国防軍と璃月財閥間の契約によると」
莉音は、潮音が国防軍最高幹部と交わした契約書の内容を簡単に説明したが、その表現に鏡水は表情が暗くなってしまう。
「契約?」
「気を悪くしないで聞いて欲しい。 既にわかっていると思うけど、鏡水達4人は軍にとって所有物なんだよ。 だから、譲渡契約を交わしたという形式になった。 既に国防軍のトップ統合作戦本部長との書類に僕が署名したから、明後日をもって、鏡水は璃月財閥の所属に変更」
「所属......所有物じゃないの?」
「財閥としては、物扱いしないよ」
「そうなんだ......それって良かったのかな?」
嬉しそうに笑う鏡水。
ただ、翳りのある笑顔ではあったが。
「軍からの縛りが相当強い契約となっていて、万が一焔村みたいなことをしたら、厳しい処遇に変わっちゃう。 それだけは理解しておいて」
「もちろんだよ。 あんなこと、絶対にしてはイケナイって理解しているから」
「それで今後だけど、この学校から転校することも出来るよ。 僕としては条月大附属高は遠いし、他にも鏡水の今後のことを考えたら、璃月財団が運営する学校法人に......」
莉音の配慮や気持ちを素直に嬉しく思う鏡水。
でも数ヶ月間、一緒に目覚めて過ごしてきた仲間との別れを選択するには、まだ早いと考えていたのだった。
「それは出来ないかな。 石音と幼楓との関係は、非常に大事だから......同じ境遇で眠らされてきた者同士としてね」
直ぐ出したその結論に、理解を示し、頷いた莉音。
「じゃあ、附属高を卒業するという方向ってことで、調整を進めるよ。 ただ色々心配事が有るんだけどなあ〜」
「ありがとう莉音。 本当に......」
嬉しさで涙が溢れてしまう。
潮音と莉音が、鏡水の為に色々と骨を折ってくれてきたことは、見合い話を持ち掛けられた時からの出来事を振り返ってみると、今になって全部理解出来たのであった。
「そういうことならば、条月大への進学だけど、国防軍が関与している軍事戦略戦術学部への進学は認められないこととなっているんだ。 もしこのまま条月大学に進学するのであれば、国際戦略戦術学部を目指すということになるね。 もちろん他大学でも構わないけど、国防軍関連の学校には進学出来ない」
その説明に頷きながら、
「私にだけ、ここまで色々と配慮してくれたのは、これからは人間兵器ではなく莉音を護衛する役目を受けて生きて欲しいっていう、潮音ちゃんの意思が込められているんだね」
そう答えると、涙目ながらも、心の底からの笑顔を見せる鏡水。
その表情に、莉音はドキッとしてしまう。
「仮死状態より目覚めてから、今が一番幸せな気持ちだよ」
そして、鏡水は莉音にキスをするのであった......
「まだ正式に交際への返事をしていないのに、なし崩し的に甘えてゴメンなさい。 それに、みだらな子だって思わないで......」
「そんなことは全く思っていないよ」
「一つ、私の秘密、教えてあげようか?」
「なに?」
「多分、私って本当は19歳なんだと思う。 少し残っている記憶を辿ると、高校を卒業して、暫くしてから仮死状態にされたみたいだから」
「そうなの?」
「誕生日が来ていなければ18歳。 でも、仮死状態だった期間を加えたら、83歳くらいってことになっちゃうね」
そう答えると再び笑顔になる。
そのまま見つめ合う2人であった......
午後になり、そろそろ莉音は仕事に戻らねばならない時間となった。
「明日は、潮音と一緒に軍病院へ行くのでしょ?」
「うん。 キチンとケリを付けないとね」
「他の2人も一緒?」
「いえ。 石音は行かないって」
「それは、どうして......」
「彼女なりの、仲間への配慮だと思う。 みんなに惨めな姿を見せたくないでしょ? 年頃の男の子だもん、焔村」
「そういえば、最終的な処罰は、来月決まるって言ってたよ」
「そうなんだ......」
鏡水のあっさりした返事を意外に感じた莉音。
焔村は、完全処分されると言われているのに......
「あまり興味無いの?」
「こんな言い方、良くないかもしれないけど、勝手に盛り上がって、燃え上がって、そして、思い込みで自滅だよ。 私、焔村に好意があるような態度をした覚えは無いし、手すら触ったことないんだからね」
その説明に少し納得した莉音。
「なかなか逢えないと思うけど、何か有ったら遠慮なく言ってね」
莉音は少し心配な表情を見せながら、詩太に連絡を入れる。
暫く経つと、部屋のドアをノックする音が。
「詩太。 忙しいところ、ゴメン」
「そんなことイイって。 それより、良い話が出来たみたいだね。 二人共、色々な意味でスッキリした顔しているし」
そんな冷やかしを言ったところ、鏡水に思いっ切り背中を叩かれてしまう。
「痛い、悪かったよ〜」
「事実で反論出来ないから、行動で抗議したの。 質の悪い冗談に」
鏡水は、頬を膨らませて答えると、笑い出す。
そして、
「少佐。 色々とご面倒お掛けしますが、今後もよろしくお願いします」
と改めて挨拶したのであった。
3人は、一緒に寮の建物を出た。
莉音は顔面を覆っている。
猛暑の午後。
凄い直射日光なので、外に出ている生徒は殆どおらず、あの流月でも流石に待ち伏せして居ないようだ。
そのまま、ゆっくり歩く3人。
「二学期から鏡水のクラスが変わるんだろ?詩太」
莉音の突然の質問に、
「そうみたいだな」
と答えた少佐であったが、秘密だったことを言われてしまい、少し困った表情を見せてしまう。
「私、クラス替えですか?」
「まだ決まっていないけど、特別クラスは3人になっちゃうから、このままでは少人数クラス別の成績という、この学校独特のシステムでの順位が出せなくなるのが問題になっているんだよ」
「そっか〜。 元々特別クラスの存在自体が特別扱いだったから......」
「決まったら、少将から話があるので、それまで待ってて貰うしかないんだ」
「わかりました。 少佐の表情を見ていたら、莉音の質問に困っているようなので、心のうちにしまっておきます」
「そうして貰えるとありがたい」
そんな会話をしているうちに、大学との敷地の境目に到着。
「じゃあ、鏡水。 またね」
「莉音。 明日ケリを付けたら、連絡入れるから」
「うん、待っているよ」
そして二人はその場で別れる。
監視カメラがあるので、ハグも出来ないが、心は通じ合っていた。
鏡水に手を振りながら、大学の敷地内に入って行く莉音と櫂少佐。
その姿が見えなくなるまで見送り続ける鏡水。
そして、寮に戻って歩き始めたところ、
「九堂。 櫂少佐と一緒に居る男は誰だ?」
と突然大男に声を掛けられた。
思わず、
「きゃあ〜」
と悲鳴をあげてしまう。
「女の子に、いきなり背後から話し掛けないでよ。 この変態」
鏡水は、かなりムッとした表情に。
その男は、傭兵Bクラスの後部慧悟であった。
何を言われても、
『フン』
といった態度。
相変わらずやや傲慢で、いけ好かないヤツだと思いつつ、
「私の知り合いよ。 それが誰だか、貴方が知る必要有る?」
逆に質問されると、後部は黙ったまま。
そのまま鏡水は、寮へ早足に向かってしまうのだった。
そして、その様子を見ている人物がもう一人居た。
上条彩雪音であった。
1週間前、莉音が焔村の攻撃で猛火に包まれた後、いつの間にか逃げ出してしまい、莉音に合わせる顔が無くなっていたが、非常に気になっていたのだ。
あの日以来、莉音から連絡は無いし、彩雪音から連絡を入れる勇気もない。
そういう状況のところ、この日の午前中、様子のおかしい璃月流月に会ったことで、莉音が附属高にやって来ていることを知った彩雪音。
話し掛けると流月が、
「莉音様が、よりにもよって九堂鏡水と会い、その身柄を引き取る目的で来校するなんて.......」
と絶句していたので、その後ずっと見張っていたのだった。
寮から出て来た莉音の様子をみると、顔面の殆どを覆っており、その下には火傷の跡があるものと推察された。
『あれ程の豪火を浴びて皮膚が焼け爛れていたのだから......酷い火傷が残っているのだろうし、それならもう未練はないけど......』
これが彩雪音という人物の本性であった。
『璃月財閥のご当主様だから、最新の医療技術で治してしまうかもしれない......それならば、あの美形は是非、私のものにしたい......』
そんな考えが有って、行動を凝視していたのだ。
結局、寮を出て、莉音と鏡水が別れるまでの短い時間に、その素顔を見る機会は全く無いままであった。
『まあいいわ。 いずれ上条財閥のパーティー等で莉音が出席していれば、火傷の状態を確認出来るでしょう。 もし治っていたら、殊勝な態度で誠心誠意謝罪したふりをすれば、男なんてイチコロよ』
そして、ほくそ笑む彩雪音。
璃月財閥の威光を背景に、生意気三昧だった璃月流月も、ここに来て上月会を解散せざるを得なくなり、精彩を欠いている。
上条財閥の次期当主の座を秘かに狙っている彩雪音は、その本心や本性を他人に見抜かれないだけの鎧を纏い、理想的な人物であるように振る舞うことの出来る、条月大学附属高3年で随一の才媛と呼ばれるに相応しい、裏の顔を持つ女子高生であった......




