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第23話(暴走の焔村)

恋破れたと感じた焔村。

彼の未熟過ぎる精神は、感情の暴走を止めることが出来ない。

そしてその行為は、他の3人の処遇にも響いてしまうだろう暴挙であった......


 「キャアー」

 「うわ~」

 大きな悲鳴が複数箇所で上がる。

 皆がその場で固まり、何も出来ない。

 突然の大きな炎に包まれる璃月莉音。


 最初に動いたのは、九堂鏡水であった。

 直ぐに最大量の水を莉音に降り注ぐ。

 激しい蒸気と共に、炎が消えてゆく。


 次に大きなうめき声が、莉音達の居る場所からかなり離れたところより聞こえた。

 激しい竜巻が発生して、焔村は空中に飛ばされた後、地面に激突したのだ。

 「バキバキバキ」

と直ぐ近くに居た人の耳に音が聞こえたぐらいなので、焔村は複数箇所骨折したのであろう。

 すると、

 「石音。 焔村を動けないようにさせて」 

 潮音の大きな声での指示に、石音は焔村が倒れている地面を溶けたコンクリートに変化させ、そのまま直ぐに固めてしまうのだった。


 

 群衆をかき分けて、莉音の元に駆け寄る潮音と幼楓。

 既に、鏡水がその体を抱き抱えていた。

 彩雪音は立ち尽くしたまま、動くことが出来ない。

 それには訳があった。

 彩雪音の瞳に映っている莉音は、数十秒前の超イケメン姿とは程遠い、醜い重症火傷姿だったからだ。

 恐ろしくて、近寄ることが出来ない。

 全身の皮膚は焼け爛れ、特に顔面の皮膚は皮下組織が見える状態となっていたのだ。

 普通の女の子では、近付くことを躊躇してしまうのは当然であった。


 「救急車を。 早く」

 鏡水の大声で、周囲に居た人々は、ようやく動き始める。

 救急に連絡を入れる者。

 学校の代表先に連絡を入れる者。

 櫂少佐は急いで、まだ学校に滞在中の藍星中佐に連絡を入れ、莉音を攻撃した央部焔村に対する緊急措置を依頼した後、変わり果てた姿の親友に付き添うのであった。



 やがて、救急車が到着して、車内に搬送される莉音。

 付き添う、潮音、鏡水、櫂少佐。

 幼楓と石音は、焔村がこれ以上攻撃行動に出ないよう監視し続ける。

 その場に集まっていて、事件発生を機に野次馬となった生徒達は、学校側により解散させられたのであった。


 「病院への搬送は必要ないよ」

 車内に入ってからの莉音の第一声であった。

 「リオ。 でも......」

 鏡水の目から見て、瀕死の重傷に見える火傷のレベル。

 ここにきて、病院に行かないと我が儘を言うとは、思ってもみなかったのだ。

 「どうして欲しいの?」

 潮音が確認すると、

 「鏡水の部屋に行きたい」

と驚くような要望をする。

 当然、救急隊員も鏡水も次々と説得するが、頑として首を縦に振らない莉音。


 「わかったわ。 救急隊へのお願いです。 この子を希望の場所に運んで貰えませんか?」

 潮音の申し出に、困惑の表情をみせる救急隊員。

 しかし結局、搬送不要の一筆を潮音が記入し、希望通り、鏡水の部屋に運ばれるのだった。



 部屋に入ると、救急隊員は去り、潮音が、

 「財閥の用件で、どうしても直ぐにやらねばならないことが有るの?」

と質問したので、いくつかの用件を莉音が説明すると、潮音も少佐も部屋を出て行ってしまうのだった。

 『焔村のやってしまったことの後始末が非常に大変だから、あとは鏡水、莉音のことをお願いね』

と言い残して。


 「ちょっと、待ってよ。 2人共」

 鏡水が呼び止めるも、手を振って立ち去る潮音。

 少佐も、一旦立ち止まって鏡水に深々と頭を下げ、莉音のことをお願いする姿勢を見せると、急いで外に向かってしまうのだった。

 寮の部屋は、2人きり。

 すると莉音が、

 「彩雪音は、いつ居なくなったのかなあ」

と質問してきた。

 『それって、今必要な話題?』

と鏡水は思ったものの、重体な人からの質問である。

 文句を言うことなく、少し記憶を呼び戻してから、

 「私が救急車って叫んだ時には、立ち尽くしていたわ。 でも、気付いたら居なくなっていた」

 その答えを聞き、溜息をつく莉音。

 本当に深い溜息で、火傷だらけの顔の下では、失望の色濃い表情をみせていたのだった。


 「リオ。 体、痛まないの? 本当に病院に行かなくても大丈夫?」

 「痛くは無いよ。 でも心が痛い......」

 その言葉を聞き、思わず抱き締めてしまう鏡水。

 「ゴメンね。 私が焔村の気持ちにもう少し寄り添って、その上でハッキリと交際出来ないって断っていたら、こんなことにはならなかったのに......」

 そう言うと、この出来事への責任を感じて、泣き出してしまう。

 それに対して、優しく鏡水の頭を撫でる莉音。

 その行動に、涙が止まらなくなる。

 「こんな姿になっても、私を気遣ってくれるなんて......リオは優し過ぎるよ」

 その後は涙で、言葉にならないのであった。




 一方その頃、焔村は複雑骨折数カ所を負った体をコンクリートで固められたままであり、全く身動きが取れなくなっていた。

 その姿を見ながら幼楓が、

 「いきさつはよくわからないけど、僕達の能力を個人的な感情の捌け口に使っては、絶対に駄目だ。 焔村の今回の行動は、僕達4人を政府や軍が正当に処分する口実を与えてしまったんだよ」

と吐き捨てるように言う。

 こういう態度は、今までの幼楓には見られなかったものだ。

 それ程の怒りを覚える暴挙であったのだ。

 石音は黙ったまま、焔村の様子を見詰め続ける。


 連絡を受けた藍星中佐が、慌てた様子で、焔村が固定されている場所に現れる。

 近くには救急車が停まっており、車内に乗り込んでいる潮音達の姿が見えていた。

 「幼楓君。 状況をもう一度説明してくれないか?」

 中佐の問い掛けに答える幼楓。


 「先ほどまで、リオさんと上条さん並びに鏡水の見合いを兼ねた会食が行われていました。 僕と石音は秋月先生と一緒に居たのですが、会食を終えて、3人が外に出て挨拶を交わし、別れたところで、焔村が突然、火炎のスキルで、リオさんを攻撃したのです。 僕達はリオさんの周辺警護を先生から依頼されていたので、直ぐに気付いて、焔村が続けての攻撃を撃てないよう、風で上空に飛ばし、地面に叩きつけたのです。 今、焔村を動けないようコンクリートで固めているのは、その後の先生の指示によるものです」

 その説明を聞いて、納得の表情の藍星中佐。

 「2人はよくやってくれた。 そうでなければリオ君は亡くなっていたかもしれない」

 「大丈夫なのですか? リオさんは」

 「多分な。 救急車に乗っている司令官の表情からの判断だ」

 その言葉を聞き、急にうめき声を上げ始める焔村。

 「畜生〜。 殺り損ねたか〜」

と。

 その執念に戦慄を覚える、その場の3人。

 すると、突然焔村が苦しみ始める。

 「ううう......」 

 そして、そのまま気を失ったのであった。

 潮音がこっちを見ている。

 「今のは、司令官が焔村君を気絶させたのだろう。 追加攻撃を試みられても、困るからな」

 中佐が幼楓と石音に、状況説明をする。

 『しかし、リミッターを目一杯上げたのに、一瞬で人を焼くだけの熱量を出すとは......憎しみの感情が、リミッターの制御を破ったってことだな』

 中佐は技術士官として、そのような判断をしていた。



 その後、リオは寮に運ばれて行ったので、3人は顔を見合わせていた。

 「何故、病院に運ばないのですかね?」

 「いや、全くわからない」

 「......」

 やがて、潮音と櫂少佐が3人の元にやって来た。

 「少佐。 何故病院に連れていかないのだ」

 中佐が疑問を問い掛けるも、櫂少佐は黙ったまま。

 「当人の希望よ」

 潮音が代わりに答えると、石音に焔村の拘束を解くように指示。

 コンクリートが再び液状化し、気絶したままの焔村を脇に引き摺り出す。

 そして、藍星中佐が焔村に、特殊な拘束具を装着すると、軍病院への搬送の準備を始めるのだった。


 1時間もしないうちに、空軍のヘリが到着。

 焔村は骨折の治療と、今回の事件に対する懲罰が決まるまで、国防軍憲兵隊が管理する軍病院の囚人用病棟に収容されることとなったのであった。



 「先生。 僕達今後、どうなるのですか?」

 幼楓は将来に対する不安を急速に感じ始め、思わず質問してしまう。

 石音は黙ったままであったが、潮音の目を見詰めており、同じ不安を訴えかけていた。

 「折角、流月の行った、イジメのような出来事を解決出来たのに、今度は、身内が反乱を起こすとはね〜。 一難去ってまた一難か〜」

 そう呟くと、

 「焔村のことは、もう忘れなさい。 最初から居なかったものと思って貰うしかないわ」

 非常に厳しい現状を告げるのであった。


 「最初から居なかったものって、先生。 どうにかならないのですか?」

 「失恋を理由に、勝手にそのライバルであろう人物を炎に包んで殺そうとするなんて、絶対に有ってはならないこと。 小中学生レベルの不安定さを抱えていて、彼の心の成長を促せなかった、私達の責任でもあるわ」

 その様に説明すると、悔しさを滲ませる潮音。

 「リオさんは......」

 「今回は、相手がリオだったから、まだ焔村は生かされているのよ。 もし被害者が一般人だったら、即処刑。 いや、処刑じゃなくて、即時処分という命令が私に下されたわ。 処刑は人間に対するもの。 処分はモノに対する命令だから......」

 潮音のその言葉に、凍りつく幼楓と石音。

 「処分って......」

 自分達は兵器扱いしかされていないという現実を思い知らされる2人。

 それは藍星中佐や櫂少佐も同じ気持ちであった......



 暫くすると、また別の高速ヘリが附属高のグラウンドに到着。

 潮音は、

 「私はリオの代理で、首都での仕事を片付けてくるから、大人しく明日が来るのを待ってて。 軍部への報告も一通りやって来るわ」

と中佐以下に告げると、ヘリに駆け込んで出発してしまう。

 潮音が乗ったヘリを呆然と見送る4人。

 そして、山の彼方に飛び去るのを見送ると、

 「俺達は、夕ご飯でも食べようか。 ちょっと早飯だけど、一旦落ち着こうぜ。 中佐、イイですよね」

 櫂少佐の言葉に中佐が頷くと、そのまま4人は附属高の食堂に向かうのであった。

 


 「リオさん、大丈夫なのですか?」

 幼楓は、朝から夜まで営業している和洋中食堂で、料理を取ってテーブルに座ると、先に座っていた櫂少佐に確認する。

 「彼は、少将の息子だよ。 『碧海の女神』の、って言っても、当時仮死状態で眠っていた高校生の2人には実感無いか〜」

 そんな非論理的な言い方で説明するが、幼楓も石音も冷たい視線で少佐を見るだけ。

 「リオは、特別な能力は無いけど、体は非常に頑丈なんだ。 今回は異能者である焔村君の超高熱攻撃だから、それなりのダメージを受けてしまったようだが、普通に銃撃されたくらいだったら、ほぼノーダメージなんだよ」

 少年時代から一緒に過ごすことの多かった少佐の言である。

 一緒に居た時、何度か襲撃された経験があるそうだが、無事だったのはリオのお蔭だという。

 「俺が軍人になったのは、いつもリオに守られてばかりだったから、今度は守ってやれる立場になろうって思ったのがキッカケだったんだ。 親父もじいさんも高級軍人だから、比較されるのが嫌で嫌で、子供の頃は絶対にならないって決めていたんだけどな......」


 「ところで、リオさんは誰の部屋に運ばれたのですか?」

 幼楓のその質問に対しては、

 「ええ、ああ、誰だっけなあ~」

と、超下手くそな誤魔化ししか出来ない。

 それを聞いて笑い出す石音。

 「少佐の言い方だと、鏡水の部屋ってことだね」

と言われてしまい、誤魔化し切れなくなる。

 「それじゃあ、見舞いに行こうよ」

という幼楓の提案に、

 「ちょっと、待って。 それは駄目だ。 絶対ダメ」

 全力で阻止する構えを見せる。

 「どうしてですか? ただ顔を出すだけですよ」

 幼楓が怪訝な表情で首を傾げる。

 「リオのことを思うのならば、今日一日だけは、そっとしておいてやってくれないか。 時間が経てば経つほど、体のダメージが残ってしまうそうなんだ」

 「???」

 櫂少佐の脈絡の無い説明に、藍星中佐も含めて、目が点に......

 「復活には、色々儀式が必要なんだ。 とにかく頼む」

 そう言うと、3人に対して、拝み倒す。

 「わかりました。 リオさんと鏡水、2人の邪魔をするなってことですね。 その方が酷い火傷が早く治るっていう意味だと、理解出来ましたから」

 「良かった〜。 幼楓君が物分かりの良い子で助かるよ〜」

 そう答える不器用な少佐の姿勢は、親友の秘密を守ろうという必死なものであり、そうした得難い存在が身近にいるリオのことを、少し羨ましく思う幼楓であったのだ。




 泣き止んでいた鏡水。

 既に、日が沈みかける時間となっていた。

 空は橙色で、晩夏らしい夕焼けに。

 「泣いていたら、いつの間にか......」

 鏡水は泣き疲れて、少し眠っていたのだ。

 視線を窓から部屋内に戻す。

 ベッドの上には横たわったままの莉音。

 火傷の跡が生々しく痛々しい。

 すると、

 「鏡水。 起きたんだね」

と嬉しそうな声を出すのだった。

 「ゴメンね。 寝ちゃったみたい」

 そう言って立ち上がろうとすると、横になったまま少しだけ起き上がった莉音に抱き着かれてしまう。

 そこで、ベッド横に座り直す鏡水。

 「立ち上がっちゃダメ?」

 「うん」

 そう答える莉音の、醜くなってしまった顔には、訴えかけるような感じがあったのだ。

 「何か、して欲しいことが有るの?」

 それを察した鏡水の確認に、頷く莉音。

 「どうしたの? 私に出来ることだったら、出来るだけ叶えるから言ってみて」

 その答えを聞いて、何だか嬉しそうな仕草を見せたものの......

 言葉にするのが恥ずかしいようだ。

 珍しくモジモジする莉音。

 こんな姿は、今まで見たことが無かった。

 「本当に......なんだか甘えん坊になったみたいね」

 子供のような姿に、鏡水は笑顔を見せつつ呟く。


 すると、意を決したのか、

 「僕と、してくれるかな?」

と希望を口にした莉音。

 『こんな状態で......何を考えているの......』

 そう思った鏡水。

 でも、小さな声だったので、聞き間違えたのかと思い、再確認する。


 莉音は、少し間を置いてから、

 「こんな醜い姿になった僕と、鏡水は出来る?」

 少し言い方を変えたその質問に驚いてしまう。

 「だって、そんな体じゃあ無理じゃない? 体力だって無いだろうし、皮膚が剥がれちゃうよ......」

 常識的な答えをする鏡水。

 ところが、

 「僕の質問に答えて。 イエスかノーで」

 その強い口調に気圧された鏡水。

 『病院に行こうとせず、この部屋に居たいと願ったリオ。 本来なら痛みで苦しい筈なのに、そのような素振りは一切ない......ということは、この状態で私の体を求めてくることに、何か大きな意味があるのだろう』

 そのような結論を出した鏡水。

 改めて、自分の気持ちを再確認してみてから、ただ正直に答えを出してみる。

 それを、行動で示すことに。

 先ずは、莉音の隣で横になるのだった。

 

 その行動を見て、嬉しそうに笑う莉音。

 鏡水の体に、両手で優しく触れ始める。

 それは、あまりにも優しさを感じさせるので、思わず甘い声が出てしまうほど......

 お返しとばかりに鏡水も、火傷だらけの莉音の体を少しだけ触れてみる。

 先ずは、顔を。

 非常に綺麗だった筈なのに、火傷でうっ血してどす黒くなってしまっている。

 唇に唇を重ねてみる。

 すると、触れたところの火傷が綺麗に治ってゆくのだ。

 それもみるみるうちに。

 非常に驚く鏡水。

 その後、何処を触れても、暫くすると火傷前の皮膚の状態に。

 既にリオの顔は、火傷前の美しい状態にほぼ戻っている。

 「リオって、本当に綺麗な顔立ちね」

 遠慮なく、自身の気持ちをぶつける鏡水。

 そして最後には、リオの大事な部分に触れると、やがて2人だけの世界に入ってしまうのだった。



 1時間以上経っただろうか。

 2人は男女の仲になっていた。

 恥ずかしそうな鏡水。

 莉音は、鏡水のお蔭で、ほぼ元通りの体に治っていた。

 不思議そうに、莉音を見詰める鏡水。

 「ありがとう。 僕のことを愛してくれて」

 その言葉に恥ずかしくなる鏡水。

 「治癒するには、私の愛情が必要だったの?」

 その質問に頷く莉音。

 「もしかして、潮音ちゃんと少佐が、あの火傷を見ても、随分あっさりした反応だったのは、こうなれば治るって知っていたから?」

 「僕は潮音の子だからね。 体だけは非常に丈夫なんだ。 でも自分では傷を治せない。 僕を愛してくれる人の力を借りないと......」

 その答えに納得した鏡水。

 「VIPなのに、いつも護衛を付けていないから、ちょっとおかしいなって思っていたわ」


 「でも、今回の偶然の出来事で、僕の気持ちは決まったよ。 残念だけど、醜くくなった僕の姿をみて、逃げ出してしまった彩雪音との交際は、あり得ないってこと」

 「それだけ?」

 少し意地悪な言い方で、更なる言葉を引き出そうとする鏡水。

 「鏡水。 炎に包まれた時、直ぐに水を掛けながら僕の元に駆け寄ってくれて、本当にありがとう。 さっきも言ったけど、僕と正式に交際してくれないかな? 随分オジサンだけど、僕は多分寿命が長いから、大丈夫だよ」

 「大丈夫って?どういう意味」

 思わず、その妙な表現に笑い出してしまう。

 「それは、ずっと若いってこと。 母の潮音のようにね」


 莉音の交際申し込みを改めて引き出してから、暫く考える鏡水。

 そして、

 「莉音。 もう、ヤることヤっちゃった間柄だけど、ちょっとだけ返事を保留でイイ? 私自身のケリがまだ済んでいないから」

 キリッとした表情でのその答えに、頷いた莉音。

 彼女の性格から、ケジメを付けないと、先に進めず、気も済まないだろうと予測していたからだ。


 「それと、暫くは酷い火傷姿を続けるから、演技に協力してね」

 その要望を伝えた莉音は、少年時代に詩太とつるんでいた頃のような、悪戯小僧の表情をしていたのだった。

 


 結局、夜中まで2人は愛し合い続けた。

 鏡水が積極的に主導して、莉音はなされるがまま。

 負傷からの回復に体力を消耗していたからだ。

 何度も果てる2人。

 莉音の火傷は、その度に回復の度合いを増し、やがて完全回復を果たしたのであった。

 そうした疲れから、深い眠りに就いた鏡水。

 直ぐ横に莉音が居るという安心感もあって、仮死状態から目覚めて以降、最も深い眠りだったのだ。

 そして朝、気付いた時には、既に莉音の姿は無かった。

 一通の短い書き置きだけを残して。

 それを読み、ほくそ笑む鏡水。

 そして、大事そうに鍵付きの引き出しに仕舞うのであった。




 時間を少し遡る。

 高速ヘリで首都に向かった潮音の方は、財閥の用件を大御所璃月詩音として対応することで、全て迅速に処理をしてから、秋月潮音少将に戻り、重い足取りで、先ずは櫂大将の元に向かうのであった。

 「失礼します」

 「少将か。 10日ぶりだな」

 前回は大御所の潮音と会っていたことを忘れており、思わず秘密を漏らしそうになる。

 こういうところは、息子の櫂少佐と少し似ているのだ。

 「いえ。 大将閣下とは約3週間ぶりの面会だと小官は記憶しておりますが」

 その言葉の後、強く睨まれてしまい、

 「ああ、そうだった。 最近、年齢からか、耄碌してきたようだ」

 そんな答えに、吹き出す潮音。


 ただそんな和やかな雰囲気は最初だけで、央部焔村の暴走事件を説明してからは、非常に険しい表情になってしまう。

 「非常に不味い事態だな。 今回の被害者がいくら少将の実子とはいえ、それを理由に央部の罪を軽減することは出来ないぞ」

 「わかっております」

 「しかも、央部焔村の処分について、その決定会合に君は参加出来ない。 育ての親だから」

 「はい。 そういう約束でした......」

 溜息をつく2人。

 静かな時間が流れる。


 やがて大将が口を開く。

 「しかし、秋月少将が懸念していた通りの事態になってしまったな。 仮死状態から目覚めさせても、反乱を起こされたら、どう対処するのだと。 結局、処分となって殺すのならば、最初から目覚めさせない方がマシだという意見だったよな」

 「......」

 「確かに、今生きている我々が全く知らないプロジェクトの生き残りだから、元々、どういう基準で候補者を選定し、仮死状態にされる前、どのような性格の人物なのか、何もわからないままの手探り状態だったし、今回の件は致し方ない面もある」

 「はい」

 「とは言え、既に4人のうち2人を実戦投入してしまったのだ。 今後について、少将の意見を聞いておこう」

 ここで潮音は居住まいを正す。


 「それでは忌憚なく述べさせて頂きます。 実戦に投入済みの神坂幼楓、京頼石音の両名に関しましては、附属高卒業後、士官候補生として正式採用し、条月大卒業後は、少尉に任官させ、予定通りに特別部隊の主力として、計画を進めていかれても問題ないと愚考致します」

 「なるほど」

 「今回、問題を起こしました央部焔村については、その処分を最高会議で議論して頂き、その結果に小官は従うつもりです」

 「では、殺処分とされても異論はないと?」

 「はい。 断腸の思いではありますが」

 「条件付の再教育と決まった場合は?」

 「当財閥で引き取る所存です」

 「よろしい。 ただ引き取る場合には、現状のような兵器転用は認められないぞ。 能力の制限をする装置を一生装着させることになるだろう」

 「わかっております」

 潮音の意見が自身の考えとほぼ一致したことに安心した櫂大将。


 少し、考えを纏めながら、何か話し忘れたことを思い出そうとしていた。

 「何か言おうと思ったのだが......そうだ。 それと、もう一人の......」

 「九堂鏡水のことですか?」

 「そう。 彼女をどうするのだ? 軍としては、央部とペアーを組ませる予定だったのだから、その計画自体が破綻をきたした以上、このまま育てる訳にはいかないという意見も出るだろう。 3人で計画を進めるという手もあるが、『火』の者が居なくなれば、『水』の者を必要としないという、能力バランスの問題も出てくるしな」

 櫂大将の言葉には、央部焔村を処分する以上、暴走の要因となった九堂鏡水の存在をそのままに出来ないという結論になる可能性も高いという意味が込められていた。


 「誠に申し上げにくいのですが、彼女につきましては、璃月財閥ご当主の御手付きとなってしまいまして......」

 「なに、御手付きとは......」

 そう答えた櫂大将は絶句した後、笑い出してしまう。

 「そうか。 それは少将の発案か?」

 「当人同士の問題です。 少し手助けはしましたが、強要はしていません」

 「わかった。 璃月財閥ご当主様の御台所になられる可能性のある方を我々国防軍が、勝手にその処遇まで決めることは出来ない。 そういう結論だな。 どうだろう?」

 この部分については、大将が主導して極秘会議の結論を出すと言ってくれたのだ。


 「ありがとうございます」

 「少なくとも、一人の少女の人生を守ることが出来た。 少将の深慮遠謀の賜物だ」

 「いえ、滅相もない」

 「では、九堂鏡水については、央部焔村に連座させることなく、軍としては採用を見送る代わりに、璃月財閥とそのご当主が責任をもって身柄を引き受け、以後その能力を管理・監視するということで構わないな」

 「何卒、よろしくお願い申し上げます」

 「わかった」

 そう答えた櫂大将は笑顔を見せた。

 不幸な事件だが、発生してしまった以上、何らかの始末を付けるしかないのだ。


 「では、小官はこれにて失礼致します」

 「後始末で色々苦労をかけるが、これも君にしか出来ない仕事の一つだ。 よろしく頼む」

 大将の最後のひとことに、立ち上がって敬礼をしてから、潮音は国防航空宇宙軍司令部の建物をあとにした。

 急いで、附属高に戻らねばならぬ。

 焔村の処分が決まるまで、気の重い日々が続くだろうと思うと、げんなりする潮音であった......







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