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第22話(見合い)

破壊工作に従事した幼楓と石音に、検査の数値上、大きなダメージは見当たらなかった。

しかし、特別な能力を持つ4人の精神的な成長度合いと、その精神状態に、大きな差が生じていることを潮音は気になっていた。

やがて、先に上がっていた見合い話が実施されることに。

莉音の登場に浮足立つ附属高。

ところが、その華やかな雰囲気に暗雲が立ち込めつつあることを気付いていたものは誰も居なかった......


 その後、石音と幼楓のデータ採取が行われた。

 「数値的には、以前とは比べ物にならないですね」

 専用教場の裏にある屋内訓練施設を使って、能力のデータを採った結果であった。

 「2人は、ここでの訓練、もう無理ですよ。 施設が壊れてしまいます。 明日からは外の訓練施設を使って下さい」

 中佐の進言に、頷く潮音。


 更に、精神面の影響も調べる。

 「石音。 大要塞を破壊した時、敵兵の断末魔のような声は聞こえた?」

 「少しは聞こえたかな。 でも、潮音ちゃんが力を貸してくれたから、ほぼ即死だったので、それ程じゃなかったと思う」

 「寝れなくなるとかは、有る?」

 「最初はあったよ。 破壊って言っても、私のイメージを実現する感じだから、そのイメージが作られる感覚が繰り返される夢を見ちゃうのよね」

 「その時、敵兵の悲鳴も?」

 潮音の質問に頷く石音。

 幼楓の能力では、そういうものは一切見えないので、個々の能力による、精神的なダメージの差は、相当大きいという結論に至るのであった。

 「石音の能力は本当に凄いけど、彼女へのダメージも、その分大きいわね。 今後は幼楓と鏡水の能力を使った方が賢明かも。 人命を奪うことを避けられない場合には」

 潮音は以後の実戦で、3人の能力の使い分けを考慮する必要を感じたのであった。


 「私はまだ無理だよ。 2人とは実力差が開いちゃったから」

 鏡水が畏れ多いという反応を見せると、

 「それは、能力の開放度合いの違いに依るものよ。 精神的な成長具合をみながら、4人に掛けている能力の制御を変更しているの」

 「えー、そうだったの? 初めて聞いた」

 「石音が精神的年齢一番高いからね。 次が幼楓」

 潮音の説明にガクッとなる鏡水。

 「私は3番目か〜」

 「どうして3番目って決めちゃっているの?」

 「今の焔村みれば、誰でもそう思うよ。 違う?」

 「違わない」

 潮音はあっさり認めると、中佐に、

 「焔村の制御は、一番強いレベルに切り替えておいて。 現状の精神状態では能力を使わせない方が賢明だから」

 「わかりました。 直ぐに切り替えます」

 「その分、鏡水の制御レベルを一段下げてあげて。 今度お見合いするし、少しは色々と成長するでしょう。 女性としてね」

 潮音はニヤニヤしながら、追加の指示を出す。

 「真紗人。 鏡水の見合い話は、それが終わる迄口外しては駄目よ。 もし漏れたら......」

 その時の表情は、悪魔のようだったと後に振り返る真紗人。

 「わかっています」

 そして、ずっとニヤニヤし続ける潮音であった。




 学校全体が騒然となる事態が発生したのは、それから8日後の8月24日であった。

 この日の午後、理事長室を訪れる人物があった。

 秋月リオ。

 この日は璃月莉音として、条月大学にやって来ていた。

 「立花理事長、お久しぶりです」

 「今日は、莉音って呼べば良いのかしら? 相変わらず騒がれまくっているわね」

 そう言いながら、美月は窓外を見やると、夏休み中にもかかわらず、キャンパス内にいた女子学生が大騒ぎして、理事長室の周囲に人集りが出来ている。

 「僕が誰だか、知らないのでしょう?」

 「芸能人が来学したって、ここまでの騒ぎにはならないわよ。 しかも莉音が堂々とキャンパス内を歩いて通り抜けるから」

 わざわざ注目を浴びるような演出をしたことを、咎める言い方をする理事長。

 「これも、母の考えたことですから。 その意図はおおよそ見当が付いていますよ」

 莉音はそう答えながら、出されたお茶を啜る。

 「さて、そろそろ行きますね。 附属高の和食専用食堂でしたね」

 すると、親友の櫂少佐が迎えに来たのであった。

 「詩太、忙しいところ悪いね」

 「学校を訪問してくるVIPの警護も、小官の重要な任務ですから」

 大袈裟な言い方に、ニヤニヤする莉音。

 その表情は、詩音そっくりだ。

 「本当に、少将と莉音ってそっくりだよね。 双子かって思うくらい」

 そう言いながら歩き出す少佐。

 そのあとを急いで追い掛けつつ、理事長に頭を下げる莉音であった。



 理事長室を出ると、条月大の女子大生がキャアキャア言いながら、あとを付けてくる。

 大学も全寮制なので、夏休みと雖も、キャンパス内の人口密度は結構高いのだ。

 しかし、普段施錠されている附属高への出入口に差し掛かると、

 「附属高に行っちゃうの〜」

 「私達、入れないじゃん」

等と口々に文句を言い出す。

 「ゴメンね〜。 これから上条家のお嬢様と会食だから」

 莉音が、学校訪問の用件を簡単に説明すると、舌打ちが沢山聞こえ始める。

 「なーんだ。 彩雪音様と会う為か〜」

 「ざーんねん。 めちゃくちゃカッコイイのに、あんな普通の娘と会う為の訪問なんて......」

 「結局、金なのよ金。 玉の輿狙いなのね」

 聞こえてくる文句は酷いもの。

 相手が上条財閥に連なる御令嬢と知った途端の掌返し。

 これが世の中というものなのだろう。



 附属高の敷地内に入ると、

 「いやあ〜、人間って醜い動物だね~」

 「こんな掌返しを聞いちゃうと、人間不信になるよね」

 2人はそう言いながら、笑い出す。

 「だから三十代前半になっても、俺達未だに未婚なんだな」

 詩太の言い訳に、更に大笑いする莉音。

 「いや、それは違うと思うよ」


 そんなことを言い合いながら歩いていると、こっちに向かって走って来る女子高生の姿があった。

 璃月流月であった。

 それに気付いた莉音は、露骨に表情が変わる。

 一気に不機嫌となってしまう。


 「少佐、ちょっと退きなさい。 莉音様の隣を歩くなんて、失礼にも程があるのよ。 身分を弁えなくては」

 2人の元に来るなり、櫂少佐に目茶苦茶失礼な言葉を投げ掛けると、

 「莉音様。 附属高での御用向きがあるのならば、一族の末席に連なる私めに、何故連絡をくださらないのですか?」

と畳みかける。

 莉音の怒りの表情に気付かず、自分の意思を押し通したり、言いたいことをズケズケと述べてしまうところは、流月が我儘に育てられた故であった。

 他人の心の機微が理解できないのだ。


 少佐は莉音の服の端を引っ張り、

 『余計なことを言わないでくれ』

と合図をしたが、もう無駄であった。

 「流月は、相も変わらず失礼な人だな」

 その言葉の意味が全くわからない流月。

 「櫂少佐は俺の子供の頃からの親友だ。 よくもまあ、しゃあしゃあと、身分がどうたらとか、隣を歩く資格がないとか言えたものだね。 流月こそ、俺と話を出来る資格の無い人物だよ。 下がりなさい」

 怒りを込めた財閥当主の厳しい口調に、唖然となる流月。

 莉音が『俺』と一人称で口にする時は、相当怒っている証であると少佐は知っていたので、黙ったまま。

 「詩太、早く行こう。 先方を待たせては悪いからさ」

 莉音は流月を睨み付けてから、少し速度をあげて歩き出す。

 

 暫く事態を飲み込めず、立ち尽くした後、慌ててあとを追い掛けようとするが、莉音が再び睨み付けたので、立ち止まる。

 それでも、必死になり直しをしようと、莉音に、

 「申し訳ありませんでした。 少佐殿がご当主様のご親友だとは、つゆ知らず......」

等と話し掛けるも、ガン無視される。

 そこで、今度は櫂少佐に、

 「大変失礼な言い方をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。 どうしたら許して貰えますか......」 

 とりあえず立ち止まって、深々と頭を下げて謝罪する。

 何なら、その場で土下座しそうな雰囲気の流月。


 大学キャンパス内での騒ぎを聞き付けた附属高の生徒達が徐々に集まって来ていたことから、流月のその姿を目撃した生徒達は、非常に驚いた顔をしていたのだった。

 櫂少佐も、少し慌てた様子で、

 「璃月流月さん。 もう謝罪はイイからね」

 そう言いながら、莉音を食堂へと案内すべく、先を急ぐ。

 それでも、少し距離を置いてあとを追い掛ける流月。

 訪問目的も聞けないままでは、いまだ謹慎中の父に合わせる顔がないからだ。

 何とか、会話を成立させようと、後ろから色々話し掛けるも、完全に無視されたまま。


 「詩太。 その食堂のカフェ時間帯では、何がお薦めだい?」

 突然のその質問に、流月が、

 「抹茶アイス&マンゴー&ストロベリー乗せ贅沢かき氷がお薦めです」

と答えてしまうと、

 「流月には聞いていない。 もうこれ以上、話し掛けるなって何度言ったら分かるんだ?」

と釘を刺されてしまう。

 それを見て、気の毒そうな表情の詩太が、

 「今、女子生徒が答えたスイーツがお薦めかな」

と答えたので、笑い出す莉音。

 「本当に、それがお薦めなのかい? どうせ食べたことないんだろ」

と言われて苦笑い。

 図星だったからだ。

 「詩太は、抹茶アイスよりもバニラアイスの方が好きだものな。 だから嘘だって直ぐわかったよ。 食堂に着いたら、みんなの分も一緒に注文するね、奢りで」

 「それって、どっちの奢り?」

 「もちろん、詩太さ。 僕は学内決済カード持っていないから」

 その言葉にドキッとする流月。

 学内決済カード事件のことを咎めた言い方に聞こえたからであり、もちろんその意味を込めての莉音の発言であった。



 相当な人集りになっても、全く気にしない莉音。

 噂だけを聞いて集まってきた生徒達が、

 「あの超イケメン、誰? モデルさん?」

 「いや、一般の人だよ」

 「少佐と随分親しそうだね。 あとで誰だか聞いてみようよ」

 「後ろを流月様が歩いているね。 流月様の知り合いじゃない?」

 「さっき、流月様があのイケメンに対して、『様』付けで話し掛けていたよ」

 「じゃあ、璃月財閥の関係者だよ」

 そんな会話が耳に入って来る。


 やがて一行は、食堂が入る建物に到着。

 そこでは、潮音が待っていたのであった。

 「姉様。 わざわざの出迎えありがとうございます」

 「堅苦しい挨拶はいいから。 既に相手の方が食堂でお待ちかねよ」

 そう告げると三階に案内。

 多くの生徒達も、潮音・莉音・少佐の3人のあとに続く。

 すると、和食専用食堂の出入口で2人の女性が待っていたのだ。

 一人は上条彩雪音。

 もう一人が九堂鏡水である。


 どよめく生徒達。

 「彩雪音様だけではなく、九堂さんとも会食?」

 「超イケメン君、わざわざ2人に会いに来たってこと?」

 口々に噂を始める生徒達。

 殆どが国際戦戦科の生徒達なので、ザワツキが止まらない。

 「彩雪音様が出迎えるなんて、何者なの?」

 そして、生徒達の視線は流月へ。

 その流月自身が一番驚いていたのだった。

 「莉音様が、何故......九堂鏡水なんかと......」

 ブツブツ呟く流月。

 建物の玄関で、莉音が潮音に対して、

 『姉様』

と挨拶したことだけでも衝撃だったのに、特別クラスの、どこの馬の骨ともわからない女と会う為に、わざわざ附属高を訪問するなんて、有ってはいけないことなのだ。

 それはあくまでも、流月の頭の中での判断であったが......



 「流月。 あのイケメン誰?」

 騒ぎを聞き付けた斯波田上弦が流月の隣に来て、質問する。

 その言葉で我に返った流月。

 「璃月財閥現当主、璃月莉音様よ」

 「そっか〜。 あの人がね〜。 上月会の出したあの方針、全面撤回しないと威厳がなくなっちゃうかな。 九堂さんとご当主様がお見合いするってことだから」

 「お見合い? 誰が」

 「聞こえなかった? 九堂さんとご当主様だよ。 さっき下で秋月先生が話していたんだ」

 その言葉を聞き、完全に固まった流月。

 自身の高校内での権力が『ガラガラガラ』と崩れていく音が聞こえたので、呆然とその場で座り込んでしまうのだった。



 そして2人の話を聞いていた国際戦戦科の生徒達が、騒ぎ始める。 

 「ヤバイよ。 九堂さんと璃月財閥のご当主が親しくなったら......」

 「えっ、なんで?」

 「上月会の方針に従って、国際戦戦科の3年生徒ほぼ全員が、九堂さん達を無視してきたじゃん。 その話がご当主様の耳に入ったら......」

 「え〜。 もしかして、条月大卒業後、璃月財閥系の企業に就職出来なくなるかもってこと?」

 「それって、困る〜。 どうしよう」

 「彩雪音様も今回の無視の件、大反対しているから、璃月財閥当主と彩雪音様がご結婚ということになった場合には......」

 「璃月財閥だけではなく、上条財閥系企業にも就職試験で落とされるんじゃない?」

 集まっていた国際戦戦科の生徒達に、激しい動揺が広がる。


 「高3にもなって、無視とか、イジメみたいなこととか、そんなくだらないことばかりした天罰だよ、これって」

 「だから、俺はイヤだったんだ。 そんなことするのは」

 「でも、上月会の方針に従ってしまったのだろ? 約1か月に渡って......」

 「こうしちゃおれないよ。 就職先から両財閥が消えたら、人生の大きな躓きになっちゃう」

 「今更、どうするの?」

 「ひとまず、軍事戦戦科の戦々AクラスとDクラスの知り合いに、今から謝罪してくるよ。 1か月無視してゴメンって」

 「俺も」

 「私も」

 気がつけば、その場には流月と上弦の2人だけに。

 みんな、入学以来のこの学校での努力が全て無駄になっては困ると、なり直しに向かってしまったのだ。


 「流月。 先日、理事長に上月会の解散届出したんだよね」

 「うん」

 「今から、理事長のところに行って、今日付けでの解散に変更しようよ。 それが体裁を保つ、最後の方法だよ」

 優秀な彼氏のその言葉に頷いた流月。

 財閥当主が附属高に現れ、流月の権力を否定する行動に出た以上、その意向に従う他方法は無い。

 2人はそのまま、立花理事長への面会を求めて、理事長室へ向かったのだった。




 一方、食堂内に入った鏡水と彩雪音。

 特に鏡水は、ガチガチに緊張していた。

 「彩雪音、お久しぶり。 今日は無理言って2人同時の会食でゴメンね」

 「いえ、莉音様。 お忙しいことはよく存じ上げていますから」

 「鏡水。 凄い緊張しているね? 高槁農場での姿とは大違い。 先ずはリラックスリラックス」

 莉音は笑顔で話し掛けると、さっき話が出たスイーツを4人分注文する。

 少佐は少し離れた席で、3人の警護を担当しながら、スイーツを食べ始めていた。


 「とりあえず、2人共、座ろうか」

 莉音の言葉で、少し落ち着きを取り戻した鏡水。

 「それでは、お言葉に甘えて」

 そう言いながら、先に座った彩雪音。

 鏡水がどうしようか、ドギマギしていると、莉音が椅子を引き、

 「どうぞお座り下さい。 お嬢様」

と声を掛ける。

 「九堂さん、イイわね〜。 私も躊躇してみれば良かったなあ~」 

と少し羨ましそうな表情を見せる。

 「ありがとうございます、リオさん」

 鏡水が『リオ』と言ったので、

 「もう、お名前を省略出来るような関係なのですか? ちょっとヤキモチを妬いてしまいます」

 彩雪音の反応に、キョトンとした鏡水。

 「アハハ。 彩雪音、農場で僕は高槁リオっていう名前なんだよ」

 その説明に『あっ』と思い、頷きながら、

 「莉音様は、いくつか名前を使い分けていらしたのでしたね」

 忘れていた諸々の事情を思い出すのであった。


 その後は、他愛のない話で盛り上がり始める3人。

 一対一にしなかったのは、莉音が忙しいというのもあるが、年齢差もあるし、格式張った見合いの席という訳ではないので、

 『もし逢うのであれば、友達と放課後にお茶する雰囲気で』

という莉音の希望を、潮音が実現した結果であった。



 「潮音はお見合いとか言っていたけど、今日は会食ってことの方が良かったのかな?」

 その言葉に、少し残念そうな表情を見せた2人。

 莉音は、自身の身分や相手の身分とかを全く気にしない、常に自然体でいるのが大きな魅力であると、2人とも改めて気付かされ、出来ればお付き合いとなる方向でと考えていたからだ。


 それにそれぞれ個人的に事情を抱えている。

 彩雪音は、

 『上条財閥の一族に連なる、将来有望な才媛』

という評価が定着し過ぎており、あまりにも雲の上の存在であると学校内で思われていて、真の友情関係を築けるような同級生等が、周囲に全く居ない。

 そればかりか、上条財閥現当主にその才幹を認められていることから、おべっかつかいや取り入ろうとする下心を持つような者ばかりが近付いて来て、なんとなしの孤独感に苛まれていたのだった。

 ところが莉音は、彩雪音自身と似たような立場にあることから、彩雪音の寂しさをよく理解してくれており、常に優しく、心遣いが細やかで、彩雪音が心の底から笑うことの出来る、唯一の身近な存在であると言えた。


 鏡水は、特別な能力を持つ異端児であり、同じような能力を持つ3人のクラスメイトと、秋月潮音以外からは、常に腫れ物に触るような扱いをされていた。

 程度の差はあるものの、国防軍の関係者も同様であると感じていたのだ。

 ところが莉音は、一切そういう姿勢をみせることはなく、そればかりか、まだ高校生の鏡水を一人の女性として扱ってくれることに、感謝の気持ちすら感じるほどであった。

 包容力もあって、頭脳明晰、容姿秀麗。

 しかも相当な立場にある人物なのに、そういうことを感じさせない自然さ。

 この日、話を沢山したことで、徐々に惹かれていく自身の気持ちを感じてしまうほどであった。

 

 「ゴメン。 ちょっと配慮の足りない言い方だったね。 僕の捉え方として、今日は正式に第1回のお見合いっていうつもりでもイイのかな?」

 その言葉に頷く2人。

 「それでは、2人に言っておくことがあるから、聞いてくれる?」

 その言葉に少し身構える2人。


 「楽にして聞いてよ。 先ず彩雪音。 これからは僕と親しいっていうことを全面的に利用して貰って構わないからね」

 『えっ』という表情をみせる彩雪音。

 「彩雪音が、上条財閥内での立場があまり強くないっていうことは、僕も知っているよ。 上条家は一族の人数が多いし、彩雪音は御当主の本妻では無い側の一族出身だからね」

 「でも、君は本当に優秀で人柄も凄く良い。 文句なしの後継者最有力って言いたいところだけど、そうはいかないのがこの世界......」


 莉音には、彩雪音が一族内での跡目争いに参戦しなければならない理由があるとわかっていたのだった。

 それは大好きな両親の為であった。

 ご当主の愛人の子ということで、本妻側の一族から紛い物扱いされ続けている状況。

 それに対する強い反発心が、彼女の頑張りの原動力なのだ。

 ご当主にもその実力を認められている父。

 しかし、一族からは全く認められていない。

 それを変えたいっていう願望を強く持っていたのだ。


 「だから、一族内での競争を勝ち抜く為に、僕の名前を使うんだよ。 そうすれば、愛人の孫だという本妻側一族の貶めた扱いを、ある程度跳ね返せるだろうから」

 真っすぐに彩雪音の瞳を見詰めて真剣な様子で話をする莉音。

 横でその様子を見ている鏡水は、

 『こういう姿勢に、みんなが惹かれていくのだろうな〜』

 そんなことを考えていた。


 「鏡水。 潮音ちゃんから許可が出ているから、鏡水ちゃんさえ良ければ、正式に交際しようか?」

 突然のそのひとことで、完全に固まってしまう。

 想定もしていなかった言葉だったからだ。

 莉音は、固まってしまった鏡水の頬を指で押して、面白そうにしている。

 「あれっ。 動かなくなっちゃった〜」

 莉音は彩雪音に向かって言うと、彩雪音も鏡水の頬をぷにぷにする。

 「あ~あ。 羨ましいなあ~。 私より全然美人だし、肌も柔らかくて、しっとりしている」

 彩雪音が本音で羨ましそうに語る。


 「莉音さん。 一つ質問があるのですけど」

 「なんだい、彩雪音」

 「莉音さんってもしかして、交際者を一人に限定する気が無いのかな〜って感じたのですが......違っていたらゴメンなさい」

 「うん。 そうだと思う」

 その言葉で我に返った鏡水。

 真意を見定める為、ジーッと莉音の目を見詰める。


 「上条財閥のご当主様と似た考えかな。 巨大財閥を率いるというのは、一人では荷が重い。 出来の良い子孫が多く居てくれれば、楽なのかなって考えてしまうんだ。 彩雪音みたいな孫が居てくれたら、おじいちゃんとしたら、本当に幸せだと思う」

 本音で語る莉音。

 「私のおじい様も、そういう考えだったのかな? だって、本妻と私のおばあちゃん、今でも同じ邸宅内で暮らしているから。 もちろん、一つ屋根の下でって言う訳ではなく、同じ敷地内っていうだけですけど」


 「ただ難しいのは、2人の女性の感情的な対立だよね。 それが彩雪音にも影響しているからね」

 正室と側室。

 彩雪音の御祖母様は、側室としての立場を弁え、財閥に一切口出ししないし、正室を立てて、常に一歩引いた態度に徹している。

 しかし、正室の方は、その立場を殊更強調し続け、その子もその孫も正室の薫陶を受けて、側室側の一族を見下した態度を取り続けているという。


 「僕が言いたいのは、上手く僕を利用して、2人がもっと生きやすくなってくれれば、それだけでも今日会った意味合いとして十分だってこと。 潮音もそういう考えで、今回の話を2人に持ち掛けたのだろうし」

 「ということは、今回の見合いについて、本気では無いってことですか?」

 「いや、いつでも本気だよ僕は。 もう若くないし、人との出会いは常に最も大事なことだと思っているから......」

 その言葉を語った時の莉音は、この日一番の真剣な表情だったと、あとで振り返っても、鏡水は感じたのであった。



 その後は、櫂少佐が追加注文した和スイーツを突っつき、舌鼓を打つ3人。

 莉音は、2人の学校生活の話を聞き、自身の学生時代を思い出し、懐かしそうな表情をするのであった。

 「2人は、品行方正でマジメな高校生活を送っているよね? 僕とは大違い」 

 「そうなのですか?」

 「僕には、いつも悪友が居たからね。 2人で色々悪戯してばかり。 父にはよく怒られたよ」

 そう答えると、チラッと少佐の方を見る莉音。

 その少佐はつまらなそうに、窓の外を眺めている。

 「でも、今では良い思い出さ。 2人も、少しぐらい羽目を外してもイイと思う。 それが高校生らしさっていうヤツだよ」

 詳しい悪戯の内容は、この時話す時間が無くて、聞くことは出来なかった。


 「あ〜っと、ゴメン。 次の予定が有るから、そろそろお暇させて頂くよ。 全寮制で基本外出禁止の附属高だから、また合間を見て会いに来るからね」

 莉音は2人に告げると立ち上がる。

 2人も直ぐに立ち上がったので、莉音は右手を差し出した。

 握手を交わす彩雪音と鏡水。

 その様子を見て、少佐も立ち上がり、客人の出発準備に移行するのであった。




 一方、寮では大騒ぎとなっていた。

 国際戦戦科の生徒達がこぞって軍事戦戦科の戦々AクラスとDクラスの生徒を探していたからだ。

 「部屋に行ったけど、誰も居ない」

 「何処かで一緒に勉強しているのでは?」

 「訓練場かもよ」

 廊下が騒がしく、バタバタしているので、この日は午後から部屋で自主勉強をしていた特別クラスの鏡水以外の3名も、騒ぎに気付かされたのであった。

 焔村は廊下に出ると、走り回っている国際戦戦科の生徒達を呼び止める。

 「どうしたの? 騒がしいけど、何か有ったのかい」

 その質問に、

 「央部君だよね。 今までゴメンなさい。 無視するような態度を国際戦戦科の生徒達がとってしまって」

といきなり謝罪される。

 「いや、別に謝罪は要らないよ。 ところで急に......」

 焔村の続けての質問に、

 「彩雪音様と九堂さんが、璃月財閥の一族の超イケメンと会食をしているんだよ。 だから、みんな慌てて、今までのことを謝罪しようと必死なんだ」

との説明を受けた。

 「じゃあ、僕達は他にも探している生徒達が居るから」

 説明をしてくれた国際戦戦科の生徒達は、その場を立ち去る。


 『鏡水が......会食?』

 そのワードに呆然となる焔村。

 やがて、寮の外に出ると、人集りが目についたので、自然とそちらに足が向く。

 食堂やコンビニ、図書館が入っている建物は、附属高の生徒達で溢れていた。

 「ゴメン。 ちょっと通して」

 焔村はそう言いながら、三階へ。

 すると、そこは多くの人で身動きが取れない程であった。

 群衆に混じって聞き耳を立てる。

 「彩雪音様のあんな笑顔、今までに見たことがないね」

 「九堂さんも、本当に楽しそう」

 「あっ、今、あの超イケメンが九堂さんの頬を触ったよ」

 中の様子を見ていた前列の生徒達が、嬉しそうにワイワイ騒ぎながら、周囲に状況を伝えている。

 何とか覗き込もうとする焔村。

 彼は背が高いので、隙間から和食専用食堂内の様子がチラチラ見えるのだ。


 『鏡水のあんな笑顔......今まで見たことがない......』

 談笑する時の表情。

 びっくりした時の表情。

 頬を膨らませた時の表情。

 焔村が今まで見てきた鏡水とは明らかに異なる......

 『あれは、恋に落ちかけている表情だ。 きっと』

 そして、相手の男をよく見てみると......

 『高槁リオ』

 その事実に衝撃を受ける。

 焔村が鏡水と一気に疎遠になってしまった、あの農場での合宿。

 鏡水の態度が変わったように感じたのは、あの男が空港に迎えに来た時からであった。

 焔村は、ずっとそう感じていたのだ。


 駄目だとわかっていても、メラメラと嫉妬心がこみ上げて来てしまう。

 周囲の話によると、この会食は見合いのようなものだと噂されている。

 『見合い......だから鏡水は、俺への態度を変えたのか......見合い話が持ち上がっていたから......』

 燃え盛る嫉妬心。

 もはや抑えることは出来なくなっていた。

 『アイツさえ居なければ、鏡水は俺の方を向いてくれ続けた筈なんだ......』


  

 そのまま、食堂内を睨み続ける焔村。

 暫くすると、食堂の出入口が慌ただしい様子となる。

 中から出て来るようだ。

 そして、鏡水と一緒にリオと彩雪音、更にはその真後ろに、周囲を警戒している櫂少佐が出て来た。


 楽しそうに談笑しながら、階段を降り始める3人。

 人の群れは、その後をぞろぞろと付いて行く。

 焔村も人混みに揉まれながら、建物の外へ。

 あまりにも人が多いので、4人は少し早足で、大学のキャンパスの方へと歩き始める。

 

 5分程歩き、櫂少佐が附属高の生徒達に、

 「ここより先には付いて来ないで」

と指示をしたことで、生徒達の一団はようやく停止する。


 「今日は楽しかった。 じゃあ、また来ますね」

 莉音の挨拶に、

 「絶対来て下さい」

 嬉しそうに答える鏡水。

 「今度は、もっとプライベートな話をしましょうよ」

 彩雪音も笑顔でいっぱいだ。


 そして莉音は、2人に手を振って少佐と共に歩き始めた、その時であった。

 集まっていた附属高の生徒達から、

 「きゃあ〜」

 「誰か〜」

 「助けて〜」

と大きな悲鳴があがる。

 一瞬で、莉音が炎に包まれていたのであった......


 

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