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第21話(帰校後には昔話も)

合宿を終えて、帰校した幼楓達。

そこは相変わらずの世界であった。

ただ、石音と幼楓の活躍を知った尚武真紗人は、心境の変化か、亡き父の話を潮音から聞いてみたいと思うのだった。



 2090年8月16日。

 高槁農場での合宿は終了し、9人の高校生は条月大附属高の寮へと帰ることとなった。

 「ありがとうございました」

 農場主の高槁莉玖に挨拶を終えると、無人自動タクシーに乗り込む12人。

 潮音と櫂少佐、それと藍星中佐を含めての人数だ。


 「元気でな」

 莉玖は、またこの日の夜から父子2人だけの生活に。

 妻である潮音は、条月大そばにある理事長宅に居候しつつ、大学の官舎にも一部屋を借り、行き来して生活をしているからだ。


 大型タクシー2台が見えなくなるまで手を振り続ける莉玖。

 その姿を車内から潮音は見詰め続けるのであった。


 「潮音ちゃん、寂しいんでしょ?」

 「そりゃあ、当たり前よ。 莉玖も随分年をとってきたし、二重生活もいずれは終わりにしたいけど......」

 リオが成人するまでは、潮音が出来るだけ農場の自宅へ帰るようにしていたが、以後は殆ど単身赴任している。

 国の情勢が厳しいのもあって、なかなか一緒に暮らすことが出来ないのだ。

 「お互いが選んだ道だから、仕方ないのよね」

 そう答えると、窓外を眺め続ける。

 何か良い方法がないか、少し考えているようであった。


 首都中央空港を経由して、条月大とその附属学校が建つ、本州島中央部の某所に戻った11人。

 藍星中佐は司令部に戻らず、幼楓と石音の戦闘後の能力や健康状態等のデータを採るため、同行して暫く学校に滞在することとなっていた。




 この日の夕方。

 和食専用食堂で夕食を食べていた傭兵Aクラスの5人と戦々Dクラスの5人。

 2つのクラスは、一緒に食べている訳ではないが、上月会の一方的な国際戦戦科側からの交流禁止令が出て以降、国際戦戦科の生徒達から避けられている状態であったので、なるべく同じ時間に同じ食堂で食べるようにして、不測の事態に備えているのであった。


 すると、特別クラスの4人と戦々Aクラスの5人が、食堂に入って来るのが見えた。

 「おっ、無事に帰って来たようだな」

 尚武真紗人がクラスの仲間に向けて呟くと、近くの席でも、

 「良かった~。 国防軍の作戦に従事させられたと聞いていたから、京頼さんと神坂君も一緒で安心したわ」

 奥武浦紗季も、仲間に向けて嬉しそうに話し掛けていた。


 合宿から帰校した9人のうち4人の女子生徒は、カウンターで料理を取ると、紗季の座っているところの周辺に陣取るのだった。

 「京頼さん。 よくぞ無事で......」

 紗季が思わず涙ぐみながら、帰還を喜ぶ。

 「まあ、色々あったけど、帰って来れたわ。 心配してもらえて、有り難く思うよ」

 そう答えると、紗季や沼田美来が差し出した手を握り、握手を交わす。

 「学校、変わりない?」

 鏡水が紗季に確認する。

 「相変わらずよ~。 私達が孤立状態っていうところはね」

 国際戦戦科で、Dクラスに話し掛けてくるのは、上条彩雪音と斯波田上弦ぐらいだという。

 「高校3年間、ずっと総合1位と2位の2人には、誰も文句を言えないでしょ? 斯波田君は、流月のやった学内カード停止事件に関して、流月の代理でのなり直しみたいな感じだけどね」



 帰校した男5人の方は、傭兵Aクラスの5人の隣に座った。

 「相変わらずの感じだね」

 幼楓が食堂内を見回しながら、国際戦戦科の生徒達の避けるような雰囲気を感じつつも、一応確認する。

 「特別クラスと戦々Aクラスが居ない間は、俺達の方でDクラスの孤立状態への対応をしていたから大丈夫だ」

 成末夢叶が9人の不在中の状況を説明。

 大きな変化は無いということであった。

 「ところで、神坂。 お前が従事した作戦は成功したのか?」

 軍属となった傭兵Aクラスの5人も、幼楓と石音が何らかの作戦に従事する為、7月末から学校外に出て特別訓練をやったり、その後流求本島方面に移動していたことを知っていたのだ。

 だから、それがどういうものだったのか、知りたい気持ちもあるし、幼楓と石音が一足早く、国防軍の作戦に組み込まれたことに対し、少しだけ羨望の目で見ていた。

 「詳細は口外出来ないけど、作戦自体は大成功といったところ。 僕の力じゃなく、石音の能力のお蔭だけどね」


 少し離れたところで、他の5人の女子生徒の話を聞きながら、大人しい感じで食事を摂っている石音。

 その可憐さからは、戦いに参戦するような子には全く見えないから、本当に不思議な感じがする。

 「そうなのか? 『えっ、あの子が』と普通は思うよな」

 「訓練を一緒にやって来たから、ある程度、その能力の凄さは理解しているつもりだが......」

 木野下慧秀と江理朽優大の感想に、

 「絶対に怒らせたら駄目だよ。 地球上の構造物を自在に変化させる能力だから」

と答えて、苦笑いしながら肩を竦める幼楓であった。


 「ところで、央部。 なんだか元気が無いな?」

 いつもとは明らかに異なる、物静かな焔村の様子に気付いた真紗人。

 「はは〜ん。 九堂と喧嘩でもしたのだろ?」

 「いや、喧嘩はしていない......」

 ひとことだけ答えると、焔村は黙々と食事を続ける。

 その様子に、誂うのを止めた傭兵Aクラスの5人。

 そうしてはイケナイという直感が働いたからだ。

 やがて、焔村は食べ終わると、

 「ごちそうさま。 俺は疲れたから、部屋に戻るわ。 じゃあ」

と言うと立ち上がって、食器が載ったトレイを両手で持つと、そのまま返却口に置いてから食堂を出て行ったのであった。


 「神坂。 央部に何か有ったのか?」

 「わからない。 僕が作戦への従事を終えて、合宿先の農場に戻ったら、既にあんな感じで......」

 そう答えながら、一番事情を知っていそうな蒼浪理の方を見やる。

 「僕らはずっと一緒だったけど、10日間の合宿の最初から、あまり元気が無かったんだよ。 しかも、神坂君達が行方不明だという情報が流れて以降、それが悪化してしまって......」

 「神坂達は行方不明になっていたのか?」

 「それも作戦の一環だから。 秋月先生の」

 「先生か......」

 「あの先生は一体何者なんだ? 今回、最初の出動命令は、もっと異なるものだっただろ。 神坂と京頼だけではなく、特別クラスの4人全員が出撃する筈だったし、俺達5人にもその援護にあたる予備出動がかかっていたのだから」

 夢叶の疑問はもっともである。

 既に撤回された出動命令であったが、傭兵Aクラスの5人も、予備部隊の中に名前が有ったのだ。


 「『碧海の女神』とかつて呼ばれた英雄だよ、あの先生は。 俺の戦死した親父とも共に戦った筈だ」

 真紗人は、父の足跡を色々調べた結果、知っていた事実を初めて言葉にしたのだった。

 『碧海の翼』と呼ばれ、潮音と並び称される空軍の英雄だった亡き父。

 『知っているのならば、父の軍人としての話を聞かせてくれる日が来るだろうか......』

 生まれた時には、既に鬼籍に入ってしまっていた。

 その実像を知るだろう同輩が、偶然この学校にいるのだ。

 憧れだけの存在である父のことを少しでも知りたい。

 真紗人はそんなことを考えながら、仲間達に簡単な説明をしたのであった。

 

 


 その後、幼楓の元には、食事を終えた鏡水と石音がやって来た。

 「楓、これから専用教場に一緒に向かおうか? 潮音ちゃんの許可を貰った藍星中佐が、色々と確認したいんだってさ」

 2人が潮音経由の連絡を伝える。

 「あれっ、火のヤツは?」

 鏡水が周囲を見渡して、焔村が居ないことに気付く。

 「九堂。 お前と央部の間で、何か有ったのか?」

 気になった夢叶が遠慮なく質問する。

 「ちょっと、疎遠な感じになっているだけよ。 アイツが私のこと意識し過ぎなんだろうね」

 そう答える鏡水も、困ったなあという表情をみせるのであった。


 「今から教場へ行くのか? 秋月先生も居るのだろ?」

 珍しく真紗人が確認してきたので、

 「待っているらしいよ。 藍星中佐だけだと、学校の施設を使う権限が無いからみたいね」

 「俺も、少し聞いてみたいことが有るんだが......」

 いつもハッキリした物言いの真紗人が、奥歯に物が挟まったような言い方をしたので、かなり気になった鏡水。

 「ちょっと待ってて。 潮音ちゃんに確認するよ」

 その結果、構わないという返事を貰ったので、一緒に専用教場へ向かうことになるのだった。




 「おや、珍しい御仁が一緒だね~」

 教場で、藍星中佐と櫂少佐の2人と一緒に、幼楓と石音を待っていた潮音が、真紗人に声を掛ける。

 「先生と話しをしたことが無かったので」

 実は、父の実像を知るだろう潮音を少し避けていたのだ。

 世間で言われている評価が、虚像であった場合を恐れて。

 「私に会ってみようと決心したのは、この2人が極秘作戦に従事したことがキッカケなのかな? でも、いずれ聞きに来ると思っていたよ。 お父様のことを」

 既にお見通しだった潮音。


 2人の話を聞きながら、中佐が石音と幼楓のデータ採りを始めると、

 「尚武君。 それでどんな話を聞きたい?」

 「父のことで、先生が知っていることだったら何でも良いです。 父は俺の憧れの存在なので......」

 「教科書にも載っているぐらいだものね。 当人もそのことを知ったらきっと驚くよ」

 そう言いながら、昔を懐かしむような表情で話しを切り出したのであった。



 「当時の尚武少佐と初めて会ったのは、第一次流求戦役の時だから、2067年のことだったわね。 私は超大国軍の軍人だったのだけど、急速に緊迫し始めた南海方面の情勢に伴って、この国の国防軍にスカウトされ、国防航空宇宙軍の中尉になったばかりだったわ」

 ここで少し間を置いてから、

 「スカウトって言っても事実上、人間兵器としての条件付移籍って形式。 大陸の大国が大鋺島に攻め寄せて来た時に、その軍勢を一撃で撃破する為のね」

 「当時の国防空軍は、国の経済的衰退と2010年代以降の通貨安誘導政策が裏目に出たことで、最新鋭戦闘機を購入する金が無くてね~。 通貨が弱くなるってことは、軍事面に一番大きな影響が出るの。 超大国軍が開発し導入している高価な最新鋭兵器を購入することが出来なくなるからね」

 そして、当時の軍の情勢を説明する。

 「この国は2040年代以降、最新鋭軍事装備品を必要最低限のレベルですら揃えることが出来なくなって、私が中尉で特別任官した時の空軍も、ごく少数の最新鋭戦闘機に、旧世代のものを魔改造した戦闘機を混ぜ合わせ、空軍航空部隊として編成していたのよ。 貴方のお父様は腕の良いパイロットだったから、その数少ない最新鋭戦闘機を割り当られていたわ」


 「大陸の大国の最大の目標は、大鋺島の占領だとわかっていたから、第一次流求戦役開戦の直前に私は極秘裏に入国していて、攻め寄せる敵軍を次々と沈めていったのよ。 私の攻撃能力は恒星のエネルギーを使った長射程の高出力エネルギービームを無尽蔵に撃つことが出来るの。 だから、当初私の存在を知らなかった敵艦隊や上陸部隊のほぼ全ては大鋺海峡に沈んで、圧倒的だった」

 自身の状況を語った後、真紗人の父の話もする。


 「空の戦いは、真紗人のお父様が所属する部隊が中心だったわ。 私の能力は非常に高いけど、複数同時に来られると、対応が遅れる場合もあるから、基本的に私の攻撃は島に接近する艦艇を沈めることへの対応で、空中戦は空軍と国防海軍の航空部隊でという分担。 音速を遥かに超える速度で飛行する戦闘機に、人間が発射したエネルギービームを的確に命中させるのは、相当難しいっていうのもあってね」

 「尚武少佐は、第一次流求戦役の大鋺島沖空中戦で大活躍したわ。 我が軍には、超大国軍太平洋方面軍の最新鋭戦闘機部隊の援護もあったけど、そうした状況の中でも、旧型機が中心の第二空戦隊は特筆すべき戦果をあげたの。 もちろん、私も必要な時には、地上から援護したけどね」


 そして、具体的な会話を思い出すのだった。


『「悪いな〜、秋月中尉。 中尉が放った援護のビーム、全然敵機に命中しないから、俺達の部隊で全部撃墜しちゃったよ」

 「別に構わないわ。 私は恩賞や昇進に興味が無いから、功績は全部同じ所属である航空宇宙軍の部隊に譲ってあげているの。 国防海軍や国防陸軍に手柄を横取りされないようにね」

 「またまた〜。 美しい顔に似合わず、無理な言い訳しちゃって」

 「本心よ。 それに誤って、味方機に当てる訳にはいかないから」

 「俺達の編隊が敵機部隊を撃墜し易いように、追い込みを掛ける為の空撃ちビーム攻撃だろ? いつもサンキューな」

 「なんだ、わかっているのなら、最初っからそう言いなさいよ。 とりあえず貸しだからね」

 「わかったよ」』


 このような会話が時々交わされていたと打ち明ける潮音。

 その逸話を聞き、

 『親父は意外とフランクな人柄だったのだな』

と思う真紗人であった。



 「圧倒的優勢だった第一次戦役の前半。 でも、転機が訪れたの」

 「それは、私の行動を封じる為に、大陸の大国が核兵器を使ったから」

 その状況を思い出すと苦々しい表情を見せる潮音。

 「狙われたのは、超大国軍の駐留基地もある流求本島。 大陸間弾道核ミサイル複数の発射を検知した超大国側からの情報で、私は流求本島に瞬間移動して防御シールドを張ったから、大きな実害は無かったけど、以後、流求本島を離れられなくなって、戦況は膠着状態に」


 「初期動員兵力の壊滅という想定外の大被害を出したことで、あとに引けなくなった大陸の大国軍は、北・西・南の国境地帯に展開していた兵力も撤収して軍事力を再編成。 持てる戦力の大半を投入して、再度大鋺島に迫ったわ。 その接近阻止を図って、国防軍も太平洋方面軍も大鋺軍と一緒に全力で戦い、双方痛み分け」

 「消耗戦が続き、やがて一旦停戦することに。 大陸国側は核兵器を使ったことに対する、国際世論の猛批判を浴びたこともあり、珍しく下手に出た内容での停戦条約となったのよ」

 ここで第一次流求戦役の話は終わる。


 「戦後、大鋺島の占領を阻止出来た立役者として、国防航空宇宙軍流求方面空戦隊が持て囃されたの。 特に第二空戦隊のエースパイロットだった尚武少佐がね。 『碧海の翼』という異名を付けられて、数々の恩賞を貰い、中佐に昇進したけど、当人の希望が通って、他方面へ異動はしなかったわ」


 そして、第一次戦役後の逸話を語りだす。


『「「碧海の女神」様は、本土に帰るんだってな」 

 「私には、息子が居るからね。 まだ小学生だから、母が恋しい年齢なのよ」

 「そっか〜。 こっちに呼び寄せれば良いんじゃないか?」 

 「夫は北の大地で大規模農家をしているから、そうもいかないわ」 

 「敵の停戦は擬態だよ。 それには気付いているだろ? あの国があんなに不利な条件を、ただで飲む筈が無い」

 「わかっているわ。 でも、この国の国民も大鋺国の国民も、『勝った』と言って喜んでいるのでしょ?」

 「『勝って兜の緒を締めよ』ではないけど、敵は我々を油断させておいて、必ず捲土重来を図ってくる。 次の戦いが本当の危機となるだろう。 先ずは中尉の能力を使わせないように、停戦後、外交的な圧力を掛けてきている......」

 「だから次の戦いの前に、必ず流求本島へ戻って来るわ。 それに私は少佐になったのですよ、中佐」

 「そうだった。 忘れていたよ。 次に再会した時にも、中尉って呼んでしまうかもしれないが許してくれ。 俺の頭には、中尉で刷り込まれちゃっているからさ」

 「わかったわ。 じゃあ」 

 「『また』が無い方が好ましいけど、多分、またな」』



 「それほど頻繁に会話をする間柄だったという訳では無かったけど、お互い最前線で戦う立場だったから、会った時には、結構真剣な話題の時もあったのよ」

 少し説明を付け加える潮音であった。


 「5年後。 尚武中佐の予言は的中。 敵は特に大鋺国を油断させる為に、対岸の大陸側の都市を一部割譲して、周辺地域を非武装地帯にするという停戦条約を飲んだのよ。 既に第一次流求戦役で、軍備の大半を失っていた大鋺国も私達の国も、防衛力は半分程度に低下していたから、敵の用意周到な急襲に防衛ラインが一気に突破されてしまったの。 しかも大鋺国は政府や軍内部に、大陸からの謀略の手が無数に伸びていて、防衛ラインが突破されると、政権は崩壊。 元々同じ言葉を話す同族同士の国だしね。 あっさり降伏してしまった」

 この話をする時の潮音は悔しそうであった。

 停戦条約締結後は、お役御免といったばかりに、お払い箱にされたばかりか、逆に人間兵器として恐れられ、閑職に異動させられていて、最前線の様子は危機発生まで殆ど知らされていなかったからだ。


 「本来はここで戦いは終了だった筈。 でも目障りな流求方面の軍勢を一気に叩こうという方向に、敵は方針転換したのでしょう。 謀略戦を駆使した完勝のそのままの勢いで、崎縞諸島方面に攻め込んで来たわ」

 「敵は私が手出し出来ないように、流求本島方面に毎日、弾道ミサイルや対地ミサイルをランダムに撃ち込んできたの。 私はエネルギーシールドを張り続けるしかなくて、防戦一方。 しかも「秋月潮音が攻撃してきたら、核攻撃と同等とみなし、弾道弾核ミサイルで反撃する」という一文が発表されていたため、この国の為政者たちは私を攻撃に投入することを躊躇したのよ。 よって私に命じられたのは流求本島一帯の専守防衛。 それ以外の地域への敵の侵攻を防ぐ役割は、私以外の国防軍に一任された」

 相変わらず渋い表情のままの潮音。

 今でも悔しさは忘れていないようであった。


 「第一次流求戦役で失った戦力を、国が貧しくて十分に補充出来ないまま、5年後の開戦で、苦境に陥った我が国。 国力差が大きく、非常に厳しい情勢の中、尚武大佐は自ら出撃していったのよ」


 そして、再び当時の逸話を思い出す。


『「中尉。 防御は君に任せた。 俺達は敵のこれ以上の侵攻を必ず防いでくる」  

 「核攻撃が有っても、私のシールドを破ることは出来ないから、後顧の憂いなく、昇進したのだから思う存分暴れてきて下さいね」

 「それはわかっているさ。 この島には俺の家族も暮らしている。 2人の子供もな」

 「奥様は妊娠中でしょ?」 

 「おお、よく知っているな。 だから生まれてくる子も含めた家族4人を中尉が守ってくれていると思うと、安心して出撃出来るよ」

 「無理は禁物よ。 前回の戦いに比べて、我軍の航空戦力も海上戦力も半分程度なのだから......」

 「今回は崎縞諸島が戦場だし、なんとかなるだろう。 あそこには巨大滑走路もあるし、地の利もある」

 「......」

 「そんな顔するな、少佐。 じゃあ行ってくるよ、またな」』


 「わざわざ、私が不眠不休でシールドを張っている場所に立ち寄って、少し話をしてから出撃して行ったの。 きっと戻って来れない覚悟もあったのだと思う。 そして、これが最期の会話だった......」



 その後、尚武大佐率いる第二空戦隊は、都京みやこ諸島にある大滑走路を拠点に出撃して、敵の戦闘機編隊の石我輝島侵攻支援作戦を何度か撃退した。

 しかし、敵側は最新鋭戦闘機を投入してきたことで、形勢は一気に悪化。

 第一次流求の戦いの時、潮音や超大国軍太平洋艦隊に全空母を撃沈されていたことで、大陸の大国には機動艦隊が存在しないことと、超大国軍の空母部隊の支援もあって、何とか耐えてきていたが、降伏した大鋺島に最新鋭機部隊が本格的に配備されると、出撃の度に帰還機が半減する状態が続いた。

 そして、第二次流求の戦いが開戦して約2か月後。

 尚武大佐率いる流求方面第二空戦隊は、煎面島を占拠し、石我輝島へと迫った敵戦力の上陸阻止の為、出撃したが、誰も帰って来なかったのであった......

 石我輝上空に達する前に、敵の戦闘機数百機に待ち伏せされ、全滅したのだ。

 


 以後、石我輝一帯は敵の手に陥ち、敵の先遣隊は更に侵攻を続け、崎縞諸島の最東端に位置する都京島一帯にも迫ったのであった。 

 第二空戦隊が拠点としていた四文字島と夷楽舞島が無血占領され、数百名しかいない都京島防衛部隊は避難を希望する島民を連れて、島の北部へ移動を続けていた。

 その情勢を知った潮音は、上司の櫂大佐に、

 「都京島陥落を防ぐ為に、私が出撃します。 その許可を下さい」

と申し出たのだ。

 「いや、俺の一存では決定出来ないぞ、潮音」

 「あの島一帯には、私達の同僚の空軍部隊が駐屯しています。 見殺しにするのですか?」

 「そう言われてもな......」

 「わかりました。 私が独断で行きます。 大佐は見過ごして下さい。 少佐が勝手に行ってしまったと」

 「.......」

 「敵の流求本島への攻撃はかなり弱まっています。 弾道ミサイルも対地ミサイルも払底しつつあるのでしょう。 今なら都京諸島だけは救えます。 だからお願いです」

 「......わかった。 俺が潮音をスカウトしたのだから、この独断行動でお前がクビになる時は、俺も軍を辞める覚悟だ」



 そして、その日の深夜。

 潮音は、瞬間移動して四文字島に。

 上陸していた敵の尖兵部隊約2000人を一人で殲滅し、敵艦艇を全て沈めたことで、都京諸島は敵の占領地となるのを免れたのであった。

 ただ、この戦闘の時に、潮音は第二空戦隊が全滅していたことを初めて知ったのだと言う。

 数日後、増援部隊を率いて四文字島に到着した櫂大佐と一緒に、第二空戦隊が使っていた簡易宿舎を見て回り、遺品を回収。

 その中には、尚武大佐が家族にあてた遺書も含まれていた。

 戦後、それらの遺品を遺族に引き渡す作業を、潮音は櫂大佐と続けたのそうだ。



 「ざっと、こんなところよ、真紗人君。 君のお父上様は、英雄となるような堅苦しい人物とは正反対の、ざっくばらんな家族想いの方だったわ」

 潮音が尚武大佐の印象で最後を纏め、話し終えたのであった。


 涙ぐむ櫂少佐。

 藍星中佐も同様だ。

 「なんで、アンタ達が泣いているのよ。 特に中佐。 仕事が殆ど進んでいないじゃない?」

 呆れた表情をみせる潮音。

 「だって、出撃する直前の尚武大佐が、当時の秋月少佐のところに顔を見せたシーンなんかは、厳しい戦況に覚悟を決めた感じではありませんか......」

 「でも彼は、最後に『またな』って言ったのよ。 だから、決して死ぬつもりでは無かったと思うの。 3人目の我が子をこの手で抱き上げるまではね」

 潮音が自身の考えを答えると、その3人目である真紗人は潮音に深々と頭を下げたのであった。



 

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