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第20話(帰宅)

潮音達は、特別部隊の追跡をほぼ振り切って、財閥の施設に到着した。

そして、潮音は用件を済ますと、帰宅する。

そこは、笑顔が溢れる場所となるのであった。


 首都中心部にある璃月財閥本社内。


 「大御所様。 ご当主様はこちらでお待ちです」

 潮音は、側近達の『大御所様』という呼称が気に入らないものの、イチイチいちゃもんを付けるのも、大人げないと考えていた。

 しかもこの時は、国防軍の部下達に見つからないように、大御所として財閥で動く時の老け姿に変身していたのだから。


 『この姿の時は、大目に見るか......』

 そんなことを考えながら、側近達を連れて、財閥本社のCEO室に入る。


 すると、いきなり莉音に抱き着かれてしまった。

 「母様。 よくぞご無事で」

 親子の情をみせてしまう、莉音の言葉に対し、

 「まさか莉音まで、私が死んでしまったと考えていた訳ではないだろうね」

 あえて厳しく問い詰めるような言い方で答える。

 「滅相もございません。 あの程度の攻撃では、傷一つ負っていないとわかっておりました」 

 「では今、大袈裟な反応をし、私に抱き着く必要はあるまい。 財閥へ仕える者達の面前で、私と莉音の絆の強さを見せつける必要など無いのだ。 巨大財閥を率いる、強き者として」

 「なにぶん、暫く音信不通でしたので、私自身の行動を抑制できませんでした。 どうかお許しを」

 莉音はそう答えると、ようやく潮音から離れ、跪いて最敬礼をするのであった。



 秋月潮音の本来の名前は、璃月詩音。

 財閥現当主の母として、そして創業者である祖父直系で血の繋がりがある唯一の孫として、『大御所様』と尊称される絶大な権力を握っている女性というのが、『碧海の女神』とは異なる、もう一つの顔であった。


 普段の潮音らしくない会話は、大勢の側近達が居る場所であったので、母子の対面ではなく、璃月財閥の前当主と現当主という関係を前面に出したものであった。

 「皆の者。 下がって良い」

 詩音が周囲に指示を出すと、頭を下げた後、全側近達がCEO室を退出する。

 そこでようやく、本来の会話を始めるのだった。


 「リオ。 今日は早退出来る?」

 「はい、大丈夫です」

 「じゃあ私は、このまま櫂大将への申告に行って来るわ。 戻って来たら、高槁農場へ一緒に帰りましょう」

 「わかりました、母上」

 「それでは、準備よろしく〜」

 潮音とリオらしい短い会話を終えると、潮音は詩音に戻り、CEO室に隣接する控室で待っていた側近達に指示して、国防航空宇宙軍司令部のある、臨海部の首都新空港建設予定地域へと向かうのであった。




 「総司令官閣下。 璃月財閥の大御所様が面会を求めて来訪されておりますが、いかが致しましょうか?」

 櫂大将は、国防航空宇宙軍の司令部が有る、臨海地区政府中央庁舎の執務室で事務仕事に従事していた時、副官からこのように意向を確認されたのだった。

 「ちょうど今、手が空いている。 直ぐに面会しよう」

 その返事を聞き、急いで準備を始める副官。

 手際良く執務室内の来客用ソファーの向きを整え直し、テーブル上に茶菓子とお茶のセットを並べて、準備を終える。


 約5分後。

 事務方の案内で、総司令官が在室している執務室の前に、側近を連れず一人で現れた璃月詩音。

 室外で待っていた副官から、

 「お待ちしておりました。 どうぞお入り下さい」

と丁寧な挨拶をされる。

 それに対し詩音は、

 「ありがとうございます。 急で申し訳なかったですね」

と返事をしながら、副官が開けたドアを通り抜けて、執務室に入るのだった。


 「久しぶりですね。 そのお姿を拝見するのは」

 デスクで仕事を続けつつ、待っていた櫂大将が、立ち上がってから詩音(潮音)に声を掛けると、

 「少し、内密の話をするので、副官達も一旦控室に下がっていてくれないか」

と指示をする。

 「了解しました」

 敬礼しながら、隣室へと移動する制服組(武官)の副官と、総司令官の事務仕事を手伝っていた文官(事務方)の秘書官。


 それから2人は、本題に入るのであった。

 「今日は、大御所様と呼ぶべきかな?」

 「いえ。 秋月少将として、申告に伺った次第です」

 大将の質問に答える潮音。

 「現時点をもって、極秘作戦は全て終結致しました」

 立ち上がって直ぐに申告すると、それに頷いた大将は着席するよう薦める。

 それに従い、潮音は座り直すと、

 「閣下、ありがとうございました。 私の戯事に付き合って頂き」

 「いや、名豊の余計な策謀が無ければ、詩音殿が動く必要は無かったのだから。 礼を言わねばならぬのは、私の方だ」

 「とにかく、あの子達を死なせずに済みました。 まだ高校生ですし」

 「破壊工作如きでは、本当に無駄死にだものな。 それを避ける必要があると私も考えた結果だよ。 とにかく良かった」

 今回の潮音の作戦が、無事に終わったことをお互い労うのだった。


 「退役まで私も残りあと半年となってしまった。 詩音を軍に引き込んだのは私なのに、先に軍を去ることとなって、本当に申し訳ない」

 そう言って大将は、潮音に頭を下げる。

 「その代わり、大事な大事なご子息に、私の本名から『詩』の字をとって、名付けられたではありませんか。 しかも莉音の親友とする為、莉玖の元へ長い期間預けてくれた。 それだけで十分ですよ」

 「詩太のことも、今後は公私に渡って面倒見てくれるよう、詩音に頼むしかない立場となってしまうな。 ただでさえ、財閥の仕事が大変忙しいだろうに......」

 「うちの子も詩太君同様、随分成長しましたからね。 財閥の方は殆ど任せていますので、大丈夫ですよ」

 笑顔で答えた潮音。


 そして最後に、璃月財閥の大御所璃月詩音として、櫂大将と握手をすると、

 「それではお暇致します。 今日は特別部隊の部下達に追い掛けられている立場なので、急いで農場に戻らないとイケナイのです」

と、悪戯顔で言い残し、退室したのであった。



 「総司令官。 璃月財閥の大御所様は、どのような御用だったのですか?」

 短い時間の面会終了後、副官と秘書官は経済界の重鎮と総司令官が何を話し込んでいたのか、興味津々といった様子で櫂大将に質問する。

 「公務と私事、両方だったね」

 そう答えた大将。

 少し意味がわからないという顔を2人が見せたので、

 「君達も更に経験を積めば、私の言った意味がわかる日が来るかもしれないね」

と意味深な言い方をしてみせる。

 「それは、時間が経てば公表されるということですか?」

 「公務に関してはな。 私事は私の息子と大御所様の息子の関係のことだから、公表はされないぞ」

 少し笑って答えると、この話題は打ち切り、直ぐに事務仕事に戻るのであった。

 

 

 

 大御所として、財閥本社に戻った潮音。

 側近達を下がらせると、いつの間にか璃月詩音から秋月潮音へ、その姿も戻っていたのだった。

 そして、大深度地下にある、専用超高速鉄道のホームに降り立つと、既にリオが幼楓、石音と合流して待っていた。

 「それでは帰りましょう。 みんなが3人の無事の到着を、首を長くして待っていますから」

 リオの言葉を合図に、列車が入線してくる。

 乗り込む4人。

 トンネルの断面面積が小さいので、車両もかなりコンパクトだ。

 やがて、自動的に動き出す列車。

 ほぼ一直線の軌道上を猛スピードで、北の大地へ向け駆け抜ける。


 走行始めた車内では、

 「みんな、ご苦労様でした」

 潮音が3人に、軍からの命令が発出されて以降の、数々の協力に対して礼を述べるのだった。

 「潮音。 礼の言葉は要りません。 本来姉様が動く必要の無い案件だったのですから」

 リオがわざとらしく、姉弟関係っぽい言い方で返事をする。

 「姉様?」

 石音と幼楓が怪訝な表情。

 「表向きの関係さ。 詩音と莉音は母子。 リオと潮音は弟姉。 でも父が居る農場ではやっぱり母子。 複雑な使い分けをしなくてはならないんだ」

 潮音がその場凌ぎで設定した人間関係が、徐々に複雑となっていることを暗に批判しているのだが、潮音は知らんぷり。

 そうしたリオの説明に、今日の出来事の全てを納得出来た幼楓と石音。

 「朝、ホテルで会ったデュオさんが、詩音って潮音ちゃんのことを最後に呼んで話していたから、言い間違いだと思ってた」

 石音も秋月潮音の本当の名が、璃月詩音だと初めて知った感想を述べる。

 「あまり言い触らさないでよ〜。 見た目と実年齢のギャップの激しさから、使い分けせざるを得ないんだし」

 潮音は座席を大きく倒して寛ぎながら、2人に釘を刺す。

 

 やがて列車は、農場の真下にある財閥の施設に到着したのであった。



 農場の母屋で自主勉強をしている7人の高校生。

 この日の農作業を終えて、莉玖と櫂少佐も母屋で一息入れていた午後4時頃。

 別棟に繋がる渡り廊下への出入口ドアが開いたので、9人の視線が向くと、リオが入って来るのが見えたのだった。

 「おかえり、リオ。 少し早いね」

 莉玖がいつも通りの挨拶をしたところ、その後ろにも人影が見えた。

 「おかえり、みんな」

 莉玖は直ぐに言い直す。

 一旦視線を戻した他の8人も、改めて出入口ドアを見詰める。

 「ただいま〜」

 少し間を置いてから、大きな声で元気良く入って来た潮音。

 「久しぶりだね、みんな」

 幼楓は、少し堅い挨拶で。

 「ちゃおー」

 石音は手を振りながら、続けて母屋に入って来たのだった。


 直ぐに立ち上がった鏡水が、石音の元に駆け寄って抱き着く。

 「おかえり、石音。 もう会えないかと思ってたよ」

 そう言うと、涙ぐんでしまう。

 「大袈裟だな~、水は。 潮音ちゃんが一緒なのだから、死体で帰還になんてならないわよ」

 石音らしい、冷静な口調で、背の高い鏡水の頭を背伸びして撫でてあげる。

 

 「楓。 怪我も無く、本当に良かった」

 焔村も駆け寄って、握手を交わしてから、グータッチする。

 「今回は無事に終わったよ。 先生のお蔭でね」

 幼楓は潮音の方を見ながら、焔村の出迎えに応える。

 そして、戦々Aクラスの5人に囲まれる幼楓と石音。

 握手したり、ハグしたり、それぞれが2人の無事の生還を祝うのであった。



 「詩音、おかえり。 ご苦労さま」

 莉玖は、久しぶりに愛妻の本来の名前を呼んでからハグをする。

 「なんとか、あの子達を軍部に悪用されずに済んだわ。 ちょっと策を弄し過ぎたかな?」

 そう答えると、軽くキスを交わす。

 「詩太。 さっきお父上にだけ挨拶してきたから、遠慮なく国防軍に報告して頂戴。 『3人の帰還をこの目で確認』ってね」

 潮音は少佐に指示をすると、詩太ともハグをするのであった......




 「またやられた~」

 知久四大佐は、櫂少佐のメールの着信に気付くと、本文を読むことなく、悔しがる。

 そして、

 「藍星中佐以外に、戻って来いと連絡してくれ」

 部下に指示すると、藍星中佐には自ら連絡を入れた大佐。

 すると、

 「今、高槁農場に到着しました」

との第一声。

 「中佐、随分早いな」

 潮音にまんまと逃げ切られた悔しさを隠しきれない大佐は、中佐が既に空港を離れていたことを咎める言い方をしてしまう。

 「大佐、申し訳ありません。 最終便の到着を待たずに、先に移動することを独断で決めてしまい」

 「最終便?」

 「はい。 午後3時前に到着した便に3人が乗っていなかったので、司令官はきっと農場に戻られていると思いまして......」

 「それで?」

 「たった今、司令官と合流出来ました」

 中佐からの通話の映像に、潮音の姿が近付いて来る。

 「あら、大佐じゃない? 久しく会ってないけど元気みたいで良かった~。 今回も私の勝ちね~」

 相変わらずの軽い感じで、勝利のポーズを決める潮音。

 後ろでは、櫂少佐を含めた10人余りが拍手喝采。

 「総司令官には、既に申告を済ませてあるから、あとはよろしく」

 そう言い残すと、映像から潮音が離れて行く。

 「だそうです」

 悔しさと安堵が入り混じった複雑な表情の知久四大佐。

 しかもいつの間にか、直属の上司では最上位階級の櫂大将に、作戦終了の申告までしていたとは......

 通話の映像に映るリアルタイムでの潮音の姿を、内心はともかく、部下の前なので睨みつけつつ、

 「中佐は、帰って来た2人の高校生のデータや健康状態等のチェックを進めてくれ」

 改めて指示を出し直すと、藍星中佐は敬礼して通話が途切れたのだった。


 そのやり取りを横で見ていた久萬邊中佐。

 「統合作戦本部長への報告も、要らなそうですね」

 ひとこと呟くのであった。



 その後直ぐに、櫂大将より知久四大佐に連絡が入る。

 「特別部隊のみんなには、ご苦労だったと声を掛けておいてくれ」 

 総司令官から、直々の言葉を頂いたので、恐縮する大佐。

 そして、やはり本部長への報告は要らないという指示があったのだ。

 「先日大佐が本部長の元へ、皇江作戦部長と共に報告に行った時、私が同席していたのは不自然だっただろ?」

 「はい、確かに」

 「あの時、私の方から、秋月少将が立案した作戦の後半部分を説明しておいたのだ。 だから、破壊工作成功後、一定期間3人が所在不明になったのも作戦の一環ということを、蠣埼大将も承諾済みだから」

 その言葉を聞き、再び悔しさがこみ上げてくる大佐。

 作戦の後半部分を打ち明けて貰えなかったのは、秋月司令官からの信頼が足りないのだと思ってしまったのだ。

 その機微に気付いた櫂大将。

 「君のことを少将は信頼しているよ。 その点は勘違いしないでくれ。 ただ今回の作戦の承認を得る過程で、大佐の決裁は要らないだろ? しかし、最上位者の承諾は絶対に必要だ。 軍部全体に『破壊工作は赤子の手をひねるよりも簡単』という印象が付くのを避けたいが為の秘匿作戦だから、許してやって欲しい」

 そこまで言われてしまうと、返す言葉も無い。

 「失礼致しました。 引き続き、少将の補佐の任務に精励致します」

 大佐の言葉に頷く総司令官。

 「秋月少将のこと、呉れ呉れも頼むよ」

 そして、通話は途切れたのであった。


 『やはり、まだまだ大将閣下には敵わないな。 少将からの信頼も、少将への理解も』

 直接話をして、改めて実感した知久四大佐。

 穏やかな櫂大将の言葉の端々には、若い頃、潮音を国防軍にスカウトする前から、その良き理解者であったことで、伝統的に右派が強い国防軍内部で苦労を重ねた過去の経歴と、そうした長年の行動から築きあげられた潮音との強い絆が常に感じられるのだ。

 それに比べると、自身など、到底及ばないことは、大佐自身自覚していた。


 常に最強の人間兵器として、色眼鏡で見られている秋月潮音。

 誰にも真似できない、軍人としての絶対の功績。

 その功績から『英雄』という表現での人々からの賛辞と、それに対する妬みや中傷も軍内部では強い。 

 多くの敵を殺めてきたことから、周囲の人々の命を大事にするリベラルな姿勢。

 明るく、茶目っ気のある、壁を作らない性格。

 そうした潮音の実像の全てを知り、憧れる将官もごく僅かに存在しており、その一人が知久四大佐であった。


 『まだまだ俺はダメだ。 この程度の出来事で気持ちが沈んでしまうようでは......』

 作戦の全容を教えて貰えないままであったことへのショックを、なんとか振り払いながら、再び自身の仕事に集中する、この日の大佐であった。

 

 


 高槁農場では、無事の帰還を祝う簡単なパーティーが行われていた。

 特別部隊の技術担当として、農場を訪れた藍星中佐も、潮音から、

 「幼楓も石音も、作戦で心にダメージを受けているのよ。 だから、当面は検査も調査も控えて貰うから。 これは命令よ」

と厳命されてしまい、そのままパーティーへの参加も義務付けられたのであった。


 「ここでの合宿も残り2日間だけど、1日早いお別れパーティーを兼ねたものにしましょう」

 潮音の挨拶を皮切りに、パーティーは始まる。

 次々と作られる料理。

 料理担当は、莉玖とリオ、櫂少佐の3人。

 それを取り仕切る料理長役は、潮音であった。

 「ほら、3人共、手を休めている暇はないのよ」

 次々と作るメニューを指示する潮音。

 その厳しい指導にも、楽しそうに料理をする3人。

 昔から潮音は不在がちで、リオや少佐が子供の頃は、3人で料理をする機会が多かったのだ。


 「こうしていると、20年ぐらい前のことを思い出しますね」

 料理を久しぶりに行う、少佐の感想に、

 「あの頃は大変だったよ。 食べ盛りの子供を2人抱えた父子家庭みたいなものだったからね」

 莉玖は懐かしそうな表情で、当時を振り返る。

 「そうでした。 小学校高学年になると、詩太と一緒に父を交えて、料理で試行錯誤の日々。 農作業を手伝ってくれる期間従業員の中には、料理人のアルバイトの経験豊富な方も結構居たから、教わったりしてね」


 子供の頃の出来事を懐かしむ3人の会話に、割り込むことのできない雰囲気を感じた潮音。

 「どうせ私は、母親失格ですよ......」

 わざとらしく不貞腐れてみせて、気を引こうとする。

 「英雄と呼ばれる人を輩出する家庭って、家族の支えがあるからこそ、平穏無事が維持されるのでしょうね。 いつの時代も、英雄は家庭に不在がちなのですから」

 それらしく聞こえるリオの表現。

 『ウンウン』

と深く頷く、莉玖と詩太。

 「今のリオの言葉、大した意味は無いじゃない?」

 「カッコいい言葉に聞こえれば、それらしくて良いと思いますよ」

 潮音に対して珍しい少佐の反論に、笑いが起きる。

 「詩太も言うようになったなあ~」

 「どうせ条月大では、いつも潮音に色々言われっぱなしなのだろ?」

 リオと莉玖の相次ぐ誂いに、頭を掻く少佐。

 リオと詩太が大人になってからは、それぞれが忙しくなってしまい、このような機会はめっきり減ってしまったが、それでも偶に会った時には、いつでも昔の仲良し家族のような関係に戻ることが出来る。

 そんな姿を見ると、つい笑顔になってしまう潮音であった。



 母屋の台所からリビングに移動すると、こちらでは新たな英雄2人が質問攻めを受けていた。

 京頼石音は、女子3人に囲まれている。

 「石音〜。 本当に敵の大要塞を完全破壊出来たの?」

 藍星中佐から教えて貰った、大要塞の推定規模を知り、信じられないという表情の鏡水。

 「私の能力だけでは無いよ。 潮音ちゃんの能力を少し借りて、私の力を増幅させたから......」

 「いつの間に、そんな連携技を習得したのよ」

 「ここで実施した1週間の訓練で」

 「そっか〜。 石音達と入れ替わりで、今、10日間の合宿中だけど、私の能力は殆ど向上していないよ。 随分差がついちゃったなあ~」

 鏡水は改めて、少し焦りを感じ始める。


 「神坂君は、敵の新型偵察機を撃墜したんだって? すごいなあ~」

 「台風の暴風雨の中でも、偵察や攻撃を出来るなんて、化け物のような機体じゃないか。 それを風の一撃一発で......カッコいいね」

 「その時作り出した風って、秋月先生の援護無しだったんでしょ?」

 神坂幼楓は、戦々Aクラスの男3人から色々と質問をされていた。

 最初に藍星中佐が、今回の作戦の成果をみんなに説明していたからなのだ。


 「こっちはこっちで盛り上がっているのね」

 潮音が、少し嬉しそうに確認すると、

 「今回の成果は、公式に発表されないのですよね?」

 星都が目を輝かせながら、質問する。

 「もちろんよ。 発表したらうちの国防軍の仕業だって、敵に教えるのと同じでしょ?」

 「だったら、詳しいことを知っている一般人は、僕達ぐらいなのですよね。 それってやっぱり凄いことだなって思ってしまって」

 「北條君は、国防軍への任官希望だったわね。 だったら、北條君達若い人達が努力して、石我輝島を中心とする崎縞諸島を奪還してから、後日談で発表するのは有りよ」

 潮音のその言葉に、爛々と目が輝く星都。

 同じく任官希望の莉衣菜や夏織も同じような状況であった。


 「いつの時代も、戦争での勝ちは人々を高揚させるってことね」

 潮音が戦々Aクラス5人の少し浮かれた様子を見ながら、ぼそっと呟く。

 それを聞き逃さなかった藍星中佐は、

 「司令官。 だからこそ、一旦死亡したと判断される情報を流れるようにして、雲隠れしたのですよね。 国防軍内での楽観論蔓延を防ぐ為に」

 「大陸の大国と国力が逆転されて、既に約80年。 技術的にも差がついているのに、完勝ってそういう不都合な真実を忘れさせちゃうのよね。 一度の局地戦での勝利が原因で、国を滅ぼすような大敗に繋がってしまう例もある訳だから......」


 普段は煙たい存在として扱われている潮音。

 ただ、勝利した時だけ称賛され、重宝がられる便利な道具扱いされており、そうした風潮が祖国を滅ぼす原因になるのではと、いつも危惧している。

 敵対する大陸の大国と、国力も技術力も軍事力も劣るのに、オーバーテクノロジーの人間兵器として、秋月潮音が存在することで、この国が道を誤って、国家としての滅亡という最悪な結末に繋がらないように、常に気に掛けているのだ。


 「潮音ちゃん。 今日ぐらい、お固い話題は無しにしようよ」

 少将と中佐としての2人の会話を少し耳にした鏡水の言葉に、頷く潮音。

 「そうね。 鏡水の言う通りだわ」

 気持ちを切り替えて、出来た料理を並べるように、高校生達に指示する潮音。

 ただ、焔村だけが元気無い様子に、

 『どうしたのかな、村は』

と気になる潮音であった。



 その後、全員が揃って夕食会が始まる。

 和気あいあいの雰囲気の中、やはり焔村だけは黙々と目の前の料理を食べているので、潮音はその横に座り、

 「どうしたの、村。 元気ないじゃん」

と声を掛ける。

 しかし、ろくに返事もせずに、静かなまま。

 その様子に気付いた鏡水が、

 「潮音ちゃん、ちょっと」

と手招きをする。

 そこで鏡水のところに移動し、説明を受けた潮音。

 「なるほどね~。 私達が死んだと思って、ショックを受けてから引き籠もっていた訳か〜。 でも、私達が戻って来て、この明るい雰囲気なのに、まだ元気が無いってことは......本当の理由は別のことね」

 ぴーんときた潮音。

 テーブルを見渡すと、その座っている場所に変化があることに気付く。

 今まで焔村の前には、大概鏡水が座っていたが、今見ると対角線上の最も離れた位置にお互い座っている。

 焔村の元気ない理由は、鏡水との関係で何か問題が発生したことに有るのだと悟ったのだ。


 「鏡水。 ちょっと隣に座って」

 潮音は莉玖の隣の指定席に戻ってから、さり気なく呼び寄せる。

 石音の隣に座っていた鏡水。

 「ちょっと、潮音ちゃんのところに行ってくるわ」

 「わかった~」

 石音は返事をしたが、直ぐに幼楓や莉衣菜達とのおしゃべりに加わってしまったので、鏡水の動きを気に留める様子は無い。


 「潮音ちゃん、どうしたの?」

 「水。 この合宿中、村と何かあった?」

 その質問に、

 「アイツが引き籠もってだらしない姿をみせていたときに、軽い氷攻撃をしたぐらいよ。 あとは特に無いと思うけど......」

 そう答えると、『他に何かあったかな~』と考え込む。

 「随分、離れて座っているから、喧嘩でもしているのかなって思ったのよ」

 「ああ......そのことだけど......」

 急にモジモジしだす鏡水。

 普段あまり見せないその態度に、怪訝な顔をした潮音。

 「どうしたの。 急に女の子っぽくなっちゃって」

 「だって、潮音ちゃん、ほら......」

 鏡水の顔を覗き込む潮音。

 その視線は、直ぐ側で少佐と談笑しているリオに向いていることに気付いたのだ。


 「わかった~。 水はリオに興味有るんだ〜」

 耳元で囁く潮音。

 「そうじゃなくて、あの、リオさんと私......」

 その返事を聞き、暫く考え込む潮音。

 でも、思い当たる節が無いようだ。

 すると莉玖が助け舟を出す。

 「潮音。 リオの見合いの件じゃないかな? 詳しくは知らないけど」

 「思い出した。 ゴメン〜。 完全に忘れてたけど、水はそれを意識していたの?」

 そして笑い出す潮音。

 「そんなに笑うことじゃないじゃん......そんな話、急に聞かされたら、やっぱり意識しちゃうよ。 私まだ18歳だし」

 「それで、どうする?水。 リオから聞いたのなら知っていると思うけど、今度、上条彩雪音ちゃんは正式にリオと会う機会を設けることになるけど......この話、嫌だったら全然断って貰っても構わないのよ」

 すると、

 「どうしたら良いですか? 潮音ちゃん」

 思わぬ返事に、さすがの潮音も固まってしまう。

 「えっ......」

 「だって、私、身寄りも居ないし、親代わりは潮音ちゃんだから......私自身何も決断出来ないよ~」

 「......」

 これは困ったと思う潮音。

 少し考えて、

 「我が子ながら、リオは超イケているし、彩雪音に取られちゃってもイイと思うのならば、見合い話は無しで。 少しでも渡したくないと感じているのならば、正式に会ったみたら? 水の感情に委ねて決めればイイの。 それに会ったところで、その後どうなるかは、当人同士が決めることだしね」

 「私の気持ち?」

 「そうよ。 水も少しぐらい良い思いをしたって良いんじゃない? リオなら事情も理解しているし、仮死状態になる前、辛い経験を沢山してきた水には、最適の男かなって考えて、この見合い話を持ち掛けたのよ」

 「......」

 「返事は、今直ぐでなくても構わないわ。 多分、この夏休み中に、リオは彩雪音と見合いをする為、条月大を訪問するだろうから。 その時までに私に言ってくれれば、セッティングするから」

 潮音の説明を聞き、周囲を見渡す鏡水。


 石音は幼楓とよく喋っており、戦いの経験を通じて、随分親しくなったみたいだ。

 戦々Aクラスの男女5人も、交際している者は居ないが、今後出てきても不思議ではない雰囲気がある。

 『みんな高3で勉強や訓練に専念しないと、希望の学部に行けないから控えているのね。 きっと大学に進学したら、カップルが出来るんだろうな~』

 鏡水から見ても、そんな感じだ。

 でも焔村だけは、つまらなそうな表情で座っている。

 そして、リオ。

 親友の櫂少佐と、この合宿で久しぶりに会えたせいか、本当に楽しげに談笑している姿が目に付く。

 でも、チラチラと、鏡水と潮音の会話を気にしてもいるようだ。


 『焔村に、私のことを諦めさせる、良い機会かもな......』

 見合いをすることで、鏡水と焔村の感情のベクトルが同じ方向ではないことを知らしめる。

 短時間で、色々と考えを纏めた鏡水。

 「潮音ちゃん。 その話受けることに決めました。 宜しくお願いします」

 急に返事を貰ったので、

 「水。 慌てて決めなくて良いのよ」

 「いえ。 潮音ちゃんが私にこういう話を持ち込んだのは、私達4人が国防軍の好き勝手に、人間兵器として使われるのを防ぐ目的もあるのでしょ? リオさんも私達に関わらせることで」

 その言葉を聞き、

 『本当に賢い子ね』

と思う潮音。

 隣に座って、晩酌しながら会話を聞いている莉玖も、

 『ウンウン』

と頷く。

 「じゃあ、あとであの子に言っておくわ。 正式に準備してねって」

 そう答えた潮音は、なんだか嬉しそう。

 結果はどうなるかわからないものの、スポンサーも身寄りも全くおらず、立場の非常に弱い4人の高校生の今後の人生の、少しでも援護になればという考えから、潮音が思いついた見合い話であったのだ。

 璃月財閥当主の交際者となれば、軍部もおいそれと人間兵器として、4人を安易な作戦に投入出来なくなる。


 「ところで、村のことは......」

 「私にその気はありません。 村が私に気があることには、もちろん気付いていますよ。 でもハッキリ断ってしまうと、良好な人間関係に大きな亀裂が入りそうで......私達は人間兵器としての役割があるのに、協力出来なくなったら、下手すると4人全員の人生に暗雲が立ち込めることになるから......」

 「わかった」

 潮音は鏡水の気持ちに忖度し、何か円満解決する方法を探らなければと考え始める。



 その後もパーティーは続き、盛り上がは続く。

 それには、間もなく終わるこの合宿を惜しむ気持ちも入っていて、それぞれの思いが込められた夕食会となったのであった......



 

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