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第19話(発見)

破壊工作後、所在不明となった潮音達3人に関する新たな情報が、ようやく明らかとなる。

そして、その意図も......


 2090年8月14日午前9時半過ぎ。

 櫂詩汰少佐は、出向中の条月大附属高3年の7人を連れて、高槁農場における合宿中であった。


 その合宿における農作業の休憩中に、自身の携帯端末が鳴動したので確認したところ、リオからのメールであった。

 その内容を確認すると、1枚の写真が添付されていた。

 それを開いてみると、見覚えのある美女の姿が。


 急いで本文を読む。

 そして、安堵の笑顔に。

 その様子に気付いた鏡水。

 「少佐、なんで携帯端末見て、ニヤニヤしているんですか?」

 質問しながら、その瞳に女性の水着姿の写真が映っているのをみて、

 「いやらしいなあ~。 水着姿を見て、ニヤついているなんて......」

 露骨な軽蔑の眼差し。

 「ちょっと待って。 今から重要なやり取りをしなければならないので」

 少佐は、鏡水の誂う言葉を全く相手にせず、直ぐに誰かへと連絡を取り始める。


 「おはようございます。 知久四大佐ですか? 櫂です」

 「どうした少佐。 朝から急ぎの用か?」

 「今直ぐに、転送したメールを確認して下さい」

 「ちょっと待ってろ......」

 暫く間が空く。

 「これは、本当か?」

 「財閥側が依頼した調査員からの情報です。 間違いないでしょう」

 「わかった。 確認の為、こっちからも誰かを直ぐに現地へ向かわせるから」

 大佐はそう言い残すと、通話が切れる。

 その会話を不思議そうな様子で聞く鏡水達。


 「よく聞けみんな。 3人が見つかったんだよ」

 「3人って、まさか......」

 「そのまさかだ」

 「まさか、死体でとかでは......」

 「そうじゃない。 もちろん生きているよ」

 その言葉に、沸き立つ農場の一角。

 まだ部屋で引き籠もっている焔村のもとに向かって、星都が駆け出すのであった。




 そのキッカケは、こうであった。

 8月13日の夕方、とある有名サイトに、

 『この美女って、もしかして「碧海の女神」? だったら、「流求に女神再降臨」だね』

という質問のような題名と共に、高級リゾートのプールサイドで勝手に撮影された、秋月潮音の水着姿の写真が投稿されたのだ。

 最初に気付いたのは、財閥当主直属の情報部とデュオ・アーガイル。

 両者はほぼ同時に、この潮音の現在写真の存在を把握し、その撮影場所を周囲の映り込んだ設備等から特定。

 それが、流求本島北部の高級リゾートホテルだったことから、調査の為、既に同島に滞在していたデュオが、翌14日の朝ホテル内に入り、朝食を食べる為、ブッフェレストランに現れた3人を直撃したのであった。



 「すいません、潮音さん」

 レストラン前で張り込んでいたデュオは、3人組に後ろから声を掛ける。

 それに対して、軽装の一番年上の女性は、振り返ることなく、

 「あ~あ。 見つかっちゃった~」

と言い、ガックリ肩を落とす。

 「先生、そこまで落ち込まなくても......」

 「潮音ちゃん。 時間の問題だったのだからさ〜」

 2人の若者に慰められる、その女性。

 やがて、

 「デュオ、なんでここがわかったの?」

 不満そうな表情で振り返るも、その姿を一瞥して、

 「どうせ、デュオのことだから、朝食まだでしょ? 一緒に食べようよ」

と誘われ、同席することになったのであった。


 食材を取ってきて、テーブルに沢山並べると、

 「さあ、食べよう。 これで最後になっちゃうけど......」

と非常に残念そうな表情を浮かべる潮音。

 「頂きます」

 3人が唱和して食べ始め、その様子を愉しげに見詰めるデュオ。

 「どうして無事を、みんなに連絡入れなかったのですか?」

 デュオが改めてその真意を確認する。

 しかし、直ぐには答えようとしない潮音。


 「これ、美味しいね〜」

 南国フルーツに直接ストローを差した、フレッシュな贅沢ジュースを飲みながら、潮音はその味に対する感想を述べた後、

 「これは、極秘作戦の一環。 みんなを騙すことも含めてが作戦なの......」

 そう答えながら、食材にパクつく。


 「本当に美味しいですね、先生」

 「人生経験豊富な潮音ちゃんがチョイスしたホテルだからね〜」

 幼楓も石音も、デュオの質問には全く関心をよせず、朝食の感想を互いに述べている。

 潮音のこういう薫陶が、若者に染み込んでしまうのは良くないと感じたデュオ。

 「3人共、もう少し真面目に答えて下さい」

 少しキツい言い方をしてみるが、逆に益々無視される結果に。


 「私が悪う御座いました。 後学のため、是非御教授を」

 あえて下手に出てみるデュオ。

 掌返しの態度だが、長年の付き合いから、潮音を扱う方法には長けているのだ。

 「そこまで言われちゃあ、仕方ない。 少し教えてあげようかな~」

 潮音はご機嫌な様子に変わると、作戦の目的を漸く教えるのだった。


 「あくまで、皇江作戦部長に提出した私の作戦案は、全体の前半部分だけだったのよ」

 そう答えると、今度はホテル特製の自家製ソーセージやベーコンを口に放り込む。

 美味しさに満面の笑み。

 2人の高校生も同様だ。


 「破壊工作終了後、直ぐに私達が戻った場合、どうなると思う、デュオ」

 その質問に、

 「以後、安易に破壊工作を頼むようになってしまうだろう、潮音達に...... 勝利とはなんと容易に得られるのかと考えるようになってね」

 「御名答〜」

 潮音はプチトマトを突き刺したフォークを、デュオの方に向けながら答えると、口の中に。

 その姿を真似する幼楓と石音。

 3人の息の合った行動に、笑い出すデュオ。

 「いやあ、この数日間に渡る一緒の行動で、潮音の食事時の悪い癖が、こちらの2人にうつってしまっているね~」

 そう言いながら。


 「そんなことは、どうでもイイじゃない? 秘密裏に追加提出した作戦案の後半部分は、破壊工作成功後の私達の行動予定とその目的を記したものよ」

 潮音は、この数日間の作戦行動を全て国防軍最高幹部に提出済みで、承諾を得ていると仄めかしたのだ。

 「その内容は?」

 ここで潮音は一旦立ち上がり、番号札を持ってライブキッチンに向かった。

 注文していた特製料理が仕上がったので、取りに行ったのだ。


 戻って来ると、ナイフとフォークを使って頬張りながら、説明の続きを始める。

 「先ずは敵への対応。 敵は大鋺島を拠点に飛来するのだから、破壊工作に気付いて直ぐに増援部隊を送り込んで来た場合の措置が大事よね。 石音が私達3人に似せた物体を地面上に作り、それに私達が着ていた特殊防護スーツを着させて、敵の目を誤魔化す準備をしておく。 その場にワザと残って敵に発見させ、挑発して対地ミサイル攻撃でもさせれば、みんなバラバラに壊れて、詳しい調査は出来なくなる。 私達の生死も所属部隊も、完全な特定は出来ないでしょう」

 「確かに」

 「次に、現場からの脱出。 わざわざ念の為、台風を発生させ、暴風雨を引き起こしたのだから、その中で敵に私達を攻撃させれば、爆風に乗じ、幼楓の能力で脱出するのは簡単でしょ?」

 「なるほど~」

 わざとらしく相槌を打つデュオ。

 すると、潮音の口は益々滑らかになる。


 「潜入時に使用した私の瞬間移動能力は、丸1日使えないから、現場離脱後は人気の無い島の適当な場所で、石音が作った地下の洞穴に隠れて、翌日、都京島に戻ったの。 もちろん、直接首都や北の大地に戻らなかったのは、敵の反撃が有った場合に、私の防御シールドで対応する為」

 「でも、敵は調査部隊を派遣しただけで、それ以上動かなかった」

 「だから一昨日、流求本島に移動して来たのよ。 ここは人口も多いし、重要な基地も戦力も常駐しているから、防御態勢を暫く維持しようと考えて」

 「それで、碧海の女神アゲインだったんだね」

 デュオが潮音の作戦に対する感想を述べ、笑みを見せる。


 「碧海の女神アゲインって、どういう意味?」

 「昨日、ネット上にそういう投稿が有ったんだ。 それでこの場所に滞在しているってわかったんだよ」

 「そっか〜。 昨日プールサイドで写真撮られちゃったからね~」

 「だから言ったでしょ? 水着姿なのだし、写真は消させるべきだって」

 石音は潮音に、改めて苦言を呈す。

 「なのに、握手もしていたもんね、先生」

 「潮音は、煽てに弱いから」

 幼楓やデュオからも茶化されたので、潮音は、

 「そろそろ、潮時だと思っていたのよ。 『いつまで死んだフリしているんだ』って、苦情も入っちゃって」

と言い訳をするのだった。


 そこでデュオは本題の質問に入る。

 「それって、誰から?」

 「国防航空宇宙軍総司令官からよ」

 「そうか、櫂大将か〜。 潮音の共犯者は」

 「まあ、そういうこと」

 そこまで答えると、気に入った食材を再び取りに行く潮音。


 その隙に、デュオは幼楓と石音に語り掛ける。

 「詩音は優しいからな。 2人が破壊工作で多くの敵国人を殺害したという心の重荷を、理解することが出来ない国防軍の高級参謀や幹部連中に対して、安易に同じような作戦を立案させない為、味方をも騙す作戦を立てて実行したんだよ。 今後も詩音をよろしく頼むね」

 そう言うとデュオは立ち上がり、食材を取りに行った潮音に挨拶して、朝食会場から出て行くのであった。


 「あの人、潮音しおねちゃんのこと、最後は詩音しおんって言ってたね」

 「言い間違えたんじゃない? 似た発音の名前だし」

 石音と幼楓がそんな会話をしていると、潮音が戻って来た。

 「さっきの男の人、デュオさんっていうの?」

 「デュオ・アーガイル。 特別な能力を持つ、稀な御仁よ」

 特別な能力と聞き、驚きの表情を見せる2人。

 こんな場所で、自分達3人以外の異能者に出会うとは思ってもいなかったからだ。

 「それって、僕達に似た自然系の能力?」

 「いえ。 私に似たエネルギー系の能力だけど、出力はだいぶ小さいわ。 それに神出鬼没なの」

 「えっ、本当に?」

 「もし、私が2人の側に居られないような事態になった時は、彼に貴方達4人を護るよう依頼するから。 それだけは覚えておいて」

 「じゃあ、ちゃんと挨拶するんだったな~。 帰っちゃったんでしょ?」

 「仕事中だからって言ってね。 そういうところは真面目なの。 それにさっきの中年男姿は、彼の本当の容姿じゃないわよ」

 その説明を聞いて、更に驚く幼楓と石音。

 そんな能力を持つ人物が、空想の世界を除いて、この世に居るとは思ってもいなかったからであった。



 「食べ終わったら、早目にチェックアウトしようか? 軍部がここへやって来るよりも先に、首都に戻っちゃおうよ」

 潮音は悪戯顔で2人に提案する。

 「首都に戻ってからは?」

 「楓は、リオから聞いたよね? 大深度地下にある極秘施設のこと」

 「教えて貰いました。 簡単にですが」

 「あの場所には、特別な移動手段が有るの。 それで荷物を取りに、高槁農場にある私の家へ帰りましょう」

 「ラージャ」

 2人は嬉しそうに答えると、短かったバカンスの最後を惜しむように、美味しかった食材を再度取りに行くのだった。

 

 


 こちらは高槁農場。

 星都は予備キーを借りて、焔村が引き籠もっている別棟の部屋の前にやって来ていた。

 「焔村君、入るよ。 大事な話が有るんだ」

 ドア越しに声を掛けても、返事は無い。

 ノックをしてから鍵を開けて、一歩部屋の中へ。

 焔村は、相変わらずベッド上で横になっており、壁の方を向いていた。

 「焔村君。 ひとことだけだから、そのまま聞いてくれ。 3人は無事発見されたそうだよ。 それだけ」

 星都の言葉を聞いても、特に反応は無い。

 そのままドアを閉めて、部屋の前から立ち去る星都。

 こういう状況になると、不貞腐れていたことが、逆に恥ずかしくなって、直ぐには行動出来ないものだ。

 ひとことだけ告げて、即、立ち去ったのは、高1、高2と、辛い経験をしてきたことのある星都らしい気遣いであった。



 午後になると戦々Aクラスの5人は、いつも通り母屋で勉強をしていた。

 つい、サボりがちになりやすい、夏休み中の自主勉強であるが、みんなが揃っている場所であれば、相互監視状態になり、意外と捗るものらしい。

 すると、別棟に繋がる渡り廊下のドアが開いたのだ。

 そこには、少し気恥ずかしそうに立っている焔村の姿が有った。

 「央部君......」

 「焔村君......」

 5人はそれぞれの呼びやすい言い方で声を掛ける。

 「迷惑掛けてゴメン。 3人の能力を信じ切れなかった自分が情けなくて、恥ずかしいよ」

 立ったまま、小声で話す焔村。

 その様子を見ていた蒼浪理が、隣の椅子を引いて、座るように促す。

 黙ったまま、その椅子の前に移動して座る焔村。

 「遅れた分、今から勉強しようよ、一緒に」

 その言葉に嬉しそうな表情を見せると、持参した勉強道具を広げ始めるのだった。



 鏡水は、午後も農作業の手伝いをしていた。

 「九堂は、ここに来てから、あまり勉強していないみたいだけど、大丈夫か?」

 少佐が少し心配そうに確認する。

 「そうだね〜。 ちょっと不味いかもしれないけど、私はそこまで成績にこだわっていないし」

 「たった10日間の滞在なのだから、座学の勉強よりも、今しか出来ない体験を優先すべきさ」

 莉玖が自身の考えを述べると、

 「莉玖さんは、高校時代の成績、どうだったのですか?」

 少佐が、疑わしそうな視線を見せながら、質問する。

 「真ん中ぐらいだったよ」

 「ほら、やっぱり。 いかにも、それぐらいだった方の内容の話でしたからね」

 そして笑いが起きる、倉庫内。

 潮音達が無事だったとわかり、雰囲気が一変した高槁農場であった。

 


 鏡水が少佐と一緒に母屋に戻ると、6人が勉強していたので、

 「村も、やっと出て来たのね」

 ひとことだけ感想を述べると、自主勉強の準備を始める。

 ただ今までと異なり、鏡水は焔村の座っている場所から一番遠い場所に座るのだった。


 『やっぱり、水は俺のこと軽蔑しているのだろうな......今まで正面に座ることが多かったのに......情けない姿を晒してしまったし......』

 チラッと鏡水の行動を一瞥して、そんな感想を抱いてしまう焔村。

 ところが、鏡水自身は、そこまで意識した行動では無かったのだ。

 この間のリオからの話を聞いたことで、そっちを意識した行動であり、見合い話を受けるかどうか決断するまで、他の男との距離を取ろうとしただけであった。

 だからこの時は、ただ単に莉衣菜の隣へと座ったのだ。

 焔村が意識過剰となっていただけだが、そんなことはお互い当然理解出来る筈もなく、2人の距離は益々広がってしまうのだった。




 一方、国防軍特別部隊の司令室は、司令官の所在情報入手後、慌ただしい状況となっていた。

 「情報漏れの調査といい、司令官の所在捜索といい、璃月財閥が依頼した調査員に全て先を越されてしまうとは。 我々の実力に疑問を抱かざるを得ない事態だぞ」

 副司令は、部下を叱咤しながら、先ずは軍としての事実確認を優先させる。

 現在までのところ、あくまで他者からの情報であって、軍としてはまだ当人達と一切連絡が取れていないからだ。


 「3人の個人用携帯端末の所在地は?」

 大佐の質問に、

 「未だに動いていません。 北の大地のままです」

 オペレーターの回答を聞きながら、

 『農場に個人端末を置いてきたこと自体が、予定通りの行動なのだろうな』

 秋月司令官は、悪戯心に富んだ人物であり、ここまで所在を隠していたこと自体が、予定通りの行動なのだと、知久四大佐は理解していたのであった。


 「ホテル側との連絡はどうなっている? 少将達は宿泊していたのだろ? 無理を言っても繋いで貰え」

 続けて指示を出すも、

 「それが......」

 対応していた士官が言葉に詰まってしまう。

 「どうしたんだ?」

 「ホテル側は個人情報保護の一点張りで、回答してくれなかったのですが、粘った挙げ句ようやく貰えた情報が、既にチェックアウト済みだというものでして......」

 「なに〜。 やられた......」

 思わず心の声が漏れてしまった大佐。

 やはり秋月司令官は、部下達と、そう易易接触する気は無いらしい。


 「とりあえず、ホテルの件は打ち切りだ。 ちょっとみんな集まってくれ」

 大佐は、部隊の幹部を集めて、司令官の最後の作戦に対抗する案を導き出そうと考えたのだ。

 「このままでは、秋月司令官達の最終的な安否確認は、農場で農作業中の櫂少佐の手柄となってしまうだろう。 それだけは絶対に避けなければならない」

 副司令は、集まった面々に自身の考えを告げる。

 「そこで、何か良い提案がある者は、遠慮なく発言してくれ」

  

 「今から、流求に向かっても捕捉出来ないのは確実です。 とりあえず、流求の空港は直ぐ隣に基地が有るのですから、他の部隊にお願いして張り込んで貰いましょう」

 「他には?」

 「司令官は、北の大地に向かうでしょうね。 元々、今回の作戦が無ければ、出向中の仕事として、今頃合宿中だった筈ですから」

 「よし。 じゃあ藍星中佐。 高槁農場の最寄りの空港に向かってくれ。 空港で捕捉出来なかったら、高槁農場で秋月司令官や作戦に従事した2人の高校生と面会等、技術部門として必要事項を実施という方針でな」

 大佐は最初の指示を出すと、中佐は、

 「了解」

と答え、直ぐに司令室を出て行ったのであった。

 自身の判断で、既に旅装を整えていたのだ。

 

 「首都中央空港にも隊員を派遣した方が良いと思います。 ホテルをチェックアウト済みならば、直ぐにこちらへ戻って来る可能性も考慮せねばならないでしょう」

 「では、久萬邊中佐。 何人か連れて、中央空港で司令官を待ち伏せするように。 そう簡単には姿を見せてくれる方ではないから、一緒に連れている高校生2人の方を探すべきだぞ」


 「他には?」

 いくつかの話が出たものの、大掛かりな捕捉作戦の提案ばかりであった。

 航空宇宙軍特別部隊は、人数が少なく、司令官との鬼ごっこに、多くの人員を割ける余裕はない。

 残りの人員は、次の情報を待ってから動くことに決め、通常勤務に戻す副司令であった。

 


 その頃、潮音は、新しく民間にも開放された本島北部空港より、首都中央空港へと飛び立っていた。

 「もしかして、あのリゾートを選んだのって、こっちの空港が有るからなの?」

 石音の質問に、

 「もちろん、って言いたいけど、偶然だね~」

 そう答えると、笑顔を見せる。

 「あっちの空港だったら、隣に基地がありますからね。 今頃事情聴取されていたでしょう」

 幼楓の記憶には、2020年頃の流求本島のことが、少し残っているらしい。

 航空機内で、新しい情報に、自身の記憶をブラッシュアップしているのだった。


 「勝負は、首都中央空港よ。 私の部下達が、絶対張り込んでいるから」

 「潮音ちゃんは変装しているからイイけど、私達は、ねえ、楓」

 「そうだよ。 先生は老けメイクで、年相応の格好をしているけど、僕達はそうもいかないよ」

 すると潮音は、パーティーグッズを取り出し、

 「飛行機を降りたら、これを装着してね」

と言い出した。

 「何、これ。 超ダサ〜」

 石音が渋い表情をする一方、

 「似合うかな~」

と言って、ノリノリの幼楓。

 その姿を見て、吹き出す石音。

 「ヤバい。 うける〜」

 そんな反応を見ながら潮音は、

 『あまりにも、多くの人を殺してしまったから、心への影響を心配していたけど......もしかしたら、無理しているのかもね』

 いつもより、感情の起伏が少し大きい感じのある石音。

 そういう心配をしていたからこそ、破壊工作終了後は、所在を明らかにしないまま、リゾートをハシゴして、ゆっくり過ごしていた面も有ったのだ。


 所在がバレて以降も、あえて軍部との接触を避けているのには、理由があった。

 軍や治安組織というものは、特に事情聴取時、被聴取者への配慮が足りない場合が多い。

 今回の作戦への従事で、精神面への影響が心配される石音と幼楓に対する、軍部の今までの態度への、潮音らしいささやかな抵抗が理由なのだった......


 

 首都中央空港に到着後、潮音達は荷物を受け取ると、バラバラに出口から出ることに決めていた。

 先ずは潮音が出て、様子を伺う。

 すると、部下達が3名立っており、出て来る人々を凝視しているのが確認出来た。

 しかし潮音は、初老の女性姿だったので、全く気付いていない部下達。


 そのままさり気なく離れてゆき、予め幼楓と石音に指示した待ち合わせ場所へと先に向かう。

 次に石音と幼楓は、若いカップルとして出口から出る。

 3名の部下の様子を遠くから監視する潮音。

 部下達は、高校生の2人とは殆ど面識がないことと、作戦従事で度胸がついた2人が、本当に自然な感じで行動出来たことから、無事にバレることなく、合流出来たのだった。



 「先ずは、リオに挨拶しようかな」

 潮音は2人に次の予定を説明すると、ターミナルの外に出て、迎車スペースでリオが手配した財閥の車両に乗り込む。

 そして、璃月財閥の本社ビルへと車両は吸い込まれて行く。

 「凄い建物だね~先生」

 「超近代的〜」

 幼楓と石音がそんな感想を持つ程の、低層ビルと超高層ビル5棟から構成された、デザイン性の高い巨大な建物群であった。

 やがて案内が付き、大深度地下の超高速鉄道のプラットホームに到着。

 「2人はここで待っててね。 私はリオと合流してから、戻って来るから」

 2人に言い残すと、潮音は敬々しい出迎えを受け、そのまま地上へと戻って行く。


 「なんか、凄い人数の出迎えを受けていたね、潮音ちゃん」

 「確かに」

 エレベーターを見上げながら、幼楓は答える。

 指示された目の前の待合室に入ると、少し遅い昼ご飯が十数品、好きなモノを選べるように並べられていたのだ。

 「どうぞ、遠慮なく食べて下さい」

 薦められるがまま、2人は適当に好物をチョイスして、食事を摂り始める。

 「美味しいね、楓」

 「本当だね~。 今日の朝食よりも美味かも」

 まだ高校生の2人。

 しかも、仮死状態から目覚めて以降、ほぼ寮での生活で、こんなに外で食事をするのは初めてであったのだ。


 「なんだか、贅沢に慣れ過ぎちゃうと怖いね~」

 「僕もそう思うよ」

 そんな話をしていると、待合室に人が入って来た。

 立派な燕尾服を着ており、なんだか執事っぽい。

 「神坂様、京頼様。 潮音様は少し用事を済ませてから、こちらに戻って来られますので、1時間半ほどお待ち頂くことになります。 それまで、こちらでごゆるりとお過ごし下さいませ」

 丁寧な挨拶と今後の予定の説明を受け、恐縮する2人。

 「こちらこそ、よろしくお願いします」

 幼楓が代表して挨拶すると、執事のような男は最敬礼をしてから、待合室を出て行く。

 「落ち着かないね〜」

 「私も」

 「僕達って、やっぱり庶民だね」

 2人はそんな会話をしながら、笑い合う。

 突然の軍の命令から始まった一連の騒動も、無事に作戦は成功し、ようやくみんなの元に帰れる状態にまで、日常が戻って来た。


 「水も村も元気にしているかな?」

 「今は、高槁農場で合宿中でしょ」

 「そろそろ、村は水に告白したかな~」

 「どうだろうね。 私が水から聞いたところによると、付き合う気は全く無いって」

 「えっ、そうなの。 僕はてっきり相思相愛だと思っていたから......」

 「水って八方美人なのよ。 誰にでも人当たりが良いから、勘違いさせちゃうんだって。 本人が言ってたよ」

 「じゃあ、僕達が農場に戻った時には、ガックリした村の姿を目にするのかもね」

 そんな内輪話が出来る程、大地下の待合室に入ったことで、ようやく安心感が得られた2人。

 半月以上、緊張感で張り詰められ続けたことからの解放感は、2人の会話をいつも以上に滑らかなものにしていたのであった。

 

 

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