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第18話(悲嘆の時、そして)

悪い知らせは、やがて高槁農場にも伝わってしまった。

仲間達が行方不明と知り、打ちひしがれる焔村や鏡水。

潮音達に対する本格的な調査に、璃月財閥当主、璃月莉音も動き出す。

その結果は......


 合宿5日目。

 焔村と鏡水の仲は、微妙な隙間風が吹いたまま。

 戦々Aクラスの5人にも、2人の関係を進展させる良い知恵が浮かばないまま、時間だけが過ぎていた。


 そして、この日の早朝、高槁農場に潮音達3名が行方不明となっているとの情報が入ってきたのであった。


 

 「莉玖さん、リオ〜。 何処に居ますか〜」

 櫂少佐は、国防軍特別部隊の知久四大佐から受けた連絡を、農作業中の2人に伝える為、農場内を駆け回って探している。

 少佐が慌てている姿を見て、動揺する7人の高校生達。

 「何が有ったんだ?」

 「あんなに血相を変えた少佐、学校では見たことが無いよね......」

 一様に不安そうな表情を見せていた。


 特に鏡水と焔村は、そのタイミングから、石我輝に向かった幼楓や石音の身に、何か有ったのだと直感が働いたのであった。

 「まさか、2人が......」

 「そんな筈は......潮音ちゃんが一緒だったのに......」

 既に、悲観的な顔を見せているのだった。



 やがて少佐は莉玖とリオを見つけ出して、話を始める。

 「......というわけだそうです」

 「ふ~ん」

 少佐から厳しい状況を聞いたにもかかわらず、莉玖もリオもひとことだけ感想らしい感嘆符を漏らしただけで、再び農作業に戻ってしまう。

 そのあとを追い掛けながら、

 「3人が行方不明なんですよ。 なのに、その程度の反応って......」

 思わず絶句する少佐。

 すると、莉玖は、

 「国防軍は、3人の遺体を確認したのかい? していないのだろ?」

と質問してきたので、

 「もちろんそれは、確認出来ていませんが......」

 少佐は、それ以上の答えに詰まってしまう。

 「詩太君は、もう少し潮音のことを理解していると思っていたけど」

 「それは、どういう意味ですか?」

 「潮音は、ミサイルの直撃ぐらいじゃ死なないよってこと」

 「今までは、そうかもしれませんが、今回は敵も新型の偵察機やミサイルを開発して投入してきたそうですし......」

 莉玖と少佐の会話を黙って聞いていたリオ。

 重い口を開くと、

 「国防軍としては、死亡したと判断しているのかな?」

 その質問に対して、改めて知久四大佐に確認する櫂少佐。

 

 「現状、行方不明で処理しているとのことでした」

 「じゃあ、僕と父はいつも通り過ごすよ。 あたふたしたら、母に怒られちゃうからね」

 リオは冷静に答えると、以後その話題には触れないのであった。



 もちろん3人の会話は、7人の高校生にも聞こえており、動揺は悲しみへと移行していたのだった。

 「まさか、3人が......」

 「これが、戦争しているってことなんだね」

 「......」

 あまりにも動揺が酷くなった様子に気付いた少佐は、莉玖の許可を貰ってから、

 「みんなは、今日の作業を打ち切って、母屋に戻った方が良いな。 そうしてくれ」

と新たな指示を出す。


 特に焔村と鏡水は、黙ったまま、力無くトボトボと母屋に向かって歩いて行く。

 戦々Aクラスの5人も、急いで2人のあとに続く。

 『まだ死んだと確定した訳ではないが......残されたあの2人にとっては、これからが正念場かもな』 

 少佐はそう思うのであった。



 母屋に入ると、鏡水はそのまま女性陣の部屋に戻ってしまう。

 掛ける言葉の無い、莉衣菜と夏織。

 鏡水は石音と非常に仲が良く、その唯一の存在が行方不明という状況では、他人が出来ることは何も無いのであった。

 「困ったね〜」

 母屋の大きなテーブルを囲んで座っていた蒼浪理が、他の3人に対して思わず本音を漏らす。

 「まさか、こんなことになるなんて......」

 将来は国防軍への任官希望の莉衣菜と夏織も、現実の厳しさを初めて実感しているのであった。


 「焔村君は?」

 「九堂さん程ではないけど、呆然とした様子だね」

 別棟の寮として使っている建物の談話室で座ったまま、窓の外をずっと見詰めていると、一緒に付いている星都から連絡が有ったのだ。

 「こういう状況じゃあ、キューピット役とか、言ってられなくなっちゃったね」

 大陽の言葉に頷く3人。

 「ただし、まだ行方不明というだけで、亡くなったと決まった訳じゃない。 一縷の望みは有ると思う」

 模擬実戦訓練で、幼楓と石音の能力の高さを目前で見てきた戦々Aクラスの5人にとって、十分奇跡は望めるものだという感覚があったのだ。



 ちょうどその時、いつの間にかリオが母屋に入って来ていたのに気付いた4人であった。

 「リオさん......」

 「さっきの少佐からの報告だけど、そんなに気を遣わなくて構わないよ」

 その場に居た4人に答えると、

 「あれこれ言っても、何か出来る訳ではないのだから、君達は勉強をすべきだ」

と言い残して、離れの別邸の方に向かうのであった。


 「リオさん、あっちに向かったね」

 大陽の呟きに、

 「あの別邸は、秋月先生の部屋が有るんだってさ」

と答えた夏織。

 「そうなんだ......やっぱり、母親のことが心配なんだろうね」



 リオは別邸に入ると、鏡水の居る部屋に向かうのだった。

 部屋に入ると、すすり泣くような嗚咽が聞こえる。

 「鏡水。 大丈夫かい?」 

 「リオさん......」

 ひとこと呟くと、大泣きとなってしまう。

 「よしよし」

 そう言いながら、頭を優しく撫でてあげるリオ。

 落ち着くまで、ずっと撫で続ける。

 65年間仮死状態だったことで、時代を超えてしまい、知己の居ない天涯孤独な鏡水にとって、母代わりの潮音、実の姉妹のような石音をいっぺんに亡くした気がしたので、絶望感に襲われていたのだ。


 やがて泣き止むと、リオは、

 「鏡水。 隣の部屋に入ってみるかい?」

と誘ってきた。

 「隣の部屋?」

 「うん。 母、潮音の部屋。 普段は勝手に入ったら怒られるけど、こういう時は大丈夫。 それに、首に掛けている古代のネックレスは、母が君に預けたものだろ?」

 その話に頷く鏡水。

 立ち上がると、潮音の部屋へと向かう。


 鍵を開けて、室内へ。

 整理された部屋。

 良い香りがする。

 ラベンダーのようだ。

 「なんだか、落ち着く香り......」

 「みんなが来る直前まで、母はこの部屋に居たからね。 石音ちゃんと」

 初めて聞く事実で有った。

 確かに、部屋のソファーの上に、見慣れたバッグが置いてある。

 条月大附属高の学用バッグ。

 手提げ部分に、黒耀石のキーホルダーと小さな犬のぬいぐるみが付いており、石根のものだと一目でわかるのだった。

 「石根がここに......潮音ちゃんと......」

 鏡水は呟くと、そのバッグを確認する。

 中には勉強道具一式が入っていたのだ。

 「リオさん、これは......」

 「軍の作戦が終わったら、この合宿に参加する予定だったんだよ。 だから、他にも持って来た荷物が置きっぱなしにしてあるんだ」

 部屋をよく見渡すと、石根の普段着やジャージもハンガーに掛けられている。

 「見て回ってもイイですか?」

 頷くリオ。


 壁には多くの写真。

 高校時代以降の潮音の人生が一目でわかるものだ。

 友達と写った写真。

 彼氏(莉玖)と撮ったもの。

 以後、子供が生まれた時や、家族との写真。

 軍人になって以降の記念写真も多い。

 そして最後には、幼楓と石根が潮音、莉玖、リオと一緒に撮った写真が増えていたのだ。

 確かに、石根と幼楓の足跡がここには有った......

 「石根......」

 記念写真なのに、澄まし顔の笑顔では無い石根。

 それが、彼女らしい姿であった。

 「本当に、死んじゃったの......」

 鏡水は呟くと、涙が滲む。


 「リオさん。 3人はいつ戻って来る予定だったのですか」

 「それは決まっていなかった。 『作戦に予定変更やアクシデントは付きモノだから』と言って」

 「そうですね......」

 「順調なら、もう戻って来ていてもおかしくはない」

 「では、やっぱり......」

 「どんなに悪い情報しか無くても、僕は母を信じているよ。 今までも常にそうだった。 本当に特別な人だから」

 「うん、わかった」

 リオの、何かへの確信を持っているような力強い言葉と笑顔を見て、気持ちを切り替えることにした鏡水。


 「ところで、初対面の時、どうして私のフルネームを知っていたのですか?」

 何か手掛かりになるようなモノはないかと、部屋を見て回りながら、質問してみる。

 「ああ、それはね〜」

 少し勿体ぶるリオ。

 間を置いてから、

 「母が僕に見合い話を持ってきたっていう、詩太との雑談、覚えてる?」

 「はい。 一人は上条彩雪音サンですよね」

 「そう。 そして、もう一人が君だよ、鏡水」

 「えっ......」

 「だから、名前を知っていたんだ。 写真は母の携帯端末で見せられていたから、空港で確認したのさ」

 「うそ、初耳です」

 「やっぱりな〜。 母らしいや。 当人に一切話をしていないんだもん」

 「潮音ちゃんって、天然っぽいから忘れたのですかね?」

 「それも有るけど、事後承諾が多いんだよなぁ〜、昔から」

 「......」

 「鏡水のここに来てからの様子で、大体わかっていたけどね」

 「ハハハ......」

 「嫌だったら、全然断って貰っても構わないから。 僕は君からみたら、ただのオッサンだもん」

 「嫌ってことは無いですが......あまりにも突然の話だったので......」

 「断りは、母に言ってね。 こんな僕でも、直接言われるとショックを受けて、仕事が手につかなくなっちゃうから......」

 リオは冗談めかして答えると、部屋の中を見て回る。

 特別な連絡を取れる機器や秘密の計画書みたいなものが置いてある場合も有るのだが、結局今回は見当たらなかった。


 「じゃあ、出ようか。 同級生達が心配そうにしていたから、顔を見せてあげた方がイイと思う」

 リオに促されて、離れの別邸を出る鏡水。

 そして、Aクラスの4人が待つ大きなリビングに移動したのであった。


 「じゃあ、僕は仕事が有るから。 何があっても勉強は続けてね」

 リオは鏡水や座っている4人に告げると、別棟に繋がる廊下へと移動して行ったのであった。

 「みんな、心配かけてゴメンね。 少し落ち着いたから......」

 鏡水が、テーブルを囲んで座っている戦々Aクラスの4人に謝罪する。

 「ううん。 クラスの仲間が2人所在不明なんだもの。 当然だよ」

 「そうだよ。 僕達みたいな普通の高校生では有り得ない、厳しい境遇に有るのだから。 気にしないで」

 凄く気を遣ってくれている言葉に、嬉しさが溢れる。

 「今日の私、涙ばかりだね......」

 鏡水はまた涙ぐんでしまうのだった。

 

 

 

 リオは、地下深くにある財閥の施設に入ると、

 「私だ。 予定通り、午後の会議には出席するから」

と誰かに連絡を入れていた。

 そして、地下500メートルに建設された、超高速鉄道に乗り込む。

 向かう先は、この国の首都にある璃月財閥本社。

 1時間もしないうちに、リオの姿は本社の社長室にあった。

 「CEO、お疲れ様です」

 「おはようございます、CEO」

 次々と部下や秘書、側近達から挨拶を受け、それに対して、丁寧に返事をするリオ。

 重厚なデスクに座ると、端末の山。

 CEO決裁待ちの書類の山であったのだ。

 「莉音様。 今、デスク上に置かれている端末は、午前中のうちに目を通し、ご決裁下さい」

 到着早々、秘書の一人に要望され、苦笑いする。

 そう、『秋月リオ』若しくは『高槁リオ』の本名は『璃月莉音あきづきりおん』。

 璃月財閥の現当主であった。


 一通り決裁を終えると、潮音の所在捜索依頼をしなければと思い立ち、財閥当主直属の情報部と諜報部の責任者を呼び出す。

 「ご当主様、御前に罷り越しました」

 2人の三十代後半の男が、秘書の案内で莉音のデスクの前に現れ、跪く。

 「楽にしてくれ。 ソファーに」

 その言葉で2人は立ち上がり、デスク前のソファーに座り直す。


 「潮音が行方不明なんだ」

 その言葉で、用件を概ね理解した2人。

 「ご当主様。 姉様の所在捜索、承りました」

 頷く莉音。

 潮音は財閥内で表向き、莉音と姉弟関係ということになっていた。

 「よろしく頼む。 情報部は世界中のあらゆる情報から、8月9日以降の潮音の写真か動画を探してくれないか? 諜報部は石我輝に潜入して調査を。 それ以外のことは、2人の判断に任せるから」

 具体的な指示を受け、

 「ははー」

と改めて頭を下げる2人。

 そして、莉音の前から下がると、直ぐに依頼事項に取り掛かる。

 足早に歩きながら、端末で連絡を取り始めたのだった。


 その後ろ姿を見ながら、心強く思う莉音。

 「事実がどうなのか、直ぐにわかるだろう。 万が一の事態であった場合、一族の人数に大きな問題が発生してしまうから......」

 璃月一族は極めて少なく、本流の血族は3名しかいない。

 潮音が居なくなると、財閥創設者である曽祖父が結婚する前の若い頃に、恋人との間に生まれた非嫡出子の末裔『シューン』と莉音の2人だけになってしまうからだ。



 午後は、シンガポールの総括本社、超大国西海岸にある総本店の3箇所を結んでの一大会議を取り仕切る。

 「本日も大御所様は欠席ですかな?」

 「欠席だと、重要事項の決定は難しいでしょうな」

 役員連中の一部から、莉音はその若さを侮られており、最初からそのような言葉を掛けられる。

 「大御所様は所用で不在だ」

 ひとこと冷たく告げると、ザワザワしながらも大会議は始まる。


 議題は山積み。

 元々、歴史の異なる大企業を初代当主の剛腕で束ねて構成された璃月財閥。

 莉音は第5代当主であるのだが、資本の論理で財閥本家に支配されている大企業集団なので、会議の意見が纏まることは少ない。

 璃月家に対して、面従腹背な連中ばかりだからだ。

 ただ、いくら面従腹背でも、株式の9割以上を璃月家に握られているので、業績悪化が著しかったり、仕事が出来なければ株主総会でクビを切られてしまう。

 だから、優秀な役員が多いのは事実であった。

 財閥が支配する各大企業のライバル心をくすぐって、業容拡大を続けるのが、当主としての基本方針であるのだ。

 時には褒め、時には貶しながら、大企業の役員連中を意のままに動かす莉音。

 若いながらも、多くの才能に恵まれた莉音の評価は、かなり高いというのが実情であった。



 やがて大会議が終わると、執務室に戻る。

 すると、情報部と諜報部へ昼前にに命令したことへの経過報告が、既に入っていたのだった。

 『石我輝に入った調査部門より、大陸の大国が調査・情報収集中の現地の状況報告書を入手いたしました。 それによると、死者19500人余り、建設中だった要塞は跡形もなく破壊され、原子レベルまでに戻されてしまい、遺体の回収、資機材や資材の回収は不能であるとのことです。 要塞のあった場所は掘っても掘っても、土と石灰岩等が出て来るだけで、完全に自然へと戻されていることから、敵の破壊工作は異能を持つ者によって実行されたと思われ、実行者は3名。 その所在は不明との内容でした』

 諜報部の責任者自ら、口頭で報告した内容を確認すると、それを完全消去したリオ。

 情報部からは、あらゆるカメラやネット上の映像を調査したものの、潮音の映ったものは見つかっていない、引き続き調査を続けるとの中間報告であった。

 『新しい情報は無いな。 向こうもまだ調査3日目。 死者が多くて、島内の引き締めが最重要課題、実行犯の調査までは進んでいないというところか......』

 リオはそう判断すると、午後の決裁を終えてから、この日は帰宅することに決めたのだった。


 

 

 帰宅すると、相変わらずお通夜状態の高校生達と櫂少佐。

 莉玖が作った夕ご飯を黙々と食べているタイミングであった。

 「リオ、お帰り」

 「父さん、ただいま〜」

 いつもの挨拶が交わされた後、リオは手を洗って料理が並べられたテーブルに近付く。

 「焔村君は?」

 高校生が6人しか食卓に座っていなかったので、確認するリオ。

 「食欲が無いって言って、自室に籠もってしまっているので......」

 北條星都が状況を説明。

 「そっか〜」

 リオはひとこと言いながら、席に座る。


 「進展は有ったかい?」

 莉玖も内心は気になっているのだろう。

 珍しく、リオに質問する。

 「いや、何も......」

 新しい情報は何も無いので、そう答えるしかない。

 そのまま無言となる高槁農場の食卓。

 この日は、そのまま終わるのであった。




 動きが有ったのは翌日であった。

 リオの携帯端末の元に、ある人物から連絡が入ったのだ。

 「了解。 どんな形でも絶対に見つけ出してみせるから......」

 1行だけの返事。

 デュオ・アーガイルからの調査依頼に対する返事であった。

 潮音以外では、最も高いレベルでの特別な能力を持つ、この男に頼るのが、最も手っ取り早い。


 あとは、待つしかない。

 生死に関する情報を。

 リオは忙しい仕事に忙殺されながら、ただひたすら新しい情報を待つのであった。

 

 

 鏡水は戦々Aクラスの5人と、焔村の部屋の前に来ていた。

 「焔村、開けて。 鏡水よ」

 そう声を掛けるも、部屋の中から反応は無い。

 「とにかく、開けるからね」

 ひとこと告げてから、予備キーで解錠する鏡水。

 ドアを開けると、部屋のベッド上で、壁の方を向いたままじーっと動かず横たわっている焔村が居た。

 鏡水は、ベッドに近付くと、ベッド下に落ちていた枕を拾い上げてから、枕で焔村をポカポカ叩く。

 でも、一切抵抗せず、横たわったままの焔村。

 その姿に、今度は右手をかざす。

 能力を使う構えだ。

 一緒に訪問した5人に緊張の色が走る。

 すると、氷が次々と焔村の上に降り始めた。

 それでも、痩せ我慢する焔村。

 しかし、その冷たさに耐えられなくなり、ようやく体を動かして、6人の方に向いたのだった。


 「何するんだ、水。 俺のことなんて放っておいてくれ」

 「なに、その言い草。 アンタだけが悲しんでいるんじゃないわよ」

 「ふん」

 ひとこと不貞腐れた声をあげてから、再び壁を向いてしまう。

 「見損なったわ、村。 アンタがそんな態度をとったって、楓も石音も悲しむだけ。 もう、イイ。 みんな、行こう」

 鏡水は焔村に告げると、氷を全部消滅させてから、全員に部屋を出るよう促し、部屋の鍵を掛けて、母屋へと向かってしまうのだった。



 そのまま、農作業に出た6人。

 じーっとしているより、何かに打ち込んでいた方が、気が紛れる。

 6人は相談の結果、そういう結論を出し、この日は莉玖と少佐を手伝って、農作物の収穫に集中するのであった。


 そして、夕方からは勉強に精を出す。

 常に何かに集中する。

 そうすることで、悲しみを考えてしまう時間を作らないようにしていたのだ。

 その姿を見ていた莉玖と櫂少佐。

 『6人は、今回の出来事で、少し成長したみたいですね』

 『本当だね。 これも潮音の狙い通りだったら、ちょっと驚いちゃうけどな』

 『焔村君は......』

 『ああいう反応も当然だよ。 それぞれがそれぞれのやり方で悲しみへの反応を示すというのも、青春さ』

 夕食の準備を2人でしながら、そんな会話を小声でしていたのだった。

 

 

 結局、焔村は2日間、部屋から出ようとせず、引き籠もったままであった。

 他の6人は、早朝から農作業に。

 午後は、勉強に集中。

 そんな日々が過ぎて行き、やがて高槁農場での短期合宿の終了期限が近付いてきた8月14日の朝。

 事態が大きく動き出すのであった。



 この日も早朝から、莉玖と櫂少佐、それに6人の高校生は早朝から収穫作業の為、農場に出ていた。

 リオも、早朝から超大国にある本店からの重要決裁事項に目を通しながら、仕事を続けていた時に、リオの個人用端末が鳴動したのであった。

 仕事の合間に確認すると、一通のメールが届いていた。

 その送付者はデュオであった。

 本文は無く、添付されていた写真を開くと、一人の美女が水着姿で写っていたのだ。

 それを見て、ほくそ笑むリオ。


 「この写真を何処で?」

 返事を書いてメールを送付する。

 すると、直ぐに返事が。

 「第三者が撮った写真で、あるサイトに投稿されたものです。 昨日、某高級リゾートのプールサイドで撮られたもののようです。 サイトのURLを添付しましたから、ご当主殿も確認して下さい。 私はこのリゾートホテルを特定しましたので、朝からホテルにチェックインして、この女性を探します」

 「確認出来たら、あとはお願いしますね」

 「了解」



 その後リオは、直ぐに首都の本社に移動してしまった。

 この日は、朝からシンガポール統括本社との重要会議が入っていたからだ。

 デュオからの続報が気になったものの、仕事優先の姿勢は変わらない。

 『まあ、そんなことだろうと思っていた通りだったね』

 独り言を呟きながら、いつも以上に気合いが入る、リオ=莉音であった.....


 

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