表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪戯と黄昏の刻に・第二紀(条月大学附属高等学校軍事戦戦科の3年教場)  作者: 嶋 秀
第一章(夏休み篇)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/31

第16話(結果報告)

知久四大佐は、潮音達が戻って来ない状況のまま、統合作戦本部長の元へと、結果報告に向かうのだった。


一方、附属高の特別クラスでは、戦々Aクラスとの合同合宿が、作戦実施前から行われていたのであった。


 航空宇宙軍特別部隊の副司令知久四大佐は、仮眠を取り終えると、先ずは統合作戦本部長への要塞破壊工作作戦結果報告の為、本部庁舎を訪れていた。


 最初に作戦部長皇江少将の元へ。

 作戦部長と一緒に本部長への報告を行うからだ。

 すると、作戦部長室内から大きな声が聞こえて来たのだった。

 室外で立っていた皇江少将の副官に、事前の約束をしてあると、アポの確認をするに、

 「知久四大佐だろ? 構わない、入り給え」

と室内から少将の声がした。

 「失礼します」

 ドアを形式上3回ノックしてから開けると、名豊少将が顔を紅潮させて、作戦部長に抗議しているところであった。

 大佐の姿を見て、

 『助かった〜』

と露骨な表情に変わる作戦部長。

 名豊少将の怒りの矛先を大佐に向けさせるつもりなのだろう。


 「貴様〜。 よくも俺の作戦案を〜〜」

と言いながら、いきなり大佐に殴りかかってきた名豊少将。

 ヒョイと体を躱す大佐。

 すると名豊少将は、拳が空振って、そのまま不様な感じで床上に転けてしまう。

 その姿を見て、思わず吹き出す皇江少将とその副官。

 失笑を受けて、更に我を忘れる名豊少将。

 起き上がると、再び大佐に殴りかかるが、また空振り。

 もう一度突っ掛かったところで、

 「名豊。 いい加減にしないか」

 皇江少将の叱責で、ようやく喧嘩腰の姿勢を止めたのであった。

 『いつの間にか、立場を入れ替えて。 本当に立ち回りの上手な方だ』

 作戦部長の態度を見ながら、そんなことを考えた大佐であった。



 その後、不在の潮音の代理である大佐に、愚痴愚痴文句を言い続ける名豊。

 「名豊少将閣下。 今回、秋月少将が貴官の作戦案に危惧を抱き、代替案を極秘に提出。 本部長の承認を得て実行に移した。 それだけのことです」

 抗議を受けた内容に対して、冷たく言い放ってみせる。

 「それだけのことって、俺がどれだけ苦労して、政治家どもの承諾も取ったのか、わかっているのか?」

 「良かったじゃないですか? 皆さん、敗北の責任を取らされず。 逆に秋月少将に感謝すべきですよ、名豊少将」

 その言葉に再び激昂するが、今度は知久四大佐に力付くで止められたのであった。


 「敗北の責任か〜。 大佐、その理由を説明してくれ給え」

 作戦部長はわざとらしい言い方で、机上の空論通りにはいかない厳しい現実を名豊少将に理解させようという意図であった。

 そこで大佐は、

 「現地の情報や敵軍の動きをみたところ、名豊少将の作戦案は既に筒抜けとなっており、石我輝には一昨日の時点で三万人程度の兵力が展開していたようです」

 名豊少将を相手にせず、皇江少将に対して現地の情勢を詳しく説明する。

 「筒抜け......三万......そんな筈が......」

 思わぬ事実を告げられて、ボソボソ呟く名豊。


 「名豊閣下の作戦案によると、敵兵力の予想は五千人でしたよね。 実際に展開されていた兵力との差の意味、わかりますか?」

 大佐は名豊少将に、改めて見通しの甘さに対しての説明を求める。

 「俺の作戦を逆手に取って、待ち伏せされていたとでも、貴官は言うのか?」

 「その通りです。 閣下の案では破壊工作への動員数は1500人程。 そのまま実行していたら、一兵も帰って来ないばかりか、要塞も破壊出来ず、大失敗だったでしょうね」

 その言葉に、悔しさを滲ませる名豊少将。

 結局立案だけで、自身は戦場に赴かない、いかにも参謀あがりのエリート軍人らしい思考の持ち主であり、作戦参謀としての実力不足を露呈したのだ。


 「それでも、閣下が自ら石我輝に赴き、現地で指揮を采るというのであれば、閣下の意気込みと意思を尊重して、秋月も代替案を出すことは無かったでしょう。 しかし閣下の作戦案では、ご自身は首都の地下中央司令部という安全な場所から、偉そうに色々指示を出すだけで、離島の戦場に赴く指揮官や特殊部隊員、兵士達には『お国の為に死んでこい』という姿勢にしか見えません。 秋月はそういう思考の軍人が大嫌いですから」 

 厳しい指摘に、弁が立つ名豊少将も押し黙ってしまう。


 更に厳しい現実を知らしめる為、まだ未公表の事実を告げる。

 「潜入した秋月司令官以下3名ですが、要塞の破壊には成功したものの、敵の新型偵察機や新型対地対艦ミサイルの反撃により、音信不通となり、未だ帰ってきておりません」

 「......」

 潜入破壊工作の厳しい結果を聞き、押し黙ってしまう名豊少将。

 敵が長期に渡って占領中の島に潜入した者達が帰って来れないのは事前予想通りであり、人命軽視の作戦案だと批判されても致し方ないのだ。


 「もし、このまま秋月少将が帰って来なければ、それは余計な作戦案を提出した名豊少将等が殺したも同然。 しかも、敵を挑発した以上、動きが活発になるだろう流求方面の防衛を如何するのですか? 秋月少将が居なければ、我が国はとっくに流求列島を全て喪失し、今頃九州島が最終防衛ラインとなっていたのですよ?」

 皆があえて忘れたがっている、『碧海の女神』の功績。

 それを前面に出されると、大半の者がぐうの音も出なくなるからだ。


 「大佐、それぐらいにしておいてやれ。 名豊少将、君は政治的な動きをしすぎなのだよ。 だから作戦案も敵に筒抜けとなってしまう。 今回も君と親しい政治家か思想家が敵側の諜報員に籠絡され、計画案が抜けてしまったというところだろうよ。 もちろん我軍は民主国家の軍隊なのだから、どんな思想を持とうが排除しない。 貴官の交友関係が広いことも悪いことじゃないさ。 まあ流石に極端なテロ思想や陰謀論は別だがな」


 名豊少将の普段の行動を苦々しく思っている国防軍幹部は少なくない。

 あまりにも国家主義思想者や極右政治家との交流が深く、またその力を背景に徒党を組んで、強圧的な面を見せることがあるので、国防軍内の左派や中間派からの受けが悪いのだ。

 「大佐が言った通り、君の作戦を実行したら大敗北を喫して、責任を取らされる形で本部長も私も退役せざるを得なかっただろう。 最も、邪魔者を排除するということを君が目的としていたのならば、逆に舌を巻くがな」

 皇江少将に嫌味を沢山言われ、形勢不利を悟り、退散を決めた名豊少将。


 朝から騒がせたことを侘びる挨拶もせず、ドカドカと大股でドアの前に立つと、『バターン』と悔しさをぶつけながら、思いっ切りドアを閉めて立ち去ったのであった。



 「ところで大佐。 石我輝島に敵兵が3万人も集結していたって、本当なのか?」

 「ちょっと盛りすぎましたかね~。 秋月司令官からの連絡だと地下要塞に1〜2万人が駐屯していたようです。 行方不明となった司令官達の所在の情報収集の一貫で、昨日連絡の取れた島民の協力者の話では、数日前から連日3千人ほどずつが上陸していたとのことですので、最低でも2万人程度は駐屯していたと思われます」

 「了解した。 秋月少将等は、その増援部隊もろとも要塞を破壊したということだな」

 「さようです、閣下」

 「それでは本部長のもとへ報告に行こうか?」

 皇江少将は立ち上がると、副官に段取りを指示し、10分後、知久四大佐と共に本部長室へと向かったのだった。



 本部長室に入ると、統合作戦本部長蠣埼大将の他にもう一人待っている人物が居た。

 国防航空宇宙軍総司令官櫂大将。

 秋月少将と大佐が所属する軍のトップであった。

 「本部長、総司令官、おはようございます」

 国防軍最高幹部の2人が揃っていたことで、緊張して思わず訪問目的と似合わない挨拶をした知久四大佐。

 「大佐、そんなに緊張するな。 君の上司は私達の前でも、いつも自然体で言いたい放題だぞ」

 「君は秋月少将の代理なのだから、彼女らしい堂々っぷりで接しても、咎められることは無いのだからな」

 本部長と総司令官は、相次いで知久四大佐を誂う。


 「それでは早速小官から、今回の作戦結果を報告させて頂きます。 なお、敵の占領地ですので、あくまで数字等は推定となります」

 皇江少将が前置きをしてから、破壊工作の結果について説明を始めるのだった。


 敵が建設中だった大要塞は、9割方完成しており、運用開始目前だったと思われること

 建設費用は100億ドル以上、完成時には最大10万人程度の兵力が駐屯可能であったこと

 大要塞の建設目的は、流求列島全域を占拠する橋頭堡とする為であろうこと

 破壊時、要塞内には応援部隊1〜2万人が駐屯中だったこと

 この応援部隊は、名豊少将等が立案した作戦案が敵側に漏れたことで、迎撃部隊として増強派遣されていたとみられること

などが報告され、

 要塞は完全破壊され、原子レベルにまで分解されたこと

 敵増援軍の9割以上が、破壊の道連れとなったこと

などの成果も報告された。


 「そうか〜。 今回、秋月君に助けられたのは、私や作戦部長、それと名豊君だな。 あのまま予定通り名豊案で実行していたら、大敗を喫していただろう」

 本部長は神妙な面持ちで、結果報告に対しての感想を述べるのだった。

 そして話を続ける。

 「櫂大将。 君が秋月君の立場を守り続けたお蔭だ。 当人が居ないから、君に礼を言わせて貰うよ」

 「いえいえ。 私は親子3代、彼女に助けられっぱなしですから。 敵に回した時の恐ろしさも、味方となった時の心強さも、よく存じているつもりです」

 「来年、定年で退役だったよな?」

 「はい」

 「そうなると、秋月君の理解者がまた1人居なくなるのか......」

 「私など居なくなっても彼女は大丈夫ですよ。 影で絶大な権力を持っている人物ですから」

 「そうだった。 確か超大国軍の太平洋方面軍顧問だったよな?」

 「だから、国防軍の地位なんて必要無いのです」

 大佐は、初めて聞く話に驚きを隠せない。


 その表情に気付いた蠣埼大将。

 「知久四君でも、知らない話だったかな?」

 「はい」

 「本部長。 また秋月少将に怒られますよ。 余計なことを周囲に話すなと」

 「そうだな」

 潮音も含めて3人が行方不明だというのに、大将2人は全く意に介して居ないようであった。


 「本部長と総司令官は、秋月少将等が行方不明となっていることに危惧を抱いていないのですか?」

 「もちろん危機感は持っているさ。 敵は新型のミサイルを撃ち込んだのだから。 でも過去を振り返ると、彼女は何回も死んだと言われてきたじゃないか」

 大佐の疑問に本部長が答えたところで、櫂大将が続ける。

 「大佐は信じていないのか? 彼女の能力を」

 「いえ、そんなことは......」

 「彼女と一緒に仕事をして何年になる?」

 「トータルで10年程です」

 「そうか。 流求戦役では?」

 「第二次では、その戦いっぷりを間近で見ました」

 「では、私が彼女の死を全く信じない気持ちもわかるだろ?」

 「しかし......」

 「わかったよ、大佐。 本部長、私が退役する迄に戻って来なかったら、葬儀をあげることにしましょうか?」

 「そうだな......」

 「あれ、随分気乗りしない様子ではありませんか」

 「いや、葬儀なんて勝手にやって大丈夫か? その後戻って来たら......」

 「まあ、仮定の話は止しましょうか。 怒らせたら、秋月少将は怖いですからね」

 櫂大将は冗談だと言いながら笑い出す。

 蠣埼大将も同様であった。


 国防軍と関係の非常に悪かった若い頃の秋月潮音を、軍内へ引き込むことに成功したのは、櫂大将とその父、櫂退役中将のお蔭だと言われている。

 特に櫂大将は、潮音と年齢が近いこともあって、長年の説得や潮音の種々の活動に超法規的措置を含めた協力を惜しみなく続けてきた結果、ようやく信頼を勝ち得て、第一次流求の戦いの前に参軍を実現させることが出来たのだ。

 以後、第一次・第二次流求戦役での潮音の大活躍により、流求諸島の失陥を免れたことから、事前の行動に対して高い評価を受け、現在最高位にまで昇り詰めていたのであった。



 「さて小官は、そろそろ次の用件が有るので、お暇しますかな」

 櫂大将が時計を見ながら、そう言い出したことをキッカケに、潮音が立案した作戦に対する実施結果報告は終了となった。

 「大佐。 私への結果報告は本部長と今一緒に聞いたから省略で構わない。 それに秋月少将からも『成功した』と直接報告を貰っているしな。 先客を待たせると不味いから急ぐので、では」

 そう言い残すと、手を振って本部長室を出て行った櫂大将。


 「さっき、名豊が騒いでいた件は大丈夫だ。 作戦計画が敵に抜けていたのでは、もはや議論にもならんからな」

 本部長は、皇江少将と知久四大佐に、今朝の作戦部長室での出来事はこっちで処理するから安心する様にと伝えたのであった。

 「作戦に従事した3名が戻って来ないのは残念だが、軍事行動である以上、致し方ない。 その成果を無駄にせぬよう、今後も己の役割に励んでくれ」

 「了解しました」

 蠣埼大将に敬礼してから、本部長室を退室した2人。

 「それでは、私も次の仕事があるのでね。 大佐も自身の仕事に戻ってくれ」

 作戦部長とも、本部庁舎の廊下で別れたのだった。


 『なんだか、本部長も総司令官も、3人が帰って来ないことへの言及が少なかった気がするな。 軍隊である以上、そういうことは日常茶飯事ということなのかもしれないが......』

 そんな少し寂しい思いを抱きながら、重厚で立派な建物を振り返りつつ、統合作戦本部庁舎をあとにする知久四大佐であった......




 時は少し戻り、8月7日。

 潮音達と入れ替わる形で、この日の夕方、高槁農場には、新たな来客が到着していた。

 条月大学附属高校3年軍事戦戦科の特別クラス2人と戦々Aクラス5人、それと引率してきた櫂少佐であった。

 「詩太しいた、久しぶりだね~」

 空港に迎えとして来ていたリオが、櫂少佐に声を掛ける。

 「リオン、元気にしてたかい?」

 「詩太、農場で僕はリオだよ。 リオンじゃない」

 「そうだった、ゴメンゴメン」

 周囲には意味のわからない、2人だけの会話をしながら、久しぶりの再会を祝してハグをする。

 「少佐。 こちらの方は?」

 「今日から研修でお世話になる高槁農場のリオさん。 農場主の息子さんだよ」

 焔村の質問に答える少佐。


 櫂少佐は、子供の頃から、父と祖父の命令で、高槁農場の繁忙期の手伝いをする為、櫂家を代表して毎年複数回、小・中学校そっちのけで派遣されていたそうだ。

 リオとは同級生なので、仲が良く、今でも時々会っているのだと言う。

 「ちょっと、めちゃくちゃイケメンじゃない?リオさんって」

 「潮音ちゃんに似ているよね〜」

 女性陣3人が、キャアキャア言いながら、そんな内輪の会話をしていると、リオがつかつかと鏡水のところに歩み寄り、

 「貴女が、九堂鏡水さん?」

 「はい」

 「やっぱり、そうか〜」

 「何で、初対面なのに私の名前を知っているのですか?」

 「なんでだろうね~」

 そう答えると、意味深な表情を見せながら、

 「皆さん、荷物を受け取ったのならば、そろそろ行きましょうか? 目的地は空港から遠いので」

 全員に声を掛け、出発するのであった。



 「おい、水」

 「なに?村」

 「イケメンに声をかけられたからって、舞い上がり過ぎるなよ」

 「は〜〜〜。 アンタに言われる筋合いないわ」

 焔村の言い方に、相当ムッとした鏡水。

 気を取り直して、他の人と会話を始める。


 「少佐。 リオさんってもしかして独身?」

 「そうだよ。 俺と同じ」

 「同じって、独身ってことが?」

 「いや、それも有るけど、憧れている女性がってこと」

 「えー、もしかして潮音ちゃん?」

 「当たり〜」

 「ちぇっ。 私の周囲に居るアラサー独身男は、みんな潮音ちゃん潮音ちゃんだね~」

 鏡水がつまらなさそうに語る。


 「でも、リオさんって潮音ちゃんにそっくりですよね? もしかして弟さんですか」

 焔村はシスコンではないかと思い、鏡水の気を引く目的も有って少佐に質問してみたところ、

 「それは、当人から聞いてよ」

 流石にそう言って誤魔化す少佐。

 すると、運転しながら話を聞いていたリオが、

 「僕は、潮音の長男だよ」

と事も無げに真実を明かしてしまう。

 『まさか、マザコン?』

 焔村と鏡水は顔を見合わせて、思わず頷くのだった。


 「詩太の言うとおり、もちろん『碧海の女神』と称される英雄の母に憧れているよ」

 そう答えるリオの横顔は、非常に嬉しそうだ。

 『マザコンじゃなくて、英雄の潮音ちゃんに憧れてるってことだよ』

 『当たり前じゃない? マザコンだと思った村は馬鹿でしょ』

 小声でヒソヒソ話す2人。


 「ところで、2人は漫才コンビみたいだな」

 少佐が、2人の息の合ったツッコミとかを聞いていて、そんな感想を漏らす。

 ところが、それは鏡水の地雷を踏んだようで、

 「その言い方だけは嫌です、絶対」

 語気を強めてひとこと。

 以後、むすっとして黙ってしまう。

 「詩太は、相変わらず女の子の扱いが下手だね」

 リオが鏡水の表情を見て吹き出しながら、鋭い指摘。

 「リオさん、ちょっと笑い過ぎ」

 大人気無いと思い直した鏡水が、表情を戻してから困った顔をする。


 「どうせ俺はモテませんよ。 リオみたいに」

 急に拗ねだす櫂少佐。

 「悪かったよ、詩太。 今度紹介するからさ〜」

 「本当に?」

 「今まで、僕が嘘をついたことが有るかい?」

 「いや、記憶に無いけど......。 でも何処ぞやのお金持ちの美女とか紹介されても困るんだよね。 俺、ただの軍人だよ」

 「そんなコンプレックス、相手を好きになってしまえば関係無いさ。 それに元々お金持ちの娘さんなら、詩太の収入や資産を気にする様な子じゃない筈だろ?」

 「それはリオの場合。 リオに近付く美女は、富豪ってことに惹かれてくる人が多いからな〜」

 「リオさんって富豪なのですか?」

 2人のやり取りを聞き、鏡水が改めて興味を持って質問する。

 「いや、まあ、大農家だから、収入は多いよ」

 そう答えながら、自動運転に切り替えると、櫂少佐の背中を抓る。

 「痛てて......」

 『余計なこと言うなよ。 少佐の上官である母に怒られるぞ』

 『ゴメン。 つい』

 コソコソ話すリオと少佐。

 その様子に気付いたものの、あえて触れない鏡水。

 謎の多い潮音の息子だということを思い出したからだ。


 「お二人は仲良いんですね」

 「子供の頃は、2人で農場を駆け回っていたからね」

 「そうそう。 よく莉玖さんに怒られたよ。 食べ物の周囲を走るんじゃないって」

 「それに僕には色々諸事情が有って、心を許せる親友って詩太ぐらいしか居ないから......」

 そう答えるリオの表情には、少し翳りが見られたように、鏡水には感じられたのであった。

 「仲が良すぎるから、結婚相手が見つからないのかもしれませんよ、2人共」

 半分くらいの年齢の女子高生に、意外なことを言われて、笑い出す少佐とリオ。

 「そうかもしれないね」

 「それが真実かもな」


 そんな話をしているうちに、農場に到着。

 「見える範囲全部が高槁農場なの?」 

 「いやあ、本当に広い」

 「山々も見えて、景色が良いね~」

 特別クラス2名、戦々Aクラス5名の合計7名は、それぞれの感じたことを言葉にしながら、リオの案内で母屋に入る。

 「父さん、連れて来たよ」

 「ご苦労さん」

 奥から出て来た初老の背が高い男。

 農場主の高槁莉玖であった。


 先ずは簡単に自己紹介をする莉玖。

 そして、

 「詩太君、久しぶり」

 「莉玖さん、ご無沙汰しています」

 少佐との挨拶を終えると、

 「質問イイですか?」

 元気な声の主は鏡水であった。

 「構わないよ。 どうぞ」

 「主さんが、リオさんのお父さんですよね。 ということは、奥様は潮音ちゃんってことですか?」

 その言葉に、どよめく戦々Aクラスの5人。

 別車両の無人タクシーに乗っていたので、リオと少佐の会話を聞いていないし、見た目の年齢差が凄いからだ。

 「その通りだよ。 潮音は見た目が歳を取らないからね」

 その答えに、再びざわつくAクラスの5人。

 「そこの5人。 潮音ちゃんに年齢のことを聞くのは禁句だからね。 ここでの話は胸にしまっておくこと」

 質問した鏡水自身が、そんなことを言ったので、笑いが起きる。

 「彼女の言う通りだよ。 潮音は怒らせると目茶苦茶怖いから、絶対秘密にした方が良いよ」

 莉玖が笑顔で忠告すると、頷く5人。


 その後は、7人の部屋割りを実施。

 男4人は別棟の寮で1人一部屋ずつ、女3人は離れの潮音用建物の空き部屋で一緒に過ごすことに決まったのであった。


 「ここで過ごす目的だが、特別クラスの2人は能力を伸ばす為、Aクラスの5人は勉強合宿兼農業体験ということだからな。 遊びに来た訳では無いってことを肝に銘じておけよ」

 櫂少佐の説明に、

 「は~い」

 「わかってまーす」

等々の返事が起きる。

 「明日から朝は5時起床。 今日は早く寝ることをお薦めするよ」

 その指示には、

 「え〜〜。 早すぎ」

 「僕達夜型の生活だから、急に早く寝れないよ~」

との抗議の声が起きる。

 「お前達は若いんだから、少しぐらい寝不足でも大丈夫だ。 明日の夜はクタクタで、バタン・キューだろうからな」


 そんな少佐と高校生とのやり取りを聞きながら、なんだか嬉しそうなリオ。

 「リオ。 お前から言っておくことは?」

 少佐の確認に、

 「詩太は、意外と先生っていう職業も向いていたのかなって思ってさ〜」

と引率者としての姿の感想を述べる。

 「俺自身もそう思っているよ。 軍人にも各種学校の教官という選択肢が有るからな」

 少佐はそんな答えをしたのであった。


 「この農場には温泉が有るから、ゆっくり入って下さい」

 リオが高校生7人に説明したのは、結局それだけであった。

  


 「央部君。 よろしく」

 「鳴澤、仲定、北條、改めてよろしくな」

 焔村は、戦々Aクラスの3人と、案内された寮の談話室で挨拶をしていた。

 「特別クラスは最近、色々な出来事があったし、九堂さんにも軽くあしらわれているみたいだから、心配なんだ。 せっかくこういう形で知り合えたのだし、なんでも遠慮なく言ってくれよな」

 北條は、やや元気の無い焔村が少し気になっていたのだ。

 「星都。 九堂さんの件は男女間のデリケートな問題だから、余計じゃないのかな」

 蒼浪理が少し咎める言い方をしたものの、

 「でも、央部君は九堂さんのこと好きだろ?」

 ド直球の話題を振られて、かなり動揺する焔村。

 「いや、鏡水が俺にあんな感じなのは、ずっとだから...... 気にしてはいないよ」

 目が泳ぎながら答えるも、

 「それ、本心か〜?」

 大陽も突っ込みをぶっ込んで来た。

 「本心だよ」

 少し慌てた様子で、失恋とか恋心とかは関係ないと否定する焔村。

 「九堂さんは最近、学校内でも人気急上昇中だからね。 総合成績の上位者常連になって、高校内ほぼ全員の注目を浴びているから」

 星都の指摘に、

 『やっぱり、そうなってしまったか〜。 鏡水に誰か好きな人でも出来たのかなあ〜。 確かに最近少し冷たいんだよな〜』

 内心では、そう思っていたのだ。


 今まで焔村は、特別な能力を持つ者同士として、鏡水の隣に立つことが出来る唯一の異性であった。

 しかし今回の出動命令では、後から目覚めた幼楓が潮音に選ばれ、遅れを取ってしまったという焦りに似た感覚と、それ以後鏡水が焔村を少し避けているような感じがあって、意気消沈していたのだ。

 鏡水の態度が冷たく感じられるようになった理由は、常に冷静で鏡水の唯一人の親友である石音という存在が居ないことにも原因が有ると、焔村は分析していた。

 

 「秋月先生が連れて行った2人は、ずっと一緒に行動していることで、きっと強い絆が生まれているさ。 だから央部君は、逆にこの合宿をチャンスだと考えるべきだよ」

 「俺も星都の意見と同感だな。 ここで何の進展も無く学校に戻っても、今以上のチャンスは無いと思うよ」

 大陽も『ウンウン』と頷きながら、協力すると申し出る。

 「2人がそう言うのならば、女子2人にも説明して、Aクラス5人で焔村君のアシストをしようよ」

 蒼浪理が北條と仲定に提案。

 「賛成〜」

 「よし、いっちょうやったるか〜」

 星都と大陽が賛同したので、勝手に決まってしまうのだった。

 「いやあ〜、気遣いは嬉しいけど......」

 「神坂君と京頼さんが戻って来る迄は、九堂さんの性格からして、難しいということはわかっている。 でも僕達は2人が必ず戻って来ると信じている。 そして、この合宿に後から参加して来ると予想しているからさ」

 「それまでに、下地を作っておこうよ。 九堂さんと焔村君の関係が進展するようにね」

 Aクラスの男3人は、特別クラスの4人の境遇を知ったことで、残り少ない高校生活という青春の1ページに、良い思い出を残して欲しいと相談して決めていたのだ。


 「そこまで言うなら、止めないけど......呉れ呉れも京水の怒りを買わないように頼むよ」

 焔村も、善意の申し出を受けることにしたのだ。

 『青春を少しぐらい謳歌してみようかな?』

と思い直したことで。

 「幸い女子3人は一緒の部屋だし、合宿の日にちが経つにつれて、きっと打ち解けている筈だよ。 夏織も莉衣菜も、性格の良い子だからね」

 方針が決まった以上、蒼浪理は状況を分析し始める。

 「明日、焔村君達とAクラスが別行動の時に、話を詰めておくから。 それも報告するよ」

 何だか嬉しそうな、Aクラスの3人。

 『潮音ちゃんや楓、石音が居ないから、張り合いの無い、ただの農作業を手伝わされるつまらない合宿だと思っていたけど、少しは楽しいものになるかな......』

 焔村は、同級生3人の表情や会話を聞きながら、そんなことを考えるのであった......


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ