Q大奇譚集
以下の話は古びた書物、またはインターネット上、もしくは山の中から聞こえる声、あるいは人づての噂より引用したものである。そのため信憑性は担保されていない。またすべての話は某地方にキャンパスを構える某大学を舞台としている(仮にQ大と記しておく)。もちろん信じようと信じまいと、あなたの自由である。
中央図書館の一階には、背表紙に何も書かれていない禁帯出の本があると言われている。「その本を手に取った学生が近いうちに受ける試験の問題と答案が掲載されている」という夢のような代物だが、本を開いた場所から一歩でも移動すると自動書庫に挟まれて行方不明になってしまうらしい。
キャンパス周辺にはタヌキが多数生息している。この地では彼らの方が先輩なので、失礼のないように振る舞おう。大学内のとある売店の看板娘やその友人も紛れているかもしれない。また毎回きちんと授業に出席していれば、時折見知らぬ学生が窓際後方の席に座っていることに気がつく場合もあるだろう。もしふさふさの尻尾が見えてしまっても知らないフリをしてあげよう。
生協の食堂のわさびはまったく辛くないので、そのまま一口で食べても大丈夫である。だまされたと思って一度試してみるといい。もちろん自己責任。
イーストゾーンの大講義室Ⅱはほんの少しだけ亜空間に繋がっており、外見よりも奥行きが二メートルほど長くなっている。今のところ講義への支障はない。
理学部食堂の最も美味しいメニューは唐揚げということで概ね同意されているが、カレーを至高とする一派や角煮定食を支持する団体も存在する。どれが一番美味しいのかはぜひ自分で確認してみるといい。
もしイノシシに遭遇したら、すぐに安全な場所まで逃げた上で大学に通報しよう。これだけは本当。
センターゾーンから中央図書館に向かう渡り廊下で後ろから呼びかけられても、その声に心当たりがなければ振り返らない方が賢明かもしれない。夕暮れ時であればなおさら。
ウエストゾーンを夜間に歩いていると、たまに人魂のような丸い光に遭遇することがある。これは館内に化石として展示されているアンモナイトが昔を懐かしんで漂っているだけなので、特に怖がる必要はない。
五限終了後の教室から、学生歌の「松原に」が聞こえてきたらすぐに逃げよう。絶対に途中で振り向いてはいけない。建物の外にさえ出てしまえばひとまず安全だが、間違っても戻って確認しようなどと思ってはならない。
センター二号館のエレベーターにはたまに「五階」のボタンが出現するが、五階から戻る方法はまだ確立されていないそうなので安易に押さないようにしよう。
糸島の海上に大きな山のような影が見えても凝視してはいけない。基本的にアチラは私たちに気づかないフリをしてくれているが、こちらがアチラに気づいていると知ったときの対応は誰にも分からない。
ここまで読んだ人には「部室棟・三階・テニスコート側・階段を上って奥から三番目の部屋」に行くことをおススメする。懐かしいあの本や珍しい漫画、これまでの部誌やちょっとしたボードゲーム等々があなたを待っている。運がよければ新たな友人や居場所を得られるかもしれない。