【Proceedings.69】揺蕩う竜と運命を招き入れる猿.06
天辰葵の常識外れ加減に申渡月子はなす術がなかった。
「本当に常識外れな人ですね、葵様は……」
申渡月子はそう言って苦笑いをする。
「そうだよ。だから月子も遠慮しなくていいよ。それに言ったでしょう? 私も絶対少女とやらにならないとね、いけないみたなんだ」
天辰葵も何となくそれは思っていたことだ。
興味なくとも、関わらなくてはいけないことだと。
恐らくは、これが、これこそが原因の一つであると。
自分がここに来た理由でもあると。
「願いが理由ではなく?」
申渡月子は少し困った表情を浮かべて天辰葵に聞く。
「そうだね。こう言っては…… なんだけども。私は願い事を叶えてくれるなんて話は、今も信じてないよ」
天辰葵はそんな都合の良い物を信じない。
古今東西、願い事を叶えてくれるというものは、人をおびき寄せる為の罠でしかない。
天辰葵はそのことをよく知っている。
「では、どうして?」
申渡月子には理解できない。
願いが叶うからこそ、デュエリスト達は危険なリスクを負ってでもデュエルをするのだ。
それが嘘ならば根底から覆されるものだ。
だが、
「そんな都合のいいもの存在するわけないじゃないか」
と、天辰葵は笑顔で言う。
「それは……」
その言葉に申渡月子は言い返せない。
そんな都合の良い物があるとは思えないからだ。
なら、なんで、そんなことを心の底から信じていたのか。
それも申渡月子にはよくわからない。
「願い事が叶うって話は、生徒にデュエルをさせる為の理由付け、まあ、ようは餌だよ」
天辰葵はその言葉を口にした。
そして、悲しそうな表情を見せる。
「餌…… ですか」
「このデュエルはね、月子の言う通りまっとうな物じゃない。だから、できることならば月子には関わって欲しくはないかな」
天辰葵のその言葉に、申渡月子はハッとなる。
それは、それこそ自分の言葉だと。
本来無関係な天辰葵を巻き込んでしまったのは自分だと。
「それは…… それこそ、こちらの話です。葵様こそ何の関係もないはずですよ」
だから、だからこそ申渡月子も今になって覚悟が付いた。
このまま、天辰葵を絶対少女にしてもいいのか、どうかと。
よくよく考えるとおかしい。
絶対少女になった者はどこへ行ったのか。
絶対少女になった、その事実だけが残り本人は神隠しにあったかのように消えてしまう。
今まで絶対少女になった三人ともがだ。
おかしくない訳がない。
そんな、いかがわしいものに天辰葵を関わらせてはならない。
それで申渡月子も覚悟を決めたのだ。
「はじめは私も手がかりを探る間の暇つぶしにでも…… と思っていたんだけどね。でも、違っていた」
そう、天辰葵もはじめはデュエルにあまり関心はなかった。
だが、デュエルに参加するうちに、その異常性は浮き彫りとなっていく。
神刀の存在、神刀で相手を斬っても痛みしか残らない、そもそも池に沈む円形闘技場だって常識外だ。
それらを自然に受け入れてしまっている生徒も、天辰葵から見ればおかしいのだ。
それらがまるで当然のように受けいられているこの状況こそが異常なのだ。
「何を言っているんですか?」
申渡月子には天辰葵の言っていることがまるで理解できない。
彼女の常識ではデュエルは普通の事でしかない。
異常とは感じられない。
それでも、申渡月子は何かを感じ取りデュエルは危険だと本能的に気づいている。
「このデュエルこそが根本だったみたい」
それに確信に変わったのは未来望とのデュエルでだ。
生徒の中にもどうにかしようともがいている者もいる。
だが、それらはすべて徒労に終わっているようだ。
だからこそ、天辰葵はこの学園に来たのだ。
「デュエルが根本?」
眉をひそめ申渡月子は聞き返す。
とても、非常に重要なことに思える。
「儀式、いや、これは祭りの一種かな…… そんな言葉はないけれど、悪祭とでもいうのかな? 私はそれを止めに来たんだよ」
そして、天辰葵はこの学園に来た理由を述べる。
「デュエルを止めに?」
「結果的にはそうなるかな。そのために私はここに来たんだよ」
「何を言っているんですか?」
だが、申渡月子もデュエルは良くないものと感じつつも、それ以上の疑念は抱けない。
天辰葵の言っている言葉が理解できない。
「月子はおかしいとは思わない? 私がこの学園に来てどれだけの月日が経ったか覚えているかい?」
天辰葵は舞っている桜の花びらを一つ掴み、それの匂いを嗅ぎながら、申渡月子に問う。
「え? そ、それは…… もう結構経ちました」
そうだ。
なんだかんだでかなりに日数が立っている。
では、具体的に何日経過しているのか、そう言われると申渡月子は答えられない。
妙に曖昧な感じでしか、もうかなりの日数を天辰葵と過ごしてはいる、そんな感覚しか得られない。
なにもかも、決定的なことがどこか霧にでも覆われていて、まるで思い出せない。
「だよね。けど、この学園は未だに桜が咲き乱れ、桜の花びらが舞っている。いつまでたっても終わらない春休みの中にいる」
そう、今はまだ春休みのままだ。
授業が始まる気配もない。
ただ、永遠と終わらない春休みが、春という季節が続いている。
「な、なにを…… でも…… たしかに……」
申渡月子の頭に鋭い痛みが走る。
グワングワンと頭の中で痛みが渦巻いている。
それにより何も思い出すことも考えることも出来ない。
「私はね、ここを正しに来たんだよ」
天辰葵は申渡月子を見て、再びそれを宣言する。
「な、何を…… 言って……」
だが、なにを正すというのか、申渡月子には理解できない。
ここでは、神宮寺学園ではそういう風になっている。
「月子? ごめんね。無理に考えこもうとしないで。何らかの強制力が働いているみたいだね」
苦痛に満ちた申渡月子の表情を見て、天辰葵は少し困ったようにそう言った。
「強制力……?」
「そう。この学園は色々と変だよ。デュエルという非常識なものを異常とも誰も思っていない。ずっと春休みなのに誰も気にしない。円形闘技場? おかしいでしょこんなもの自体が」
そう言って天辰葵は、神刀で、蛇頭蛇腹で円形闘技場の床を打ちすえた。
「そう…… なんですか?」
頭痛に苦しみながら、申渡月子は考えるが、彼女からすれば、デュエルは普通の事だ。
何一つおかしいことなどない。
普段通りの学園生活の一部でしかない。
「ここに、この学園に長くいれば疑問を持たなくなるみたいだね。いや、なにか切っ掛けがあるのかもね」
そんな申渡月子にむかい、天辰葵は更に言葉をかける。
「何を言って……」
そう言って申渡月子は更に頭痛に顔を歪める。
流石に、この辺で話を終えないとまずいと、天辰葵も思う。
この学園の強制力とも言うべき力が想像以上に強い。
「月子、今はあんまり深く考えないで。月子ももう囚われてしまっている。私も囚われる前に終わらせないといけないんだ」
「なら、なおさらです。わたくしが…… それをやります。わたくしがこの学園を、おかしいと言うのであれば、わたくしがすべてを正します。なおのこと部外者の葵様に頼るわけには参りません!」
申渡月子は激しい頭痛に耐えながら、まっすぐに天辰葵を見てそう言った。
「月子…… 君は気高いね。でも月子には無理だよ」
その申渡月子の覚悟の強さに、天辰葵も改めて驚きはするが、それでも、それは自分の役目であるし、申渡月子に任せられるものではない。
「ならば、実力でわからせるまで、です!!」
そう言って、申渡月子は頭痛を振り払い、神刀、首跳八跳を構える。
━【次回議事録予告-Proceedings.70-】━━━━━━━
運命と運命がぶつかり合い重ね合う。
それは新しい運命として廻る。
━次回、揺蕩う竜と運命を招き入れる猿.07━━━━━




