【Proceedings.13】戸惑う竜と執行団その猟犬の遠吠え.06
前回の決闘は急に行われ準備が間に合わなかったが、今回の決闘、デュエルの開催は事前にわかっていたため準備ができている。
つまり、今回は解説席を実況席がちゃんと運び込まれる、その為の準備できている。
猫屋茜がその席を必死に設置した。
本来なら、解説席には戌亥道明がよく座っているのだが、今日は戌亥巧観のデュエルアソーシエイトとしてステージに立っている。
ならば、副会長である喜寅景清に声がかけられるのだが、喜寅景清はそう言う事、何かについて話すことに向いていない。
その圧倒的な実力から副会長の座に君臨しているが、そもそもそういった物にも本人は興味はない。
つまりどういうことかと言うと、喜寅景清は解説役を丁寧に断っている。
その代わり、解説役の席には生徒会執行団、会計が一人、卯月夜子がやはりバニーガールの姿で優雅に、そして魅惑的に座っている。
そして実況席には、今回のデュエルの仕掛け人である猫屋茜が座っている。
「さあ、二人が、戌亥巧観と天辰葵の両名が、互いのデュエルアソーシエイトから刀を抜きだしました! 卯月さん、刀の解説を良いですか!」
猫屋茜は久しぶりの実況に嬉々として喋り、夜子に解説を促す。
「ええ。まずは何と言っても長い事行方不明になっていた月下万象。前期に絶対少女になった恭子の刀ですね。月子ちゃんに宿っていたのね。だから月子ちゃんがデュエリストに選ばれたということよん」
そう言って夜子、卯月夜子は愛おしそうにその刀、月下万象を見る。
以前、あの刀は自分が振るっていた物だ。
それだけに愛着があり、また恨めしくもある。あれは、あの刀は自分の物だったのだと。
「卯月さんは、恭子さんのデュエルアソーシエイトだったんですよね!」
「そうですね。それだけにあの刀は私がよく使っていました。本当に素晴らしい、非の打ちどころない刀ですよん」
「そして、生徒会長の中に眠っていた刀、の天法不敗。不敗の名刀として有名ですよね」
猫屋茜は少し興奮気味に話す。
生徒会長の戌亥道明がデュエルアソーシエイトをすることな非常に稀なことだ。
「その力は法則、物理法則をも無視する刀として、その力と名から無敗の刀として知られるものですね。あの刀を会長自身が使っていたら一強でデュエルが終わっていたともいわれてますね。でも、悲しいかな、これはデュエル。デュエルでは自分自身の刀は使えないんですよん」
夜子は、卯月夜子は生徒会長である戌亥道明をあざ笑うかのようにそう言った。
だから、戌亥道明は申渡恭子に負けたのだと。
「では、次にデュエリストのほうの解説を……」
と、猫屋茜がまだまだ喋り足りない、と言ったところで、
「茜君、それくらいにしたまえ。解説も大事だが、巧観も葵君も既にやる気になっているようだからね」
戌亥道明がステージからそう言ってそれを止める。
そうしなければ、いつまでもしゃべり続けそうな、そんな気配を今の猫屋茜からは感じたからだ。
前回の唐突に開催された牛来亮と天辰葵のデュエルを除けば、デュエルは停滞しており、長らく開催されていなかったのだ。
猫屋茜としても興奮を抑えきれなかったのかもしれない。
「は、はい、すいません、会長! で、では!」
猫屋茜も反省する。
主役達を、ステージでにらみ合っている一人の少女を取り合う少女達を置き去りにして、その解説など意味がない。
「いざ、尋常に!」
「勝負!!」
戌亥巧観と天辰葵が声を掛け合う。
そして、葵がその言葉を言い終わった時、戌亥巧観が駆ける。
まっすぐに、最短距離を、一直線に。
その切先を天辰葵に向けて。
「犬刺突!」
素早い速攻での最高速の片手突き。
威力、スピード、タイミング。
どれも申し分ない。
が、相手は天辰葵だ。
天辰葵はそんな突きを足運びだけで難なくかわす。
否、かわしたはずだった。
天辰葵の左腕に鋭い痛みが走る。
「これは……」
だが、血が出ているわけでもない。
ただ天辰葵の着ている制服の左腕の部分に、刀で突かれたような穴が開いている。
「このデュエルでは突かれたとて、斬られたとて、怪我はしない。痛みは残るがデュエルが終われは自然とそれも消える」
戌亥巧観が、刀を振り払いながらそう言った。
本来ならそこには天辰葵の血がべっとりとついていたことだろう。
「巧観め。わざわざ教えてやることはないだろうに」
それを相手に態々教えてやる戌亥巧観に戌亥道明が呆れる。
「ふーん、でも、それだけじゃないね。確かにかわしたはずだよ」
そう、天辰葵は戌亥巧観の突きを完全に見切りかわしていたはずだ。
なのに、こうして当たっている。
「ボクの持つ、この兄様の刀、天法不敗は物理法則を無視する。かわしたところでかわせるものじゃない」
「なるほど…… ね。それは厄介だね」
それすらも、刀の能力すらも教えてしまう戌亥巧観に戌亥道明は呆れはするが、
「巧観…… いや、いい。好きにすればいいさ」
と、笑ってそれを容認する。
デュエルアソーシエイトとはいえ、これは互いの誇りを賭けた決闘なのだ。
兄とはいえ、デュエルアソーシエイトとはいえ、口をはさむべきではない。
ましてや実況や解説など必要ないとさえ、戌亥道明は考えている。
「葵様!」
申渡月子もこのデュエルで斬られたとて怪我はないことは知っている。
だが、それと同様の痛みだけはあるのだ。
心配しない訳はない。
「大丈夫だよ、月子。問題はない」
天辰葵はそう言って、顔色一つ変えずに、それどころか笑みすらも絶やさずにそう言った。
そんな天辰葵を戌亥巧観は睨む。
「ボクは君に勝つ。そして、月子にボクの思いの丈を伝える!」
決心した戌亥巧観はもう迷わない。
女同士であろうと。
申渡月子に拒絶されていようと、もう迷わない。
例えその結果がわかっていても、もう迷いはしない。
その思いを、伝えずにはいられない。
戌亥巧観は、多少魔が差すとはいえ、基本はまっすぐな、そして、一度決めたら突き進む人間ではある。
「巧観……」
申渡月子はそんな戌亥巧観をどうしたらよいか、わからない目で見つめる。
けれど、それを笑ったりはしない。
真剣な相手を笑うような女ではない。
真剣な思いには真剣に応える、それが申渡月子だ。
「それ、私とデュエルする必要あった?」
そこで天辰葵がみもふたもないことを言う。
「ない!」
と、戌亥巧観もそれを認める。
そもそも戌亥巧観も天辰葵とデュエルをするつもりはなかった。
「そうだよね」
「でも、きっかけにはなりはした!」
戌亥巧観はすがすがしい顔でそう言い切った。
しっかりと天辰葵を、そして、その先にいる申渡月子を見てそう断言し、言い切った。
「そうか。キミにとって必要な事なんだね。でも、私も負けないよ」
天辰葵もその答えに納得し応じる。
人によっては何かきっかけがなければ動けない人間がいる。
戌亥巧観もそんな人間の一人だ。
ただそれだけのことだ。
「もう言葉は不要! もう一度その身で味わえ! 犬刺突!」
迫りくる戌亥巧観の鋭い突きを天辰葵はかわすのではなく、刀自体をからめとるように打ち払い、そして、突きの勢いを利用して上にその刀自体を飛ばす。
戌亥巧観の持つ天法不敗がその手を離れ跳ね上げられた。
と、思った瞬間、跳ね上げられたは、天辰葵の持つ月下万象だった。
そこへ更に戌亥巧観が天法不敗をもって天辰葵に斬りかかる。
天辰葵はそれを空中に舞う花びらのように、華麗に飛んでかわす。
ついでに跳ね上げられた月下万象を空中で華麗にキャッチするという芸当まで見せる。
だが、着地した天辰葵は跪く。
葵の左側面の横腹の制服が切り裂かれている。
「事前に言ったはずだよ。天法不敗は物理法則をも無視すると。この刀はかわすことはできない。いくら君が、どんなに優れていようとね」
そして戌亥巧観は再び突きの構えをする。
「なるほど。これは手ごわいね」
そう言いつつも、天辰葵は斬られた横腹を手で押さえて確認する。
本当に傷一つない。だが、その痛みは本物だ。
だが、天辰葵にとってその痛みすらも障害にはならない。
「まだ余裕があるのか」
本来なら相当な深手となる一撃だったはずだ。
その痛みも相当なはずなのに、天辰葵は本当に顔色一つ変えていない。
天辰葵は既に何事もなかったかのように華麗に立ち上がった。
「優雅に、そして余裕を持って、何よりも美しく。それが私の信念でね」
そう言って刀を、月下万象を天辰葵も構える。
流石にこれ以上斬り付けられる気は天辰葵にも無いようだ。
「その余裕、いつまでも持つかな、この天法不敗相手に!」
その言葉に、天辰葵が月下万象を強く握る。
桜の花びらが風に舞う。
再び戌亥巧観が、突きの構えをする、深く腰を落とし、脚のばねを十分に貯える。
戌亥巧観の得意とする突きは、相手の刀を折らないといけないこのデュエルでは不利だ。
だが、天法不敗という刀は、それすらも、突きを相手の刀に合わせることすらも可能なのだ。
戌亥巧観はこれで決めるつもりで突きを放つ。
渾身の突きを。
例えかわされたとて、外れようとて、天法不敗の力で、放たれた突きは月下万象に必ず命中する。
今まではこの理不尽なまでの刀の力を知らしめるために、天辰葵の体をわざと狙っていた。
刀ではなく、天辰葵自身を狙ったのは戌亥巧観の優しさとも言って良い。
それは天辰葵が、申渡月子の姉、申渡恭子を探すと言ったからだ。
自分ではなし得ない、それを、やってのけると言って月子を喜ばしてくれた礼であった。
そうでなければ、初めから刀を狙っていたら、それでこのデュエルは終わっていたはずなのだから。
だが、それももう終わりだ。
もう勝負をつける。
これ以上は天辰葵への侮辱となる。
いたぶるつもりも毛頭ない。
そのつもりで戌亥巧観は渾身の突きを放つ。
「終わりだ! 天辰葵、天法不敗の前に敗れ去れ! 犬刺突!」
だが、天辰葵は完全無欠の少女だ。
天辰葵も突きの構えをし、戌亥巧観に合わせる様に突きを放つ。
月下万象と天法不敗の切先同士が、寸分たがわず重なり合う。
キィィィィィン!
と甲高い金属音を立てて、二本の刀の切先がぶつかり合い、拮抗し合う。
「そんな、馬鹿な!」
流石に突きをそんな風に止められるとは思っていなかった戌亥巧観は驚きを隠せない。
「切先同士を寸分たがわずぶつけることで天法不敗の能力を防いだのか!」
戌亥道明すらも、底知れない天辰葵の実力に恐怖する。
「葵様…… 貴女は一体……」
今は味方であるはずの申渡月子も、天辰葵のその技術に驚愕せざる得ない。
「けど、それができたところで!」
戌亥巧観が更に突きを放とうとしたよりも先に、今度は天辰葵が動く。
素早く、最短の動作で、まさに隙無く。
閃光の如き一撃。
その斬撃が戌亥巧観の胸に叩き込まれる。
「さっきのお返しだよ。割と痛かったか…… え? 女!?」
天辰葵の放った斬撃は、戌亥巧観の学ランを、その下に着ていたシャツを、下着を、切り裂いていた。
そこから見えた言うまでもない。
乙女の柔肌であり桃源郷だった。
天辰葵は完全無欠の少女である。
唯一弱点があるとしたら、彼女は美しい少女に弱い。
男装してはいるが、戌亥巧観もまた美しい少女である。
━【次回議事録予告-Proceedings.14-】━━━━━━━
戌亥巧観が少女であったことを知った天辰葵。
動揺し、その刀を持つ手に力が籠らない。
そんな時、申渡月子がかけた言葉とは!?
そして、天辰葵から語られる本当の願いとは?
━次回、戸惑う竜と執行団その猟犬の遠吠え.07━━━━




