勇者はお金で買うんだよ、だって僕がそうだもの
今から50年程前の事です。この国に魔族が押し寄せてきました。そして王都の建物を壊したり焼いたり酷いことを沢山したのです。人々は逃げまどい、離れ離れになり、生きる希望を失いかけていました。
そこに一人の勇者が現れます。魔族と戦い、瀕死の重傷を負いながら、この国を守ってくれたのです。人々は大変喜び、勇者に感謝しました。王様は勇者に多額の褒美を与えたそうです。勇者のお陰で、魔族が押し寄せてくる前と同じくらいの活気にあふれた国になったのです。
しかし、その後の勇者がどうなったかは、知る人は殆どいませんでした。
この国の辺境の村に、一人の少年ダックスがいました。ダッグスは、その年代の子どもたちと同じように50年前の勇者の話が大好きで、憧れていました。大きくなったら勇者になって、国や大切な人たちを守ると決めていました。そしてダックスは、勇者になるために王都に向って旅立ちました。
荷馬車のひっきりなしに往来する王都のメインストリートの脇に、一人の老人が座っていました。薄汚れていて、みすぼらしい姿の老人に目を向ける人は殆どいませんでした。見て見ぬふりをしています。そこに一人の男が老人に話しかけます。
「おい、じいさん、ここに座られたら迷惑だ。どこか他所に行ってくれ。あんたがここに座っていたら、うちの店に誰も近づかねえ。」
その男は老人の周囲の道に水を巻き、「どかねえとおまえにも水をかけるぞ」と言わんばかりの態度で、追い払おうとしました。老人は仕方なくヨロヨロしながら起き上がりましたが、姿勢を崩して荷馬車が迫りくる路上に転がってしまいました。老人が轢かれると思ったその時・・・
間一髪のところで、ちょうど王都にたどり着いたばかりの少年ダックスに老人は助けられました。
「危なかったね、おじいさん。大丈夫?怪我はないかい?」
老人は助けてくれた少年ダックスの瞳を見て思いました。
正義感の溢れた、穢れを知らない純真な心を持っている。
それはまるで50年前までのわしのようだ。
老人はかつての勇者でした。
50年前、王様から褒美を受け取った事を聞きつけた悪い大人達に騙され、あらゆるものをむしり取られてしまい、奈落の底に突き落とされていたのです。それでも大胆な発想で事業を起こしました。事業が軌道に乗る頃に信頼していた右腕に利益の殆どを持ち逃げされました。何度も不幸に見舞われながらも努力を重ね、会社の会長にまで登り詰めました。しかし数年前に役員会議で謂れの無い経営不振を問われ解任されてしまいました。嵌められたのです。老人の瞳は光を失ってしまいました。
少年ダックスは、助けた老人に将来の夢を語ります。勇者になっておじいさんのような困った人を助けるんだと。老人は少年ダックスに話しかけます。自分がかつて勇者でこの国を救ったこと。勇者の証である魔族から受けた傷を見せながら。そして提案します。
「家に勇者の権利証や剣や盾、防具など当時のものを大事に仕舞っている。助けてくれたお礼に、それをおまえに譲ってやろう。格安で。そうすればおまえはもう勇者だ。」
老人は更に続けます。
「勇者の権利証の時価総額は500万くらいで、剣や盾、防具などのセットが200万くらいとなる。それらをまとめて300万でどうかの。それに定期メンテナンス費用も3年間分を前払いすると50万くらいになるが、今ここで決めるなら特別に無料にしてやろう。まとまったお金が無くても月々支払いでも構わんぞ。全額が無理なら残価設定をして月々の支払いを軽くできる。支払い期間終了月になったら残りをまとめて払うかこちらに戻してもらえばええんじゃ。おまえは将来性がありそうだから金利も3%にまけてやろう。」
少年ダックスは契約書にサインし、老人は新たな食いぶちを獲得したのでした。
老人は薄汚れていたのです。




