血の池
地獄の育毛
『キモい、なんだそのジャングル!不潔!普通毛の処理くらいするだろ!』
最近よく聞く、YouTubeの脱毛剤の広告。冴えない男子、と言う年齢は遠い昔の話で、自分い重なる部分がひとつもないのだが、悪口や誹謗中傷の言葉といったものは例え自分に向けられていなくてもキッツいなぁ、となんとなく思った。
「お疲れさまでーす、ってあれ、何みてるんすか?脱毛クリーム?」
休憩室に、新人が入ってきた。
「いや、広告。スキップ押すの面倒くさくて。」
まだここに来て間もないと言うのに、随分と私に対してフレンドリーに話しかけてくる。まだここの事がよくわかっていないのか、それとも単に元来の性格が軽いだけなのか。おそらくその両方だと思うが。
「まだプレミアム入ってないんですか?」
彼が私の手元を覗き込みながら言う。知らない香水の匂いが、鼻に優しくなかった。
「いや、さぶ、さぶ…」
「サブスクリプション?」
カタカナが出てこなくて口ごもっていたら、彼がピタリと正解を出してくれた。こういう時、もう若くはないのだと改めて突きつけられるようでかなり響く。もちろん、顔に出すようなことはしないのだけれども。
「そう、それ。なんだか、形ないものにお金を払う気がしなくて。」
「広告ないYouTubeはマジでストレスフリーなんで。よくみるんなら絶対入った方がいいっすよ。」
彼は椅子に座ると、褐色のビニール袋からコンビニ弁当を取り出した。
「今日はのり弁かい?」
「はい、なんかもう、行った時には他のが売り切れてて、これしか無かったんで。」
彼は慣れた手つきでプラスチックの両脇のテープを切った。
「いただきます。」
きちんと手を合わせて言う彼は、きっと悪い人間ではないのだろう。こうして辺鄙な職場に飛ばされたとしても、文句ひとつ言わずに、冴えない上司のもとで働いているのだから。
「なあ?」
「ふぁんふぇすか?」
ちくわの天ぷらを加えたまま彼が喋る。
「最近の若者は、脱毛とかは当たり前なのかい?」
「ん〜、そうっすね…。」
ごくり、と綺麗に飲み込んだ彼は言った。
「まあ、ダチの中ではすね剃ってるやつとかいますけど、そんなに当たり前ってほどじゃあないと思いますよ。」
「そうか…。」
「というか、この職場で働いてたらすね毛なんか全部なくなっちゃうじゃないですか。」
彼は笑いながらそう言った。
「うちの血の池、皮膚まで焼くんですもの、清掃する俺らは長靴履いてても、少しずつ焼けますもんね。」
「まあ、な。」
「今もう慣れちゃいましたけど、あれ最初マジで痛かったんですから。」
こちら地獄、血の池町。環境部という名の清掃係。薄給重労働がなんぼのブラック企業である。




