七草粥と台風寒波と緊急事態宣言2
「風が強いな・・・。」
寿樹がガタガタ音を立てる納戸の外を見てつぶやいていた。
寿樹が朝早くにお勤めを終わりにしていたから、気持ち的にゆっくりできるのかと思って、僕は昨夜、村の人からもらっていたセリ・ナズナ・スズシロをサックサク切っていた。
建物の外はみぞれ交じりの猛吹雪となり、古い木の柱を痛めつける。
「なんか寒くなってきた。」と言って半纏を羽織るのは鬼空。
「雪になりそうですね。」
珍しく弦賀さんもこの一ヶ所に集まって来た。
「弦賀さんも来たの?珍しい。」
「いやー。あの研究所もプレハブでしょう。こうも吹雪かれるとエアコンもいまいちでして。」
という事で、みんな火を使う食卓に集まってきたのだ。
「お、健太さん。今日は七草粥でしたね。」
弦賀さんが褒めてくれる。
「健太が作れるのか?」
いつもけなす事しかしないのは鬼空。
「失礼な!ちゃんと如月じいと興津さんから教わったから大丈夫です。」
お粥って味付け何だっけ?
台所のあるはずの思っていたダシが切れていた。
これだから二人以上で台所を立つのってリスクがある。
こんな、嵐ような天気の日に外へ買い物へ出ようとは思わない。
いや、出て行けない。
「今日の昼めしって、マジで粥なの?」
「お正月の胃袋を休めるいい栄養補給ですよ。」
弦賀さんが当たり前のように鬼空に言い定める。
「無理だよ。正月に胃袋痛めてないしさ。」
鬼空の一言に、みんなうなだれる。
健太がぐつぐつ煮立つ鍋の中に、鶏のダシを入れようとしたら。
「粥に何故ダシが入る?」
寿樹の指摘があった。
今日は外野がうるさいな・・・。
「七草粥は塩が二摘まみくらいだぞ」
「それじゃ、みんなのお腹を満たせない気がする。」
「健太、肉入れろ!」
鬼空の言いたいこともわかる。
「みなさん、お腹を休めるお粥ですよ。」
弦賀の声もむなしい。
みんなお腹減っているのだから。
「みんな、緊急事態宣言始まるから見てて!」
健太が叫ぶ。
テレビは昨日の夜中異例の深夜0時に小池都知事と埼玉県知事の会談内容が放映されていた。
1月8日~2月7日の1か月間 2度目の緊急事態宣言が 東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県に発出された。
午後8時以降の外出を自粛することと、酒提供があるお店に時短営業を要請。新たな法改正により、応じない店舗名の公開などがある。テレワークで出勤7割削減。
「これ、1ヶ月でうまくいくのか?」
「難しいでしょうね。」
「昨日は、アドバイザリーボード(厚生労働省)が寝ずに動き回っていたな。」
「諮問委員会で使う資料が欲しいのでしょう。誰もが寝ずに動いていましたよ。」
出来上がったお粥と鶏のから揚げを出す健太。
「やった!から揚げゲット!」
一番に飛びつく鬼空。
「美味しいですね、このお粥。」
弦賀がまた褒めてくれた。
「この甘みは一体なんだ?」
寿樹が健太に問う。
「先ほど入れるなと言った、鶏ガラの素です。」
「から揚げ旨い!」
「本当だ、から揚げもお粥に邪魔しない旨味が…」
弦賀が喜んでいる。
「麹の鶏肉を使いました。お粥に合うように優しい味で、それでいて旨味のある。」
「健太最高!」
口の中に沢山から揚げをほおばりながら絶賛する鬼空。
「健太さんお料理の腕が上がりましたね。」
「みなさんのお陰です。」
ペコリと頭を下げる健太。
「みんなの口に合わせられるようになったんだな。」
と寿樹。
心の中でガッツポーズ!
「それって、寿樹も美味しいって思ったの?」
「ああ、」
さらに、ガッツポーズ❕
今日は強風で外へ出られない、これから緊急事態宣言で外へ出られない。
寿樹との時間をありがとう神様・・・。
「あれ?なにやってんの健太。」タラフク食べた鬼空が僕の部屋へやって来た。
「え、打ち込み。」
「ヒマなのはわかるけどさ、それやっちゃいけないっていわれてるじゃん。」
「見逃して」
「いや、ダメだって。」
鬼空がパソコンを消去させようとしてくる。
「寿樹~。健太がLIVE発信してるよ。」
「なに!LIVEはネタバレになるからやめなさい。」
「いや、大事。大事な部分なんだよ~。」
かんべんして~・・・。
「健太、挿絵が間に合わないからダメだよ。」
(´Д⊂グスン