あれから数年後
あれから 数年後の話
寿樹は赤城家とは離れて、真成家で御師を務めていた。
鬼空はアメリカへ帰り適切な手術を終えて元気に暮らしている事をメールながらで確認はしていた。
僕はというと、まゆりの事もあって望の住む家でサラリーマンを始めていたところだ。
ちゃんと収入ある所で働いて、まゆりを育てていく必要があった。
たまに、僕も真成家へお邪魔しては、憧れの寿樹に会いに行くのだ。
用は無くても 用事を作って……。
「久々だね。」
「おまえは変わらんな。」
このくらいの歳は、数字だけが年を重ねていき、外見もストップしたまま変わりがないように見える。
「どうだ?まゆりは。」
「うーん、本当のお母さんの元で育てたらどうかな?まゆりも気になってるし。」
「そうもいかん。青樹が跡継ぎとなっている以上、まゆりを連れてくることは出来ん。」
僕は、まゆりもお母さんのところで 育てて欲しかった。
寿樹との子供 まゆりを僕はすごく可愛がった。
寿樹が参道へ上ると、僕は息が切れている事に気が付いた。
「あれ?前はこの位何ともなかったのに……。」
「どうした?健太。もう、息が上がったのか?」
「えへ、毎日登ってる寿樹にはかなわないや。」
「毎日ではあるが 積み重ねは 必要な歳になったな。」
「寿樹、僕は毎日君を愛しているよ。それも、君が僕との距離をおいているせいなのかもしれないね。」
「それは、予想にしなかったな。どういう意味だ。」
「君が僕を好きで 愛していれば ここまで僕は 君を想う事は無かったかもってことさ。」
「それは、ゴールに着かないから 今でも走り続けてるってことか?」
「走ってはいないけど 毎日歩くスピードで寿樹を思ってる。思わしてくれているから、いつまでも新鮮なきもちなのかなって……考えたりもする。」
足元の笹は 元あった小道をなかったかのように隠して伸びている。
「こりゃ酷いな。」
寿樹が裁ちばさみで切り落とす。
僕も反対側をハサミでバサバサと切って行く。
すると小道は 出現する。
そして新しく土が沢山 掘り起こされている事を知るのだ。
「猪だね。」
「人が踏み入れんようになると 猪が土を掘り返しに来るのだ。」
二人共もう、見慣れた光景で、その仕業が猪だって直ぐに分かった。
険しい岩道を寿樹と上がって ぜーハ―しながら地面ばかりを見ていた。
すると、まだ新しい 自然界にはありえない 女性モノのピアスが落ちていた。
「寿樹、落とした?」
寿樹が振り返り見ると、「あぁ、スマナイ。」
と手を出した。
「寿樹……。」
寿樹の耳にピアスホールがあった。
寿樹はピアスは空けていない。身体に穴をあける事は宗教上許されていないからだ。
空けていたのは 鬼空の方である。
「寿樹、ピアスするようになったの?」
「あぁ。」
何となく、ぎこちない返答だ。
「もしかして、寿樹じゃなくて 今いるのは 鬼空だったりするの?」
すっかり、女性の身体になっていたから 気が付かなかった。
声も寿樹だし、柔らかな丸みのある輪郭は到底 あの筋肉質の鬼空を想定できなかった。
「ウソ!鬼空!?」
何故か 鬼空が御師を繋いでいた。
それじゃ、舞夕璃を引き取ることは出来ない。
ところで、寿樹は、寿樹は一体どこへ行ってしまったのだろう。
どうして、鬼空は僕を寿樹として受け入れているのだろう?
なぞは 深まるばかりだった。