臆病な僕と君の鼓舞
「いい。絵にかいた餅は食べれないの」
西日が差し込みすべてが茜色に染そまる学校の教室。
腰に手を当て仁王立ちしている君がすごい形相で僕を指をさす。
「そんな事を言ったって」
――僕は君みたいには出来ない。――
そんな言葉が頭をよぎるが、言葉に出せずうつ向き、じっと机を凝視する。
こんな自分が情けない。
でも、僕は君みたいには成れなかった。
君は凄い人だ。
それは、幼馴染で保育園からの付き合いの僕が一番よく知って居る。
彼女を一言で表すなら、悪く言えばガキ大将。
良く言えばリーダーシップにあふれる女性。
それが、君だ。
君は当たり前のように言い実行しているが、僕には本当にそれが眩しくて逃げ出したくなる度に、自分の惨めさを思い知らされる。
「だぁもう。あんたは漫画家になりたいんでしょうが、だから今回応募するって自分から言ったんでしょ」
僕の心のをうちを見透かしたのか、君は一段とイラついた声を上げる。
知らず知らず手にはじっとりと汗が噴き出している。
「原稿も作って持ってきてるんだから後は送るだけじゃない」
「だけど、僕の絵はつたなくて迷惑に――」
言い切る前に僕の顔は彼女の両手で潰され無理やり彼女の方を向かされる。
きっと今の僕は君の手に両側から押され変な顔になって居るだろう。
「つたなくて当たり前でしょ。それとも何、独学だけでプロ並みの絵がすらすらと描けるようになると思っているの」
そんな事は思っていない。
漫画家になるのがどれだけ大変かと言うのはネットで調べただけでもわかる。
ネットでそれなのだから実際はもっと大変なのだろうと思っている。
「だったら。一人で全部できると思うな。プロからアドバイス貰えばいいじゃない」
それはそうだ僕も頭では解っている。
だが、全てを書き終わった後、これは良かったのかと不安が襲いどうしても踏ん切りがつかない。
「大体。迷惑だなんだ言っているけどあんたは只、自分のなけなしのプライドが吹き飛ぶのが怖いだけでしょ。もし全否定されたらどうしよう。とかそんな感じの奴」
全くその通りであり、反論は出来ない。
ただ、君のドストレートな言葉は僕の心にドス黒い何かを生み出し靄がかかり続けている。
お門違いだと言うのは重々に解っているだが、それが一向に消える気配がない。
「そんなプライドだったら吹き飛んでいいのよ。そうして初めて次に進めるんだから」
そんな考えは僕にはなかった。
虚を突かれた君の考えは、僕の目からこびりついた鱗を落とす。
「いい。プライドが吹き飛んで、傷ついて立ち直れなかったら私に相談すればいいのよ。そしたら思いっきり笑い飛ばしてやるわ」
笑い飛ばすのか。
そこは普通慰めるのとかじゃないのか。
「なによその顔は。私が慰めるなんて言う事が出来ると思ってるの」
それは、無理だろう。
「その顔も辞めろ」
強く力を入れられ、僕の顔はさらに変になる。
「さんざん笑い飛ばして、そのあとに一緒に悩んでやるから、さっさと投函するわよ。いつまでも待たせてるんじゃないわよ」
まっすぐな彼女の視線が僕の瞳へと突き刺さる。
本当に君はは凄くて強い。
そうして僕は教室から出ていく君の後ろを付いていく。
変わらないポジション。
変わらない日常。
だけど、この日を境に、少しだけ本当に少しだけ彼女へとの距離が近づいた。
PS.余談になるが君が鼓舞し、僕が送ったきっかけはまだ芽は出していない。
だが、のたうち回りながらも、何だかんだでやっていけるのではと今では思う。
ただまぁ、その切っ掛けが投函時に君が言った『あんたは死ぬほど臆病だからね。あんたが死ぬまで傍に居て面倒を見てあげる』と言う君にしては回りくどく、よく考えぬかれたような台詞だったわけだが。
僕からも、これだけは君に言わせてほしい。
『待たせてごめん。こんな僕だけどよろしくお願いします』
お読みいただきありがとうございました。