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 週末日曜。ハーブ園に休みなんてあってないようなものなので、週末だから働かない、ということは少ない。

 なので週末にお洒落してお出掛けするなんて、不思議な気分。

 新しいアイボリー色の花柄ワンピースに、昔から持っているお気に入りのリボン付き帽子や靴を合わせた。

 イヤリングとネックレスはお揃いで、自作の樹脂加工したマーガレット。

 髪型は編み込んでひっつめた。前髪も横流し。雰囲気が少しエルフィールに似るように、と。

 支度が終わった時、部屋をノックされて「シルフィード、そろそろ」とフレッドに呼ばれた。

 部屋から出るのが恥ずかしい。しかし、出ないとお出掛け出来ない。

 部屋から出ると、フレッドは普段着だった。白いシャツに黒いパンツ。ザ、シンプル。


「今日はよろしくお願いします」

「ええ」


 相変わらず、ぶっきらぼう。フレッドは私に背を向けて歩き出した。褒められることを期待したのにガッカリ。

 2階から1階に降りると、母と会った。


「あら、素敵なワンピースね。よく似合っているわ」

「ありがとうお母さん」

「お義母さんも、今日の髪型、とても素敵です。では、行ってきます」


 会釈をして歩き出したフレッドを追いかける。


(お母さんも。もって、私も?)


 遠回しに褒められた? とフレッドの隣に並ぶ。彼はいつものしかめっ面。


(気のせ……えっ?)


 フレッドの左手が私の右手を掴んだので驚く。


「今日は良い天気ですね」


 話しかけられて、空を見上げる。生憎、本日はどんよりどよどよした曇り空だ。


「雨が降ってないですからね」


 当たり障りのない返事を考えた。手を繋ぎながら大通りを目指す。


(何で手……)


 チラリ、とフレッドの顔を確認するとますます険しい表情になっていた。まるで頭が痛い、といわんばかりの顔つき。


「今日は良い天気ですね」


 同じ台詞だ、と思ってついフレッドの顔を覗き込んだ。


「うっ、うわあっ!」


 彼は目を丸め、後退りした。繋いでいた手を引っ張られ、よろめく。トンッと体がフレッドの体にぶつかった。


「うわぁっ!」


 フレッドが叫ぶ。ビックリしていたら、フレッドの腕の中にいた。


(何?)


 人気のない裏路地だけど、人が完全にいない訳ではない。そこで、何故か抱きしめられている。


「いや、あの、すみません」


 そう言うと、フレッドは私から離れた。まだ手は繋がれたまま。フレッドが歩き出したので、私も足を動かす。


「シルフィード、今日は良い天気ですね」


 大通りに出た時、三度この台詞。私はおかしくてクスリと笑ってしまった。


「可愛い……」


 立ち止まったフレッドが私を見下ろす。


「へっ?」


 私も立ち止まり、フレッドを見上げた。彼は険しい顔で私から目を逸らした。よく日焼けした肌が赤黒く見える。


(あれ……。もしかして、照れてる?)


 気になって、ソワソワして、顔を覗き込む。彼は足早に歩き始めた。そうすると、もう彼の顔は見えない。


「良い天気ですね……」


 4回目の台詞。私は小さく吹き出した。彼は緊張している。してくれている。それが伝わってきて、嬉しい。

 

「ええ、雨が降っていなくて良かったです」

「うん」


 その後はしばらく無言。繋がれている手が熱い。途中、フレッドは花屋の前で足を止めた。ガーベラを一本購入。

 この時点で私に贈ってくれるのだろう、と期待していたら、フレッドはガーベラを私の帽子に飾ってくれた。

 その足で、レストランへ。レストランは公園隣にある、サンルーム付きのレストランで、そのサンルームの席が予約席だった。花に囲まれていて、とても可愛らしい空間。

 生憎、今日の天気は悪いけれど、晴れた日なら太陽の暖かさを感じながら景色の良い公園を眺めて食事、という素晴らしいシチュエーションだろう。

 周りの客層、そして店内の雰囲気からして、デートスポットというわんばかりのレストラン。


「本日はご来店ありがとうございます」


 シェフの1人がわざわざ挨拶に来たので驚く。背はあまり高くない、丸みを帯びた体付きに、柔らかな笑顔の男性だ。とても気立てが良さそうに見える。


「シルフィード、彼はネッド。俺の友人です」

「初めましてシルフィードさん。先日の披露宴、仕事の都合がつかず参加出来なくて残念でした。代わりに今日はお祝いさせて下さい」

「シルフィードです。素敵な席を、ありがとうございます」

「天気は悪いですけど、代わりに店内の花を装飾してみました。フレッドと一緒に楽しんでいって下さい。本日はお任せコースで承っていますが、苦手な食材はあります?」

「いえ、好き嫌いはありません」

「俺は瓜系。シルフィードは酸っぱいものは好まない」


 この台詞に目を丸める。フレッドが私の食事の好みを知っているなんて驚き。


「オーケー、フレッド。シルフィードさん、こちらはワインリストです。アルコールが苦手でしたら、ノンアルコールのカクテルもいくつか用意があります」


 メニューを差し出されたので受け取る。成人して2年、あまりお酒を飲んでいないし、このようなレストランで食事をする機会もほとんど無かったから、選び方が分からない。


「ジュースみたいに飲みやすい白ワインを頼む。一先ずグラスで。シルフィードはあまりお酒を飲んだことが無いんだ」

「それならこのワインがおすすめだ」

「俺はこっちのワインをグラスで。ノンアルコールのメニューだけ置いていってもらえるか?」

「ああ。では、ごゆっくりどうぞ」


 ネッドが去る。軽快に話していて、満面の笑顔だったフレッドが、しかめっ面になった。


「シルフィード、今日は良い天気ですね」


 5度目の台詞。今度は小さくではなく、思いっきり吹き出してしまった。


「ふふっ。あはははは。フレッドさん、同じことばかり」


 笑い過ぎたのか、フレッドはますます渋い表情になってしまった。慌てて謝る。


「すみません」

「いえ、こちらこそすみません。その、何か楽しい話題をと思うのですが、緊張で何も出てこなくて」


 そう告げると、フレッドは困り笑いを浮かべた。


「でも君が可愛らしく笑ってくれたから良かった」


 今度は屈託の無い笑顔。室内なのにフワッと風が吹いた気がする。

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