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 綿菓子のような丸々した雲が点在するよく晴れた日。私はフレッド・プロスペローを婿に迎えた。

 教会で挙式し、彩り豊かな花の咲き誇るプロスペロー邸の庭でガーデンパーティー。椅子やベンチをいくつも配置した立食パーティーだ。

 ウェディングドレスは義母のお下り。ガーデンパーティーも義母の希望。どちらも嫌でなかったので受け入れた。

 ウェディングドレスは流行り廃りのないデザインで、お下りといっても仕立て直してもらい、自分の希望のレースをあしらってもらえたし、大好きな花々に囲まれたパーティー。嫌ではなかったどころか、万々歳だ。

 

「おめでとうシルフィ」と私を囲むのは、招待した友人達。

 友人達の誰よりも早く結婚となったので、気恥ずかしい。


「家のためとはいえ、思い切ったわねシルフィ」

「でもほら、シルフィは断れない立場だって。エルフィールちゃんが婚約破棄したせいで」


 親友リーネとマルベリーが私の両隣に立った。


「パッと見、良さそうな人だけど。旦那さん、薬師みたいなことをしていたって聞いたわ。子供に優しいって。お母さんが友達に聞いた話だと」

「私の知り合いには知っている人はいなかったわ。シルフィ、打ち合わせからどう? やっぱり会話なしなの?」


 ミーニャとハンナが顔を見合わせる。


「そうなのよ。よほどエルフィールが良かったみたい。私と話すときは無表情かしかめっ面で寡黙なの。誓いのキスもね、頬だったし」


 私は困った、とため息を吐いた。友人達に囲まれているフレッドを見てみる。楽しそうな笑顔でワイワイ喋っているように見える。


「これからどうするの? シルフィ」

「婚約破棄禁止。離婚禁止。面子を潰すな。ってことは浮気なんて絶対禁止よね。世間体が悪いもの。それなら、仲良くなるしかないと思うの。私、仮面夫婦とか嫌だもの」

「なら話しかけに行く?」

「うーん、今日はとりあえず皆とお喋りで良いかな。作戦会議しておきたいの。もしかしたら、万が一にでも、向こうから歩み寄ってくれるかもしれないし」


 私はみんなを連れて、5人全員が座れる場所へ移動した。庭にある丸みのある可愛らしいガゼボにした。

 料理と飲み物も運んできて、あっという間に女子会会場の出来上がり。


「男は胃袋を掴めっていうけど、本当?」


 恋人持ちのミーニャに質問。彼女は首を傾げた。


「うーん。多分? お弁当作ってピクニックとか、その時に手作りお菓子があると尚更嬉しいみたいだし。でも、人によると思うけど」

「シルフィは料理上手だから大丈夫よ。義理のお母さん、感じの良さそうな方だから取り入って母の味を伝授してもらったら?」


 ふむふむ、と心のメモに書き留める。


「エルフィールちゃんがタイプなら、髪を切ってみたらどうかしら」

「ええー、シルフィの髪型、似合っているから勿体な……あっ、ひっつめてみたら? 切らなくて凛とした雰囲気になるだろうし」

「ちょっと、今やってみようよ」


 美容師のリーネが立ち上がり、私の背後に回った。片側に横流しして生花を飾っている髪型をほぐし、ひっつめ、下ろしている前髪を横流しにしてくれた。


「似合うけど、さっきの方が好きだなあ。私は」

「私もハンナと同じ意見」

「でもほら、旦那さんの好みは可愛い、じゃなくて美人! って方でしょう?」

「鏡がないから分からないけど、ありがとうリーネ」

「いいえ。髪を切るときは来店してね。似合うように切るから」


 髪を切る、という案は保留。


「よく考えたら、私は私でフレッドさんを好きになれるのかしら? 誓いのキスが頬でホッとしたの。憧れのファーストキスってない?」


 あるある、と皆が首を縦に振る。結婚は一番乗りだけど、現在恋人持ちはミーニャだけだけど、私以外は恋人がいたことがある。

 皆、既にキスをしたことがあるのだろう。


「ねえシルフィ。そんなんで今夜は大丈夫なの?」


 再び着席したリーネの問いかけに、私は首をブンブンと横に振った。

 今夜、とは初夜である。学校で少し教わったし、昨夜母からも少し教わったので、知識としては知っている。


「無理よ。無理って言うわ。キスから徐々にって頼むわよ」

「そこで聞いてくれないような相手なら家出ね」

「面子が潰れても当然よね」

「ねえ」

「シルフィ、その時は私達を頼ってね」


 うんうん、と頷く。


「本日はおめでとうございます」


 柔らかな声が聞こえて、全員同じ方向へ顔を向けた。可憐な笑みを浮かべて近寄ってきたのは美少女。

 黄金に輝くサラサラとした金髪はハーフアップで、可憐さの中にも凛とした雰囲気も醸し出している。

 目は大きくも切れ長。深紅のドレスが良く似合っている。

 首からウエストまで繋がった、袖のないドレスの裾はマーメイドライン。

 このようなドレスが似合う美女とは羨ましい限りだ。


「シルフィードさん。(わたくし)、ヘレン・ルーズベルと申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます」


 美しい会釈をされたので、思わず立ち上がる。招待客一覧は見たが、完璧に記憶出来ている訳ではない。なので、誰だか分からない。

 しかし、私の知らない招待客は、新郎側のお客様。その中には、プロスペロー薬草園の大事な顧客もいる。


「ヘレン・ルーズベルって、ルーズベル子爵のお嬢様よ。うちのお店、ルーズベル子爵から土地を借りているの」


 実家が宿屋のマルベリーが、私に耳打ちした。


「初めまして、シルフィードです。本日はありがとうございます」


 ガゼボから出て、ヘレンの前に立つ。背丈は同じくらいだけど、胸は彼女の方が大きい。なのに顔の大きさは彼女の方が小さい気がする。まあそもそも、顔面偏差値が違い過ぎる。

 その上、とても上品な異質な空気を纏っている。いきなり貴族令嬢と向き合うとは、緊張してしまう。


「シルフィードさん。彼を、彼をよろしくお願いします……」


 ヘレンは美しい菫色の瞳に涙を浮かべ、震え声でそう告げた。実に悲しそう。言うやいなや、私に背を向けて小走りで去っていった。


(彼をよろしく?)


 よろしく、ということは何かしらの関係があるということだ。清楚可憐な貴族のお嬢様とフレッドさんの間に、となると思い当たるのは一つだけ。


(まさか、恋人同士だったとか?)


 この考察を友人達に披露すると、あり得るという返答だった。

 疑惑がさらに深まったのは、この後皆でフレッドのところへ行った時。彼は私が現れると途端に不機嫌顔になり、顔も合わせなかった。


(フレッドさんの不機嫌顔にヘレンお嬢様のあの辛そうな泣き顔。二人は引き裂かれた恋人同士?)


 この推測に、拍車をかけたのはフレッドのこの後の態度。

 ガーデンパーティーが終わり、二人で並んで参列客を見送っている間、フレッドは私が腕に手を添えると直立不動の無表情。

 ひたすら「ありがとうございました」と抑揚のない声を出し続けた。結婚なんてまるで嬉しくない、という態度。

 それなのに、フレッドはヘレンと視線があった時だけ、はにかみ笑いを浮かべた。

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