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おまけ

感想で続きが見たいといただいたので、調子に乗って書いたおまけです。

 今夜のメニューはラザニア。理由は単純。フレッドの機嫌を治すため。と思っていたのに——……。


「出先から飲みに行くから、今夜は帰りが遅くなります」


 フレッドはそう告げて、外回りに出掛けた。不機嫌そうな表情で。


(どうしよう。まだ怒ってる……)


 私は途方に暮れた。


(でも怒らなくて良いじゃない。仕方ないんだから)

 

 はあ、と小さなため息。喧嘩の理由は昨夜の会話。夏の夜祭の出店を何にするか話していて、つい口を滑らせたせい。


(去年は1日出店を休みにした。そこまでは良かった。息抜きでお出掛けしたかったからって話もまだ。あー。なんで、誘われるかもって思ったから、なんて言っちゃったんだろう)


 私は園の門前で頭を抱えた。昨年の今頃、ほんのり気にかけていた男性がいた。

 誘われるかもしれないから、1日休みを確保しておこう。そう思った。そんな話、終わった話、するべきではなかったと今なら分かる。

 

(でも、フレッドさんに誘われていたらきっと嬉しかった、って伝えたかったんだもの。気になる人がいたなんて話もしなかった。あんまりにも傷ついた顔をするから、言いたかったこと言えなかった)


 はああ、と再度ため息を吐く。それから、飲みに行くのなら、酔っ払って帰ってくるはず、と思い至る。

 フレッドが飲みに行くのは、以前酔っ払って帰ってきた日以来。


(酔うとペラペラ喋るみたいだから、本音を聞けるわ。それで、謝るのよ。誠心誠意謝らないと)


 よし、と決意して雑草取りに戻った。その後キャンドル作り体験講座を行い、細々とした雑用をし、夕食準備。

 フレッドが食べないと思うとやる気が出ない。

 ちゃちゃっと魚を焼いて、スープとサラダを用意したら、父に「フレッド君がいないと手抜きだな」と揶揄われた。バレてる。

 

 ☆


 本を読みながら、夫婦の寝室の窓から園の外を眺め続け、月が大分高くなった頃にフレッドらしき人影を発見。今夜は1人で帰ってこれたらしい。

 私は本を閉じて、部屋を飛び出した。玄関を出て、門の方へと向かう。

 そうして途中でフレッドと向かい合わせになった。

 彼は私を見つけるなり、へにゃりと笑った。その次は、まるで犬が尻尾を振るように手を振った。


「シルフィ、ただいま」

「おか、おかえりなさい」


 動揺でどもった。


「シルフィ、ただいま」


 酔っ払っているからか、同じ台詞が2度目。あっと思ったら、抱きしめられていた。


「シルフィ、ただいま」


 いきなり頬にキスされ、戸惑う。恥ずかしくて身を捩る。フレッドは酔っ払っているみたい。


「おかえりなさいフレッドさん。あの、昨日のこと、謝ろうと思って待っていました」

「昨日のこと? 昨日? ぶはっ」


 両肩を掴まれ、バッと体を引き離されて、何? とフレッドを見上げる。彼は眉間に深い皺を刻んだ、しかめっ面をしていた。


「俺にもっと早く誘われたかったって、本当可愛い」


 両手を取られた。フレッドは困り笑いを浮かべている。


「謝るって、もしかしてお世辞というか、俺の為の嘘だった?」

「えっ? いえ。何か怒らせたのかなって思って……」

「怒る? 何で?」


 首を傾げられたので、誤解はなかったと理解する。


「誤解なら良かったです。今夜帰ってこなかったらどうしようって心配でした」


 フレッドの手を握り返す。相変わらず大きな手。私の好きな、豆だらけの働き者の手。


「えっ? シルフィ、寂しかったの?」


 目を丸めたフレッドが、私の顔を覗き込む。どうやって謝ろう? と思っていたので、寂しいという気持ちはなかった。

 

(そんな正直な話はしない方が良いわよね)


 私はコクン、と首を縦に振った。


「何それ……」


 フレッドがしゃがんだ。何だろう、と見下ろす。


「あー! 可愛い! 可愛い!」


 そう口にすると、フレッドは両手で頭を抱えて髪をくしゃくしゃに掻いた。最近、自分はわりと溺愛されていると知ったので、また何かが始まった、と思った。


「エンジェルハニーシルフィちゃんかわゆす……」


 うん。予感的中。今何か聞こえた。最近のフレッドは時折よく分からない言葉を使う。


 これは、回れ右して家に入ろう。でないと……。


「待ってシルフィ」


 背を向けた時、立ち上がったフレッドに背後から抱きしめられた。あっと思ったら頬にキス。ほんのりお酒の匂いがする。


「可愛い……」


 耳元で囁かれ、耳にチュッとキスされた。


「ひゃっ……」


 逃亡失敗。私は観念した。


「俺に会えなくて寂しいなんて可愛い……」


 今度は首筋に唇が触れた。逃げ遅れて始まってしまった。


「フレッドさん、あの……」

「シルフィは本当に可愛い。飲みに行ってる間、俺もずっと会いたかったよ」


 恥ずかしいけど嬉しい。嬉しいけど恥ずかしい。目が合わせられない。


「照れ顔も可愛い……」


 今度は唇にキスされそうになり、慌ててフレッドの体から離れようとした。


「フレッドさん、ここ外……」

「なら部屋行こう、シルフィ」


 体が離れる。手を繋がれた。手を引かれて、歩き出す。この後どうなるかは、火を見るより明らかだ。なのに、私の体は素直に従ってしまう。

 もう始まりつつあるフレッドの「可愛い」タイムは恥ずかしくてならない。でも、嬉しい。だから私はフレッドの手をギュッと握りしめた。

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