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 1週間後、私は決意した。


(ルーズベル子爵邸に忍び込もう)


 事前準備はバッチリ。


「お姉ちゃん、本当に行くの?」


 エルフィールがジャックの帽子を差し出す。受け取って、鏡を見ながら帽子をかぶった。服もバッチリ。ジャックに借りた服で、どこからどう見ても青年画家に見える。


「だって、心配なんだもの。聞きたいこともあるし」

「ふーん。大人しいお姉ちゃんが、変装までするって珍しい」


 エルフィールがクスクス笑う。自覚があるので私は返事をしなかった。

 心配もあるし、ヘレンの嘘が本当なのか気になるのもあるが、私は単にフレッドに会いたくてならなかった。無性に会いたくてならない。

 支度が終わり、ジャックから借りた絵と画材道具の入ったカバンを持って、ルーズベル子爵邸へと向かう。

 アポを取っている画家です、と門番に告げた。ビクビクしていたら不審に思われる、と胸を張って。


「どうぞ」


 門番に案内され、玄関へ。玄関からは執事に案内された。応接室らしい部屋に通され、待つよう告げられる。

 メイドが紅茶を運んできたり「もう少しです」と執事が顔を出したりするので、部屋を抜け出す隙がない。

 そうしているうちに、応接室にルーズベル子爵が現れた。初めて会う貴族男性。体格が良いわけではなく細身なのに威圧感が強い。うちの父とはオーラが違う、と感じる。


「手短に。うちは気に入りの画家が既にいるが、作品次第で考える。一先ず作品を見せて……おや、君は」


 帽子を目深く被っていたが、浅はかな考えは上手くいかないらしい。ルーズベル子爵はふむ、と口にして腕を組んだ。


「ファチュンハーブ園の御息女シルフィードさん。その格好、どうされました?」


 物珍しそうな表情を向けられ、この人は私とフレッドを会わせないようにしている人物ではない、とピンとくる。


「主人がお世話になっております。毎日見舞いに来ているのですが、何故か門前払いでして。どうしても心配で、顔が見たくて、その、すみませんが嘘を」

「門前払い? ダニエル、どういうことだ?」


 ルーズベル子爵が執事を見つめる。


「そうしないとお嬢様がお見合いしないと申されまして」

「また我儘か。素直に従うなんて、甘やかすな」

「すまないシルフィードさん。娘は昔から貴女の旦那を好んでいるようで。身分が違うし、相手にされていない上に、ダズさんに頼んで早く結婚してもらったというのに、困った娘だ」

「そう、なのですか……」


 なんだか悲しい話。嘘つきヘレンだとイライラしていた気持ちが萎んでいく。


「怪我をさせたのはこちらだし、フレッド君も世話になりたいと言うから許可したが、妻を出禁にしたり、そういうことをしているのなら話は別だ」

「世話になりたいとフレッドさんが言ったのですか?」


 急に不安に襲われる。ヘレンの話は本当だとは思わないが、もしかして、本当なの?

 フレッドからの手紙を、偽物だ! と決め付けて

破ったりしなければ良かった。


「義実家に迷惑をかけたくないと頼まれてな」

「そうだったのですね」

「旦那様。ヘレンお嬢様は見合いも結婚もすると申しております。代わりに、気に入りの男性を庭師として連れていきたいそうです。家同士の結婚ですし、そのくらい許されても良いのでは?」


 はぁ? この執事は何てことを言い出す。ルーズベル子爵か目を丸めた後に「うむ」と頷いた。いやいや、何頷いているのこの人。


「ダニエル、娘はそこまで好いているのか?」

「結婚式の後など、見るも悲惨な状態でした。痩せ細って、今にも倒れそうなくらい」

「元気な姿でうちのハーブ園見学にいらっしゃいましたよね?」


 執事がルーズベル子爵の情に訴えようとしたので、慌てる。


「お嬢様は気丈に振る舞っておられただけです」

「楽しそうに笑って、美味しそうにケーキを頬張っていましたよ」


 嘘はついてない。


「シルフィードさん。話の腰を折らないでいただきたい」

「私は正直な話をしただけです」


 負けるもんですか、と闘志が湧いている。こんなこと初めて。


「フレッド君次第だろう。彼が娘の愛人になっても良いというなら反対することもない。彼は結婚もしているし、相手側が騒ぎ立てることもないだろう」

「何を言っているのですか⁈」


 貴族の常識と庶民の私には、大きな隔たりがあるかもしれない。


「お相手がヘレンお嬢様を気に入っていて結婚、だったらどうするのですか? そういうこともあるのですよ。政略結婚に見せかけて、策略結婚ということ。愛人なんていたら、相手側を怒らせるかもしれませんよ!」

「お、おお。それもそうか? しかしなあ。相手は娘と会ったこともないしな」


 私は立ち上がった。こんな風に人にハッキリと物を言うのは、それも怒鳴り声のような声を出すのは人生で初めて。


「そもそも、フレッドさんは私の夫です。彼はヘレンお嬢様の愛人になんてなりません! なりたいなんて言いません」


 そのはずだ、と部屋を出る。フレッド本人にこの話をして、本人に拒否してもらうしかない。

 応接室を出て、広い屋敷なので戸惑う。


(どこへ行けば良いの……?)


 二階? と階段を見上げる。そこに、会いたかった人が立っていた。

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