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新たな仲間と帰郷

~前回までのあらすじ~

女神の加護(呪い)と呪殺により、脅威物体と化したクロエ。

人間に討たれ、マスコットと化したアークドラゴン。

神々の計らい(陰謀)で出会った二人は、クロエの故郷を目指す事にした。

 先ずは故郷に行ってみよう…とはいったものの…。

「ここが帰らずの森だとして…どっちに向かえばいいのやら」

 此処が帰らずに森なのかすらは分からないこの状況。

「困ったわ…モモちゃん何か知ってる?」

「キュキュ…」

「そう、仕方ないわね、取り敢えずここが帰らずの森と仮定して…」

 クロエは前に見た地図の記憶を頼りに、道筋を考える。

「よし、じゃあ南に向かって進みましょう。えっと太陽は…」

 この世界でも、太陽は東から昇り西へ沈む。

 それでおおよその方角を張り出すのだ。

「ダメだわ、丁度真上で、直ぐには分からないわ」

 という事で、暫く時間を潰す事にした。


「モモちゃん、私たちは非常に特殊な状況下にあります」

 なんせ、10㎏3㎝の脅威物体に、相対的能力がアークドラゴンと同等のモモンガだ。行く先々で何も起こらないわけがない。

「お互い何が出来て、何が出来ないか、摺り合わせをしておきましょう」

「キュ‼」

 こうして、クロエは女神に授かった能力を披露し、傍に在った大木に突撃してみた。

 すると、バァン‼と轟音が響き、大木に直径1m程の風穴が空き、倒れた。

「…」

「…」

「さ、次はモモちゃんの番ね」

「キュイキュイキュイ!」

 モモちゃんは、いやいやいやとクロエに突っ込む。

 以下クロエの脳内補完。

「待って待って、何この出鱈目な攻撃力は!?」

 モモちゃんには、ここがどこかなんて知らないが、周囲に生えている木々が、そんじゃそこらの木と比較して、非常に堅牢な事は伺える。

 そんな木の中でも、特別に大きかった大木に、たったの一撃で風穴を空け、倒してしまった。

「こんな威力の攻撃、今の僕の本気の一撃でも無理だよ!」

 モモちゃんは、モモンガになった事で、あらゆる能力が大幅に下がっている。しかし、小さくなった事で、被弾面積の縮小、被視認性の低下に加え、未だ高い能力のお陰で、総合的な実力はアークドラゴン時と然程差はない。

 そんなモモちゃんから見ても、クロエのスペックはイカレテいた。

「絶対、いざという時以外に、本気を出しちゃダメだよ!分かった?」

 以上脳内補完終了。

「うん、モモちゃんは可愛いですね~」

 全身を使い、肉体言語で訴えるモモちゃんに、胸キュンなクロエだった。

「大丈夫よ、今のでも全然本気じゃないから」

「…」

「さ、モモちゃんの特技を教えて」

 そんな感じで、時間を使い、漸く。

「あ、日が傾いてるわね、となると、南はこっちね」

 おおよその方角を割り出し、移動を開始した。


「それじゃ、モモちゃん、手筈通りお願い」

「キュイ!」

 すると、モモちゃんは、クロエに覆いかぶさり、魔法で、自身とクロエの身体を密着固定し、更に幾つかの魔法を行使する。

「準備は良いわね、じゃあ行くよ!」

 掛け声と共にクロエは垂直に跳躍し、木々の背を超え森の真上に出る。

 そして、虚空を蹴り一気に南へと飛んでいく。

 クロエの元々強靭だった身体に、女神の餞別による強化。そこに加えられたモモちゃんの補助魔法、そして、女神曰く、加護と呪いの副作用に依り、通常の3万倍もの密度に圧縮された身体。

 これらにより、クロエの身体は音速を超えた。

 本来であれば、帰らずの森は熟練の冒険者が100人規模で、10日は掛けて踏破する魔境だ。しかしそんな森の上空を、木々を足場に音速で進むクロエは、僅か20分足らずで森を抜け出して見せた。

「思ったより早く抜けれたわね」

「キュイ~…」

 モモちゃんは、「なんと出鱈目な」と複雑な気分だった。

「さて、予測が合ってたら、このまま南に行けば、騎士王が治めるナインハルト王国の領に出る筈よ、そしたら村でも探して、屋根裏を拝借しましょう」

 暗くなる前に何とか民家を間借りする。プランが固まったので出発しようとしたとき、クロエとモモちゃんは異次元に引き摺り込まれた。


「よう、お前らが聖女と竜か?」

 そう声を掛けてきたのは、筋骨隆々の身体に鎧を纏い、剣と杖を携えた男だった。

「おっと、俺はお前らがいうところの魔神だ。妖魔の大神ってとこだな」

 男の正体は魔神の様だ、一体何の用があるのか心当たりのないクロエ。

「なんだか面倒な事になっちまったな、一応言っておくが、お前らにチョッカイを掛けた連中は、悪魔を信仰する悪魔教の信者だが、あの連中は軍事国家ヴェルサスを中心とした過激派だ」

「過激派?」

 クロエにとって初めて聞く派閥だ。そもそも悪魔を信仰している時点で、関わろうとは思っていないので、魔人の言葉に困惑する。

「ああ、悪魔は俺達最上位の神に匹敵する存在だ。やつら過激派の目的は悪魔と交信し、降臨させ俺達神に戦いを挑むのが目的だ」

 この話はモモちゃんを通じて聞いているので、理解出来る。

「ただ、別に悪魔が悪い存在ってわけじゃない、悪魔は常に人の願いを叶える存在だ。大きい代償は要るが、本質は俺達以上に神をしている…というか見る角度次第じゃ、神と悪魔は逆転する」

 魔神の語る、神と悪魔の概念、クロエにはすんなりと呑み込める。

「一切驚かないんだな、仮にも教会勤めだったんだろ?」

「ええ、まあ色々と醜いものを見てきたので…対価を払った分、力になってくれる悪魔を神と崇める事自体には納得がいきますし、必要とあらば大量虐殺をする神が、悪魔に見えるというのも筋が通ってます」

「歯に物着せぬ意見ありがとう。まあ要は悪魔がどうこう言うより、信仰してる側の問題なわけだ、だから、悪魔や一般信者達に対して、不当な敵意を持たないでもらいたい」

 成程、そういう目的で現れたのか。クロエは納得いった。

「分かりました。悪いのはあくまで暴走した過激派、ってことですね」

「ああ、これで安心だ。今のお前達が、復讐として一般信者に牙を剥いたらそれこそ惨事だ。誤解を解けて良かった」

 なんで妖魔の神の魔神が、悪魔信者を庇うのかは分からないが、納得しておく。

「ご用件は済みましたか?」

「おう、じゃあ俺からも良いもんをやろう。楽しみにしとけ」

 そういうなり魔人は消え、元の空間に戻っていた。

「キュイー?」

「ん?大丈夫よ、モモちゃんも大丈夫?」

 とても気さくな感じだった魔神だが、そこはやはり大物。対峙しているだけで、心身共に削られる感覚がなんとも薄気味悪く、非常に疲れた。

 

「モオー」

 元の空間に戻って来たクロエたちの前に、先程まで居なかった巨大な牛が居た。

 その牛はオーロックスより巨大で、ホルスタイン以上に張った乳、ジャージー牛みたいな栗毛で、温厚そうなつぶらな瞳が可愛らしい。

『聞こえるか?その牛が俺の餞別だ。そいつの乳は極上の味わい、それでいてどんな食材にも勝る栄養価。これからそいつの乳を毎日飲んで身体を鍛えろ。近い内にお前らはその体の小ささに足を引っ張られる時が来る。そうなった時に、少しでも基礎が強くなってれば、生き残れる確率はグッと上がる』

「えっと、嬉しいんですが、この子を連れてくのはちょっと無理が」

『まあそうだろう。だが安心しろ、そいつは何処にいようが、お前らが呼べ、転移してくるように調整してある。普段は放し飼いにしておいて、用が有る時、野宿する時には合流すればいい、ただあまりほっとくと拗ねるから、しっかり可愛がって上がてくれ、じゃあな』

 魔神との交信は途絶え、牛を譲渡された。

「モオー」

 牛がしゃがみ込み、クロエに頭を寄せ甘える。

「わ、大きいけど、凄い可愛い!」

 まるで、手塩にかけて育てられた牛の様な、大人しく優しい顔つきの牛。

「キュキュキュ」

 モモちゃんも何やらコミュニケーションをとってる様だ。

「さて、先ずはこの子の名前を決めましょう」

 クロエは考える。牛、牛?牛…。

「…君の名前は、ミルク号。普段はミルちゃんって呼ぶわ」

「モオー」

 牛改めミルちゃんは、素直に拝命する。

(キュウ…)

 モモちゃんは内心「またアレなネーミングセンスが出たな」と思った。

「それじゃミルちゃん、君が出来る事を教えてくれる?」

 クロエの頼みで、ミルちゃんは色々と披露する。

「凄い!、これなら屋根裏の間借り何て必要無いわね」

 モモちゃんが戦闘向きの補助魔法が得意なら、ミルちゃんは日常向けの補助魔法が得意だ。

 身体を綺麗にする魔法、生活用水を生み出す魔法、地形や草木を操作して、壁や家を作り出す魔法。様々な便利な魔法を使える。

 更にその巨体に見合う戦闘力を有し、森から飛び出てきたアイアンベアを轢殺、クロエたちの旅に十分付いて来れる地力を披露してくれた。

「さて、じゃあのんびり南を目指しましょう」

 モモちゃんと共に、ミルちゃんの上に登り、周囲を警戒する。


「あ、村が見えて来たわ、モモちゃん見える?」

「キュッ!」

「掲げてる旗に馬と交差した剣?、うんやっぱここはナインハルト領だわ」

 自身の推察が有っていたことに安堵するクロエ。

「あの村から更に南に向かうと、ヴァディス領で、そこから西に向かえばフォルキンに行ける筈だわ」

 どうにかフォルキンに行く道筋をつける事が出来たが、安心はまだ出来ない。

「私たちは人目に触れれと都合が悪いわ、だから街道から離れていきましょう」

 幸い、モモちゃんには高い空間把握能力と気配察知の魔法が有るので、街道と一定距離を取りながら、人との接触を避けて進む事など容易だった。

 こうして一行は、街道を目印に南に向かい、フォルキン行きの街道に到達した。

「じゃあここからは西に向かうわね、モモちゃんミルちゃんよろしくね」

「キュ」

「モー」

 そしてある程度進んだところで、夜になったので、野宿する事に。

「ところで、ミルちゃんの乳しぼりってどうするんだろう?」

 クロエは乳しぼりの経験は有るが今は豆粒、これじゃあなあ…。

「モー」

 するとモモちゃんが。魔法を使い、自分で器用に乳しぼりをし、絞った乳は空中で球体状態で保持している。

「モウ!」

 飲んで!というミルちゃんの意思が伝わって来るので、恐る恐る啜ってみると。

「っんーーー!美味しいっ!」

「キューーーッ!」

 それは極上の味わいだった。口にした瞬間広がる練乳の様な香り、優しくもありハッキリとした甘み、濃厚な脂肪分が生み出すコク、後味さっぱりなキレ。どんな王侯貴族ですら口にした事の無いミルクがそこにあった。

「凄い凄い!こんな美味しいミルク今まで飲んだ事ないよ!」

「キュイ♪」

 2人ともその小さな身体の何処に?、と思う程に飲み続ける。

「っはー、余は満足じゃ」

「キュキュ♪」

 2人とも転生後の初めての食事に大満足した様子だ。

 ミルちゃんも球体を操作して、自身でも堪能する。

「これはお返しをしなくっちゃね」

「キュッ」

 クロエは傍の林に駆け込み、繊維の堅い草を集める。

「モモちゃんお願い」

 それをモモちゃんの手を借り、即席のたわしにした。

「モウ~」

 クロエはモモちゃんと一緒に、そのたわしを使い、ミルちゃんの身体を丁寧にブラッシングしていく。

 気持ちいのか、ミルちゃんの口から、恍惚の声が漏れる。

 一通り毛繕いをし、身体を綺麗にする[洗浄]の魔法を使い、就寝した。


 夜が明けて、引き続き西に向かう一行。

「今の所順調ね」

 これまでの不幸体質が異常だったのか、怖い位順調だ。

 …そんな考えを抱く自分に悲しくなるクロエ。

 暗殺されて、こんな体になって、順調も何もあったもんじゃない。

 何も起こらない事を幸せに感じるのは普通だが、クロエの場合は、何もかも起こった後の平穏なので、素直に喜べない。

(はあ…ボヤいても仕方ないわね、それに今はモモちゃんにミルちゃんも居る。体も元に戻る可能性も有る。今はそれで良いとしましょう)

 こうやって、ポジティブに物事を考えるのは、クロエが3年間魔窟で暮らした末に、辿り着いた境地だった。

 その後も穏やかな時間は続き、休憩をする。

「それにしても、モモちゃんの認識阻害の魔法は凄いわね」

 巨大なミルちゃんが街道から離れてるとはいえ、気づかれずに済んでいるのは、この魔法のお陰だった。

 道中で集めた、食べれそうな野草や果実を食べ、ミルクをがぶ飲みする。

 お腹も満たされ、柔らかい日差しと、心地いい風に撫でられ、瞼が重くなる。

「少しお昼寝しましょうか、モモちゃんは結界を、ミルちゃんは壁をお願い」

 2匹の連れ合いに、魔法を使ってもらい、快適な休憩所を拵え、一眠り。

 だが、そんな安息を壊す事態が発生した。

「キュ!」

「血の匂い…金属音に悲鳴…近いわね」

 クロエたちは、直ぐに動けるように後始末をし、どう動くか話し合う。

「様子を見に行くに賛成なら首肯」

 これは0票。

「無視に賛成なら首肯」

 これは3票。

「うん!無視しましょう♪」

『『『待ていっ‼』』』

 いきなり謎空間に拉致られ、女神、神龍、魔人と御対面。

『クロエや、そこは助けに行く、又は様子を見に行くが人の道じゃ?』

『聖女よ、これでは物語が動かないじゃないか』

『クロエよ…そんなつまらん選択は認めん』

 えー…、なんなのこの人達…。

「えっと、好きに生きて良い筈じゃ?」

『ハハハ、クロエや、そんなの建前に決まっとるでしょう?』

『聖女よ、甘い!甘いぞ!』

『俺がそんなつまらん展開許すわけなかろう』

 3者共に好き勝手な事を言う。

「…私にどうしろと?」

『今後あらゆるトラブルに首を突っ込みなさい‼』

『なんなら神龍の名を使っても構わん』

『良いか?どんな些細な事象にも全力で当たれ!、そして引っ掻き回せ!』

「いくら何でも言ってる事が以前と違い過ぎません!?」

『『『神とはそんなもんだ‼』』』

 空いた口が塞がらないが、それでも思う。きっとこの3柱がこうして出てきた以上、ただ事ではないと。

「でしたらせめて理由を…」

『その方が具合が良いからです』

 答えに成ってないよ女神様…。

『手遅れの状態で、巻き込まれるより良いだろう?』

 だから何によ!?

『楽しいは正義だ』

「分かりました。で?どうすればいいので?」

『お忍びでフォルキンを訪れていた、ナインハルトの王女を救って下さい』

「めっちゃ大事!?」

『とはいえ、その姿では色々と都合が悪いでしょう。そこで!あなたに私達3人から変身能力能力(強制)を授けます』

「え?もう一度…」

『さあ行きなさい!この世界、ひいてはあなたの為に』

『『ガンバ!』』

「ちょっ!?すんごい不吉な言葉が聞こえたんですがっ!?」

 こうして元の空間に戻された挙句。

「何コレ?」

 なんと身体が元のサイズに戻っているではないか。けど。

「何この格好は?」

 純白のプレートメイルを着込み、背中には一対の翼、手には強大な気配を纏う剣を一振り。それでいて顔は全く隠せていないのが、叫びたくなる。

『早くいかないと王女が暗殺されます!急いで!』

「あーもう分かりましたよ!」

 こうして嫌々王女救出に向かうのであった。


「行ったか」

「ええ」

「こうする他ないとはいえ、あの子には気の毒だな」

「ええ」

 クロエを送り出した、3柱が言葉を交わす。

「まさか、悪魔教…いえ、過激派の手があそこまで伸びているとは」

「それも邪神の降臨を狙っていたとは」

「まさか悪魔すら隠れ蓑とは…まんまと出し抜けれてしまったぜ」

 聖女暗殺から竜狩り、更に今回察知した王女襲撃。流石におかしいと、女神はクロエに接触した他の2柱と協力し、色々調べた結果。

 どうやらこの世界に邪神の魔の手が迫っている様だ。

「私たちは遅きに失しました。今から神族、竜、妖魔を動かそうにも後手です」

「ああ、だからこそ我々が干渉出来る、最大戦力の聖女に託すのだ」

「従者を送って直ぐだったから気まずいが、そうも言ってられないからな」

 どうやら、既に深刻な事態に陥っている様だ。

「それにしても、あの娘が[神殺し]の因子を持っていたとは」

「はい…、私も最初に発見した時には震えました」

「その因子を消す為に干渉したせいで、極度の弱体化か、本人が知ったら激怒では済まされないな、これは」

「見つけたのは偶然でした。信者の教会の中で、一ヶ所だけ妙な不快感を感じて覗いてみたら…ですからね」

「そりゃそんな因子が有ったら信仰心なんか芽生えねえし、された仕打ちを考えれば、本能で神を毛嫌いしても仕方ないな」

「魔神よ、もはや我々は共犯です、女神を責めても仕方ありません」

「分かっている、なんにせよ何れはしっかりと説明をして、許して貰わねばな」

「ええ、その為にもクロエの無事を、祈るだけでなくサポートしましょう」

「そうだな」

「そうですね」

 どうやら、女神がクロエに掛けたのは枷では無く、因子を打ち消す際の副作用の様だ。

「ところで邪神の尖兵は防げそうか?」

「無理ですね、此処までこの世界に食い込まれていては、引き込んでから滅するしか、取り除く手段は有りません」

「だよな~、こうなりゃ他の大神を呼び覚ますしかないが、それでも時間がな…」

「ですね、クロエ達だけでどれだけ凌げるか」

 こうしてクロエの知らない所で、世界の命運を託される羽目になった。


 一方、強制的に変身させられたクロエは、王女の元に向かう。

「だ、誰かーー‼」

「これで終いだーーっ!」

「姫様ーーー!」

 悪漢が、今まさに孤立した王女に凶刃を振り下ろす場面。

(取り敢えず襲撃者の無力化ね)

 上空から急降下し、男の武器を切断し、膝を蹴って砕く。

「な!?ぎゃあああああ‼」

 同様に護衛の騎士たちと対峙する奴らも同じように処理。

「あ、貴方は?」

 此処に来る途中、集めた葉っぱや草で顔を隠した。

「…」

 そして、族の無力化と姫の無事を確認し、その場を去る。

「あ、お待ちください!」

 勿論気にせず去る。しかし。

『クロエ…』

(言われた通り助けましたよ?)

『このままでは、彼女達が安全に帰れる保証がありません』

(そこまで私が面倒見る必要が?)

『…もし一行を、護送してくれたら、何か特殊能力を授け…』

(是非このクロエめにお任せください‼)

『…そう。ではお願いします。それとその出来の悪いマスクは外す様に』

(あ、急にお腹が…)

『なんかもう一つ特殊能力を授けたくなってきたな~』

(すごく調子よくなったので、全力当たらせて貰います)

 クロエは脳内で、超高速で算盤をはじき、能力を2つ貰った方が、得だと判断し、言う事を聞く事にした。実に現金なクロエだった。

(モモちゃん、ミルちゃん、見つからない様に付いて来て)

 念話で、2匹に事情を伝え、こっそり付いて来るように伝える。

 マスクを捨て、コチラを伺う王女一行に話し掛ける。

「わけあって助太刀しました。このままあなた方を護送します」

 面倒なやり取りをしたくないので、自分が誰かの差し金であることを仄めかし、護送もその誰かの目的だと言外に伝える。

「助けて頂いた事は感謝する。だが正体の分からぬ者の護送は受け入れられない!」

 護衛のリーダーらしき者が、警戒心を露わに宣言。

(そりゃそうよね、でもこの場合はどうしようか…ねえ女神様?)

『いや、せめて名乗りなさいよ!』

(あの…仮にも私は一度は死んでるんですよ?どう名乗れと?)

『そんなの偽名で良いじゃない!』

 ええ…無茶苦茶だこの人。

(この姿…特に翼の説明が困るんですが)

『似合ってるわよ♪』

 あ~、温まる~~。

『えっと…そうね、ヴァルキリーって事で』

(急に安牌で来ましたね)

 ヴァルキリーとは、この世界の上位者の一角、神族に連なる女性のみの種族で、神の使いとしても有名な種族だ。

 仕方無いな~、これ以上は無駄だと悟り、流れに乗る事にした。

「私はヴァルキリーのノエル…、後は其方で判断してください」

 兎に角相手が納得するかどうかなので、クロエは相手に判断を丸投げした。

 一行はこちらから視線を外さずに、こそこそと相談している。

 聞く感じ、怪しい7割、それでも恩人が1割、2割が可愛いだ。

 そんな護衛の考えも、王女の鶴の一声で、覆る。

「お待ちなさい、このお方は我々を救って下さったのですよ。それをこのような扱い、王女として見過ごせません」

 うん、カッコいいけど、本来護衛の方々が正解なんだ、王女様。

「申し訳ありません、名乗りが遅れました。私はナインハルト王国第一王女、ジュリ・ロー・ナインハルトです。そして此度は我々をお救い頂き、ありがとうございます。お礼を述べるのが遅れた事、お許しください」

 王女が頭を下げると、周りも渋々といった感じで、頭を下げる。

「構いませんよ、私は離れて見守るので、どうぞお気になさらず」

 こう言っとけば、相手も多少気が楽だろう。

 クロエはさっと姿を消し、モモちゃん達と合流した。


「それじゃあ見つからない様に、付かず離れずで行きましょう」

「キュイ」

「モー」

 クロエ達は、常に王女一行を探知範囲に収め、尾行する。

 一応護送すると言ったのは本当で、王女たちに近づく動物や魔物は瞬時に狩り、露払いもしっかりと熟す、お陰で女神さまの小言も、今の所は聞こえない。

 暫くすると、向こう側も落ち着いたようで、キャンプの相談を始めたようだ。

「向こうキャンプを張って、今日はもう休むようね」

 という事で、クロエ達もさっと準備を済ませのんびりしていると。

「どうやら食料が足りてない様ね、ちょっと行って来るわ」

 そう言って王女の元に向かう。なんだかんだで面倒見が良い。

 そう思うったモモちゃんとミルちゃんだった。


「どうかしたのかしら?」

 何も知らない体で、王女に声を掛ける。

「あ、ノエル様。恥ずかしながら、先程の襲撃で食料を燃やされてしまいまして…、狩りをするか否かで揉めているのですよ」

 聞くと「王女に、野生の獣の肉は不敬に当たる」「いや、ジビエは貴族にも受け入れらてるだろう」「それはプロの猟師が獲った獲物だからだろう、俺達にそこまでの技術は無い」

 肉に関してはこんな感じで、植物性の物も、万が一毒がとか、動物の糞尿が危険とか、コチラも難色を示しているようだ。

「私としては、緊急時ですので多少のリスクは承知してるのですが」

「仕方ありません、姫様に万が一がお有りでしたら、我らは陛下に顔向けできません」

 そう言ったのは、ジュリの侍女のシラ。

「ええ、分かっているわシラ、でも何も食べない事には力も出ないわ」

 まあ、正解何て無いし、好きにさせましょう。

「あの…ノエル様?」

 シラが声を掛けて来る。

「あの、もし何か食料をお持ちでしたら、お譲りいただけませんか?」

「…それこそ私の食料など、あそこで揉めている方々は受け入れないでしょう」

「…そこは殴って黙らせます」

「はい?」

「いえ、文句は言わせませんので、何かお持ちなら、お願いします!」

 熱心に頼んで来るシラに根負けし、クロエは協力する事に。

「分かりました。では何か大きな容器を頂けるかしら?」

 そう言うと、シラが樽をを幾つか差し出す。

「では、少しお待ちなさい」

 そういって、モモちゃん達の元に戻り。

「ミルちゃん、お願いします」

「モー」

 預かった樽に、ミルクを注ぎ、王女に届ける。

「お待たせ、ミルクを持ってきたわ」

 すると、ジュリが樽とクロエを交互に見るや。

「ノエル様のお乳ですか」

「結構なセクハラぶっこんで来たわね…」

 イラっときて、小突いてやろうかと思ったが、我慢する。

「も、申し訳ありません、姫は、その…少々好色でして…」

 ああ、うん。距離を取ろう。

 そしてそんなやり取りを、いつの間にか聞いていた護衛達が。

「なんだ違うのか…」「さ、最初から分かってたし!」「望みが絶たれた!」

 とんだセクハラグループだ。

「あの、頂いても?」

 毒見を買って出るシラが、匙で一掬いし、口に含む。すると。

「こ、これはなんと…、今までで飲んだミルクの中で一番です!」

 シラの声を聞いて、狩りに賛成していた者が続々と試飲する。

 皆口々に感動の口にし。その口福に顔を蕩けさす。

 王女も堪らず器で掬い、一気に飲み干す。

「んっぷはぁ、これは凄いっ!奇跡の味です!」

 旨い物を食べなれた王女ですら、こんな反応をするもんだから、反対者もいよいよ我慢ならず、シラと賛成派に頭を下げ試飲。

 それからは、競うようにミルクを飲み、樽3つ分のミルクはあっという間になくなったが、全員の空腹は満たされた様だ。

「ノエル様、このお礼は必ず致します」

 皆を代表して、ジュリが頭を下げる。

「良いのよ、それじゃあ私は離れるわね。おやすみなさい」

 あれから態度を改めた護衛達と王女に、是非傍で護衛をと言われたが、遠慮した。

 面倒とか、王女がヤバそうとかも勿論だが、この方が敵の出方を見やすいので、色々と都合が良いから、距離を取っているのだ。

「ふう、なんだか疲れたわね、モモちゃんミルちゃんおやすみなさい」

 いつの間にか変身が解け困惑したが、眠気が勝り就寝した。

 ちなみに、族は荷物を引っぺがし、木に縛り付けて放置してきた。


「ん…良く寝たわ」

 いつの間にやら変身させられていたが、まあ問題無いので良いか。

「えっと、アッチもまだ動いてない様ね」

 という事で軽く運動をし、果物を集め、朝食を取る。

「そういえばあっちの食事は…」

 モモちゃんの力を借りて、王女たちの様子を覗く。

「困ったわ、昨日はノエル様のお陰で何とかなったけど…」

「食べる食べない以前の問題でしたね…」

 どうも護衛達の食料調達が上手くいって無い様だ。

「そうね、慣れない土地ではどうしても上手くいかないのでしょう」

 能力でゴリ押しの出来るクロエ達と違い、本来狩りとはその土地の事を熟知して、獲物の習性を逆手に取って罠に掛けたりと、兎に角情報が命の行為だ。

 木の実などは昨日言ってた通り、毒や病原菌が怖くて迂闊に食べれない。

 向こうの状況を把握し、クロエは仕方ないと腰を上げる。

「という事だから、ちょっと行って来るね」

 クロエは昨日預かったままだった樽を持って川に行き、魚を調達する。

 変身後の身体もすこぶる性能の良さで、次々と手掴みで魚を捕獲する。

「こんばものかしらね」

 樽いっぱいに魚を詰め、王女の元へ向かう。

「一度ばかりか二度までも…本当に感謝しております」

「うん、その分神に祈って頂戴」

 クロエとしては、さっさと先に進んで欲しいので直ぐに退散する。


 様子を見守る事暫く、漸く王女一行が動き出した。

 それを昨日と同じ様に、露払いをしながら追跡する。

 そして今日中にT字路に着き、王女一行は傍にある休憩所で一夜を明かす様だ。

 例によって食べ物を差し入れ、退散する。

 そして翌日の夕方には、王女一行をナインハルト領の村ま送れた。

 これでおさらばと思ったが、女神が念を入れて少し様子を見ろと言ったので、接触はせずに見守る事にした。

 そして女神の予想は当たり、真夜中に襲撃が発生。当然未然に防ぎ、族は身ぐるみ剥いで木に括りつけておいた。記憶も操作したうえで。

 更に翌日、何とか王女一行を治安の良い町まで届け、女神に確認を取る。

「これで任務完了ですか?」

『ええ、ご苦労様です、それにしても、もう少し友好的に接したらどうです?あまりに事務的過ぎますよ?』

「貴族は苦手です」

 これは、クロエの紛れもない本心だ。

『まあ良いです。それでは褒美の能力を授けましょう』

「あ、ちゃんと私に有利な奴にして下さい」

『(ちっ)分かっていますよ』

「……」

『では、1つ目は、変身能力の小型化を授けます、これは体が1/10に縮む能力です』

「更に小さくなるんだ」

『言っておきますけど、使い方次第では、極悪能力ですよ?』

「ええ、3mmまで縮めば、街中ですらほぼ見つからないでしょうね」

『ええ、流石はクロエ、よく分ってるわ。それで2つ目の能力は滞空です。これはその名の通り、空中に留まれる能力です。但し効果は5秒まで、着地すればリセットされます』

「おお~!」

『では、又何かあれば連絡します』

 そうして女神との交信は途絶える。


「それじゃあ、改めてフォルキンを目指しましょう!」

 こうして再び旅を始め、その道中で、先程授かった能力の修練を開始する。

「よっ、お~!浮いてる浮いてる!」

 軽く跳躍し、滞空を意識してみると、見事空中に浮かぶことが出来た。

「次は小型化ね、ん!」

 同じように意識すると身体が縮み(衣服も一緒に)、クロエの身長は3mmになった。

「モモちゃん、かくれんぼしよう!5秒待って」

 結果はクロエが勝利した。

 ミルちゃんの毛に埋もれたクロエを見つける事は、終ぞできなかった。

 魔力がなく、体も3mmと小さいお陰で、モモちゃんの探知すら潜って見せたクロエ。

「これは今後、活躍間違いなしね」

 その後も、能力の検証と修練をしながら移動を続け、2日後には王女と遭遇した場所まで戻って来れた。

 一応襲撃場所に行ってみると、ヴァディスの兵とナインハルトの兵が、現場検分らしき事を行っていた。

(まあこの手の事は、彼らに任せておきましょう)

 正直、事情を全く知らず、強制的に巻き込まれたクロエとしては、事の顛末より自分に害があるか無いかの部分にしか興味が無かった。

 念を入れて現場を通り過ぎ、大分離れた位置で一夜を明かす事にした。

 そして翌日になると。また移動を開始する。

「こうしてみると、幾らのんびり動いてるとはいえ、フォルキンって中々の田舎ね」

 街道も徐々に荒れてきて、周囲には人の気配は無い。

「まあ牧歌的で、私は好きなんだけどね」

 横にいるモモちゃんを撫でたり、ミルちゃんをブラッシングしながら、のんびりと移動する事2日。

 フォルキンが近いのか、再び街道が立派になり、人の往来が目に付く。

「あれ?あんなところに村なんてあったかしら?」

 割と造りのしっかりした柵に覆われた農村に、クロエは記憶を辿る。

「やっぱり3年前には無かったわ、新しく村が出来たのね」

 新しく村が出来る程、フォルキン周辺が潤っている事にクロエは嬉しくなる。

「フォルキンの教会も良くなっていると良いのだけれど」

 3年間。クロエは自身の給金と、王の助成金を仕送りし続けた。

 当然甘い汁を吸おうと、天下り役人がシスターの上司に収まろうと画策したが、あの手この手を尽くして排除した。

 養父に成ってくれた、エマーソン家の当主様。ウォードさんにお願いして、教会への干渉を注視して貰っていた。

「シスターにこの状況を、伝えるかどうかは兎も角、早く一目みたいわ」

 はやる気持ちを抑え、村を通り過ぎたところで野宿した。


 そして3日後。

「…此処がフォルキン?」

 クロエの困惑も当然だろう。そこには立派な防壁に囲まれ、周辺には田畑が広がり、過去の記憶とは一致しない立派な門には、常に出入りする人が絶えなかった。

「え?こんなに人が居るなんて、本当にフォルキン?」

 クロエの記憶にあるフォルキンの街と、乖離が激しい光景に困惑する。

 暫く周囲を確認し、人々の話を盗み聞いた結果。やはりここがフォルキンである事は、間違いない様だ。

「もしかして、助成金で発展したのかしら?いやでも、それほどの金額でもない筈だし、あくまで教会の運営に充てた資金の筈…」

 色々考えても答えなぞ出る筈も無く、クロエは夜を待つ事にした。


「それじゃあ、ちょっと行って来るね」

 2匹に待機するよう言って、クロエは防壁を超え、久しぶりに故郷の地を踏む。

(…大分様変わりしてるわね)

 以前はもっと疎らだった建物が、規則正しく立ち並び、家屋も綺麗になっていた。

 そして、記憶を頼りに教会に来ると。その変化に驚く。

(これがあの教会!?ちょっとした聖堂じゃない)

 以前は孤児院も兼ねていた事もあり、教会とは名ばかりの、ぼろ長屋だった。

 しかし現在。その外観は、十字架をシンボルに、白と青の外壁、ガラスの窓等、荘厳さと実用性を兼ねた、立派な建物に変貌していた。

(取り敢えずシスターを探しましょう)

 クロエは通気口の隙間から侵入し、関係者専用の部屋を、見て回る。

(シスター…)

 そして、管理者専用と書かれた部屋で、育ての親を見つけた。

(あれは…)

 シスターが机に置かれた、像に祈りをささげている。

 それは、クロエが、幼少期にシスターに送った、木彫りの像だった。

 不思議と上手く出来たその像を、シスターにあげたのだった。

 シスターに自分の状況を、伝えるか伝えないか、迷っていたが、意を決し。

「シスター」

 声を掛ける事にした。


 はあ…、これで何日目だろうか、王都でクロエが暗殺されたとの報を聞いてから。

 この街は変わった。あの子が毎月手紙と一緒に送って来る給金、それと一緒に送られてくる多額の助成金。

 最初は飢えた子供たちを満足に食べさせ、衣服を揃え、人並みの環境を用意した。

 それから、使い切れない分は、蓄財し、定期的に炊き出しをしたり、学の有る者を雇い、子供の教育を推し進めた。

 しかし、金があると分かった途端、強欲な役人が、押しかけてきて、金に手を着けようとしたが、直ぐに横領を始めとした重罪の数々で捕まってしまった。これが一つの教訓となり、方針が固まった。

 クロエには、少々申し訳なかったが、助成金を、街の発展に使う事にした。

 助成金は、言わばあの子の身請け金に等しいものだ、クロエは教会の為にと国王に直訴して、助成金を約束させたと聞いて、涙が出た。

 そんなクロエの血と汗の結晶を、勝手に別の用途に使うのは気が引けたが、下手に蓄財しても碌な事にならない以上、資金の運用は考える必要があり、結果街を発展させる事で孤児の増加を止め、将来職に就ける環境を作る方向にシフトした。

 クロエを養子にしてくれたウォード殿と協力し、この3年間街を発展させた。

 お陰で孤児は減り、子供たちの何人かは成人し、職に就いて元気に暮らせている。

 いつクロエが戻ってきても、独断を謝った上で胸を張って迎える為に。

 そう頑張って来たが…。

「クロエ…ごめんなさい、貴方を王都に行かせるべきではありませんでした…」

 クロエの訃報を聞いてから10日は経っているが、私の中の後悔は拭えない。

 瞼の裏に焼き付く、幼いころのクロエ。天使の様な笑顔に、優しく気の利く本当に良い娘だった。そう、決して暗殺なんて結末が受け入れられるわけがない。

(シスター)

 今日も、クロエがくれた像に祈りをささげていると、懐かしいクロエの声が聞こえて来る。

「クロエも15歳…きっと誰もが振り返る乙女に成長していただろうに…」

(シスター)

「フフ、いい加減吹っ切らないとね、クロエの為にも頑張らなくちゃ」

(シスター)

 疲れているのか、先程から幻聴が続くので、自嘲気味に呟く。

「シスター」

「?」

「シスター、下!下!」

 気のせいだと思いつつも、声に従い、下を見ると。

「シスター!」

「え?、クロエ!?」

 実に3年ぶりの、再会だった。


「シスター!」

「クロエ!?クロエなの!?」

 シスターは色々な意味で驚く。

 先ず死んだはずのクロエが生きている、しかも足元に居るという現実。そして…。

「クロエ…よね?」

「あー…、やっぱスルーしてくれませんか」

 当たり前だ。

 かくかくしかじか。

「なんという事でしょう」

「本当になんという事でしょうですよ」

「クロエ、貴方3柱の大神に会うだんて」

「え?、そこですか!?」

 クロエとしては、3柱にはそれなりに感謝しているが、同等に迷惑を被っているので、あまり話題にも出したくないのだ。

 クロエの苦い表情を見て、シスターもなんか察した様で、直ぐに話題を変えた。

「クロエ、これからどうするんですか?」

「そうですね…その前にこの3年間の事を教えてください」

 クロエの要望に応え、助成金の勝手な流用を謝罪し、発展について聞かせる。

「な~る程ですね、それならそうと手紙で知らせてくれれば良かったのに」

「クロエの気持ちを思うと、言い出しづらくって」

 なんにせよ、発展の要因が分かってすっきりしたクロエ。

「それで、これからの事ですね。一応巡礼に賭けてみようかと」

「巡礼ですか…」

「一応元に戻れる公算は高いようですし、力はあって困りません」

「確かに…そうね、でも危険では?」

「ええ、でも一度は死んだ身、多少の困難は甘んじて受け入れます」

「そうですか、でも覚えておいてください。あなたは私にとって大切な娘です。そんなあなたが死んだと聞かされた時、私は大変悲しみました」

 シスターは、その時のショックと、再びクロエの元気(?)な姿を見れた感動を思い出し、涙を流す。

「クロエが辛い思いをすれば、私も悲しくなります、そのことを、忘れないでください」

「はい…」

(参ったな…泣きそうだよ…)

 いつも自分の事を案じてくれていた育ての親は、3年ぶりに会っても変わらず、自分を案じてくれる。その事実にクロエの涙腺は緩む。

「さて、今日はもう遅いわ、話ならまた明日にしましょ」

「はい、ではまた明日。おやすみなさいシスター」

「ええ、おやすみなさいクロエ」

 こうして、久々の親子の再会を終え、モモちゃん達と合流し一夜を明かした。


「シスター、お早うございます」

「っ!?クロエ…、良かった…夢じゃなかったのね」

 ホッとした様子のシスターに、今日の予定を聞き。

「では午後は予定が無いのですね?」

「ええ、クロエのお陰で人手も足りてて、最近は裏庭に畑を作っているのよ」

「へ~、あ、その畑ってシスターの物ですか?」

「ええ、どういう訳かこの教会、土地は全て私名義になっているのよ」

「あ、王様が手配してくれたのね、良かった~」

 シスター以上の人格者を知らないクロエは、助成金と共に、フォルキンの教会関連の権利を全てシスターに移譲する様に、大司教と国王に頼んでいた。

「それじゃあ午後、庭で待っててください、私の友達を紹介するから」

 そうして、クロエは外に出て時間を潰し、午後になると裏庭に向かった。

「シスター、お待たせしました」

「いらっしゃいクロエ、それで、どんなお友達かしら?」

「うん、さあ来て!モモちゃん、ミルちゃん」

 そう呼ぶと、クロエの前に、超巨大な牛と、その上に純白のモモンガが居た。

「まあ立派な乳牛だこと、それに可愛らしいモモンガね」

 シスターは物怖じせず、ミルちゃんを撫で、モモちゃんに会釈する。

「貴方がクロエの守護者様ですね、クロエがお世話になっています」

 あー、まあ保護者として譲れないわよね、そこは。

「キュイ!」

 モモちゃんが胸を張って、「フム、任せておけ」って態度を取る。

 元アークドラゴンだもんね、これが普通の反応だよね。

「確かに頼もしい守護者だけど、モモちゃんは私のお友達ですよね~」

「キュイ」

「なんか、肯定の意思が弱いような…?モモちゃん?」

 私が嫌いなの?と潤んだ瞳で見つめると。

「キュッ!?キュイ!」

「だよね~、モモちゃんは可愛いですね~、ミルちゃんも可愛い!」

 そんなやり取りを見ていて、シスターは密かに戦慄した。

(アークドラゴンと言えば、大神クラスの上位神を除けば最強の存在、それを女の武器だけで手玉に取るなんて、それにこの牛も普通ではない…、流石クロエ、自慢の娘だわ♪)

 最後に思考停止に陥ったシスターだが、その考察は半分間違っていた。

 モモちゃんがクロエに従うのは、決して惚れた弱みだけではなく、純粋にクロエの力に恐怖しているからだ。例えクロエが自分に暴力を振るなど、微塵も思って無くとも、一度はクロエの力で絶命させられたのだ。本能がそうさせてしまう程、クロエの力が異常なのだ。

 尤も、戦闘経験の少ないクロエに対し、モモちゃんが本気になれば、幾らでも型にはめる事は可能だ。勿論クロエもそのことは重々承知しているが、シスター以外で初めて出来た、心から信頼できる存在に甘えたくて仕方がないのだ。

「じゃあミルちゃん、シスターの為にミルクを出して」

 そしてどうぞシスター、と差し出されたミルクを飲み、驚愕。

「な!?これはなんと…」

「美味しいでしょ!ミルちゃんのミルクは最高よ!」

 そして、シスターの心をガッチリつかんだところで、相談する。

「今の私達には、拠点と呼べる場所がなく、根無し草の状態。ですのでシスター、この裏庭を借りても宜しいでしょうか?」

「勿論よクロエ、寧ろ何時まででもここに居なさい、ってわけにもいかないわね、でも此処を拠点にするなら、頻繁に会えるのね?」

「はい、ミルちゃんには、転移の魔法が有りますし、モモちゃんも転移や転送の知識は世界屈指だと言っているので、遠出をしても、直ぐに戻って来れます」

 それを聞いたシスターは、嬉しそうにほほ笑んだ。


「キュイッ!」

 シスターの許可が出たので、モモちゃんが、裏庭の改造を始める。

「キュキュ…キュ―…キュイキュイキュイ、キュイ‼」

 何やら魔法を行使し、地面を均し、魔法陣を書き込んでいく。

「キュキュキュ」

「え?、隠蔽に認識阻害を掛けて、転移陣を構築した!?。あっという間ね」

「キュイキュイ」

「更に土壌の活性化に地脈の力も引き出しておいた!?」

「まあ。これで作物が立派に育つわ。感謝いたします」

 その上モモちゃんは、クロエにメモの用意をさせ、肥料の作り方を伝授した。

 この日は終日、畑の改良を行い、クロエ達は畑で一夜を明かす。

「まあ、なんという事でしょう」

 一夜明け、シスターがクロエ達の様子を見に来ると。

「おはようございます、シスター」

「おはよう、クロエ、モモ様もミル様もおはようございます」

 クロエ達が起きてたので、挨拶を交わし、改めて畑を見る。

「たった一晩で、作物が育つなんて…」

 昨日モモちゃんが、土壌の活性化と地脈の力を引き出した成果がそこにあった。

「キュイキュイ!」

「ん?このまま置いておけば、更に美味しく大きく育つし、量を重視して、直ぐに収穫するも良し、シスターに任せる?。だそうですシスター」

「それは…収穫しそびれても、枯れずに更に育つのですか…なんと有難い」

「でもこれだけの量を収穫となると、シスター1人じゃ大変ですね」

「そうね、でも此処に無暗に人を入れる訳にもいかないし」

 子供達じゃ、何時何処で口を滑らすか分からないし、ここに頻繁に出入り出来て、信頼のおける大人は居ないしで、困る2人。

「キュキュ」

 すると、モモちゃんが、ミルちゃんに積んでいる、袋から、何かを取り出す。

「これは…アイアンベアの魔石ね?一体何を?」

 魔石とは、魔物が体内に持つとされる、魔力を帯びた石の総称である。

「キュキュキュ…」

 そんな魔石を地面に置き、何かするモモちゃん。すると。

 ズゴゴゴッと、地面が盛り上がり、土の塊が魔石を取り込み、もぞもぞと蠢く。

 暫くすると、余分な土が落ちて、土で出来た人形が出来上がった。

「これはゴーレムですね、しかも相当高度な技術で出来ていますね」

「キュイ‼」

「これで、収穫に管理は問題ない?、そうね、ありがとうモモちゃん!」

 その様子を見ていたミルちゃんが。

「モー」

 同じように、土で、30㎝程の人形を10体ほど作り。

「モーウ」

「この、小さいほうに、害虫駆除をさせよう?わあ、ありがとうミルちゃん!」

 こうして後に、[フォルキン聖堂秘密の食糧庫]と呼ばれる、畑が密かに稼働した。


 それから数日、クロエ達は、自分たちの拠点を快適な空間に改装しつつ、夜な夜なフォルキンの観光をし、周辺の地理情報を得ながら、予定を組んでいた。

 更に畑の方も、隠蔽と認識阻害が掛かっているのを良い事に、シスターに更に土地を買い上げて貰い、拡張した。

 肥料も少しずつ生産され、鶏も10数羽購入し、放し飼いにした。

 フォルキンでは、経済の活性化と治安の向上で孤児が減り、孤児の就職も斡旋されていて、大都市に比べれば、孤児は少ない方だ。

 しかし、住みやすく金があると分かれば人が増え、結局孤児が発生してしまうのは、仕方ない部分があった。

 それでもシスターは、手出しの出来ない他所じゃなく、フォルキンで孤児になった事で、保護できる子供が増えた事を喜んでいた。

 そしてそこへ、クロエの帰還と神獣の力添えで、神の畑が完成。

 教会の食糧事情は、目に見えて改善され始めた。

 クロエ達は何度も会議を重ね、今後の事を考えゴーレムの存在を、調べれば分かる程度の運用方法に変えた。

 更にクロエの養父、ウォード・エマーソンにも密会し、事情を伝えた。

「おおお…、クロエよ、よくぞ戻った‼」

 教会で拾われたクロエを、幼少の頃から可愛がってくれたウォードは、それは喜んでくれ、快く教会の農業拡張に協力してくれた。

 これで、動き易くなったと、皆で喜んだ。


 更に数日、クロエ達は畑の拡張発展に心血注いでいた。

 帰らずの森に遠征し、狂暴な魔物を間引くついでに魔石を集める。

 更に小川で、二枚貝を集め、裏庭に池を作り、貝を放つ。

 近場の草むらで、ミミズを捕獲し、養殖の準備を整えた。

 新たに、ゴーレムを10体作った。ミニゴーレムも、ウォードが用意した屑魔石で、最初の10体も含め、100体作り、ゴーレムの補助をさせる。

 二枚貝は、人が増えればどうしても増えてしまう、環境汚染を抑える為に養殖中で、これから教会で買い上げた土地に、用水路を作る度に二枚貝を放ち、水質を向上させる為だ。

 ミミズは、増えれば土作り、鶏のエサ、釣り餌と用途が広いので、将来を見越して今から大量生産の下地を用意した。

 ちなみに、これらの案は全てモモちゃん発案であり、クロエをはじめ、関係者はモモちゃんに尊敬の念の籠った視線を向けた。

 この頃になると、収穫した作物は、孤児院だけでは消費しきれないので流通に乗せたが、これがまた好評で、あっという間に近隣の村や町から買い付けに来る人が出る程だ。

「クロエの暗殺を切っ掛けに、助成金が止まってたから、現金収入は助かるわ」

 そんなシスターの言葉を聞いて、クロエは内心怒りを覚える。

(あんだけ人の人生引っ掻き回しといて、その後の面倒は見ないってか、ホント権力や利権って嫌なモノね…)

「大丈夫ですよシスター、これからは国に頼らず、やっていきましょう」

 妨害されたら、3柱に頼りましょう、と付け加えて、クロエは言う。

「そうね、場合によっては、国との対立も有るかもしれないわね」

 まあ、そんなものはクロエと神獣2体にはどうという事は無く、その3人が肩入れするフォルキンも同様だった。


 フォルキン内で、出来る事は粗方やり尽くした一行は、次の行動に移る、

「ではシスター、夕方ごろに戻ります」

「ええ、気を付けて行きなさい、神獣のお二方、クロエをお願いします」

 シスターの見送りを受け、一行はフォルキン周辺も測量を開始した。

 現在クロエ達の目標は、巡礼で強くなる、元の姿を取り戻すだ。

 だが肝心な巡礼地を把握していなく、一から自分らで探しているのだ。

「有名どころは、神殿が建立されたりと一大観光地になってるけど、未発見の聖地の方が圧倒的に多いのよね」

 この世界には、神族、竜族、妖魔族の上位者の更に上に、各種族の神々が無数に存在している。

 クロエに加護(呪い)を呉れた女神、モモちゃんを寄越した神龍、ミルちゃんを寄越した魔神も、その中の一部でしかない。

 そんな一般に知られていない神の祠を、探して測量を始めたのだ。

 ヒントも無く、目当てのものを探すのは、本来途方もなく苦痛だ。

 しかし、クロエ達は道中役立ちそうな物を探しながら移動しているので、意外と退屈せず楽しんで測量できている。

 そんな感じで、順調に地図を作り、植生や生き物や魔物の生態を書き込み、モモちゃんの補助もあり、世界で一番精巧で情報量が多い、フォルキン周辺の地図が徐々に出来上がる。

 この作業も数日掛け、フォルキン周辺のマッピングは完了し、祠も2つ見つけた。

 とはいえ、直ぐに試練に挑む心算は無いので、取り敢えず祠を綺麗にし、周囲の雑草を刈り取り、お供え物をして、後日調べる事にした。


「…というわけですが、心当たりは有りますかシスター?」

「いえ、そんなところに祠が有った事すら初めて知りました」

「ですよね、道から大分離れていましたし、雑草で隠れてたら当然です」

 一応確認したが、祠の情報は皆無だった。

「結局直接調べるしかなさそうね」

 という事で、改めて祠に向かい、交信の仕方は分からないが、祈ってみた。

 すると、例によって、謎空間に引き込まれ、声が聞こえる。

「良かった、戻って来ないかと心配したぞ」

「貴方は?」

「我は、大地の神だ」

「無知で申し訳ありません、どういったお役目で?」

「そうだな…土、大地に絡む殆どの事象は、我の管轄だ。地震、地脈関連、農業等多岐に渡るぞ」

「え?では大地母神様はあなたですか?」

「いや、そうでは無い、まああ奴の方が数段メジャーなのは認めるが、奴は母神。女神らしく、幸福や豊かさを象徴する神であって、管轄が違う」

 大地の神様曰く、豊作や、その土地の繁栄を願うなら、大地母神。

 地震などの災害や、地脈の乱れ、大地の流動、土壌の汚染等、厄災に対する守護願うなら、自分に祈るのが、正しいと言っている。

「なんとなく、女性が家を守って、男が外敵と戦う。そんなイメージを抱きます」

「まあそんな感じで良いだろう、女神は抱擁、男神は守護と思ってれば良い」

「勉強になります」

「ウム、では本題に入るか、我の試練、と言うより依頼と言った方が正しいか、どうも最近この周辺で地脈に乱れが増えてきてな、このまま放置すると、実に具合の悪い事態になる可能性が高い」

 具合って、またフワッとした表現をする、とクロエは思う。

「お前の連れ、そこの竜が地脈に干渉していたな?その力を使って、乱れや澱みを解消してくれ、場所は把握できないだろうから、報酬の前借として竜に超高度な探知魔法を授ける。それで問題のある場所を改善してくれ」

「キュキュ!」

「使い方は分かったな?使いこなせば便利な術だ、励めよ。全て終わったらまた来ると良い、その魔神の神獣とお前にも力を授ける。では行くがよい」

 無駄に発光する演出を経て、元の空間に戻る。

「地脈の異常を改善ね、…どう考えても神様が直接動く案件な気がするのは私だけ?」

「キュキュ…」

「モウ…」

 クロエの言葉に2匹は、諦めよう、と語り掛けるのであった。

「まあ仕方ないわね、これでも一時は聖職者を目指した身、頑張りましょう」

「キュー!」

「モー!」

 こうして一行は、大地の神の依頼で、地脈の捜査と改善を始めたのだった。

次は…

暗号文を怪文書に、怪文書をどくしょかんそうぶんに…

要は見直し手直しに時間が掛かるので、暫く掛かります。

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