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親友の話  作者: シロロ
2/2

私は入院しました。

 私は今、病室にいる。何が起こったかあまり覚えてない。誰かが一緒にいた気がする。

「私、誰と一緒にいたんだっけ……」

 私は体を起こそうとするが、力が入らない。なんで力が入らないのだろうか。左手は辛うじて動くので、なんとかナースコールのボタンを押すことができた。そのナースコールの音でベッドの向かい側のベンチに座ったまま寝ていた男の人がハッとなって目が覚める。その人は目が覚めた私を見て、涙目にになり、目をこすって近くに来てくれた。

「おはよう。目が覚めてよかった」

 そう一言呟き、頭を撫でてくれた。このイケメンは私のお兄ちゃんだった。

「お兄ちゃん、なんで泣いてるの?」

「べ、別に泣いてないからっ。ただ、寝たきりだった最愛の妹が目を覚ましてくれて嬉しいんだ」

 このお兄ちゃんは血の繋がった唯一の家族。私たちの両親は早くに亡くなってしまっている。当時私は小学校の低学年で、親戚の家に引っ越しになる予定だったが、学校を転校するのが嫌で駄々をこねていた。すると、当時高校生で学校の寮に住んでいたお兄ちゃんが、家に戻って私を育てると言ってくれた。それほど優しく、生活力があり、イケメンな万能お兄ちゃんなのである。

 ナースコールでお医者さんと看護師さんが来てくれた。ベッドを起こし、検査が始まる。検査中は一度お兄ちゃんは病室から出なければならない為、一言声をかけてくれた。

「とりあえず、心配してくれてる親戚の人とミサンガちゃんに連絡してくるからな。また後で来る」

 親戚の人にも心配かけていたなんて。駄々をこねてウザがられているのではないかと思ったが、そんなことは無かったみたいだ。しかし、ミサンガちゃんとは誰のことなのだろうか。思い出せない。ふと、右手にミサンガの感触がある事に気が付く。見ると、エメラルドグリーンのとても可愛くて綺麗なミサンガが付いていた。少し頭が痛くなる。このミサンガは貰い物だという記憶はあるが、誰から貰ったかという記憶が無い。これは記憶喪失なのだろうか。


 お医者さんの検査が終わり、異常は見られないので後は少しずつだが回復を待つだけになった。今日からご飯も少しずつ食べれる。体が上手く動かないのは、空腹のせいなのかもしれないと思うくらいおなかがペコペコなのに気が付く。点滴で栄養は補充されているが、口から何か食べ物を入れたい。ご飯の話になると頭の中はご飯でいっぱいになっている。そういえば、お兄ちゃんの料理はとても美味しい。そのお兄ちゃんに料理を教わっているので、私もそれなりに料理に自信がある。また頭痛が起こり、私は頭を押さえる。今度一緒に料理をしようと約束した人がいる気がする。でも誰かは思い出せない。

「頭痛いのか。大丈夫か」

 お兄ちゃんが心配そうに声をかけてくれた。

「大丈夫。なんか記憶が混乱してて……。ねえ、ミサンガちゃんって誰のこと言ってるの?」

 私は素直に質問をすることにした。もしかしたら私はミサンガちゃんとは呼んでいない誰かのことかもしれない。

「ああ、ミサンガちゃんって俺が勝手に呼んでるだけなんだ。お前がその右手のミサンガをめちゃめちゃ自慢してくるから、そのミサンガくれた子をミサンガちゃんって呼んでるだけ。名前は確か--ちゃんって言ってなかったか?」

「えっ」

 名前の部分が上手く聞き取れなかった。

「名前もう一度言って貰ってもいい?上手く聞き取れなかった」

「--ちゃん」

 やはり聞こえない。なぜかはわからないが、名前が聞こえないその子が私の記憶から抜け落ちている子なのだろうか。これはお兄ちゃんに早めに相談すべきだと思い、伝えようとしたまさにその時、病室の扉がゆっくりと開いた。

そこにはもやしのように細いが、とても可愛らしい女の子が涙目になりながらこちらを見ていた。この子がミサンガちゃんだろうか。

「お、ミサンガちゃんいらっしゃい。じゃあ、俺は少し席を外すから、何かあったらナースコール押してね」

 お兄ちゃんはその言うと、その子は頷く。そしてお兄ちゃんは病室を後にしてその子は私の方に寄ってきた。涙目だった目からは、すでに涙がこぼれ落ちていた。

「目が覚めてよかった」

 そう言って手を握ってくれた。その手はとても心地よく、私もなぜか涙が溢れてくる。

「あれ、なんでこんなに涙出てくるんだろう。」

 涙をぬぐいたいが、自分で体を動かすのがしんどい。それを察したのか、ミサンガちゃんは私の涙をハンカチで拭ってくれた。そして私を抱きしめた。

「ごめんね、私のせいでこんなことになっちゃって……」

 お互いに涙が止まらなくなり、10分ほどずっと泣いてしまっていた。


 ようやく落ち着いた二人。ふうっとため息を着くと、先にその子が口を開いた。

「ごめんね、来て早々ずっと泣いちゃって……」

「ううん、全然大丈夫だよ。私も泣いちゃったし。」

 ミサンガちゃんの事を思い出せないのになんでこんなにも涙があふれてきたのかわからなかった。しかし、が大切な人であることは間違いなさそうだ。ちゃんと記憶喪失であることを言うべきだと思ったが、まずはなぜ自分がここにいるのかを聞きたかった。体に痛みは無いが、なぜか体が重くて上手く動けない。

「実はね、なんで私がここにいるのか思い出せないんだけど、もし覚えてたら教えてもらってもいい……?」

 ミサンガちゃんは頷いてくれ話し始めてくれた。


 その日はそミサンガちゃんを家に招いて一緒に料理をする予定を立てていた為、放課後、直接私の家に向かっていた。その途中、信号待ちをしていると、急に私がその場にへたり込んだらしい。ミサンガちゃんは「どうしたの?大丈夫?」と心配そうに声をかけると、私は「少し立ち眩みがしたの」といって目の所を押さえていたらしい。言われてみたら、立ち眩みをしたのを覚えてるかもしれない。

 そこに、一人のお姉さんが私を心配したらしく、声をかけてきたらしい。

「その子体調悪いの?大丈夫?」

「その、めまいがしたみたいで……」

 ミサンガちゃんは人見知りなため、普段は知らない人と話したりは出来ないらしい。しかしそのお姉さんはとても優しそうだったからか、人見知りせず受け答えできたらしい。。私はこのお姉さんが声をかけてくれたことを覚えていない。この時すでに意識が無かったかもしれない。

「結構しんどそうだね、とりあえず日陰に非難しましょうか。」

 そう言って私を日かげまで運んでくれた。その時、ミサンガちゃんが私の意識が無いことに気が付き、とてもビックリして、慌てふためいてしまった。しかし、そのお姉さんは冷静に救急車を呼んでくれ、ミサンガちゃんを落ち着かせてくれた。救急車を待っている間、お姉さんはハンカチを濡らしておでこに当ててくれたりしていたらしい。少しすると救急車のサイレンが聞こえてきたため、ミサンガちゃんは早く来てほしいがために救急車から見える道路の近くに行き、救急車に向けて手を振った。救急車の来る方向は赤だったが、サイレンの音で交差点の車は止まってくれていた。救急車は左右確認後、ゆっくりと交差点を横断してミサンガちゃんの前まで来てくれたらしい。

「え、じゃあ私が何でここにいるのか原因はわからないんだ……」

 ミサンガちゃんは頷いた。

「でもね、この話にはまだ続きがあるの。そのお姉さんについてのこと」

「お姉さんについて?」

「そのお姉さんには、自分が一番大切だと思っている相手にだけ、このことを話しても良いって言われてるの。だから、私は今話したい」

 そう言って私の手を握る。ミサンガちゃんの頬が少し赤くなっている。冷静に考えると、プロポーズされてる気がして私も赤くなってしまう。

「あ、ありがとう……。嬉しい。私で良ければ、お話聞きたい」

 二人ともなんだか恥ずかしくなってしまい、手を握りながら真っ赤になって下を向いている。

「は、話すね」


--------------------------------------


 私は救急隊員に担架に乗せられ、救急車に運ばれる。ミサンガちゃんは親に連絡を入れ、私の付き添いで病院に行くと伝える。

「今会ったばかりだけど、私今時間あるから良かったら付き添おうか?」

 お姉さんは心配そうにミサンガちゃんに提案した。ミサンガちゃんはこのお姉さんはとても優しく信用できる人だと思い、お願いをした。

 救急隊の人が私が乗った担架を救急車に入れようとしたその時だった。1台の車がものすごいスピードで救急車めがけて走りこんできたのだ。それを見たミサンガちゃんは私に向かって手を伸ばすが間に合わない。ミサンガちゃんの目には涙があふれ、一言呟く。

「どうして……。守ってくれるはずじゃ……」

 しかしその車は救急車には突っ込まなかった。いや、突っ込まなかったのではなく、突っ込めなかった。救急車の手前で静止している。ミサンガちゃんは困惑している。訳も分からず辺りを見回す。よく見るとその車だけでなく、別の車や人や飛んでいる鳥まで止まっている。ただ一人、隣で右手を前に出して不思議なオーラを出しているやさしいお姉さんを除いて。

「何が起こってるんだ?って顔してるね」

 お姉さんは呟く。ミサンガちゃんは思考が追いついておらず、何も反応できない。

「ま、簡単に言うと、時間止めてるの。もう大丈夫かな」

 お姉さんはそう言うと、前に出していた右手を下げる。その手からはもうオーラは出ていなかった。

「え、あの、時間止めるって……、えっ?」

 お姉さんはミサンガちゃんの頭ぽんぽんと軽くたたく。

「落ち着きなさい。詳しいことはもう少し時間が経ったらわかるから。あとごめんね。この車、海の底に沈めてくるから一緒に病院行ってあげられない」

 そういうとお姉さんは車に近づき、今度は左手から車に向けてオーラを放った。そのオーラは車にまとわりつき、それが全体にいきわたると、お姉さんは車を左手でいとも簡単に持ち上げてしまった。

 ミサンガちゃんはその光景を見て驚きすぎて思考が停止している。それを見たお姉さんは左手で車を持ちながら、右手の人差し指を自分の唇に当てて言った。

「この事は、誰にも言っちゃだめだからね」

 ミサンガちゃんは黙ってうなずく。

「あ、でも、自分が一番大切だと思っている相手にだけは話しても良いよ」

 そういってウインクをし、お姉さんは車をもって飛んで行ってしまった。

 

--------------------------------------


「って感じです」

「全然意味わかんないっ!!!」

 ミサンガちゃんは苦笑いをしていた。

「そのお姉さん何者!?時止めて車片手で持ち上げて飛んでいくって魔法少女か何かなの!?」

 思わずツッコミを入れてしまったが、そのお姉さんのおかげで私は助かったんだと思うと感謝の気持ちがあふれてきた。そのお姉さんが声をかけてくれなかったら、私はこうやってミサンガちゃんとお話しできなかったし、お兄ちゃんにも会えなくなっていた。

「その、本当に何が起こったかわからなかったんだけど、お姉さんはすごくいいひとだった。それに、少し時間が経ったらわかるって言ってたし……」

 時を止めてまで私を助けてくれたそのお姉さん。できれば直接お礼を言いたいと思ったが、体が重くて思うように動かない。今は回復に専念しようと思った。

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