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親友の話  作者: シロロ
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私には親友がいました。

 その人はとても貧乏なのか、持ってくるお弁当の中身はもやしばかり。見た目もひょろひょろでもやしみたいなので、皆からはもやし女と言われていた。そのもやし女に好き好んで話しかける人もいないので、いつも一人。お弁当の時間も一人で食べていたので、見かねた私がある日うちのポストに入っていた卵1パックが無料になる特別券を渡して「これで少しでもマシなもの食べなよ」と半分皮肉のつもりで声をかけた。たかが卵1パックの特別券なのに話しかけられたのがそんなに嬉しかったのか、満面の笑みで「ありがとう」と言ってくれた。


 次の日、友達と話していると、そのもやし女が近寄ってきた。話しかけたそうにしていたみたいで、周りの友達が「行ってあげなよ」と茶化してきた。しかたなくこちらから声をかけると、またその子は笑顔になった。そして、昨日のお礼と言って小さなリボンのついた小さな紙袋を渡してきた。昨日のお礼らしい。ちょうど授業開始のチャイムが鳴ったので、自席に戻ってその紙袋を開けると、中にはエメラルドグリーンのとても可愛くて綺麗なミサンガが2本入っていた。私は思わずめっちゃ可愛いと呟いてしまった。


 そのミサンガを貰ったのがきっかけで、その子と話すようになった。ミサンガのこと、お弁当のこと、休日はどんなことをしているのか、などなど色々聞いた。まず、ミサンガは自作らしい。クオリティも高くてとてもビックリした。お弁当は、もやしが好きなのと、朝は親に時間がないせいで自作していて、料理が苦手なのでもやしをゆでてお弁当に詰めているとのことだった。朝ごはんと夜ご飯はしっかり食べていると聞いて少しホッとした。今度料理教えてあげるから家に遊びにおいでよと誘うと、その子はとても嬉しそうに「うんっ」と言ってくれた。ミサンガだが、とてもきれいでもったいないと思った為、大事に保管しておこうと思ったが、帰り際にその子に「そのミサンガ似合うと思うから、絶対つけてね」と言われた。ミサンガに関しては自信があるのか、普段から控えめな性格のその子が絶対って言うのは珍しいなと思ってしまった。


 翌日からそのミサンガを付けて学校に通った。とても可愛いミサンガなので、注目の的になるのではないかと思ったが、案外そうでもなかった。ミサンガ付けてるんだ、可愛いねーくらいにしか言われない。しかし、ミサンガをくれたその子は「すっごく似合ってる。付けてくれてありがとう」と嬉しそうに言ってくれた。何だかこっちまで嬉しくなってしまう。何をお願いしたのか聞かれたが、そこは流石に内緒と言った。『素敵な人と巡り合えますように』なんて恥ずかしくて言えない。


 その日はその子と一緒に帰ることになった。その時、また料理の話題になったので、今日さっそく遊びに来るか聞いた。しかし、今日は予定があるとのことだった。明日はどうかと聞かれたが、逆に明日はこちらが用事があるため、明後日にしようと提案した。その子は少し考えて、「うん、明後日楽しみにしてるねっ」と言ってくれた。しかしなんとなくだけど、その時の笑顔は無理に作った笑顔だった気がした。なんだか寂しそうだったので、その後に次の休日一緒に遊びに行く約束をして、何をしたいか尋ねた。そしたらなんと、友達と遊んだことが無いらしく、何をしていいかわからないらしい。その子は貧乏なわけではないみたいなのので、カラオケ・プリクラをしようと約束した。その子はとても喜んでいたけど、やはり笑顔が少し寂しそうだった気がした。


あっという間に明後日となった放課後、その子に声をかけて一緒に私の家に向かうことにした。学校から出て少しすると、その子は少し顔を赤らめて「あの、手をつないでも良いですか」と言う。少しえっと思ったが、友達同士なら全然オッケーと思ったので、良いよと言ってその子の手を握った。握るとその子は嬉しそうに「ありがとう」と呟いた。可愛い。

 他愛もない話をしながら家に向かう。その間、手をつないでいるから緊張してるのか、その子に声をかけても「え、あ、うん、そうだね」しか返ってこない。さらに辺りをきょろきょろ見回している。冷や汗もかいている。なんか変だ。ちょうど信号待ちで立ち止まったので、その子に「ねえ、今日なんか変だよ。もしかして体調悪いの」と声をかける。その子は目が覚めたようにハッとした。「ごめんなさい、体調が悪いわけじゃないの……」そう言って下を向き、黙ってしまった。何か言いたくないことや言えないことがあるのかなと思い「体調不良じゃないならよかった。いこ」と言ってもう一度手を繋いだ。その子は嬉しそうに頷き、青信号になって横断歩道を一緒にわたり始めた。

 その時だった。1台の車がものすごいスピードで信号無視して走りこんできた。私はあまりにも急な出来事だったため、全く動けず、死を覚悟した。しかし、次の瞬間車はその子だけを跳ね飛ばし、自分は助かっていた。何が起こったのかわけもわからず、数秒放心状態になってしまった。頭で整理する。車に引かれる直前、その子は私の手を思いきり引っ張り後ろに追いやった。そのおかげで私はギリギリ車に当たらなかった。しかし、その子は私を助けたせいで……、車に直撃してしまった。

 その子が跳ね飛ばされた方へ急いで走った。その子は血だらけになって倒れていた。私は涙を流しながらその子に更に近づき声をかけた。

「ねえ、目を開けてよ……、ねえ、なんで助けてくれたの……、ねえ……、ねえ……」

 その子は目を開けない。周りに人が集まってくる。誰かが救急車を呼んでくれたらしい。遠くからサイレンの音が聞こえてくる。私は血だらけになったその子の手を握る。すると、微かにその手が握り返された。そしてその子の口が微かに動いているのを見て、耳を近づけた。

「……んね、あ…りが……」

 声が聞こえなくなり、握り返してくれていた手にも力が無くなった。その子は死んでしまった。私の目の前で私を助けて。この子とこれから一緒に楽しく料理をして、休日に遊びに行く約束もしていたのに。お泊り会やショッピングだってしたかった。それなのにもうこの子と一緒に遊んだり出来ない。そう思うと涙が止まらなかった。握った手を放したくなかった。私の方から放したら本当にもう駄目な気がして。なんでこんなことになってしまったのか。どうして私を助けてくれたのか。最後になんで謝ってお礼を言ったのか。何もわからないまま……。こんなのただのわがままだけどそんなのは嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。その時、ふとその子の右足に目が行った。私にくれたミサンガと同じミサンガが付いている。そのミサンガは事故のせいか、切れていた。

「お揃いだったんだ……」

 それを見てまた涙があふれてくる。このミサンガで私の身の安全でも願ってくれたのだろうか。それが叶い、切れているようにも見えた。それなら私も『素敵な人と巡り合えますように』なんて自分勝手なお願いなんてしなければよかった。ミサンガの神様がいるなら願いを変えてほしいと思う。『この子とこれから先も一緒に生きたかった』

 私は心の中でそう呟き、事故のショックと悲しみが限界に達し、目の前が真っ暗になり倒れてしまった。

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