何もかも、嘘だった。
籠
大きな鳥籠
硝子で作られた巨大な鳥籠の中で私は育てられた。
黄金のベッドや椅子、金銀財宝散りばめられたロココ調の一室。
読み書きや謎の作法、望むものは硝子の扉を開けて入ってくる仮面を被ったメイドによって、全て与えられた。
「貴女は第一王女です。王族です。人を統べる存在です。決して頭を垂れてはなりません。誇り高くあるべきです。」
メイドに何度も何度も繰り返し言われ、自分は絵本に出てくるプリンセスなのだと思った。
ダイヤの王冠、シルクのドレス。翡翠の馬。ただひたすら美しい物をふんだんに与えられた。奇妙な礼儀作法の時間が終われば、後は何をしても許された。
屈折率の強い硝子で作られた壁は外の景色をぐにゃりと映し出す。
自分は鳥籠の中で暮らしていたことを知ったのは、硝子の扉から入ってきた黒服の男達にいきなり外に出された時だった。
怖過ぎて悲鳴は出せなかった。
「ここ、は? 」
驚いた。そこは、だだっ広い舞台の上だった。
振り替えると、自分が今迄いたところは硝子で出来た巨大な鳥籠の様な建物だった。
舞台の前には席が一つ置かれていた。
仮面を付けた男が爆笑していた。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ! 」
さも可笑しい様に手を叩いて笑っている。
私を笑っているのは直ぐに分かった。だが、何故?
「な、何がそんなに可笑しいのかしら? 貴方は誰? 私を誰だと思っていますの? 」
ひとしきり笑った後、男はぜーぜーと呼吸を整え、此方を向いた。
「君は自分が誰だと思っているんだい? 」
「私は、第一王女ですわ。」
「くっ、くくくっ、あはははは。あー、面白い。何度やってもやっぱり面白いなぁ! 」
何度、、、やっても?
「じゃあさ、君が王女だってこと証明して見せてよ。」
証明? 王女らしいことをしろと?
「このっ! 私に命令するのですか!? 無礼者!! 」
男はまたハハハと笑った。
「さて、教えてあげよう。あー、遂に来た。最高の瞬間だよ! 君はね。奴隷なんだよ。僕が買った。王女なわけないだろ。プッくッ、くくくっ、あーお腹痛い。」
「ど、奴隷!? この私が!? 」
物語で見たことがある。最下層の人間で最低な人種だと。
「う、嘘ですわ。そんなはずありません。私は、王じょ」
「ばっかじゃねぇの? 周り見て分かれよ! いや、無理かぁ。十年間閉じ込めて育てたんだからなぁ。単なる奴隷を抱くのじゃあ、僕は興奮出来なくてね。さてと。」
男が指を鳴らした。
舞台脇から黒服の男達が出て来て私の体を押さえつける。
「痛い! な、止めなさい! 」
腕と足をきつくロープで縛られた。
舞台前の階段から男が上がってきた。そのまま私の上に四つん這いになった。
「それじゃあ、頂こうか。」
男の両腕が私へと伸びる。
怖い。怖い。誰か、誰か助けて!
だが声がまた出ない。
ビリビリ、ビリビリ。
シルクのドレスの胸元が破られていく。
頭の中が白くなっていく。
ふと、視界に目立つ色を見た。
青い。
仮面から覗く男の目は、非常に青く、輝いている。
サファイアに似ている。
「目が、綺麗、ですね。」
ふと、不覚にも、何故か、そんな事を私は呟いていた。
「は? 」
男が固まった。
「貴方の目は、サファイアに似ていますのね。」
続けてそう言うと、男は面食らったように仰け反った。
しーーん、と舞台は静まり返った。
「お前、頭、ヤバイやつだったのか。 」
男は舌打ちをして立ち上がった。
「今回は失敗だな。そこは、もっと無駄にプライドを持って抵抗するものなんだがなぁ。あー、見た目はあの方に一番似ているのに。これじゃあ駄目だな。」
男が再び指を鳴らした。
先程と同じく黒服の人が出てくる。
「これは処分だ。処分。さて、次の子は今何年目だったかな? 」
「五年目でございます。」
黒服の一人が答えた。
「じゃあ、あと一年くらいで頂くか。」
男は舞台を降りていった。
縛られ、胸元をはだけさせられた私は勿論そのままである。
黒服の人達が私の足を持って引き摺って行った。
舞台袖で私はそのまま細長い箱に入れられた。
箱の蓋は閉じられ、カンッカンッという金槌の音が聞こえる。
もしかして、箱に釘を打って私が出れないようにしている?
「あ、開けて!! 出して!! 」
漸く戻ってきた私の声は箱の中で虚しく木霊した。
箱はガタンっと音を立て激しく揺れた。
何処かへと運ばれているようだ。
暫くすると、密閉された箱の中は段々と息苦しくなっていった。
私の意識は、薄くなっていった。




