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後宮


 

 女性王族の住まう後宮内は、女官たちによって管理され、エステルのような女騎士たちが身近につく警備を担当している。

 フェリシア姫の守護騎士に任命されてから、エステルは宿舎を騎士館から姫の居館(パラス)内に一室を与えられて、移動していた。


 近衛騎士団によるワイバーン討伐を前に、ワイバーンの比翼素材で出来たレオの装備がようやく完成して、エステルの元へ届けられた。

 王都に着いた日に注文した、フード付きの外套、剣帯ベルト、ロングブーツだ。


「キャラメル色の艶出しもいい具合だな。着て見せてくれ」


 早速、レオに試着させてみる。 


「ピッタリだ」


 エステルはレオの装備を手伝いながら、先程、女官長に呼び出された件について、考えを巡らせていた。



 年嵩の痩せぎすの女官長は用件を単刀直入に、こう切り出した。


「エステルさま。陛下のご寵愛を受ける、心の準備をなさいませ」


「っ! それは――大変、畏れ多いことですが、私は一騎士でしかありません」


 女官長は、もっともだと頷いた。


「それでも魔族の娘よりは、貴種のあなたの方が余程ましです。聖種様のご寵愛は、繊細で気難しいところがあるのはご存知でしょう? ましてや尊い玉体の陛下です。もしも、あなたが陛下によってお子を授かれば、必ず強い貴種が生まれましょう。この国の女にとってそれ以上の誉れがありますか?」


 あまりのことに驚愕したエステルは、なんとか辞退しようと言葉を探す。


「でも……私はフェリシア姫の守護騎士になったばかりです。姫さまをお守りする務めが――」


「おだまりなさい。後宮では、陛下がすべてにおいて優先されます」


 がくりと項垂れたエステルは、この場にいないレオのことだけを気にしていた。


「――勅命ということでしょうか」


「陛下がわざわざお命じにならなくても、私ども臣下はお気持ちを汲み取っていくものなのですよ」


 物分かりの悪い生徒に言い聞かせるように、女官長は話した。


「いいですか? その時が来たら、決して陛下に逆らってはなりませんよ。もしも、陛下のご機嫌を損ねたら、災いはあなただけに留まりません。ご実家の、コーレイン家にも及ぶのですからね」


 そうして、女官長は伽を受ける時の作法にまで言及したが、エステルの頭の中には丸っきり入って来なかった。


 呆然自失のまま部屋に戻り、今はこうしてレオに新しい装備を着せかけ、心を落ち着かせようとしている。



 ――この国の至高の存在である陛下に、逆らうことなど出来るはずがない。そして私は、もしも陛下のご寵愛を受けてしまったら、レオがどう思うだろうかと、そればかりを考えているんだ。



「どうしたの? そう言えば、仕事が終わった後に呼び出されて……何か女官長に言われた?」


 レオが気遣わしげにエステルを見ている。


「いや……なんでもない。ちょっとこの後宮について、説明されただけ」


 声が震えないように、普通にしゃべろうとするけれど、堪らなくなって真っ直ぐこちらを見ているレオの視線から目を逸らす。


「ひとりで悩まないで。僕に話して? 人形(ドール)では、頼りないかもしれないけれど」


 エステルは、はっとした。


「頼りないなんて、そんなこと。ただ、なんていうか。私はこんななりをした男女(おとこおんな)みたいな者で、その……」


 とてもじゃないけれどレオに、陛下が気まぐれを起こしたかもしれないなんて、打ち明けられない。


「君は美しいよ。僕にとっては、この世界のだれよりも、エステルの存在が眩しい」


 ふるふると首を振るエステルを、レオは優しく抱きしめた。


「僕がエステルをどんなに好ましく思っているのか、ちゃんと伝わるように説明する」


 そうしてベッドに連れて行くと、レオはエステルの顔中にキスを落とした。

 一枚一枚、丁寧に着ているものを剥がしていき、生まれたままの姿になると、身体のあちこちに散らばる小さな黒子の一つ一つを数えあげた。

 耳元で睦言をささやきながら、じっくりと感じやすくなった身体を幾度も高みへと導く。


「レオ、レオっ。私を、嫌いにならないでっ」


「エステルを、嫌ったりなど、するものか」



 溺れる者が藁を掴むように、エステルはレオにしがみついて涙を零した。


「信じて欲しいんだ。エステル、僕たち二人が、これまで心を通わせて来たのは真実だってことを――」



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