出会いであり、再会でもある。
男の腰には、父さんの首が下がっていた。
頭の中は真っ白だった。
しかし、すぐに怒りに身体が支配されていく。
はくはくとする口から空気を吸おうとするが、息がまともに吸えない。
父さんの首を腰に下げた男が、橙色の瞳でこちらをじっと見ている。
その瞳を見た瞬間、何か大切なものにひびが入った気がした。
「やめろっルノア!!!」
「――あ゛?」
「うわぁぁぁぁう゛っ…。」
「くっ!!」
私の目には、橙色の目をした男しか見えない。
憎くて、憎くて…憎くて憎くて仕方がない。
生温かい赤が、私を温めていく。
「くっ!――ふんっ!!!」
「ルノア!!」
身体が重い。
温かいのに寒い…。
もっともっと、赤を…。
私を温めてくれる赤を…。
「騎士長!!」
「来るな!!お前達は離れていろ!!!」
「しかし――ひぃっ!?」
「お前の相手は俺だっ!!!」
「騎士長!?うっ腕が…!!」
赤だ…。
私を温めてくれる赤だ…。
ぬるりとした赤が、私の頬を温める。
「…まだ、寒い…。」
「!!」
「返して…私の父さん…。」
口の中で、異物が転がる。
不味いそれを吐き出して、父さんを求める。
父さんは、すぐに私の手の中に帰ってきた。
でも、嬉しくない。
哀しくて…悲しくて…涙が止まらない。
「父さん…父さん…うぅ…。」
「ルノア…。」
何度呼んでも、父さんは返事をしない。
温かくもない。
朝整えた長い髪も、短くてボサボサだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ルノア!しっかりしろ!!おいっ!!!」
誰かが私の肩を揺らす。
しっかりなんてできない。
だって、こんなに悲しくて苦しいのに…。
「よくも騎士長を!!皆!戦闘体勢を取れ!!!」
「ぐっ!…やめろ…。」
「魔力が残っている者は、一斉にあの子供に撃ち込むぞ!!!」
「!!ルノア立て!!」
「お前らやめろ!!あの子供は――っ!!!」
周りの騒がしさが、嘘のように静かになる。
「何故…。」
「嘘だろ…?」
「…やはり、そうか…。」
「ルノア…?」
「なんで…なんで、こんな事するの…?静かに暮らしていただけなのに…どうして?」
熱くて重い瞼を上げて、驚きと恐怖に染まった人間達の顔を見る。
地面に転がった、二人の人間の死体。
右腕を失い、左耳を欠けさせた橙色の瞳の男。
いつ来たのかもわからない、同じ鎧を着た人間達。
奴等と私達の間には、硝子のように透き通った分厚い氷が隔たっている。
「何故…魔物が魔法を使えるんだ!!!」
「有り得ない…こんな事、有り得て良い筈がない!!!」
「無理だ…あんなのに勝てる筈がない…。」
「おっ恐れるな!!このままでは、皆殺しにされるぞ!!」
人間達の恐怖が伝わってくる。
私が…人間が魔物と呼ぶ私が、魔法を操る事が恐ろしいのだ…。
人間以上の力を持つ鬼人が、魔法まで使う…さぞかし恐ろしいことだろう…。
でも、そんなこと関係ない。
私は、父さんを殺した人間を許さない。
腕を片方失くしたくらいで、許せるような軽い怒りではない。
私は、父さんを抱えたまま右腕を天に翳す。
「皆散れ!!死ぬぞ!!!」
「「!!!」」
「許さな――うっ。」
「ルノア!!」
私の視界は、暗闇に包まれた。
一瞬見えた懐かしい灰色…。
「ごめんね…我慢できなくて…。」
「…。」
今朝見た夢で聞いた声だった。
私の意識は、深い闇へと落ちていった…。