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とある男の記憶

《聖騎士長視点》






俺は、ヘレーネの王都に捨てられていた孤児だった。

いつも腹を鳴らし、ひもじい思いをしていた。


そんな時、俺が十歳になったくらいの頃に、この国の姫であったオルビア様に拾って頂いた。


薄汚れた盗人の俺に、綺麗な手を差し伸べてくれたのだ。


とても美しい…天使のような方だった。


騎士団に入れられた俺は、そこで必死に鍛錬に励んだ。

俺を拾って下さった姫をお守りする為に…。




そして、貴族からの嫌がらせにも耐え、着実に力を付けていくうちに、俺は姫をお守りする騎士になっていた。


そんな俺の事を、姫は覚えていてくれた。

あれから何年も経ち、会うことすらなかったと言うのに…だ。


着任の時、思わず泣いてしまった俺に姫は、優しく微笑んでくれた。


この人に、俺の命を捧ぐ…そう心に誓った。




そしてある時、城で開かれた舞踏会で姫の婚約が決まった事を知る。


姫はその日から、鬱ぎ込むようになった。



「ねぇ、ロイド。私、本当にナルタに嫁がなくてはいけないのかしら…。」



憂鬱そうな顔で、護衛の私に訪ねてくる姫。

俺はただの護衛に過ぎないのだが、今は部屋に二人しか居ない。


姫はそんな時、いつも俺に話しかけてくるのだ。



「俺にはわかりません。姫は、ナルタの王子はお嫌いなのですか?」

「嫌い…だって、だらしが無いのですもの…。あんな丸々と肥えたまるでぶ…。」

「姫、それ以上はいけません。」

「あら、そうね。でも、本当に嫌。兄様も反対してくれていたけど、父様が決められた事だからどうしようもないわ…。私は女ですものね…。」



姫は、そう言って窓の外に視線をやった。

それが、姫との最後の会話だった。




俺が護衛の交代をした後で、姫は姿を消したらしい。

気付いたのは翌朝、見張り交代の時だった。


部屋はもぬけの殻だった。



部屋は荒らされてはいなかったが、窓が開け放たれていたことから、賊ではないかという事になって、姫探しが行われたのだが、結局姫は見つからなかった。


その時の見張りは処刑された。


俺は、諦められず、ずっと姫を探していた。

周りが止めても、これだけは止める事ができなかった。


どこかで姫が泣いている。そんな気がしてならなかったのだ。



しかし、何年経っても姫は見つからなかった。



そして、ある時教会に呼び出され、俺は聖なる者な称号を授与され、聖騎士となった。

でも、俺にはそんなものどうでも良かった。


かと言って、これ以上勝手な事をすることも許されない。


俺は、姫を思い続けながら職を全うしていた。








それから何十年経っただろう…。俺は、いい年になり、いつしか孤児であった俺が聖騎士長となっていた。


そんなある日、クリスタ王国とエルフの国に挟まれた国境近くの森にゴブリンが大量発生したと言う報告があり、向かう事になった。



ゴブリンを追ううちに、俺達聖騎士団は、鬼人の村を見つけてしまった。


《魔物は全て駆除するべき害獣》


俺達は、ゴブリンを追う班と鬼人を狩る班に別れて行動を開始した。



鬼人は強く、殆どの兵が押されていた。

しかし、俺は庶民ながらに身に宿っていた炎の魔法で鬼達を倒していった。



そんな時に出会ってしまった。


懐かしい、姫と瓜二つの鬼の少女に…。


その時の自然とわかってしまった。

ここに姫がいる。

この子は姫の娘だと…。




少女の父親と戦った。


今までの鬼とは違い、かなり手強い男だった。



「お前が、オルビア様を…!」

「!!…あんた、ヘレーネの騎士か…。」

「やはり、お前が姫を攫ったのだな…。」



俺は、男に怒りが湧き、力の限り打って出た。

しかし、男も弱くない。軽々と俺の剣を受け止め、俺に言った。



「これ以上、妻と娘を苦しめるな。」

「何を言っている!姫を苦しめているのはお前だ!!」

「あいつは、ずっと苦しかったと言っていた!自由も無く、決められた相手と添い遂げなければならない世界が!!だから逃げ出してしまったと。」

「!!」



思い当たる節があった。

確かに、俺が最後に交わした会話でも、彼女は悩んでいるようだった。


彼女は、自らあの城を…国を出たのだ。


しかし、それでも俺は信じたくなかった。



「姫は何処だ!?姫に聞くまでは信じないぞ!!」

「彼女は死んだ。」



頭の中が一瞬真っ白になった。

しかし、次の瞬間俺は男の首を刎ねていた。



飛び散った血を拭い、その首を携える。


そして、姫が残した忘れ形見を探した。




俺は、姫の血を受け継いだ少女に右腕と左の耳介を奪われた。

仲間も二人殺された。


しかし、何故かその時思った。

俺は、この子に殺されるのだと。


そう思っても、憎しみは湧いてはこなかった。

寧ろ、姫を守る事ができなかった俺への罰なのだとさえ思えた。









そして今、俺は王都でその生涯を終える。

密かに愛した、美しい姫の娘の手によって…。







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