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壊された日常





―――誰かの声が聞こえる。


これは、きっと夢なんだと思う。


誰かが、私を待っている。



『もうすぐ会えるよ。』







はっとして、目が覚めた。


外はまだ暗い。



私の目からは、涙が流れていた。

でも、何も悲しくない。寧ろ、心は躍っている。



隣を見ると、まだ父さんが眠っている。

私は、そっと起きて布団を畳んで部屋を出る。



笠を被り桶を二つ担いで、小川に水を汲みに行く。


村の中はまだ静かだったが、外の森は鳥たちが起き始めている。



重い桶を担いで、家へと戻り朝餉の用意をする。


準備が終わり、居間に運び終わる頃に父さんが起きてくる。



「ふぁ~、おはぁよう…。」

「父さんおはよう。先に顔を洗ってきた方がいいよ。」

「…ん。」



手拭いを手渡すと、父さんは眠そうに受け取り出て行った。



戻ってくるまでに、父さんの布団を畳んで片付けておく。



父さんが、居間に戻ってきて朝餉が始まる。



「いただきます。」

「ん、今日も美味いな!」

「ありがとう。でも、いつもと同じだけどね。」

「いやいや、母さんの飯よりは遥かに美味い!」

「…母さんに怒られるよ?」

「お前も、不味いって思ってただろ?」

「まぁ...カリカリのご飯とか、酸っぱいお吸い物には驚いた…。」



そう、母さんは料理が下手だった。料理だけじゃない。家事全般がダメだった。


唯一出来るのが刺繍。刺繍は、誰よりも上手かった!



「でもお前、我慢して全部食べてたじゃないか。母さんが止めたのに。」

「だって、母さんが作ってくれた物だから。」



父さんが、突然頭を撫でてくる。



「流石、俺と母さんの娘だ!」



恥ずかしいが、嬉しいので止めない。

ガシガシと髪をかき混ぜられる。



暫くして、またご飯を食べ始める。

私の髪は、ボサボサだ。



食べ終わり、片付けをしていると台所の横の戸から、黒い三本角に赤毛の人物が、顔を覗かせ怒声を上げた。



「おい!ザン!!何してんだ!!!」

「っ!!!」

「おぉすまん!いきなり大きな声出して。」

「いえ、いつもの事なので…。」

「それにしても、相変わらず働き者だな。あいつにも見習わせたいもんだ。」



そう言って、私の頭をわしゃわしゃした。

父さんよりは、加減してくれてはいるが、やはり髪はぐしゃぐしゃだ。



「ああ~首領が、うちの娘を脅してる〜。」

「脅してねぇ!!」

「痛っ。」

「ほらほら、また~。」

「!!すまん!」



父さんの声で伯父さんの手に力が入り、一瞬頭に痛みが走った。

伯父さんは、すぐに手を退けて謝ってくれる。それを見て、父さんは笑っている。

いつもの光景だが、本当に仲が良い。



「あの…急いでいたのでは?」

「はっ!そうだった!!おい!早くしろザン!!」

「おうっ!じゃあルノア、行ってくる。」

「うん、いってらっしゃい。」



私は父さん達を見送り、家事を済ませる。


今日もいい天気だ。

こんな日には、母さんのお墓参りに行く。



しっかりと笠を被り、出掛ける。



村で擦れ違う大人達は、私を避ける。それは、私が人間と村から一度出た鬼人の子供だから…。


鬼人は、この村にいる五十人程度しか存在しない。

それは、昔から人間に殺されてきたから…。だから、鬼人は人間を嫌う。だから、そんな人間を娶った父さんも嫌われている。


でも、今の首領は父さんの従兄弟で仲が良いから、今のように村の中で生きていけている…。




村を歩いていると、笠に何かが当たった。



「さっさと出ていけ!この半端者!!」

「そーだ、そーだ!」

「お前は、他所者の子だ!」

「親父に迷惑ばかり掛けやがって!」



男の子達の中に、首領の…伯父さんの息子がいる。

私と同い年の子供が三人。石を持って立っている。



「ダイゴ、何か用なの?」

「お前に、用なんてあるか!」

「さっさと村から出ていけ!」

「半端者なんていらないんだよ!」



いつもこうだ。なんで、この三人は絡んでくるのだろう…?暇なのか?



「用がないなら私は行く。母さんの墓参りに行く途中だから。」

「はっ!何が母さんだ!あんな卑しい人間ーーぐっ!?」

「それ以上、母さんを馬鹿にするな。母さんは卑しくなんてない。」



伯父さんの息子であるダイゴを押し倒し、馬乗りで首元を掴む。

踠いても、私の方が強いので抜け出せない。



「おい!離せ!!」

「何?半端者に負けるの?」

「くそぉ!!ゼン!ゴウ!やっちまえ!!」



声を張り上げると、残りの二人が掴み掛かってくる。

しかし、軽く避けて二人はダイゴの上に折り重なるように倒れた。



「ぐえっ!?」

「ふふふ、じゃあまたね?」



手をひらひらと振って、立ち去った。







母さんのお墓は、村の外にある。


私は、母さんお墓の周りの雑草抜いて、摘んできた花を供える。



「また来るね。」



私は、日々の生活のことをいつものように報告して、別れを告げる。






森の中を歩いていると、何か遠くで話し声が聞こえた。


今まで、聞いたことのない声だったので、気になって静かに近づいた。






「あのゴブリン達め、どこに逃げやがった!」

「人間様の国で、勝手しやがって…。」

「おい、無駄口叩いてないで早く探せ。」



茂みの向こうには、人間達がいた。

どうやら、ゴブリンを追っているらしい。


私は、また静かにその場を離れて村へ急いで帰った。





私は、伯父さんの家に駆け込んだ。

しかし、まだ伯父さんは帰っておらず、家には伯父さんの息子のサイオウさんとダイゴしかいなかった。



「あっ!てめぇ何しにきやがった!!痛ぇ!?」

「ごめんね、ルノア。ダイゴは、君が好きだからちょっかい出してるだけなんだよ。」

「なっ!?そんな訳ないだろ!?」

「なんだ?いつもルノアの事ばかり話しているじゃないか?」

「それは!!」

「伯父さんは、今どこにいますか!!」



切れていた息を整えてから、半ば叫ぶように声を発した。


その様子を見たサイオウさんが、先ほどまでの軽い雰囲気をがらりと変えて近寄ってくる。



「何かあったのか?」

「森の中に、人間がいました。ゴブリンを追っているようっだったけど、もしかしたらここまで来るかもしれない…。」

「はっ!嘘ばっかついてんじゃねーよ。」

「嘘じゃない!本当に居たの!!」

「わかった。父には俺から伝える。ルノアは、自分の家に戻れ。」

「なっ!信じるのか!?」

「村の皆がなんと言おうが、ルノアは嘘なんてつかない。お前だってわかってるだろ?」



一瞬、玄関が静かになる。



しかし…。




「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」




外から、女の人の叫び声が聞こえてきた。



「なんだ!?」

「ダイゴ!ノルア!家から出るなよ!!俺が確かめてくる!!!」

「俺も行く!!」

「駄目だ!まだ、まともに戦えないお前に何ができる!!ここに居ろ!!」



そう言うと、サイオウさんは家を飛び出していった。


悔しそうに、唇を噛みしめるダイゴ。

しかし、外はどんどん騒がしくなっていく。





暫くして、ドンッと突然大きな音を立てて戸が目の前に倒れてきた。



「「!!?」」



驚いて、呆然としているとそこには、赤黒いマントを着けた鎧の男が立っていた。





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