別れ
《ダイゴ視点》
「本当に…良いんですか…?」
「あぁ、早く逃げろ。」
日が落ちかけた街の陰に隠れ、俺はリンダに言った。
リンダは、不安そうな顔をして俺を見ている。
「でも、バレたら貴方が…。」
「俺なら大丈夫だ。こう見えても強いからな!」
「もう…ふふっ。」
「ははっ!」
「じゃあ、殺したっていう証拠に私の髪を持って行ってください!」
「は?そんなことしたらお前の髪が…。」
「髪ならまた伸びるから大丈夫です!ほら、切るもの貸して下さい!」
俺は、言われるままに小刀を渡した。
「珍しい剣ですね。」
「そうか?俺の村では普通だぜ?」
「そうなんですか…じゃあ、お守りに私に下さい!」
「は?いや、それは流石に困る…。」
「女の子が髪を切ってあげたんですから、それぐらい良いじゃないですか!大切にしますから!!」
あまりにも押されて、俺は小刀を渡してしまった。
まぁ、大切にしてくれるなら良いか?
俺はその後、リンダの背を見送り宿へ戻った。
窓際に立って外を眺めているルノアと、扉の横に立っているクロウが静かに出迎える。
そして、部屋に入る前に止められる。
俺は、何となく察した。
この二人は、俺が彼女を殺さなかったのを知っている…と。
俺は、疑いを晴らす為に彼女の髪を渡した。
「これで良いんだろ…。」
「えぇ、でももう二度としないで。」
「わかってる。」
「…。」
髪を一瞥した後、ルノアは俺を部屋に入れさせた。
その時見たあいつの目は、どこかいつもと違う感じがした。
それが何かと問われると困るが、兎に角何かが違うのだ。
そして、椅子に座ったルノアが、これからの計画を語り出した。
「明日、王都で王の演説があるそうよ。そして、その後に聖騎士と共にパレードに出るのですって…。」
「じゃあ、明日がチャンス…って事か?」
「えぇ、殆ど用意ができてないのが不安ではあるけど、少しでも多くの聖騎士を狩るわ。」
ルノアの目は、獲物を狙う獣のようにギラつく。
俺は、それを見て息を呑んだ。
こいつに狙われたら、死ぬまで追われる。そんな気がしてならない。
俺が逃したリンダも、もしバレていたとしたら…。
「どうしたの?顔が青いわよ。」
「いや…何でもない。」
「そう…。」
そんな嘘、簡単に見透かされている。こいつはそういう奴だ。
「話を戻すけど、だからもうここを出るわよ。そうすれば、明日の夜明けまでには着くわ。」
「そうか。なら、行くか。」
俺がそう言うと、ルノアが窓の外を見た。
「どうした?」
「外がうるさいわね。」
「ん?酔っ払いとかじゃないのか?」
「本当に、そう思う?」
「え…?」
そうルノアが言った時、部屋の扉を激しく叩く音と怒号が聞こえた。
「おい!早く出て来い!!」
男が、部屋の外で騒いでいる。
ルノアは扉を見て、俺に顔を向けて一瞬笑った。…笑ったと言っても口だけ、目は全く笑っていない。
そして、フードを被るとクロウに扉を開けさせた。
するとそこには、数人のがたいのいい男とリンダが居た。
リンダは、男達の後ろに隠れてこちらを涙目で見ている。
「何の用かしら?」
「ここに、鬼の生き残りらしいな。」
「なっ!?」
「あら?何を根拠に言っているの?鬼は聖騎士様達が皆殺しにしたのでしょ?」
俺の動揺とは裏腹に、ルノアは冷静にそう男達に言った。
男達は部屋に入ってきて、出口を塞ぐ。
「あぁ、だがお前は逃れたんだろ?」
「私が鬼?誰からそんな事を吹き込まれたのかしら?」
「ひぃっ!?」
男達は、何故かルノアだけを鬼人だと言っている。
ルノアの言葉に怯えるリンダは、男の一人の服を掴む。
「おいおい、変な真似するんじゃねぇーぞ?お前、鬼のくせに魔法が使えるんだろ?知ってるぜ?」
「私が?一体何を言っているのかわからないわ?」
「嘘!私見ました!!その鬼が、あの人の足を凍らせているのを!!」
「リンダ…?」
「あの人は脅されて一緒にいるだけなんです!!早く助けてあげて!!」
何が何だかわからず、俺の頭は混乱している。
しかし、そんな俺を置き去りに話は進む。
「ダイゴ、これが人間よ。あんたは、また間違ったのよ。もう、私はあんたも人間も信じない。」
俺に振り返ってそう言ったルノアは、泣きそうな顔をしながら笑っていた。
「ま、待てルノア!!」
「…。」
「おっおいっ!何だこれ!?」
「ひぃっ!?身体が!!」
「…。」
ものの数秒で、その場に居たリンダを含めた人間は、皆氷付けにされた。
何が起こったのかわからない。氷の中でそんな顔をしている。
ルノアは、それだけでは飽き足らず、その氷を粉々に砕いた。
ひんやりとした空気が、部屋の中に漂う。
俺は、足に力が入らずその場に座り込んでしまった。
さっきまで生きていたリンダが、もう形も残っていない。
俺を助けようとしてくれていた。逃げろと言ったのに…俺に関わったせいで…俺のせいだ…。
「うわぁぁあぁぁあぁぁぁ!!!!」
俺は泣いた。
涙を我慢できなかった。
俺のしでかした事で、誰かの命が奪われた。死ぬ必要のなかったはずの命が消えた。
床に額を付け叫ぶ。
「私は、もうあんたの事も信じない。同じ目的を持ってここまで来たけど、私を騙そうとしたあんたとは、もう一緒には居られないわ。」
「うっ…うぅ…。」
俺は、顔を上げてルノアを見た。
ルノアは、俺に背を向けていた。
「まっ…待ってくれ…ルノア…頼むから…!」
「…さようなら。」
俺の伸ばした手は空を切り、虚しく部屋の扉が閉まった。
俺は、唯一の同胞をも失ってしまった。
そう感じた時、止まりかけた涙がまた溢れた。




