二人の覚悟
私は、ダイゴを見て問いかける。
「今が、どういう時かわかってる?」
「あ、あぁ…。」
「なら、どうするの?」
「それは…。」
椅子に腰掛けたまま項垂れるダイゴを見つめる女。
部屋は静まり返り、誰かの息遣いしか聞こえない。
しかし、その静寂も長くは続かない。
「あ、あの!私、誰にも言いません!!」
「…あなたには聞いていないわ。口を開かないで。」
「でも!私は本当に!!?」
「私は、黙れと言ったの。」
無駄口を叩こうとする女をベッドの上に押し倒し、口を手で覆う。
そしてその時、初めて目が合う。
薄桃色の瞳に、私が映る。
「おい、やめろ。」
「あんたは早く答えを出しなさい。」
「それは…。」
「じゃあ、この女をこのまま帰した時の話をして上げる。」
「…。」
ダイゴが、唾液を嚥下する音が響く。
下を見ると、女の目に涙が溜まっている。しかし、そんな事は気にしない。
「この女は、初めのうちは黙っているのかもしれない。でも、私達がこれからする事を知っても黙っていると思う?私達の存在を隠してくれるのかしら?この人間の女が。」
「それは…でも、黙っていてくれるかも!」
私の手元で、女が頷く。
私は、可笑しくなり声を出して笑った。
それを見た女は何を思ったのか、安心したような顔になり、やがて笑みを浮かべた。
私は笑うのをやめて、代わりに心底軽蔑した顔でダイゴに言った。
「そんな、お前の希望なんて聞いてないんだよ。」
「「!!?」」
怯えたダイゴの顔から目を離し、女を見る。すると、同じく怯えた目で私を見ている。
私は、女の目を見たまま話を続ける。
「この女は、私達の事をバラすかもしれない。それが問題なのよ。あんたは、そんなことも考えずに何故、この女を連れてきたの?」
「それは…俺を助けてくれたから…礼がしたくて。」
「姿を晒さなくてもできたわよね?」
「風でフードが脱げたんだ…。でも、リンダは驚いたけど騒ぎはしなかった。」
「で?」
「だから、外だとあれだからここに連れて…。なっ!?おい!止めろ!!!」
「…。」
私は、女から目を逸らすことなくダイゴの足を氷漬けにした。
慌てて立ち上がろうとするが、座ったままの状態で腿まで凍らせたから、立ち上がることが出来ない。
横目でそれを見た女は、驚いたように目を見開いて私を見る。
私は口角を上げて、目を細める。
すると、急に女は暴れ出す。
ベッドがキシキシと悲鳴を上げる。しかし、私は手を離さない。
「じゃあ、選択肢をあげる。」
「…なんだよ。」
「この女を殺すか、この女を私からあんたが守りながら生きていくか…どっちにする?」
「なんだよそれ…。それじゃあどっちにしろ…。」
ダイゴは、ちゃんと私との力の差をわかっているらしい。
そう、どっちにしろこの女は死ぬ。
ただ、今死ぬか、復讐を遂げた後に死ぬのかの違いだ。
しかし、ダイゴは決意を固めたようだ。
「…俺がヤる。」
その声はとても小さかったが、女にも聞き取れたらしく、また激しく暴れ出す。
「そう…なら、あんたがけじめをつけなさい。」
「あぁ…だが、ここでは無理だ。」
「そうね。なら、あんたに任せるわ。」
「んん!!んんん!!!っ!?…。」
私は、女を気絶させてからダイゴにかけた魔法を解く。
そして、女を手渡すとすぐに部屋を出て行った。
静かになった部屋には、私とクロウだけになった。
「はぁ…本当に馬鹿。」
「ルノア。」
「私って馬鹿よね?後で自分の首を絞めるってわかってるのに。」
「…。」
「でも、まだ非情はなりきれないみたいだわ。きっとダイゴは、あの女を生かして逃すわ。」
「そうだね。」
「そして、あん女は私達の事を報告するわ。」
「そうだね。」
「クロウにも、わかるのね…。」
「あぁ…何度も同じ場面を見てきたからな。」
「そう…。」
部屋に静寂が生まれる。
クロウは、優しく私を抱き寄せてくれる。
私は静かに目を閉じて、心を整理する。
これから自分達がする事そして、あの女を生かした事で生じるであろう面倒を踏まえた道筋を探す。
きっと、ダイゴは非情になりきれない。私は、扉を壊せば誰よりも非情になれる…それがわかる。
私の奥底に眠る黒く悍ましい何かの存在を感じる。
「ワタシは、何があっても最後まで君の側にいる。」
「!!」
クロウの言葉に、涙が溢れた。
「ごめんなさい。でも、ありがとう。」
「君だけを苦しませたりはしない。」
「ありがとう…ありが…とうっ。」
クロウは、優しく頭を撫でてくれる。
私は、彼の胸を借りて少し泣いた。
日が暮れた頃、ダイゴは戻ってきた。
その手には、先程の女のものと思われる金色の髪が握られている。
私は、それを一瞥した後部屋に彼を入れた。
そして、これからの計画を話した。




