幕間
《ローラン視点》
「あらっ!て事はあなた、ザンちゃんの娘なのね!」
「ザンちゃん…。」
ルノアちゃんがうちに来て三日が経った。
夕食時に何気なくした会話で、この子のお父様が古い友人だと知った。
「懐かしいわねぇ〜。でも、なんか納得だわ。ザンちゃんの娘なら、あんな熊くらい倒しちゃうわよねぇ〜。それに、里から出る事を許されない筈の鬼人が、他種族と子供を作るなんてザンちゃんしかできないか。それで?お母様は?」
「母は人間で…。」
「人間!?鬼人が一番嫌ってる種族じゃない!あなた達、そんなんでよく村で暮らせたわね。」
「最初のうちは、村の外で暮らしてたそうなんですが、父が村を襲った魔物を一人で倒してからは、村の中で暮らせるようになったそうです。」
何とも、ザンちゃんらしいわね。
「それで、お母様の名前はなんて言うの?」
「オルビアです。私の名前も母が付けてくれたものです。」
「へぇ〜、オルビアねぇ〜。」
ん?オルビア?
どこかで聞いたことある名前だわ…何処で聞いたのかしら?
頭の中で、記憶を探る。
「あの、どうかしましたか?」
考え込んでいたらしく、ルノアちゃんがこちらを心配そうに見つめていた。
紫色の瞳…銀の髪…!!
その時、探していた答えが見つかった気がした。
それにしても、ザンちゃんはなんて相手を娶ってるのよ…。
私は溜息をついた。
「大丈夫、何でもないわ。話は変わるけど、あなたの相方さんは首領の息子だって言ってたけど、どんな子なの?」
「弱っちいチビです。鍛錬もろくにせず、悪戯や嫌がらせばかりしている悪餓鬼です。」
何だか、あまり仲は良くないみたいね。
「だから、ゼウスさんに性根を叩き直して貰えばいいんです。」
そう言うと、止まっていた食べる手を動かし、スープを一気に飲み干した。
見た目はお姫様みたいなのに、中身はやっぱり鬼人ね…。豪快だわ。
「ご馳走様でした。少し外で身体を動かしてきます。」
「えぇ、もう暗いから気をつけてね?」
「はい!先生の食器は、戻ったら片付けますので水に漬けておいてください。」
そう言って、自分の食器を片付けた後出て行った。
ここに来てまだ三日だが、あの子は良く働く。
きっと、村でもそうだったんでしょう。
肩身の狭い思いをしながら、それでも必死に働いていたんでしょうね。
それに、ここに来て課題を与えてから、殆ど寝てないんじゃないかしら?
私が夜、部屋の前を通ると明かりがついているし、朝も私が目を覚ますと朝食を用意し終わっている。
できた子だけど、夜寝ないのは美容と健康に良くないわ!今度注意しないとね!!
私は食後のお茶を飲み、少し外へ出た。
すると、ルノアちゃんの話し声が聞こえた。
この辺には、会話ができるようなものは居ないはずなのだけど…?
気になって、隠れて様子を伺うとそこには、前ルノアちゃんが言っていた《優しい人》が居た。
月明かりの下で話す二人は、さながら物語に出てくる精霊王とお姫様。
嬉しそうに話す彼は、やっぱり私のは知らない。
何故、私を頼らせたのかしら?
エルフの国を飛び出した、変わり者のエルフ。
魔法に関しては、エルフの国の中でも五本の指に入ると自負しているけど、それでも私じゃなくても良かった筈。
私が考えていると、気配に気づいたのかルノアちゃんがこちらを見た。
「先生!!」
「あら、バレちゃったわね。」
私は、木の陰から出て二人に近づく。
やだ!この男、近くで見るともっと美人だわ!
ルノアと居た彼は、私が見てきた誰よりも美しかった。悔しさなんて失せる程に。
「先生、彼はクロウです。前に話した。」
「えぇ、なんとなくそんな気はしていたわ。」
「そうでしたか!流石です!!」
瞳をキラキラさせているルノアちゃんを見て、クロウちゃんも嬉しそうに微笑んでいる。
本当に、ただの他人なのかしら?そうは見えないけど。
「それでは、私は課題に戻ります!」
「えぇ、でもあまり夜更かししないようにね?」
「はいっ!」
ルノアちゃんは、元気に返事をして戻って行った。
「それで、あなたは一体誰なのかしら?」
私は、ルノアちゃんを見送ってから振り返った。
立ち尽くす彼は、先程と違って感情が読めない。
ただ、そこにある。
そんな印象。
「ワタシは巡る者。これも、何度も繰り返した道筋。ワタシには、運命を変えられない。ワタシはただ、彼女の側に侍るだけ。」
「そう…あなたが何かはわからないけど、あの子に害をなす者ではないのね。」
「ワタシが彼女に害をなす事などあり得ない。しかし、彼女を救う事も出来ない。創造主がそう決めたから。」
「創造主?」
「この世を造った者だ。」
そう言うと、彼は夜空を見上げて双子の月を見つめた。
その瞼の下に眠っていた美しい晴れ渡った朝の空を写したような瞳が、双子の月を泣きそうな目で見つめていた。
「彼女の事を頼む。」
「えぇ、一度受けた事ですもの。任せなさい。」
「お前も奴も、やはり良い子だな。」
「いやーね。良い子って、私を何歳だと思っているのよ?」
「この世に生まれたものは、皆ワタシの子に等しい。」
そう言って、空色の瞳を私に向けた彼は、何処までも穏やかに見えた。と言うよりも、凪いでいた。
彼の感情は、あの子にしか向かないらしい。
「では、ワタシはもう行く。」
「あら、もう?」
「また明日も来る。彼女に逢いに…。」
そう言って、彼は霧散した。
「不思議な子だ事。って、要は明日からは逢瀬を邪魔するなって事よね…。」
いくら人間よりは見た目より歳がいってると言っても、あんな子供にあそこまで入れ込むなんて…。
「…そっちの趣味があるのかしら?」
などと言っていると、突然天気が崩れて嵐になった。
「やだ!さっきまで晴れてたのに!!」
私は、急いで洞窟に戻ったのだった。




