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03. チョコレートでお願いします


 そういう訳で、西の荒野の裂け目とやらに向かう。

 護衛の兵士さんが沢山で、でっかいカバみたいな動物に沢山荷物を載せたキャラバンで、そのカバ自体もたーくさん。


 ちなみに王様、ソヴリンも一緒に来た。

 だからこんなに護衛兵士さんが沢山なんだな。




「国のトップが城にいなくていいものなんですか?」


「建国以前より続く、この地の災厄を終わらせられるかもしれない大事だ、最重要事項だぞ、余が行かなくてどうする」


「そういうものなのですか」

 軍のえらい人に託すとかじゃないのか。



「政治には宰相がいるのだし、余の身に何かあれば王位は弟が継ぐ。世の仕事は民を幸福に導くことだ。その大事に立ち会わない王は王とは言えぬであろう」



 危険があるところに自ら赴く国のトップはどうなんだろうなーと私は思うんだけど。


「まあ、言ってしまえば絶対に余が必要な重要な外交などが今は無く、時間に余裕があるのだよ。それに、先日の襲撃をそなたが防いでくれたお陰で街は祝賀ムードだが、いつまた同じことがあるかと不安もまた抱えている。今回の件に余がおれば、民は勇気ある王に護られているということを実感するであろう、安心する材料は多いほうがよい」


 絶対王政でも人心とかそんなこと気にするんだなあ。

 王様も大変だよね、お疲れさまです。



 ++++





 ぞろぞろとキャラバンは移動する。


 道中もご飯は美味しく、至れり尽くせり。こんなに贅沢していいのだろうかと思うくらい。なんかどうも新鮮な食材を届ける早馬部隊みたいなのもいるみたいなんだよね。キャラバンのカバ、移動ゆっくりめだし。




「おはようございます陛下」

「ああツムギ、おはよう」


 広い平原の朝。ソヴリンを見ると、朝の光の逆行に長く波打つ金髪が透けて、とても綺麗だった。


 旅の道中の朝は、朝日を見ながらソヴリンと暖かく甘いお茶を飲む習慣がついたんだ。

 他の騎士さんたちが忙しく出立の準備をする中で、私の労働は免除されていて、贅沢な時間だと思う。



 そうしてソヴリンの金色を見ていたら、振り向いた彼に今度は逆に眺められて、ちょっと恥ずかしくなって、私は景色を見渡す。



「自然の美しさは私の世界と同じだなあ」


「ふむ、魔力のあるなし以外で、この世界はそなたの世界と何が違う?」


「まず制度が違いますね、絶対王制とか封建制とか、私の世界じゃもうないんじゃないかな? ……あ、王様の前でする話としてはとても失礼ですかね、王制がなくなった話なんて」


「よい、興味深い、詳しく話せ」

 気を悪くした様子もなく、国王陛下は先を促す。


「う、く、詳しいわけじゃないんですけどー私の世界の私の国ではみんな教育を受けていて民主主義って制度でー」


 興味深い話だったようで、その後もカバに乗りながら、民主主義の話やら共産主義の国がああなった話やらをさせられた。


 そんな感じで、私達は道中、色々な話をする。


 道を歩いていたら急に落ちて、例の長い砦にいたこと、私の両親も太っていて飼い猫まで太っていること。姉は家を出ていて独身なこと。

 『ウチの一家って飲み物が全部ジュースなんだぜ、信じられるか? 毎日スーパー行くたび4パックは買って来るんだぜ』ってのが私がよく初対面の相手にする話題で、割とひと笑い取れる感じになるのだけど、ソヴリンには感心されてしまった。ネタにならねえ!


「家族と離れて、寂しいか」

 ソヴリンは私に訊く。


「……行方不明になってるわけだから迷惑かけてるなって思います、職場にもね。でも、寂しいかと言われると、そうでもないんですよね、母も父も姉も好きに生きるでしょうし、友達と離れたのはちょっとアレですけど、全然悲しくないんですよ。……多分、私、すごく冷たい人間なんでしょうね」


「ならば、気兼ねなくわが国に根を降ろすとよい。我等はそなたを歓迎する」


 ちょっと重たいかもしれない話にもかかわらずに、にやりと悪そうに笑う王様。


「そなたの魔力、存分に生かしてみせようぞ」

「魔力目当てか!」

 はっはっはと快活に笑うソヴリン。


 うん、この感じ、しんみりしないようにわざとふてぶてしく振る舞ってくれたんだと思う。


 ソヴリンはいい人だ。

 なんというか、暖かいひとだ。抜け目ない感じはあるんだけど、話していて、ああ、この人いい人だなって思うことがよくある。王様がいい人でいいのかは私には分からないけど。




 *



 今日も今日とて旅中の朝。


「おはようツムギ……朝からチョコレートか、努力家だな」

「チョコレートを食べることは努力だった……?」

「そうだが?」


 お前は何をいっているのだとばかりの表情。いやいやあなたこそ何を言っているのだ。


 さておき、なんとこの世界にはチョコレートが存在する。たまに食後にデザートとして出てくる。そしてとても美味しい。お値段のほうもとても高価みたいだが。


 なんとなく食べたい気分だったんで、朝からばりばりもぐもぐと頂いてます。いやあ、中にお酒の入ってるボンボンだったり中で4層になってたり、デパートで買うようなお高いお味で美味しいです。さすが王族の食べるチョコレート、朝からテンション上がるわー。やっぱチョコって最高だよね!


「陛下もどうですか、美味しいですよ」

「ううむ……朝からか……」

「あ、朝からはやっぱキツいですかね? 失礼しました」

「いや、いただこう。そなたがこうして日々努力をしておるのに、余がせぬわけにはいくまい」


 努力じゃなくてただ本能に流されるままなだけなんだけどな!



 ソヴリンは小ぶりのチョコレートを一つ手に取り、半分かじる。


「――――――――駄目だ……」


 キツそうに、なんとか口に入れたぶんは飲み込んだみたいだが、もう半分は無理のようだ。


「これは捨てよう……「捨てるんなら下さい!!」


 ぱくっ!

 ああ、おぃしぃ…………口の中に広がるしあわせ…………。

 ・

 ・

 はっ!


 こここ、国王陛下の指から食べかけのチョコレート盗み食べしちまったああああ!


 何をやってるんだ私は! いくらなんでも卑し過ぎる!

 いや私の体って、捨てられる食材を見ると食欲中枢から『食べろ』って凄ーーい強烈な指令が来るんだけどさあ! いくらなんでも王様にこれはないわーっ!!


「ごごごごごめんなさいつい無意識でっ! どうかお許しをっ!」

 あばばばばばばばばばば。


 あたふたしていると、ぷっと笑われた。


「よい、よい、無駄にならずに助かったぞ」


 笑って許された。

 よ、良かった……まじで……。


「もっと食べるか?」

「は、はい、出来れば」


「ほら」

 ソヴリンは指でチョコレーをつまむ。

 私はそれを手で受け取ろうとして――――あれ、違うの?


 口を開けろと動作で伝えられたので、従う。

 あーんな感じでソヴリンに放り込まれるチョコレート。


「おいひぃれふ」


 国王陛下は何かくすくす笑っていた。

 何なんだよちょっと恥ずかしいよおい、餌付け気分か、私は観光地の池の鯉か何かか。

 あ、餌を与えられれば寄ってくる感じは全く同じでした。

 サーセン。



 ++++



 そしてとうとう、定期的に魔物が飛び出してくるという、西の荒野の裂け目とやらまでやって来た。


 裂け目はもう海溝のように、まるで星の裏側まで続くように、永遠の闇のようにぽっかりと長く深く開いている。下だけじゃなくて横にも長い。

 底は見えない。

 もし落ちたら絶対に帰っては来れないだろう。




「とりあえず土の魔法で埋めてみるか」ソヴリンは最初のあの時のように魔道書のページを指差して、私に読むように促す。



 ああ、旅の道中美味しい食事を与えられて、みるみるついていった体脂肪の威力を見ればいいよ!



 ソヴリンに指さされた呪文を唱えると、私の周囲に、茶色く輝く光がこうこうと現れて――――。


 最初はじりじりと、やがてみるみると。傷口が塞がるみたいに、――――裂け目は塞がって行った。


 沸き起こる歓声。

 騎士さんたちが大手を上げて喜んでいる。

 ある者は涙を流し、ある者は肩を抱き合い、ある者は叫びながら飛び上がっていた。


「流石だ、ツムギ!」

「ひゃあああああああああっ」

「そなたを誇りに思う! 我が友よ!」


 輝かしい笑顔のソヴリンに宙に放り投げられるように抱え上げられ、くるくる回って、そして抱き止められる。

 ソヴリンは皆と同じように大笑いしている。


 大魔法を使った直後だから、魔力である私の脂肪は失われて、私は軽くなったのかもしれないけど、抱え上げられるのはちょっと! こわい恥ずかしい! 高い高いじゃないんだからさーーーーっ!


「魔物がもう出て来ないかは分かりませんて! あれだけの数の魔物だったし、土くらい掘ってまた出て来るのかも! や、穴は全部埋めたと思いますけど! まって持ち上げないで!」


「そなたは最高だな! 我が国どころか周辺国まで含めた全ての民草がそなたに感謝するであろうぞ!」



 あははははははははと子どもみたいに笑う国王さま。


 抱えられてくるくる回られていた動きがぐいん、と止まる。

 目の前に、麗しい青い瞳がある。


 ま、待って顔がちか、近いっっっ!!

 恥ずかしいから!!


「褒美を取らそう、何がよいか」

 ソヴリンは顔が近いまま笑って言う。


 う。

 おい、この距離はほんとやめてください。陛下、顔がいいんだから惚れてしまいます。


「チョコレートでお願いします!」自分の感情を吹き飛ばすように即答した。


 デブとしては迷わずチョコレート一択なのです! 生活の面倒は生涯王宮で見て貰えるらしいので、今後の心配はしていないし、現状の生活で何不自由ないからね。




「うむ、常に魔力の補給のことを考えているとは魔法使いの鏡である、最高級のものを贈らせてもらおう」


 微笑んで返される。

 ただピザデブなだけなのに、ねだった褒美のチョイスすら褒められる。

 いいのか? っていう気分になる。

 なんというか、自分の努力じゃなしに痩せることが出来てしまって、更に貪り食べる事さえ能力として評価されるって、――――はっきりいってデブに甘すぎる世界だぞ!

 私に都合が良すぎてちょっと怖い。罪悪感がある。


 いや、彼等にとって必要以上に食べるのは本当にきついことみたいだと、旅の道中、ソヴリンや兵士さんを見て分かったんで、彼等からしたらいいんだろうけど。




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