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クズ、試験を受ける

  受験者の長蛇の列を並び、ようやく俺らの番になる。実際、エリカと話そうと思ったが口を閉じっぱなしだから暇だった。……女の子探しには夢中になれたが。


「はい、ザック・ドーフ様ですね」

「はい」


受付の男性教師に対し俺は気怠そうに答え、受験書を渡す。強制的に受けさせられてんだからやる気なんて出るわけないだろうが、それと馬車を操っていた疲労もあるんだ。お陰さまで肩が痛いし眠いしもう最悪、早く宿に帰りたいね。


「それでは二号館でお待ちください」

校舎の簡易地図を貰い、受験票を返される。

「待ってなさいね、ザック!」

「えー」

「ほら、面倒みなさいよ」


エリカの奴、この前言った恥ずかしいセリフ言いやがって。それは人生で恥ずかしいセリフランキング上位にトレンド入りしたんだぞ。人に弱見に漬け込むとかやっぱり悪魔の手先じゃないか。



「……ちっ」

「舌打ちしないの!」

「おう、そんなことより前空いてるから早くしろ」

「ふえっ!?」


  彼女は俺の後ろに並んでいるが、このやり取りのせいで受験書を渡し忘れていたらしい。後ろから他の受験生に睨まれていて可哀想に。……本当に可哀想だと思ってるよ、一厘ぐらいは感じてるよ。


  マップを貰った後、エリカは顔を真っ赤にして俺に近づき足を踏みつけた。


「痛ってェ!?」

「バーカバーカ!!」

「あれはお前が悪いと思うんだ」

フハハハハ、言い逃れもできない正論を言ってやったぞ。

「ザックの意地悪!」

「俺悪くないから」


ザック悪くないエリカ悪い。結果、エリカは有罪。俺の脳内裁判所で決まったことだからこれ絶対。てか止めたのは彼女の方だから今回も俺何もしてないんだよね。俺に対する八つ当たりはダメ絶対。



  地図を片手に校舎を散策する。そして体育館らしき建物が見え、入口から受験生が並んでいた。どうやらここが二号館らしい。俺らはその列に加わろうとした時、誰かが俺の肩を掴んだ。


「おい貴様、そこを退け」

「・・・は?」

「聞こえんのか、そこを退けと言ってるんだ!」


  いかにも傲慢で金持ちオーラを出している少年が居た。げっ、面倒なやつが来たな。と俺はあからさまに嫌な顔をする。


「何だその顔は! この俺はクリス・アンドレット・フェルト、フェルト家の嫡子だぞ!」


はい自己紹介乙。てか王都から来たようななんちゃて貴族まで徴収されるのか、どういう国の一大事なんでだろうか。一分も相手にしたくないので十八番の技を使うとしよう。


「……ヘヘヘ、すいやせん。まさかフェルト家の嫡子様だとは思いませんでしたわ。ささっ、どうぞ前へ!」


  低姿勢で相手を喜ばせる。こういう金持ちタイプにはとても有効だ。てか、この少年はぬるま湯の環境で育ってきたんだから確実に騙されるな。……エリカがやや引いてる、一体どうしてそうなんでしょうかね。誰にも気づかれないように俺は右手を動かした。


「ふん、それで良いんだ! 下郎が」


  フェルト家の嫡子は列をずり込みしながら進んで行った、それよりフェルト家ってどのくらいの規模の貴族だっけ。てか、嫡子選び失敗してんじゃん。


「やれやれ、没落するような少年だな。危機管理能力も長けてないとはな」


  あざ笑うかのように右手から明らかに自分の物ではない財布を取りだす。金ぴかで悪趣味な種類だが財布がパンパンに膨れていた。



「そんな悪趣味な財布だったっけ?」

「違うぞ。いや~、気が付いたら手の中に入っててね」


ニヘヘと頭を掻きながら笑う。そうです、これはフェルト家の嫡子から頂いたお財布です。金貨とか銀貨がたくさん入ってそうなオーラがありますね、はい。


「まあどうでもいいわ、あの嫡子に比べたらね!」

「そうだそうだ。俺よりもクズだったろ?」

「それは無いわ。ザックの方がドクズだもん」

「そりゃあ酷い!」


俺と嫡子より俺の方がクズなのかよ、そんな証拠何処からあるんですかね……



  列を並んで十五分、ようやく入口に入ることができて試験場を覗くことが出来た。試験は室内練習場で行われ、人型の的を破壊できればよし。破壊できなくても魔法の錬度を確認するらしく、一人一人魔法を披露する形式だ。女の試験官の先生は気怠そうに対応をしていた。

  嫡子が受験書を差し出し、的に向けて構える。さてさて、貴族の力見せてもらおうか。



「汝が我を助け、汝が火を愛するように。燃えだした火球(ファイアーボール)!」



  手のひらサイズの火球が的をめがけ、飛んでいく。しかし、コントロールが足りなかったのだろうか反れてしまった。悔しそうに地団駄を踏み、試験官に抗議していた。俺は鼻で笑うことしかできずにいた。所詮この程度というやつか貴族の嫡子殿は。


「おい、もう一回やらせろ!」

「やーよ。だって一人一回だもん」

「俺は貴族だぞ!」

「はいはいそうですね。次ー」


試験官は次の人に催促するのであった。


  そして試験は進み、ようやく俺の番になった。嫡子がこちらを見ている、しつこい男は嫌われるぞ。俺は試験官に受験票出して構える。嫡子は俺を見るとすぐさま高を括るような態度を示す。どれ、格の違いを見せてやろうと神なんて存在しないと思っているが詠唱を唱える。


「……汝が我を助け、汝が闇を愛するように。影の夜を泳ぎ回るかのような大魚の我を神は怒りて我を冥府に堕とすでしょう」



  おかしい、この詠唱は全てがおかしい(・・・・)。試験官が感じたのはそれだけではなかった。俺の足元の魔法陣が外側から増えていくのが確認できた。エリカ自身も俺が魔法を披露することはなかったので目を見開いていた。



「我は堕とされ、汝を呪うでしょう。そしてその呪いは汝の体に無数の風穴を開けることになるでしょう。さあ見よ冥府の呪いを。裏切った神へ呪い、串刺しは誰にするか(グリーニド・スピア)



  詠唱が詠み終わると黒い影が的の足元へと向かい道を作る。そしてその道を通るかのように陰から黒い槍がいくつも突出する。槍は的に刺さり、無数の風穴を開けていき、しまいには木っ端微塵に成り果てた。

 槍は暫くしたら影の中へと戻って行く。



「ざっと、この程度か」


  俺は肩を回す。周りの面子は唖然とした表情であった。嫡子は腰を抜かしてしまったらしい。俺は得意な魔法というと闇魔法だから、闇魔法撃ったんだけどもしかしてダメなパターンか。あはは、要注意危険人物として捕まんないと良いけど……


「ちょっと! 何であなたががこんな魔法使えんのよ!」

「フハハハハ! 本に書いてあった魔法は片っ端から撃ってるんでね。そのおかげで家周辺の大地には作物が育たなくなったけど……」

「ザック・ドーフ。まさか闇魔法を使うとはね……」


その代わり代償が重くてね、大地に麦とかジャガイモ埋めても育ってくれない。それで何か変な雑草が生えてくるわもう大変なんだ。……食えたけどな。

  試験官は震える手で書類を書いていた。そうだ、俺は実力を見せてやったんだ。


「ザックのせいで私の魔法と比較されちゃうじゃない!」

「闇魔法以外だったらセーフ、後でお菓子買ってやるよ。臨時収入があるしな」


  暇な時に嫡子のお財布チェックしたら二週間分の食費代があった。いや~、良いもの食えるぞ。俺の内心はウキウキだった。


「まだ試験あるから早く終わらせろよ」

「わかってるわよ!」


エリカも魔法を唱え始める。



「汝が我を愛するように。汝が氷を愛するように!氷の一角(フロースト)!」

空気中の水分が冷気で冷やされ、三本の氷柱が出来上がる。


「発射!」


  彼女が命令すると氷柱は真っすぐ飛んで的に突き刺さる。それも頭や胸、しまいには股間に刺さる。エリカは元々、魔導師の素質があると俺は勘づいていた。コントロールも威力も申し分ない一撃は試験で上位の方に入るだろう。最終的には俺が一番だが。


「ほれ、行くぞ」

俺は先に次の試験会場へ赴こうとする。

「ま、待ちなさいよ!」

エリカは俺に追いつこうと小走りだ。




腰を抜かしっぱなしの嫡子が大声で言った。

「ば、化け物(・・・・)!!」



  その言葉は俺にとっての禁句だった。俺は歩みを止め、振り替える。彼に近づき、腰を落として目線を合わせる。



「俺は人間だ。化け物じゃない」


  俺は彼の髪を引っ張り、顔へと寄せて言い放つ。死んだ魚の様な目の中には混沌(カオス)が渦が巻いているようにも見え、背中からは邪悪なオーラも漂っていた。



  彼は泡を吹いて失神した。俺はそれを無視してエリカの元へと帰り、ニカッと笑顔を見せる。その笑顔には狂気が満ちていた。

「……行きましょ」

俺の何か(・・・)を知っていたエリカは手を引き会場を出る。


 

  胸の中の空虚感に(さいな)まれながらも俺は笑うことしか出来なかった。

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