クズ、王都に赴く
「ねえ俺疲れたよ。寝たいんだけど」
「バカッ、あんたがガチ寝して遅刻したらどうすんのよ」
「まさか馬車操れないとかこの時代あり得ないぞ、社会不適合者エリカ君」
「うっさいわね!」
従者を雇うのは別料金だし、チップも追加であげないといけないから実際自分でやったほうが良いのだ。それと自分たちの会話とか聞かれたくはないしな。
村から馬車を走らせて半日が経過しようとしていた時に、やっと王都に到着した。王都は村とは違い、建てられている建物が全て煌いて見える。道路沿いの宝石店先のショーウィンドーから宝石で彩られた首飾りや指輪が置かれており、俺らには釣り合わない商品ばかりだった。
正直言って俺は今まで王都には行ったことは無いので元役人だった村人のおっさんから話は聞いていたが、まさかここまで立派な街だとは思わなかった。やはりこの国で一番金の回るところだ。
馬車置き場に馬車を預ける。そうだ、宿を探すついでに街を散策するとしよう。試験が始まるまでは時間はある。少しくらい散策しても大丈夫だと思うし王都には可愛い娘がたくさん住んでいるという噂があるためそれが本当かどうかも気になるし。ソースは元役人のおっさんだ。
「やっぱり王都はすごいわね、美しい街だわ」
「そうだな、美女がいっぱいいる雰囲気が凄い出てる」
「さっ、宿に荷物を預けましょ」
俺らは歩道を歩いている中、街道に一般兵士募集中と書かれている紙を見つけた。しかし、それには強制という意味の言葉も書かれてはいなかった。
「おかしいな、何故俺らだけが強制なんだ?」
「……確かにそうね、やはり王都の人間には優遇が良いんじゃない?」
「多分違うな。ほら見ろ、魔導職じゃなくてごく普通の兵士としてらしい」
「じゃあ魔導職を補うために強制徴収したの?」
元々、魔法使いというのは僅かな存在のため軍では重要視される場合がある。そして魔導師というものは莫大な火力魔法や防衛魔法、回復魔法と様々な用途があるためだ。魔法使いに産まれてきたとなれば人生は勝ち組同然だろう。……まあ職に就けなかったら意味はないが。
「ここね、宿は」
エリカが指を指す先には王都の建物にしては貫禄が無い建物であったが俺の家よりかは幾分かマシだ。ドアを開けて、受付へ向かう。
「すみません、ここで宿泊する予定のザック・ドーフとエリカ・コンソワールですが」
「おお、お待ちしておりました。ささっ、こちらでございます」
受付には小太りで髭の生えた中年のおっさんがいた。俺らはおっさんに言われるがままに部屋に案内される。二階の階段の突き当りの部屋まで案内された。
「お二人はこの部屋でございます」
「ん? 待て、二人いるのにこの部屋だけなのか?」
「左様でございます」
「えぇ!?」
おいおい、まさかエリカと同じ部屋かよ。一体村長は何を考えているんだよ。いくら幼馴染でも一緒には寝れるわけないだろうが。……おい、エリカ、何故顔を赤く染める。やましいことなどお前にしたくはないから安心しろ。
「ベットは二つ置いておりますのでごゆっくりと。それとシーツを汚したりすると弁償をしてもらいますのでお気をつけて」
おっさんはフフフッと笑うと俺らの前から去っていった。
「……絶対私のこと襲うでしょ!」
「色気のいの字すらないお前に俺が欲情するかよ。文句はお前の父親に言え」
「うっ! 手紙でパパ嫌いって書いてやるぅ!」
そうだ、それで良いのだ。村長は娘の攻撃に弱いから効果的だな、てか村長、自分の娘にも抗えないなんて可哀想。だけど俺には関係ないから。俺はベットの上に持ってきた荷物を放り投げる。
「襲ったらパンチだからね!」
「だから襲わねえよ。試験に行くぞ、遅刻したら大幅減点だぞ」
「わ、わかってるわよ!」
「走って向かうとか滑稽にもほどがあるしな」
やれやれ、高貴な僕に合うような女性が良かったな。例えばスタイルが良くて全てを包み込んでくれる包容力がある人とかだな。魔法を使う実技もあるので俺は黒蜘蛛の手腕を今のうちに着用する。彼女も短剣を腰に差しバックを肩にかけた。
ドレス・クリーク魔法学校に通じている歩道を歩いていると俺らと同年代の少年や少女が道を交差するうちに徐々に増えてくる。どれも緊張が隠せないようで脚と腕を同時に出す人もいた。こんなことで緊張してたらすぐに戦死するぞ、なあエリカ。と俺は彼女のほうに振り向く。
「えーと、手のひらに人を十回書いて飲み込めば良いって言われてたわ。早速実践しなきゃ……」
全くダメじゃん。……予想以上に緊張してるじゃねえか、今頃そんな方法通用すると思ってるのかよ。
俺みたいに胸を張って歩けば良いんだよと本を片手に歩いて行く。
「ザック、あなたも緊張するのね」
「この程度楽勝だが」
「ふーん、じゃあ何で本が上下逆さまなのよ」
「う、うるせえ!!」
こ、これはあれだ。こうやって読むことによってその本に隠された発見があるかもしれないんだ。そうだ、決して緊張しているわけじゃない。手汗が尋常に分泌されているがこれも緊張によるものではない、繰り返すが俺は緊張などしていない。昔読んだ官能小説で体は正直というセリフが不意に浮かびあがる。
眼前に今までの比ではない大きさの建物が立っていた。門にはドレス・クリーク魔法学校と書かれた表札が見える。先程までお喋りだったエリカの口はいきなり無口になってしまった。俺は無意識に喉を鳴らしていた。決心して門に足を踏み入れる、とても二人にとっては重い一歩であったが強引に足を踏み出したのだ。
さてと、頑張りますかね。と顔を引き締めるために頬を叩いた。
「……私がやろうか?」
「二枚の紅い楓ができるからやめろ。やめてください」
エリカのビンタは数少ないトラウマの一つなんだ。
俺らは試験用紙を持って受付のほうへ向かった。
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