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クズ、赤紙が届く

 古来より宗教というものは存在していた。人々はこれを信仰し(あが)め祀り、宗教はいつしか国から国へと宣教され大きくなっていった。その宗教では特別な職の大預言師と呼ばれる老婆の預言者が存在しており、老婆は神からの預言を受けて幾多の危機や災害を予言し見事に的中した。そして各国の王はこの老婆の予言を重要視するようになった。

 だが、老婆はとある予言を言った後に老婆は自分が持っている杖で喉を貫いて自殺した。その予言というのは



魔王軍侵攻(・・・・・)



 各国の王は首を傾げた。何故なら魔王はとうの昔に殺されたという大雑把な伝承しか残っていないからだ。しかし、老婆が自殺するともならば話は別だ。王たちは急いで徴兵で兵を集め、軍備を拡張しいつの日かに来る戦いに備えた。戦争を建国以来起こさなかった国でさえも(つたな)い装備を整える、それほど重大なものであった。王たちはこのような危機に対し国全体で同盟を結び、名付けた。



全人類共同連合(レーズ・レジスタンス)




☆★☆★





「すみませーん、ザック様いらっしゃいますか?」

「はいはーい」


 修理したドアを開ける。ギシギシと音を立てるがそんなのは気にしない。そこにはスーツを着た男が立っていた。


「こちらヘンドリック新聞でございます。新聞を取りませんか?」

「金ないんで良いです」

「そうですか」


すぐにドアを閉める。こんなボロい家に新聞払う金なんてねーよ、てか新聞とか頼んでも殆ど読まないし。

つったく、まだ朝早いのにさ起こすんじゃねえよ。

 俺は再びベッドに倒れこむ、メキメキとベットが悲痛の声をあげるが知ったこっちゃねえ。この前みたいな幸せな夢を見れたら良いな。瞼を閉じて寝ようとする。



ドンドンドン

と誰かがまたドアを叩く音が聞こえる。俺はまたセールスマンかと無視をする。

ドンドンドンッ!

これも無視、だが俺はうるさ過ぎて眠れない。俺は徐々に怒りを貯めていった。

もう怒るすれすれのラインまで差し迫った。

ドンドンドンドンッ!!


「うるせえんだよッ! まだ早朝だし新聞なんか買う金も無いんだよ!!」


俺は勢いよくドアを開ける。ドアの金具がボキッと折れる音が聞こえた。



「おめでとうございます」



と軍服を着た男が立っており、彼は俺に赤い紙を差し出してきた。


「何だこれ?」


男から紙を受け取り、内容に目を通す。



「ザック・ドーフ様。貴方は今回発令された徴収令により、ドレス・クリーク魔法学校の入学試験を受けることになりました。って、はあ!?」


流石の俺でも驚愕しきった顔で硬直する。だってこの前まではこんなこと聞いたことなかったぞ、しかもドレス・クリーク魔法学校は軍直属の士官育成学校じゃねえかよ。


「俺に決定権はないのか!」

「いえ、国からの命令なのです。これは大変誉れな出来事でございますよ」

「なんだと・・・」

「試験は明後日となっております。ではまた」

「ちょっと待ってくれ! もし、受けなかったり不合格だったらどうなるんだ!」

「その場合は非国民と言われ、(さげす)まれることでしょう」


 男はそう言い捨てると俺の前から去っていった。ドアが俺の手から離れ、バタンと倒れる。唐突な出来事だったので理解しきれなかった。嘘だろ、こんなのは夢なんだ、そうだもう一度寝よう。

赤紙を机に置き俺は二度目の就寝にした。




「はっ!? 嫌な夢だ、まったく」


 天井を見上げる。普段通りの天井だ。


「さて、ご飯にしようかな」


 俺は立ち上がるがどうも部屋が明るい、何故そうなのかと辺りを見回すとドアが外に倒れている。冷や汗を掻きながら机を見ると上には赤い紙が置かれているのが確認できた。これが夢などと信じるのは寝た後にしても効果は皆無であった。



「畜生があああああああ!!」


俺の雄たけびは森をも振動させた。




☆★☆★





「エリカァ! これどういうことだよ!」

「知らないわよ! 何で農村部にも徴収令が……」

「落ち着け二人とも!」

「そうよ、つっくり深呼吸しなさい」


 エリカの家に行ったがエリカも赤紙を貰っていた。俺と彼女が落ち着きを無くしているのをエリカの両親がなだめる。だが、落ち着く兆しが見えない。


「しかも受けなかったり不合格だったら非国民ってウソだろ!」

「私たちが受けなかったら私のパパやママが……」

「今日の朝刊が兵士の一斉徴収をかけたらしい、一体何が始まるというのだ」

どうやら今日から一斉徴収を国がかけたのだというのだ。どうしてなのかは書かれてはいないらしい。



「戦争でも始まるのかしら……」

「嫌だ! 私、戦場なんかに行きたくない! けど行かなかったらママたちが……」


 エリカはポロポロと大粒の涙を流し始める。それもそのはず、年半ばの子供がこの非常なる現実を受け止めきれないのだろう。落ち着きを取り戻した俺は深呼吸して彼女の両親に伝える。




「……エリカは俺が守ります」


その告白とも取れる発言はその場の空気を凍らせた。


「何を言ってるんだザック! 俺はお前を息子のように扱っている、それは村の皆も一緒だ!」

「そうよ! 戦場に子供を連れて行くわけには行かないわ!」

「だとしてもです!!」


俺は声を張り上げ、喋りだす。


「俺やエリカがもし試験に行かなかった場合、この村は卑怯者の村と蔑まれることになるのです。俺はこの村の人々に助けられ、ここまで生きてこれたのだから俺自身に対する皆さんの借りを返すのは今しかないんです!どうか俺に皆の借りを返させてください!」


椅子から立ち、俺は頭を下げる。何故、俺はここまでして村長たちに厚意を返したかったのかは俺自身も理解できなかった。



暫くの間が空くが村長は口を開いた。


「……わかった。君にエリカを預けよう」

「ちょっとアンタ!」

「良いのだ。困っていたら助け合う、これが俺の目指していた理想だ。ただし、条件がある!」

 村長は人差し指を立ててビシッと俺の頭を指し出す。


「必ず生きて帰ってこい!!」

「はい!」


 頭を上げて威勢の良い返事をする。生きて帰ってくることは難しいがそれを条件として村長は許可したのだ。約束を破るのに定番がある俺はこの約束は果たして見せようと硬く決意した。




☆★☆★




 試験日の翌日の早朝、俺はエリカと村の出口で待ち合わせをした。荷物は現地で一泊して結果を確認する予定なので軽量だ。受かったら、そのまま寮で暮らすことが出来るようになるので受かった後に大きい荷物は村から郵送して貰う。

  村の出口へ向かって歩いて行くと村人全員と二頭の馬が引く馬車が見えた。



「待ちくたびれたわ、早く乗りなさい」


エリカは馬車の荷台に座って待っていた。


「お、お前待てよ。この馬車どうしたんだよ」

「それは村の皆から資金を集めて馬車を借りたんだ。扱い方は慣れてるだろ?」

「そうだぜ、壊すんじゃねえぞ!」


……また借りを作ってしまった。俺はこの全ての借りを返済できるのか心配になってきたが、何故か目頭

が熱くなった気がする。


「ほらっ、さっさと行け。飯食ってないんだ」


 村長は早く行くように促す。村長の目が赤くなっている、きっと夜泣いたのだろう。

俺は馬車に乗り、手綱(たづな)を握りしめる。


「じゃあ行ってくるねパパ、ママ! それと皆!」

「おう、試験に落ちて帰ってくるなよ!」

「こらアンタ!」

「痛てッ!?」

「ザック君、頑張りなさいね!」

「はい、行って参ります」


 俺らを乗せた馬車は街道を沿って王都にあるドレス・クリーク魔法学校を目指す。

村長たちは俺らが見えなくなるまで手を振っていた。


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