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クズ、卵伯爵と会う


「へいそこのお姉さん。もし良かったら俺と海の家いかが?」

「えー、どうしようかハンナ」

「止めときましょうよ。だって危ない人かも知れないし」

「そうよね。ということでじゃあね!」

「……」


 体調が良くなったので、ナンパ行為を実行しているのだが一向に捕まらないでいた。俺が声を掛けているのは全員まあ綺麗な人だがナンパをしている男には慣れているのか、躱していく。かれこれもう、十人目更新だ。


 ちっ、この俺の上等なオーラすらも感じられないとは、バカな女め。俺はいつか世界一でビックな男になるという未来が決まっているかも知れないのに、あぁ実に勿体ない女だな。絶対に後悔すると思う癖に。おっ、可愛い子発見、もう一度声を掛けるか。

 

「あのお姉さん、俺と一緒に遊びませんか? きっと充実した一日になると思いますが」

「あらっ? あたしで良いのぉ?」

「……失礼しましたァ!」


 俺はその場から瞬時に抜け出した。何故かというと、体はスタイルの抜群な女性ではあるが、肝心な顔が岩の様に角ばっており、ほぼ男の様な顔であったからだ。流石の俺でもこれにはかなわなかったからだ。足の裏が熱々の砂の熱を踏みし遠くの方へと逃げて行った。



★☆★☆




「……ハアハア、此処までくればあの化け物とは会わないだろう」


  ちくしょう、何だよあの男か女かわからない奴は。背後から声を掛けて顔がわからなかったのが失敗の原因だな。それを教訓として次のナンパで役に立てよう。にしても、此処は何処だろう。


 辺りを見回しても観光客が一人も居ない。多分だが、此処は遊泳禁止の地域なのだろう。その場に居るのは俺以外、誰も居ない。


「此処には誰も居ないから戻るとするか、今度こそは成功させて見せる!」

「そうかそうか、その意気ですぞ少年」

「そうそう。俺は可愛い子とお話ししたいからな、そしてあわよくば……」

「おおっ、欲にとても忠実! これぞ若気の至りですな!」

「フハハハハ! そうだそうだ!」



「……はあっ!?」

 

 此処の浜辺には現在、俺しか居ない。しかし、俺以外の声が聞こえる。確かに耳をすませば遠くの浜辺で観光客が遊んでいる声が聞こえるが、それにしては近くで話しているかの様な音量で、何よりも俺の話と合致するのだ。武器は持ってきていないが、瞬時に臨戦態勢に移行した。


 おいおい、まさかバカンス中でも襲ってくるとか、ふざけたマネしてくれるな。最近、死闘ばかり繰り広げていて苛立ちが隠せないでいるんだけど。ストレス発散で本気だしてやろうか。


「こらこら、すぐに魔法を使おうとするんじゃない」

「へっ、悪いけど自分の身が危ないかも知れないのでね」

「うーむ、地面を見てくれ」

「地面だと?」


 謎の声に言われるがままに、地面に視線を落とした。俺から二メートル離れた所に、何か白い殻の様なものが埋まっているのを確認できた。それを引き抜こうと魔法を使った。


「ホオオオオオオオ!!」


 砂の中から、卵の様な球体に紳士服を着せた謎の物体が、俺の魔法により吹き飛んだ。ちなみに俺の使った魔法は土魔法で、地面を盛り上げさせる魔法だ。

 その謎の物体は俺の使った魔法と同じ魔法を発動させて、地面を盛り上げさせて、そこに軽やかに着地してみせた。


「うーん、助かりましたぞ。感謝を述べますぞ」

「……魔物か! それとも魔人か!」

「ち、違いますぞ! わたくしの名前はハンプティ・ダンプティ伯爵。以後お見知りおきを」

「うわっ、卵の魔物とか怖いわ。けど中身は旨いのかもしれん」

「わたくしは食用卵ではありません!」

「初めて聞いたぞ食用卵って」


 全身が卵でできた謎の生命体はハンプティ・ダンプティと名乗った。大きさは一メートル程だ。彼は伯爵という地位持ちと言ったが、その地位を持っているという情報は嘘かも知れないので、敬語などは使わずに俺は話し続ける。


「お前が伯爵とか片腹痛い。嘘はほどほどにしとけ、そんなんじゃガキすらも騙せないぞ」

「違いますぞ! 正式に貰いましたぞ!」

「ははーん、さては魔人だな。魔王の幹部を倒して、俺の出世街道の糧にしてやる」

「そんな野蛮な者の従者ではありませんぞ!」

「うるせえ! いいから黙って縛られてろ!」

「オワァ!」


 使い魔のシアンを呼び出して、魔力を注ぐ。ムクムクと大きくなり、ハンプティに絡みついて拘束した。シアンのサイズはというと三メートルのサイズへと変わり果てた。


「こ、これは闇魔法に通ずる者に選ばれるムカデ属! お主、もしやわたくしを悪用するつもりか!」

「違うわ、俺の担任に見せて今後の処置を考えるんだよ」

「た、食べないで! わたくしを卵料理にしても美味しくないぞ!」

「喰わないとわからないだろうが!」

「ヒイイイイイ!!」

「……ちなみに好きな卵料理」

「目玉焼きですな、黄身が(たま)りませんぞ」

「んじゃあそれでいこう」

「イヤアアアアアアッ!!」


 猛ダッシュでソンノ先生の居るテントへと向かった。流石にエセ伯爵を抱えて走るなど骨が折れる行為なので背広を掴みながら引きずっていた。途中でエセ伯爵が変な声を出していたのでシアンに強く絞めろと命令をしといておいた。


「おぉ慣れてくると、これもまた一興ですな!」

「卵ってなかなか握り潰せないほど頑丈だからもっとキツく締めてくれ」

「ギィ!」

「ダバババッ!」



「ソンノ先生!」

「なーに? ケガしたなら友達に治して貰いなさいなー」

「……ソンノ先生。その……年齢に合わない水着はやめてください」

「あら、水着の方が若く見えるのね」

「その逆です。いやー、三十路になったばかりでしょ先生」

「殺すわマセガキ」


 エセ伯爵を連れてソンノ先生の居るテントへ到着した。ソンノ先生の水着はピンク色の派手なビキニで若い人が着る様な物であり、三十路になったソンノ先生には合っていない。そこから考察できるのは、新しい水着を買うのことが出来なかったことか、彼女がその水着に見合うという余程の信を持っているかだ。

 正直者の俺の発言に彼女は鋭い眼光で俺を突き刺している。


 うわぁ、もうまさしく自分を若いと思っている人にありがちな行為だな。キツイ、極めてキツイです先生。てか、買う金が無かったのなら買ってあげますよ。自分の目が害に犯されてしまうので。


「で、用件は何よ。けなしに来たのなら数発殴らせて頂戴」

「それもありますが本題では無いですから、決して。ほら、怪しい奴を見つけたんです」

「怪しい奴ぅ?」

「そうですよ。念のため確保してきましたので安心してください」

「ふーん」


 彼女は置いてあったビールを飲む。俺は確保したエセ伯爵の拘束を解く様にシアンに命じ、シアンはおとなしく命令に従った。


「……使い魔がムカデとか、今後の処遇が面倒ね。ビールがマズくなるわ」

「仕方ないですよ。闇魔法が一番得意なんですから」

「さてさて、どういう奴かな」

「おおっ、これはこれは美しいお嬢さん。ごきげんよう」



「……ぶっ!?」


 一瞬の間が空いた後、彼女は驚いたのかビールを噴き出した。彼女の顔には動揺を隠すことができず、熱々の砂地に跪いた。


「は、ハンプティ伯爵様!? こ、こんにちは!!」

「うむ、今日も暑いですな」

「さ、左様でございますね!」

「あ、あのー先生? い、いつもの横暴な態度はどうしたんですか?」

「バカ! あんたも早く跪きなさい!」

「は、はい!」


 ソンノ先生に言われた通りに、俺も跪いた。


 う、うそだろ。まさかだけど、この卵の言っていた伯爵という称号は真実だったんですか。……ヤバいな、俺の近い将来、打ち首確定じゃねえか。


「せめて死ぬのならバカみたいに可愛い女の子に囲まれてフカフカのベッドの上で安らかに死にたかった!! あっ、死因は老衰で」

「ホホホホホッ! 面白い少年ですな! 先生、良い生徒をお持ちになられましたな」

「お、お褒めくださいましてありがとうございます! このソンノ、感謝の極みでございます!」

「別に固くならなくても良いのだ、ソンノ先生よ、砂地は熱いから楽にしなさい。固いままで良いのはゆで卵だけですぞ」

「はっ!」


 な、なんでこんなことになっちまったんだ……。そして一体何者なんだよこのエセっぽいけどマジもんの伯爵様は……。


 俺の中では、後悔という単語がグルグルと駆け回っていたのであった。


ぜひブクマお願いします。

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