クズ、海へ行く
「夏だ!」
「海だ!」
「泳ぐぞおおおおお!!」
「「「イエーーーイ!!」」」
ジリジリとと太陽が浜辺の砂に照り付けて、砂がガラスになってしまう程暑い。此処は、カリメア王国の西部にあるサンビーチである。この浜辺には世界各国から観光客が訪れており、獣人族やエルフ族もちらほらと見受けられる。男子にとってクラスメートの女子の水着が必然的に見れるので此処は天国だろう。
何故、俺らがサンビーチに居るかというと、学校のレクリエーションの一環だからだ。しかも、魔人襲来の件で十分に楽しめなかっただろうと、校長の計らいで使用しているホテルが高級ホテルに変わっている。とても嬉しいことだ。
「やっぱり綺麗だよね、サンビーチ!」
「行ったことあんの?」
「そりゃあ夏は毎回行ってるよ」
「俺なんかはあれだぞ、夏になると川で泳いでたぞ」
「いいないいな!」
「嫌がらせかよ」
「だって山とか行ったこと無いからさ、憧れがあるんだ!」
「ふーん」
俺は興奮状態のザージュの話を聞き流して、パラソルの傘下でカメラを整備していた。他の生徒は皆、水着に着替えているのに対し、俺はというと下は水着だが、上にはシャツを着ていた。
ふっ、お前らは子供だな。俺はこのカメラを使って女子の水着姿を撮って売りさばく。そして俺の懐を膨らませて、男子からの評価も上がる。ラブアンドピースってことだ。ぐへへへ……。
下劣な考えをしている時に、俺の目の前に二人の女子が現れた。エリカとタシターンだった。
「ねえザック。そ、その似合うかしら……」
エリカは恥ずかしながら俺に水着の感想を述べて欲しいそうだ。彼女の服装はドレスの様なビキニである。心なしか俺は目を逸らした。
「へっ、合ってんだから良いぞ」
「ほ、本当に!?」
「マジで」
へっ、適当に褒めておけばどうにかなるって便利だな。けど実際に似合っていて、綺麗なのは事実だけどさ。
「私はどう?」
「うん、可愛い」
「そ、そうなの……?」
タシターンの水着はぞくに言うスクール水着というもので、彼女の幼さを主張している。おまけに、胸元には彼女の名前が書かれている。
「さあザック、泳ぎましょう!」
「却下する」
「動きなさいよ!」
「却下する」
「……なら砂で遊ぼう」
「喜んでタシターンちゃん」
「ちゃ、ちゃんは要らない!」
「じゃ、じゃあ僕とエリカは泳いでいるから」
思い腰を上げて、パラソルの傘下から出る。太陽の光が砂浜に反射して眩しいので、持参したサングラスを掛けた。全然似合わないとザージュに笑われたので、俺は彼を蹴り飛ばしてやった。
その後、俺とタシターンはせっせと砂で山を作っている。波がギリギリ接触しない場所で山を作っているので、海側に居るタシターンの足元に海水が当たり、それに驚いたかの様な声を上げていた。可愛いと思った。
「ザック」
「どうしたんだいタシターン、かき氷が欲しいのなら買ってこようか。その代わりにお返しは貰うけど」
「どうして泳がないの?」
「……人に肌見せたくないからだ」
「肌を?」
「あぁ、ザージュは知っているけどお前らは知らないからな。特別に見るか?」
問いに対し、タシターンは首を縦に小さく振った。人目を確認して、俺はシャツを脱いだ。隠していた肌が露出した。
「……これって」
「そう、これが理由だ」
俺の背中や腹にはおびただしい程の傷跡が付けられていて、鍛えられて出来たであろう腹筋にも大小様々な傷跡で埋まっている。それは背中も例外ではなかった。
「治癒魔法でも損傷が激しい場合には傷跡が付いてしまうからな」
「……何故そんなに負傷したの?」
「……一言で言うと、普段お前らが生きている環境とは違う所で生きていたからな」
「それは何処?」
「残念だけどそれは言えない。この傷跡のせいで風呂に入る時間帯を選ばないといけなくなったが」
傷跡を人に見せるほど俺はバカじゃない。それと、俺はこれぐらい傷を受けても、数々の任務では最後まで生き残ったんだ。これでも軽い方だな。ザージュが初めて見た時には腰を抜かしていたんだが。
俺は脱いだシャツを再び着た。
「エリカや他の皆には内緒な。俺の評判がまた下がるからよ」
「わかった。絶対に言わない」
「いい心構えだな」
「んぅ」
彼女の頭を撫でる。心地よいのか彼女はじっと動かないでいる。俺は執行した任務のことが脳裏に浮かんだ。
人を沢山殺し、仲間が殺され、集会を行うたびに減っていく光景だ。いつか俺が、その減っていく一人になるかも知れないと恐怖感を抱えていた時だ。その時には俺に自由は無く、ただの駒として扱われているという嫌な思い出だ。
視野が揺れて吐き気が襲ってくるが、何とかそれを抑えた。
「……ちょっと日射病に罹ったらしい、元の場所で寝てるから」
「わかった」
彼女は申し訳なさそうに返事を返す。俺はおぼつかない足でパラソルの傘下に入り、横になった。しかし、この暑さでは寝ることも出来ずにいたので、俺はカメラを取り出して写真を撮り始めた。
女子の写真は幾らほどで売ろうかと考えていた。
「やあ、何をしているんだい?」
不意に声を掛けてきたのは、クラスの中心と成り果てたジュスティスだった。残念ながら野郎の水着姿には需要が無いのでカメラには写さないでおいた。
「日射病だよ。だから寝てる」
「大丈夫かい?」
「あぁ、動きたくは無いからちょうど良いが」
「そうか、それはカメラかい? 高かっただろう」
「勿論高い。……盗んではいないぞ」
「そんなことは考えてはいないよ。にしても最近、女の子の盗撮写真が流失していると聞いたけど心当たりはあるかい?」
その質問に、俺は反応した。
マ、マズい。俺が盗撮をしていたことがバレてしまう、何とかして誤魔化さないと女子のヘイトが溜まるどころか一発退学じゃ済まないぞこれ。
「知らないな! そういう奴は死んだほうがいいと思う!」
「そ、そこまでしなくてもいいんじゃないかな?」
「いいや、しなければならない! 正義は悪には厳しく処さなければならないのだからな!」
俺が放ったその言葉に、ジュスティスが反応したかのように覚えた。
「……確かにそうだ。正義は弱者を守るためのものだ。悪にはそれなりの罰を受けなければならないからだ!」
「そうですよ! 流石は正義感に溢れる漢ですね!」
「もし情報を聞きつけたら俺に報告してくれ!」
「へい、わかりやした!」
ジュスティスは俺の前から去っていく。どうやら、目の前にいた俺自身がその盗撮魔だということには気づいてはいないらしい。安心して胸を撫で下ろした。
怖い怖い、正義感溢れたバカは本当に怖い、あいつの目とかがマジになってて怖かったわ。けど、俺が正義という単語を提示したら何らかの反応を示したな。これが俺にマイナスにならなければ良いのだが……。
彼に対して考察していると、俺の鞄からモソモソとシアンが這い出てきた。与える魔力に比例して使い魔の大きさは変わるので、サイズは手のひらサイズに収まっている。シアンに大量の魔力を与えたらどうなるかは考えなくてもわかるであろう。
「ギィー?」
「よしよし、良い子だな。ほらパンの切れ端だ」
「ギギギィー!」
鞄のポケットからパンを取り出して、千切る。それをシアンにあげて残りは俺が食べる。シアンはパンをトンネルを掘るかの様に食べ進めていた。
「今回こそは何事も起きないでくれよ……」
あんな戦いをしたくはないので、何事も起きずに平和に過ごせる様にしたいと思う。一か月に一回は死闘を繰り広げているので勘弁してほしいと思う。
流石の俺でも、バカンス中はゆっくり休息を取りたいのだ。
ブクマお願いします。